帝国の慰安婦:朴教授「自発的な売春婦とは書いていない」
毎日新聞 2015年11月29日 21時43分(最終更新 11月30日 00時07分)
◇「名誉毀損」で起訴に「暗たんたる気持ちになった」
【ソウル大貫智子】慰安婦問題に関する著書「帝国の慰安婦」で元慰安婦の名誉を傷つけたとして在宅起訴された韓国・世宗(セジョン)大の朴裕河(パク・ユハ)教授が29日、毎日新聞のインタビューに応じた。朴教授は起訴について「予想外だった」と話した。在宅起訴に対しては、村山富市元首相ら日米の政治家や有識者54人が26日に抗議声明を発表しているが、韓国でも12月2日に同様の声明を支援者が発表する予定だという。
朴氏は著書で、元慰安婦の証言集を基に、日本軍と朝鮮人慰安婦の関係について「同志的関係にあった」などと記述。そのうえで、慰安婦問題は日本の帝国主義や植民地支配に起因すると分析した。
これに対し元慰安婦らは昨年6月、「日本軍による強制動員、強制連行を否定している」などと反発して刑事告訴。ソウル東部地検は今月18日、朴氏が慰安婦を「自発的な売春婦」であるかのように描いて「虚偽の事実で慰安婦の名誉を毀損(きそん)した」と断じ、「学問の自由を逸脱した」として在宅起訴した。
朴氏はインタビューで、「自発的売春という言葉は使っていないし、(自発的か否かが)重要なのではない」と述べ、慰安婦という制度自体を問題視したのだと反論。元慰安婦が反発した背景には、著書の内容を不十分な解釈で元慰安婦に伝えた人たちの存在があるとの考えを示した。
また、検察が自身の主張に一定の理解を示していると認識していたため、起訴を受けて「暗たんたる気持ちになった」という。
朴氏は著書で、朝鮮人慰安婦の動員は必ずしも強制連行だけではなかったという見方も示した。この点については「それを知っていても、公に言うのは問題だという人もいる」と話し、慰安婦問題に対する幅広い見解を許さない韓国の社会風土があると指摘。歴史問題では極端で一方的な意見の押しつけ合いになってしまう現状から脱却し、自由な意見や行動が許される空間を広げることが大切だという考えを示した。
12月2日の声明は、起訴について「妥当とは思えない」と表明。客観的状況に基づいて記述した著書に対する検察の理解不足だと指摘し、「司法の賢明な判断を促す」内容だという。進歩系の知識人らが中心で、在米韓国人なども含まれる見込み。
朴氏は同名の日本語版書籍を出版しているが、内容は一部異なる。日本語版は今月、アジア太平洋地域の政治・経済・文化などに関する優れた本に贈られる「アジア・太平洋賞」特別賞を受賞した。