ソニーが出した答えは、「VRはゲームから始まる」

ソニーが出した答えは、「VRはゲームから始まる」

2015年9月、SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)は、プレイステーション4のラインナップであるVRヘッドセットの正式名称を「PlayStation VR」と発表した。それまでこのVRヘッドセットは「Project Morpheus」と呼ばれていたが、プレイステーションのVRシステムであること、ゲームをメインターゲットにしていることが一目で理解できる名称となった。

PlayStation VR公式サイトに「VRヘッドセットをかぶると、プレイヤーの360度全方向を取り囲む、迫力のある3D空間が出現。目の前に広がる圧倒的な臨場感は、ゲームの世界に本当に入り込んでいるかのような体験をもたらしてくれます」とあるように、ゲームのVRヘッドセットであることが関係者から語られている。あくまでもプレイステーション4の付属品であり、PlayStation VRの方が多く売れるということは想定していない。

2016年、プレイステーション4の出荷予想4000万台という恵まれた環境のソニー

しかし、すでにプレイステーション4は全世界で2000万台以上が出荷されており、2016年には4000万台以上の出荷が予想されている。これほど大きな母数をもった環境が整ったVRヘッドセットは今のところソニーとサムソンのものだけだろう。

VRで先行する「Oculus Rift」は、ハイスペックな高級PCとの接続を前提としている。一方で、PlayStation VRは比較的に安価なプレイステーション4があれば、手軽に本格的な没入感が体験できるVRを楽しめるのが特徴だ。

PlayStation VRはプレイステーション4との接続によるゲームでの使用に限定されており、少なくともBtoCではPCとの接続を予定されていない。様々なコミュニケーション領域やソーシャルネットワークでの使用を想定しているOculus Riftとの違いはそこが大きい。

ゲーム以外の領域でも期待の大きいVR、ソニーが示した7つの分野

また、SCEWWS(ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ )プレジデントの吉田修平氏は2015年10月に“バーチャルリアリティシステム『PlayStation VR』の展望”という講演の中で、VRがゲーム以外で活躍する領域として以下の7つを示した。そして、ソニーがこれらの領域全てに取り組むわけではないが、すでに多数の問い合わせがあることを明らかにした。

  • シュミレーター
  • コミュニケーション・コミュニティ
  • デザイン・建築
  • 教育・研究
  • 音楽・ライブイベント
  • バーチャルトラベル
  • スポーツ・イベント観戦

文字にすると分かりにくいが、シュミレーターは外科手術医療や航空機の運転や軍事など、特殊な状況で普段の活動は難しい分野での活用。VRの研究が最も進んでいる分野でもある。

コミュニケーション・コミュニティはフェイスブックが積極的に取り組んでいる領域だ。映画「マトリックス」に出てくるような世界が究極だと思うが、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは「VRがプラットフォームになるのは15年以内」と、時間が掛かることを認めている。

デザイン・建築の分野では、例えばVRを使って自動車のデザインを外から見た場合、車内に入って見たデザインなどを確認することができる。同じように建築の分野でも、リクルート社の「SUUMO」が積極的に取り組んでいるような不動産の下見から、家具の配置や人の流れといった使用者のライフスタイルまでを考慮した建築デザインをVRは後押しするだろう。

CEDEC2014(Computer Entertainment Developers Conference:ゲーム開発者会議)で、吉田修平氏はVRでの教育について「これからの子どもたちは従来の人類の何百倍もの体験ができそうで、うらやましい」と声を弾ませた。任天堂が「Wii」でゲームの人口と市場を拡大したように、プレイステーションも教育分野でのゲームの可能性を探っているのかもしれない。

バーチャルトラベル、スポーツ・イベント観戦のVRコンテンツは想像しやすいだろう。テレビやインターネットで映像を見るぐらいの気軽さで、世界中の観光名所やスポーツイベントを楽しむことができる。

SME(ソニー・ミュージックエンタテインメント)とプレイステーションの歴史的に深い関係性を思えば、PlayStation VRがこの音楽・ライブイベントに進出するのは必然なのかもしれない。すでに、初音ミクやカラオケ「JOYSOUND」のVRコンテンツは発表されている。

VR業界に新しい才能が集結している

VRが活躍する範囲はとても広いが、VRの魅力は体験してみないと分からないとも言われる。とにかく「VR体験を増やすことが大切だ」と、ソニーは多くの会社がVRに参入している現状を歓迎している。

また、VRコンテンツの作りやすさでは「実写の映像よりも3DCGの方が作りやすい」、「VRと3DCGは相性が良い」と吉田修平氏は語る。3DCGのノウハウを持つゲーム会社やインディーの開発者がVRコンテンツを主導し、まずは世界中にいるゲームユーザーがVRを体験することを、ソニーは狙っている。

Paris Games Weekdでは、すでに世界中の200社以上のゲーム開発スタジオがPlayStation VRのVRゲームを開発していることが明らかにされた。インディーゲームの開発を含めれば、膨大な数のVRゲームが開発されている。

インディーゲームに面白い才能があれば、SCEからPlayStation VRへの移植の支援をするという計画もSCEにはある。プレイステーションの時に行った「ゲームやろうぜ」のようなクリエイターを発掘する試みがVRゲームでも行われる可能性も高そうだ。

また、VR開発を取り巻く環境が、マイコンとBASICによる日本のビデオゲーム開発黎明期、新しい才能のクリエーターとコンテンツが一気に出てきた状況に似ているという指摘もある。スパイク・チュンソフト会長の中村光一氏(ドワンゴ取締役でもある)が高校生の時に「ドアドア」、21歳の時に「ドラゴンクエスト」を作ったように、若いクリエーターによる今までにないジャンルの開拓も期待されている。

最初のターゲットはゲームファンだが、VRはゲーム業界を超えるビジネスになる

吉田修平氏は、PlayStation VRがゲームから始まるのは間違いないが、VRの可能性はゲームにとどまらない、そしてプレイステーションはVRでゲーム機の領域を超えると息巻く。下記の「週間アスキー」のインタビューでも、はっきりと答えている。

ゲームファンには新しもの好きも多いので、最初のターゲットユーザーには間違いないんですが、VRでできることはもっと幅広い。
(引用:週刊アスキー

例えば、アルプス山脈やスターウォーズの世界など、自分が行けないところにいつでも行けるようになるのは、ものすごくマスマーケットだと思います。そうしたコンテンツが出てきたときに、「ゲームには興味がないけど、その体験がしたいからPS4も含めて全部買ってしまう」というところまでいけるはず。将来的にですが、ゲームよりもっと広いユーザーにもっていけると思いますし、ビジネスとしても今のゲーム業界より規模が大きくなるはずです。
(引用:週刊アスキー

2015年だけでも、今までとは桁違いに多くの人々がVRコンテンツに興味を示し、実際にVRコンテンツを体験している。東京ゲームショウ2015のSCEが出したVRのブースが午前中で受付が終了するほどの盛況は、ソニーにとって再びの飛躍の第一歩かもしれない。

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高橋 あけぼの

高橋 あけぼの

フリー(ライ)ター
学生時代に360times運営会社代表である安済と知り合う。VRの可能性と事業理念に共感し、360timesにライターとして協力しています。得意とする分野は教育・キャリア系、IT系のスタートアップ。好きな漫画はルサンチマン(花沢健吾)です。