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時代の

受講生レポート

講演タイトル
「伝統と革新の融合を目指して~吉兆 総料理長が語る~」


講演日 2007/07/10 (火)
講師 徳岡 邦夫 ( とくおか くにお )
株式会社京都吉兆 取締役専務
お店ではいつも白衣を着ている徳岡氏、今回の講演では、襟付シャツにノータイ、ジャケットを着て登壇されました。徳岡氏は、和服を着る機会もあるそうですが、以前、林家こぶ平さん(現九代目林家正蔵師匠)に間違えられたことがあるとか。テレビでもしばしば登場されていますのでお顔をご存知の方も多いと思いますが、優しい表情が印象的でした。

さて、世界的にも名高い日本料亭、「京都嵐山吉兆」の総料理長として、同店の伝統を受け継ぎつつも、料理の面でも、また経営の面でも革新的な取り組みをされてきた徳岡氏は、まず吉兆の歴史を語ってくれました。吉兆の創業者は、徳岡氏の祖父にあたる湯木貞一(ゆき ていいち)氏です。湯木家は元々広島にルーツがあります。その昔、湯木家は、船で荷物を運ぶ仕事をしていたそうです。ある時、広島で取れる「カキ」を船で関西まで運んで、直接庶民に売るという商売を始めました。生のままではなく、料理をして販売したのです。そのうち、この料理が人気を集めるようになり、陸(おか)に上がって料理屋をやることにしました。

貞一氏は、この料理屋「中現長」の跡取り息子として生まれたのですが、昭和5年、独立して自分の店を開店します。この時、「吉兆」が誕生したのです。徳岡氏によれば、開店日はお客さんがゼロだったそうです。開店準備に忙しくて、まったく外部に告知していなかったからです。しかし、一流の料理人であった湯木貞一氏の吉兆の評判は次第に高まり、文化人が集まるようになっていきます。

徳岡氏は湯木貞一氏の下で料理を学び、最終的に吉兆を継ぐことになるのですが、そこに至るまでの若い頃の人生は波乱に富んだものでした。中学時代、徳岡氏はサッカーに熱中。ほとんど勉強しなかったそうです。しかし3年生になってから猛勉強して遅れを取り戻し、ある有名進学校に無事入学します。ところが、勉強が厳しいのが嫌ですぐに退学し、仕方なく16歳から吉兆で働き始めます。しかし、休みも平日で友達もいない寂しさから、2年遅れでもう一度別の公立高校に入り直しました。そこでは、3年生が中学時代の元同級生でしたし、2年生は元後輩でしたから、1年生の徳岡氏に挨拶をしてくる。同級の1年生とも仲良くなり、結局、全学年が友だちのような感覚で楽しい高校生活を送ったそうです。

そして、徳岡氏が高校時代に夢中になったのはバンド活動です。ドラムをやっていたのですが、どうせやるなら世界一のミュージシャンを目指そうとプロの道に進むことを決断しました。しかし、家族からは大反対されます。そこで徳岡氏は、小さいころから夏休みに泊っていた禅寺の和尚に相談に行ったそうです。すると、和尚からはとりあえずここに居なさいといわれ、あっというまに頭を剃られて修行僧にさせられてしまいます。この禅寺に住み込み、お風呂番となった徳岡氏は、風呂を焚くための薪を火にくべながら、なぜだか涙が流れて止まらない時がありました。現在の状況は、自分も家族もみんな不幸だと感じたのです。では、みんなが幸福になる道はなんだろうかと徳岡氏は考えました。その答えは、自分が吉兆を継ぐことだったそうです。

こうして、1980年、徳岡氏が20歳の時、改めて吉兆の料理人としての道を歩み始めることになります。80年代の吉兆は、バブルの時期もあって経営は順調でしたが、バブルが弾けた90年代は、一転苦しい時期が続きます。とにかくお客さんが来ない。徳岡氏自身、料亭の存在意義を疑い、倒産も覚悟されたそうです。そんなどん底の時期の95年に、徳岡氏は料理長に就任します。当時は、料理長になったばかりにも関わらず、店が苦しいのは料理長のお前が悪いからだとさんざん非難され、つらい思いをされたようです。しかし、徳岡氏は、様々な企業とタイアップするなど、吉兆をもっと外に知ってもらうための営業活動に取り組む一方、新卒の採用を積極的に行い、優れた人材を獲得、育成することに注力します。こうして、厳しい時期をみごと乗り切り、現在の発展に導くことに成功したのです。

現在、吉兆は全国の一流大学を卒業した人も採用していますが、最初は皆、接客サービスの仕事をさせるのだそうです。お客様と直接に接することを通じて、お客さまが吉兆に何を求めているのかを理解してほしいからです。社員たちには、接客の仕事を深く掘り下げることを求めます。接客の仕事は、A点(調理場)からB点(座敷)へと料理を運ぶことですが、A点の調理場において、料理によって異なる調理時間を頭に入れておき、お客様の人数などに応じてどのようなタイミングで料理を出すのがいいのかを考える必要があります。またB点のお座敷においては、そこにいらっしゃるお客さまのために何ができるのかをしっかり掘り下げて考えることを求めます。さらに、C点(これは吉兆の可能性を意味するそうです)についても自分で考えることを促すのだそうです。

徳岡氏は、「料理とは何か」すなわち、料理の本質について、北大路魯山人の話を引用しつつ語ってくれました。北大路魯山人は、「料理の殿堂」とも呼べる会員制の美食クラブを作ろうと思いたち、全国から腕に自信のある料理人を新聞で募集したことがありました。その採用面接で、北大路魯山人は、募集者に対して「君はいったい何が好きだ?」と質問したそうです。そして、その答えが料理以外のことだった場合、その料理人は、料理に対する意識が低いと判断して採用を見送ったそうです。

徳岡氏は、自分がこの募集に応募し、北大路魯山人から同じ質問をされたらどう答えるかを考えてみました。魚や肉というレベルではだめだろう、魚といってもサンマや鯛ということでもだめで、例えば10月に取れた鯛といわないとプロとしては不十分。さらによく考えると、頭も真ん中も尻尾も鯛であるし、それぞれ味が違う、また煮たり焼いたりといった料理の方法や、味付けによっても変わってきます。こうして徳岡氏が考えを深める中で「そうか」と気づいた点がありました。それは料理の「道理」をわかることの重要性です。すなわち、素材のどの部分をどのように調理し、どのような味付けをすれば、結果としてどんな料理が出来上がるのかを明確にわかっていなければならないということです。しかも、その先にお客さんがいますから、お客さんがその料理を食べて喜んでくれ、再び食べに来てくれる結果にならなければ意味がないのです。したがって、料理とは、そこまでの結果に結びつけるために、料理の道理を踏まえて逆算できることが料理だと考えているのだそうです。

最近では、海外への出店も視野に入れて、世界の富豪からの注文にも出向いて料理をされているようです。
温厚な雰囲気ながら、店をたたむ危機を乗り越えて、伝統を受け継ぎ、革新的な取り組みをされている徳岡氏の料理の深淵を熱く語る姿に思わず引き込まれてしまった2時間でした。

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