アサンジが突然、何の脈絡もなく、「ウィキリークスのことを書いているガーディアンのジャーナリストの誰それはユダヤ人だ」と言ってガーディアンを非難した(さらにアサンジは、当時のアラン・ラスブリジャー編集長についても「妹がなんちゃらかんちゃら」とわけのわからないことを言い、編集長自身が「えっ、俺、妹いたんだ!」と反応するという爆笑コントが展開されていたりもしたが)。
この発言が「レイシズム的な発言 racist remark(s)」に該当するかどうかで、Twitterではひと悶着あった。
一方に、"「ユダヤ人」についてはあまりに簡単に「反セム主義 anti-Semitism」が持ち出されるが(例えばイスラエルの国家としての政策を批判しても「反セム主義」呼ばわりされる)、ただ単に「《事実》を指摘しただけ」のアサンジの発言を「レイシズム」の発言だと位置づけることもまた「反セム主義」というレッテルの濫用である" という主張があった。
その屁理屈に対し、"必然性などまるでないときに、誰かの人種について「その人が『○○である』」という《事実》を語ること自体が、レイシズムである" という主張がなされた。
まったくその通りである。このケースではガーディアンの記者がユダヤ人であることは、彼がジュリアン・アサンジについて書いたこととは何も関係なかった。(ちなみにこの発言はあちこちで波紋を呼び、「アサンジ個人が反ユダヤ主義の思想を抱いているのではないか」という方向に人々の関心は移った。)
(ただし、英語圏では「文章術」として、人名の繰り返しを避けるためにわけのわからない「属性羅列」が行われることがあり、そこでよく何の脈絡もなく「国籍」や「年齢」は言及されるし、「人種」や「民族」も、ときどきだが、言及される。「アーセン・ヴェンゲル」を「そのフランス人監督は」、「その66歳の人物は」云々と言い換える類のことだ。国籍も年齢も必然性があるとは思えない場合もあるが、こういうのは行き過ぎなければ、「レイシズム」などの何らかの「イズム」とは見なされない。)
さて、日本でサッカーのガンバ大阪に所属する外国人プレイヤーが、人種差別の被害にあったというニュースが話題である。スポーツ新聞が記事数をかさ上げしているが、Googleニュース検索するとこんなにたくさん記事がある。
スポーツ新聞だけではない。読売新聞や東京新聞の記事もあるし、NHKでも報じている(→アーカイヴ)。
元の「人種差別に当たる書き込み」については、NHKでは再度文字化することは避けているし(賢明で常識的な判断だ)、現時点ではもう削除済みで見ることもできない。私がこの件について最初に見たYahoo! ニュース掲載の記事(フットボールチャンネル、11月28日(土)19時49分配信)でも、それがどのような発言だったのかは記されていない。
が、スポーツ新聞(複数)がその「人種差別の発言」(というよりは「暴言」だが。ただしTwitterでは珍しくもない種類の「暴言」だ。今も水木しげるの訃報に関連して「便乗して水木しげると妖怪たちの絵を描いてツイートする連中が出るだろう。○せ」とかいう発言が検索結果に表示されており、数百件のRTがある。ところで発言主はこのアバターは自分で描いたのかね)を再生産している。
このような「暴言」を受けて、被害者(パトリックさん)の側は(通訳者さんを通じて)次のようなメッセージを出している。
@takoj2000 pic.twitter.com/yqvYav60cv
— patric (@patricaguiar) November 28, 2015パトリックのこのツイートを見たときに、ついでにリプライもざっと見てみたのだが、その中に少なくとも1件は「人種差別ではないと思います。なぜならレッズのサポーターにとってあなたは敵チームの選手だからです」といった生硬な文体(中学生か)で、幼稚な理論が語られているものがあった。
「敵チームの選手」だからといって、誰かを「黒人」呼ばわりし、「○ね」と罵倒することのどこが、「人種差別(レイシズム)ではない」と考えられるのだろうか。
スポーツで、相手チームのプレイヤーにブーイングをするようなときにも、自分たちを打ち負かして勝利した相手チームのプレイヤーをけなして鬱憤を晴らすというときにも、プレイと関係のない「人種」や「肌の色」などを持ち出すようなことは、少なくとも現在のいわゆる「先進国」のリーグでは許容範囲外とされている。ただし、そこに至るまでのこの10年ほどの間には、アンリやデサイー、ファーディナンドといったプレイも目立つが発言も目立つ「黒人」の選手たちによる地道な取り組みがあり、「これは差別ではない、ライバル心だ」といった正当化を受け付けずに「人種差別をサッカーから蹴り出す」ことを明確にした競技団体や報道機関の人たちの尽力がある。
つい数日前にも、スタジアムでの人種差別行為を起こしたウクライナ(2012年にはEUROの開催国だった!)のディナモ・キエフに「向こう3試合の無観客試合」という処分が言い渡されたばかりだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151126-00373707-soccerk-socc
(ディナモ・キエフが処分された試合の対戦相手が、「観戦にいったサポーターがパリの地下鉄で黒人のパリ市民を公然と辱めた」ことでおなじみのイングランドのチェルシーFCというのが、なんともいいがたい皮肉なのだが。)
ディナモ・キエフの場合は、これで「スタジアムでの人種差別がある」ということが大々的に認識されたわけで、これから「それがいかに《問題》であるか」が改めて認識され、啓蒙活動が行われ、状況が改善されていくのだろうと思う。
日本のJリーグもきっと、そういう方向で何かをしようとしているのだと思う。
でも、私にはイマイチ意味がわからない。報道記事が断片的すぎるせいかもしれない。
以下、覚え書き。
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
G大阪パトリックへの人種差別問題 Jでは調査せず https://t.co/JwJNX06hoe "「誰がどういう意図を持っているか分からないので処分云々という話はない」"、"現時点でリーグとして調査はせず…"。「誰がどういう意図を持っているか不明」だから「調査する」だろう、普通 at 11/30 11:00
