立党60年 自民党はいま
11月30日 17時13分
自民党は11月15日に立党60年を迎えました。
昭和30年、当時の「自由党」と「日本民主党」による、いわゆる「保守合同」で創立されて以降、ほとんどの期間、政権与党の座についてきました。かつては党内の「派閥」が総理・総裁の座を巡って激しい権力闘争を繰り広げ、政策決定にも大きな影響力を持っていましたが、近年では、総理・総裁の権限が強まり、主要な政策決定も総理大臣官邸が主導する傾向が強まっています。
自民党はなぜ変化したのか、そして、日本の政治に何をもたらしているのか。政治部・瀧川学記者が解説します。
安倍一強の自民党
2度目の政権担当となる安倍総理大臣は、経済政策「アベノミクス」を推進する一方、先の通常国会では、戦後の安全保障政策の大転換となる「安全保障関連法」を成立させました。
ことし9月の自民党総裁選挙で、安倍総理大臣は、党内のすべての派閥の支持を受け、無投票で再選を果たしました。
無投票による再選は、平成13年の小泉総理大臣以来、14年ぶりで、「安倍一強」の自民党を印象づけました。
その安倍総理大臣は、11月29日に東京都内のホテルで開かれた立党60年の記念式典で、「これからも責任政党であり続けるために、来年の参議院選挙で勝利し、次なる60年に向けて、共に歩み出そう」と党内の結束を呼びかけました。
自民党の現状について、党の歴史を知る人はどうみているのか。
かつて、当時の最大派閥「田中派」に所属し、その後、党を離れた経験もある自民党の二階総務会長は「安倍一強が悪いことではなく、党内は円満にまとまっている。安倍政治に収れんされてきたというのは大きな進歩で、昔のワイワイ言っていたころの政治よりもずっと進んでいる」と評価しています。
一方、かつて自民党の政務調査会長を務め、その後、党を離れた亀井静香衆議院議員は「皆、羊のごとく自分の意見も言わないし、行動もしない。こういう状況だから、外から見れば一枚岩に見える。しかし、国家国民のために戦う集団として結束しているわけではない」と指摘しています。
派閥全盛から小泉改革へ
かつての自民党は、「派閥」がカネと人事を握って大きな力を持ち、総理大臣の座を巡って激しい権力闘争を展開してきました。
「安保闘争」の結果、岸政権が退陣すると、「所得倍増」を掲げて池田政権が登場し、金脈問題で田中政権が退陣すると、「クリーン三木」と言われた三木政権が登場するなど、「疑似的な政権交代」によって多様な国民のニーズを受け止めてきました。
しかし、その一方で、「リクルート事件」などが起きて、「政治とカネの問題」が自民党の体質と批判され、国民の間に政治不信が広がったことも事実です。
そして、政治改革の気運が高まり、「疑似的な政権交代」ではなく、「真の政権交代」を可能にする二大政党制の確立を目指して、平成8年の衆議院選挙から小選挙区制度が導入されました。
それまでの中選挙区制で、自民党は1つの選挙区に複数の候補者を擁立し、それぞれの候補者が異なる派閥の支援を受けて選挙戦を戦っていました。
しかし、小選挙区制の導入後、1つの選挙区に立候補する自民党の候補者は1人になり、派閥に代わって公認権を持つ総裁や執行部の力が強まりました。
こうした仕組みを活用してみずからの求心力を高めたのが、小泉元総理大臣でした。
党役員・閣僚人事を派閥の意向にとらわれずに行う一方、政治改革で導入された政党交付金の配分を執行部が差配し、派閥の力は急速に衰えました。
さらに、郵政民営化が問われた平成17年の衆議院選挙で、小泉元総理大臣は、亀井さんをはじめ党内の反対派を公認せず、対立候補を擁立して圧勝。総理大臣がみずからの主張を強力に推進する時代の到来を印象づけました。
“野党転落”で議員心理に変化
さらに、自民党の議員心理に変化をもたらしたのが、平成21年の野党転落です。
小泉政権の後を継いで平成18年に第1次安倍内閣が発足して以降、3人の総理大臣が1年ごとに交代する事態に陥り、麻生政権の末期には党内から公然と退陣要求が出されるなど求心力が大きく低下。
平成21年の衆議院選挙で惨敗して、民主党に政権の座を明け渡しました。
小選挙区制度の下では、世論の流れしだいで振り子のように議席が変動しやすく、多くの選挙区で現職議員が落選し、新人議員が当選するという想定が現実のものとなりました。
平成17年の郵政選挙で初当選し、21年の選挙で落選を経験した自民党の田中良生議員は、党内の混乱が国民の支持を失う要因になったと考えています。
そして、今後の自民党について、「ころっと潮目が変わるという恐怖心はある」としたうえで、「派閥の戦いのようなものに国民は嫌気がさしている。物事が決まったあとは、総理・総裁の下にきちんとまとまっていくのは党として当たり前の姿だ」と話し、党のリーダーの下に結束する重要性を指摘しています。
今後の政治は・・・
自民党内の派閥の力学が政治の動向を左右していた体制から、総理・総裁のリーダーシップの下、政策の推進にあたる体制へと変容を遂げつつある自民党。
亀井さんは「自民党内で、安倍総理大臣以外に『われこそは』という人が出てこないとおかしい。安倍総理大臣にとっても、そのほうが政権が強くなる。今の一枚岩だったら、ひっくり返るのは簡単だ」と指摘しています。
一方の二階さんは「足の引っ張り合いをしているよりも1つにまとまっていこうということだ。政治の安定の中で経済が成長していくことを国民は期待しており、そういうことについて自民党が1つ1つ応えていかなくてはならない」と話しています。
変化しながらも、二階さんの言うように国民の多様な声に耳を傾け、政策の推進に的確に反映させ続けていくことも自民党に求められていることの1つと言えそうです。