日本経済新聞社による英フィナンシャル・タイムズ買収手続きが30日に完了、「日経・FTグループ」が世界へ産声を上げた。ともに19世紀創刊の日英新聞社の同盟は、「質の高い最強の経済ジャーナリズム」を旗印に歴史的な挑戦に踏み出す。
35年も前になるが、初めて行ったロンドンで先輩記者を訪ねたことがある。金融街シティのFT本社ビルに日経支局はあった。ピンク色の新聞が山積みの部屋はインクの匂いに包まれていた。
日経とFTは戦後早くから、長い付き合いを続けてきた。日本の高度成長、バブル崩壊、70年代英国の長期不況、サッチャー元首相の大改革など浮き沈みのなか、お互いが近く、あるいは遠く見えた時期はあったとしても、経済ジャーナリズムとして価値観を共有し、市場と世界の実相を追ってきた。
ここ数年は共同編集特集、シンポジウムなど交流を深めるなかで、ジャーナリズムの将来について互いの戦略が極めて近いことを確認し合った。これが日経・FTグループ誕生の核心である。
インターネット革命により、世界の新聞界は歴史的な転換期にある。新聞の衰退を叫ぶ人々もいる。しかし、玉石混交の情報が飛び交ういまだからこそ、鍛え抜かれた言論と信頼できる情報を提供する新聞の役割は一段と重みを増している。
新しいメディアが次々に誕生するなかで、新聞の生き残る道は、「クオリティー」の一点にある。無料のネット空間では得られない質の高いコンテンツを読者に提供することによって自ら立つ、ネット時代の新聞経営を築かなければならない。
クオリティー・ジャーナリズムにもとめられるのは、人材とインフラへの終わりなき投資である。優れた記者や編集者の育成には長期的な視点が必要だ。同時に、日々進化するデジタル技術やノウハウを取り込む機動的な投資も欠かせない。日経とFTはこの共通の課題に力を合わせて取り組んでいく。
加速するグローバル化もまた、メディアに新しい対応を迫っている。新興世界の台頭により、日米欧主導の既存秩序は揺らいでいる。アジアへ、アフリカへ。企業も人も国境を越え、成長の機会を見いだそうと駆け出した。文化や価値観の相克も深まっている。地球を360度、まさにグローバルにとらえる視点と取材力が新聞に問われている。
日経はこの2年、アジアの取材陣を大幅に増やしてきた。FTと連携して英文媒体のNikkei Asian Reviewを強化して、日本やアジアの情報をより深く、より正確に世界に発信していきたい。
日本資本主義の父とされる渋沢栄一は明治22年(1889年)、日経の前身である「中外商業新報」に寄せた一文で、「中外は欧米の有力紙に伍(ご)し、世界で重きをおかれる存在になれ」と書いた。いまこそ、この期待に応えたい。
日本経済新聞社、渋沢栄一、フィナンシャル・タイムズ