紀元前18年。特に人妻にとって極めて厳しい重要な法律が、アウグストゥス帝により元老院へ提出され議会可決。ローマ法の中に加えられます。
●ユリウス姦通罪・渉外交渉罪法(紀元前18年成立、紀元前15年実施)
姦通を(公的な)犯罪と規定。その告発は、身分差異関係なく誰でも可能。姦通の事実を知りながらそれを隠し、または、知った後もなにも手を打たなかった夫や実父に対しても、「売春幇助罪」を問える。
女奴隷や娼婦を除く他の女性との正式婚姻関係外のあらゆる性的関係も、公的な犯罪として規定する。
その罰則は、不倫関係を結んだのが有夫の女の場合、資産の1/3を没収された上、孤島に終身追放され、ローマ市民権保有者との婚姻を不可とするもの。尚、逆に夫の方が不倫を働いた場合は、それは不問とする。
●ユリウス正式婚姻法(紀元前18年成立、紀元前15年実施)
(※元老院議員階級と騎士階級に属する者に対象は限定される法律ですが、男子は25歳~60歳、女子は20歳~50歳の圏内にある限り、結婚していなければいろいろな不利が課される内容)
(男性の場合)第一子の誕生を以って、初めて、法定相続人以外にも遺産を相続させることができるものとする。また、独身男性は以下のような公生活上の不利が課される。
1.市民集会での投票で決まる政務官職は、獲得票数が同じならば、独身者より既婚者、既婚者の中でも子を持つ者、子を持つ者の中でも数が多い者、という順で優先される
2.元老院での議席取得は、資格・能力ともが同一線上にある者ならば、上の順位で優先される。
3.元老院属州に赴任する総督の人選も、上の順位が準用される。
4.各政務官の職間(着任)の休職期間の設定を緩和。子一人の誕生につき休職期間を一年間ずつ短縮する。(※子を多く持つ者が、国家の要職を次々に歴任することを可能とする)
(女性の場合)
1.未亡人の場合でも、子がいなければ、1年以内に再婚しなければ独身並とする。
2.子を持たない独身女性は、50歳を越えると、如何なる相続権も認めらないものとする。また5万セステルティウス以上の資産を有する場合はその権利を失うものとして、誰かに譲渡するべきものとする。
3.2万セステルティウス以上の資産を持つ独身女性には、年齢に関わらず、結婚するまでの毎年、収入の1%を国家に納めなければならないものとする。尚、第三子の誕生を以って税は免除されるものとする。
4.三人の子をなした女性は、実家の父親に公使権のある「家父長権」から解放され、自らの資産を自由に遺贈することができ、他人からの遺贈も自由であるものとする。
(※経済上の男女平等の保証とは言えるものの、女性に、多くの子を産み育てることを法で強制しているようなもの。子をなさない者は財を成してはならない・・・)
また、下記二つの例の如く、法規制には至らなかったが関連規定に因り、奨励されない結婚はしてはならない。というような慣習を生ませます。
(1)規定圏外の年齢の者の間での結婚は法律で禁止される事はなかったが・・・
夫と妻の双方が規定の年齢枠外にある場合、また、夫と妻のどちらか一方が規定の年齢枠外の場合、夫の死後の遺産相続権は妻には認められず、没収された遺産は国庫に納められる。
(2)いかがわしい職業の者との結婚も法律で禁止される事はなかったが・・・
いかがわしい職業と認められる相手とは、正式の婚姻とは認められない。即ち、独身と同じ扱いをする。
離婚については、公表を義務づける。公表は7人のローマ市民権保持者の承認なしには受理されない。義務を怠った場合、罰則を科す。そして、離婚の可否は、元老院議員を長とした委員会での採決を必要とした。
以上の二つ(と関連法)を立法するアウグストゥスは、女性に対して何かしら屈折した思いがあったのか、本当に潔癖症だったのか、兎に角、男女の事に絡めて私財まで含め「ローマ」の名の下で統制しようとします。
が、斯様な法案に対して、女性達の反発はやっぱり起きてしまい、自分の娘(大ユリア)を含め、貴族階級の女性達との軋轢が生じます。幼少時から親の政略に利用されてきた彼女達は、子を宿せないとなると道具のように捨てられた。その責任が夫の側にあろうと、女性達は常に不利な立場に置かれる。然りながら、ローマの女性は気高く、そして、堂々と悪女にもなる。為政者と言えども、女性達によってその人生を狂わされて行く事が度々起きます。そして、島流しに遭う彼女達は、それで歴史に名を刻んだことにより、「ローマ」の内実を後世に教えてくれる。戦争史や文化史だけ見て(表面だけ見て)ローマに憧れる人は無数にいるけど、やっぱり女性史、男性史が面白いので、故に「ローマ」です。人類史上最高の「実験国家」と(後世に)云わしめたローマでは、男女の有り方の全てを見る事も出来ます。