ネット通販の市場が拡大するなか、楽天やアマゾンジャパン(東京・目黒)といったネット専業大手だけでなく、総合小売りやアパレル、メーカーなども自社サイトの強化に動いている。とはいえ、ヒト・モノ・カネを集中投下できる専業はIT(情報技術)を生かした機能拡充や品ぞろえで大きく先行しており、同じ土俵で伍していくのは至難の技だ。
ただ、アパレルや専門店には実店舗やブランドに愛着を持つロイヤルユーザーを多数抱える強みがある。そうしたなか、最近は自社の通販サイトを通じて店頭と同様に「接客」によって顧客の満足度を高め、事業を拡大する成功事例も出てきたと聞く。ネット通販のヘビーユーザーでもある記者がそんな企業の取り組みを追ってみた。
日経ビジネスでは10月5日号の特集「ヨドバシ アマゾンに勝つ」と題して、家電量販大手のヨドバシカメラがネット通販事業で躍進し、新たな小売りの主役となる可能性について取り上げた。東京都内で始めた、注文から最短6時間の「スピード配送」はその特徴の1つだが、さらに消費者の心をとらえる強みとなり得るのが実店舗同様のきめ細かい接客術だ。
例えば商品の配送はヨドバシの社員が担い、顧客の自宅に届ける際に常に笑顔で手渡し、再配達にも柔軟に対応する。通販サイト自体の改良も日々重ねており、商品検索の精度を向上させたり、ネットで注文して実店舗で受け取れるサービスを導入したりと小売り大手でいち早く取り組んできた。電話での問い合わせにオペレーターが迅速かつ丁寧に対応するなど、本業で培ったノウハウも活用している。
配送や決済といったネット通販の基本的な業務や機能に関しては、日進月歩で新たなサービスが生まれ競争は激化する一方だ。実際、日経ビジネス11月30日号の「時事深層」では、アマゾンジャパンが注文から最短1時間以内に商品を届けるサービスを始めたことについて取り上げている。
効率性や品ぞろえは専業が圧勝
記者も週に2~3回は通販サイトを利用し、ミネラル水や日用品、ちょっとした家電製品はほとんどアマゾンで購入してきた。もはや、家から一歩も出なくても生活できる環境になりつつあるとさえ思う。ヨドバシの特集取材に参加したことで同社のサイトにも魅力を感じるようになったが、それ以外の通販サイトとなると、よっぽど特殊な商品を探す時でないとほとんど利用する機会がない。効率性や品ぞろえで圧倒的に専業大手がリードしている現状、リアル店舗を持つ小売りやメーカーはどのように対抗すればいいのだろう。
そんなことを考えていた最近、あるきっかけで耳にしたのが「Web接客」という言葉だ。顧客の満足度や購入率を高めることなどを目的に、販売促進やコミュニケーションのための様々なツールを駆使し、文字通りサイト上で接客するという考え方やその手法を指す。ITベンチャーなどが様々なサービスを開発しており、小売り大手がそれらを積極的に活用しているという。こうした状況から、今年を「Web接客元年」と表現する向きもある。
それでは、Web接客を実現してネット通販を強化している事例にはどのようなものがあるのか。「ローリーズファーム」などのブランドで知られるアパレル大手のアダストリアと、眼鏡専門店大手のメガネスーパーの取り組みを取材した。