【はてブ】"村井満チェアマンは29日、「誰がどういう意図を持っているか分からないので処分云々という話はない」と話し、現時点でリーグとしての調査はせず、推移を見守る考え"。"「(投稿者を)特定する立場にない」"
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
Jリーグ、浦和を処分しない方針 ツイッター差別投稿問題 https://t.co/M2NHTuzwJG "8日深夜にJリーグからツイッター社に違反の報告をし、当該ツイートは削除された。書き込んだ個人が特定出来ないため、クラブへの処分は科さない方針" at 11/30 11:08
【はてブ】 "村井チェアマンは「許されないことだとみんな思っている。社会全体に啓発を続けていく以外はない」と話し差別撲滅に向けた姿勢を強調。…書き込んだ個人が特定出来ないため、クラブへの処分は科さない方針"
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
【G大阪】パトリック、人種差別的な書き込みに「傷ついてなかなか眠れなかった」 https://t.co/SGGQaEwDwt "28日の浦和とのCS準決勝の試合後…パトリックは「悲しい気持ちになった。目標としていたゲームの後に…初めてのことで傷ついてなかなか眠れなかった」" at 11/30 11:23
【はてブ】 "「どこの国にでもいい人、悪い人はいる。どういう気持ちで書いたのかは分からないが、今後は…みんなのことをリスペクトできるように変えていければいい」と、相手を責めることはしなかった"。美談化するか、これを
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
G大阪・パトリック 多くの励ましに感謝もあらためて怒り https://t.co/aS5A2xRPrk "「黒人、白人、黄色人種…全員が互いを尊重しないといけない。どの人間に対しても尊重できる気持ちを持ってほしい」。前夜は家族と話し合い、午前3時30分頃まで寝付けなかった" at 11/30 11:30
【はてブ】 "「黒人、白人、黄色人種…全員が互いを尊重しないといけない。どの人間に対しても尊重できる気持ちを持ってほしい」。前夜は家族と話し合い、午前3時30分頃まで寝付けなかったという。 "
今はもう見ることもなくなっているが、数年前にサッカーの国際試合(日本の試合ではない)のテレビ実況を見ながら、2ちゃんねるの当該のスレを見ていたことがある。大半の書き込みは「ファン同士の楽しいおしゃべり」だったが、ときどき「黒○ぼ」、「土○」、「劣等人種」などの侮蔑語を使って、不必要に攻撃的なことを書き散らす書き込みもあった。スレの流れる速度が速いし、そういう攻撃的な書き込みは暗黙の了解でスルーされている(誰も相手にしてない)状態だったが、それでも、多くの人の目に触れるところであのような言葉が平然と書き込まれていて、書き込まれているということは誰かが書き込んでいるということで(Botの可能性もなくはない、などと言わねばないのでしょうかね)、実に暗澹たる思いがした。
当該のTwitterユーザーは人種主義ということについて何も考えているわけではなく、「ネットではそういう言葉を普通に使う文化圏」の人だったのかもしれない。
しかしそれを、自分が罵倒している相手が見る場でやるかね。「面と向かってこんな過激なことがいえちゃうのは、熱くて尖っててカッコイイ」ということなのかもしれないが、チラシの裏に書くのではなく、気心の知れた友達の間でウケを狙って過激なことを言ってみるのでもなく、Twitterでやるのかね。
そしてまた、Twitterを使う気が失せるわけだ。
そうそう、先日、BBCにおもしろい記事が出ていた。台湾で地元の女性が「白人」の男性と一緒に公共交通機関に乗っていたら、変な男(台湾人)に絡まれたという話だ。
After British man abused, Taiwan debates its hidden racism
http://www.bbc.com/news/blogs-trending-34882824
多くの場合、レイシストはその場では何も言わないし、声高なレイシストの多くは「外国人男性」の前ではネコをかぶっている(そして「外国人男性と付き合っている地元の女性」を「売春婦」よりも汚い言葉を使って罵倒する)。台湾でのこの事例は、地元のレイシストが「白人」の男性に面と向かって絡んでいて、しかもその一部始終が撮影されていて、事後にネットにさらされたから、このような記事として世界中に知れ渡ったのだ。
日本について、「レイシズム」が存在しないかのように言ってくれる在日外国人はたくさんいるけれど、彼らの言う親切な言葉にのみ耳を傾けて「レイシズム」の存在を認めずにいれば、「たかがネットの書き込み」にすぎないような形でかもしれないが、実際に存在している問題の解決にはつながらない。
これから読む本。
サッカーと人種差別 (文春新書) -
「レイシズム(人種主義)」についての教科書。
人種主義の歴史 -
(拙著にも書いた通り、私自身はロンドンで人種差別の被害にあったことはなかった。だから私は「ロンドンでの人種差別」について自分の体験としては何も語れない。しかしそれは「ロンドンでは人種差別がない」ことは意味しない。私と同じ時期にロンドンで、東アジア人差別の経験をしたという人もいる。相手はクソガキとしか言いようのない年齢層の子供だったそうだが、目じりを人差し指で吊り上げるしぐさをされたり、東アジア人全体への蔑称である「チンク」という言葉を投げつけられたり、ひどい場合には瓶などを投げつけられたり、といった差別の体験がある人は、確実にいる。確実に東アジア人を標的とした差別言説は、まともな大人は公然と言いはしないだろうが、「何も考えていない子供」の間にはありがちだと)
※この記事は
2015年11月30日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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