数学ミステリー白熱教室 第3回▽フェルマーの最終定理への道〜調和解析の対称性 2015.11.27


アメリカ西海岸の名門。
自由な校風で知られるこの大学に今全米から注目される一人の研究者がいます。
旧ソビエト出身の気鋭の数学者…フレンケル教授が挑んでいるのは「ラングランズ・プログラム」と呼ばれる数学界最大のミステリーの一つ。
教授の最終目標は整数や分数など数とは何かを研究する数論。
図形の形や性質を調べる幾何学。
そして複雑な関数を読み解く解析学など一見互いに無関係だと考えられてきた数学のさまざまな分野に実はミステリアスな深いつながりがある事を証明しようという壮大なチャレンジです。
もしこのラングランズ・プログラムが完成し更に数学の全ての分野が地続きである事が示せれば数学者たちを悩ませ続ける数々の難問が解決する可能性があるといいます。
それだけではありません。
フレンケル教授は抽象的な世界を描く数学と私たちが暮らす現実世界を研究する物理学の間にも驚くべきつながりがあると予想しています。
数学の最先端理論を突き詰めていけばこの宇宙を支配する物理法則が次々と姿を現すのではないかというのです。
フレンケル教授は今回一般の学生から数学の専門家までを集めた全4回の特別講義を行いました。
最先端の世界が次々と登場。
学校では決して教えられない美しくて楽しい数学の世界が大展開します。
第3回では数学史上最大の難問「フェルマーの最終定理」について見ていく。
とてもエキサイティングな内容だ。
最も興味深いのはフェルマーの最終定理の証明はラングランズ・プログラムの特別なケースと言えるものが基礎になっているという事だ。
また20世紀の数学において極めて重要な成果をあげた日本のすばらしい数学者谷山豊の研究や印象的なエピソードについても話そう。

(拍手)さあ今日も講義にようこそ。
ラングランズ・プログラムと数学の異なる分野の間にある秘密の「つながり」について考えよう。
まずはこれまでのおさらいだ。
これまで何を議論してきたのだろうか?これまで説明したようにラングランズ・プログラムはもともと数学の異なる分野をつなげ統一しようという目的を持って始まった。
その分野とは数論と調和解析だ。
私はラングランズ・プログラムを数学のある種の統一理論だと考えている。
ラングランズが最初のアイデアを提案したのは1960年代後半およそ50年前の事だ。
その後このアイデアは数論と調和解析だけでなく数学の他の分野にも広がりつながりが探されるようになった。
これまでの講義でこれらの分野やアイデアをいくつか見てきた。
今日は更に問題の核心に迫って異なる分野をつなぐ懸け橋とはどんなものなのか秘密のつながり隠された関係とはいかなるものなのかを具体的に見ていきたいと思う。
まずはこの興味深い文書を見てほしい。
これは実は手紙だ。
ロバート・ラングランズが初めて彼のアイデアを記した実際の手紙だ。
1967年に著名な数学者アンドレ・ヴェイユに宛てて書かれたものだ。
これはその手紙に添えられたメモだがこの手紙はラングランズが名誉教授を務めているプリンストン高等研究所の資料室に今も保管されている。
画面では見づらいから私が読んでみよう。
こう書かれている。
まるで控えめや謙虚である事のお手本のような文面が書かれている。
だがくずかごに捨てられてしまうどころか実際にはこの手紙はその後数学の全く新しい予想を生み出した。
そして今やさまざまな分野に影響を与え何世代にもわたって数学者をとりこにするものとなったんだ。
これから話すのはラングランズ・プログラムに直接関係している問題だ。
数学史上最も有名な問題の一つ「フェルマーの最終定理」だ。
フェルマーの最終定理はある方程式に関する問題だ。
xのn乗足すyのn乗はzのn乗に等しい。
さてこの方程式の中の記号はどれが未知数でどれが固定された数だろうか?フェルマーの最終定理に出てくる方程式について考える時一つの方程式だけを考えるのではない。
それぞれの整数について考えるんだ。
345のような。
例えばnが3の時はx+y=zとなる。
nが4ならx+y=z。
以下同様だ。
ではこの式を見てみよう。
nを3に固定してみる。
残るは3つだ。
xyz。
これがこの方程式の未知数になる。
分かっていない数だ。
このような方程式の答えつまり解を見つけるという事は式の左側と右側の値が等しくなるようなxyzに入る数を見つけるという事だ。
おおよそではなくぴったり等しくないといけない。
これが方程式の解を見つけるという事だ。
さてフェルマーの最終定理はつまりこのそれぞれの方程式でこの式やこの式そしてx+y=zなどで解となる正の整数x,y,zは存在しないという事を主張している。
簡単な方程式で考えてみると分かりやすいだろう。
ところでなぜnが3や4なのかと思う人もいるかもしれない。
2でもいいんじゃないかと。
ではフェルマーの最終定理を考える前にnが2の場合を考えてみよう。
2の場合はフェルマーの最終定理には含まれない。
nが2の場合はx+y=zになる。
この式に見覚えがないかい?そう最初の講義で紹介したピタゴラスの定理に出てくる式だ。
ピタゴラスの定理は直角三角形の直角を挟む2つの辺の長さの2乗を足したものは斜辺の長さの2乗に等しくなるというものだった。
ではここでこの式についてフェルマーの最終定理と同じ問題を考えてみよう。
nが2より大きい3や4や5の時に考えたようにこの方程式が成り立つような正の整数x,y,zは存在するだろうか?するとこの方程式にはそのような解が存在する事が分かる。
「ピタゴラス数」と呼ばれる数だ。
解は直角三角形の辺の長さだと解釈すればいい。
1つ目の解はxが3yが4zが5だ。
つまりこんな直角三角形が存在するという事だ。
長さが345。
いいね?この方程式を解く事は全ての辺の長さが正の整数である直角三角形を作るのと同じ事だ。
そのような解があるかどうかはすぐには分からないが確かに存在する。
無限にあるんだ。
ここに最初の2つを挙げた。
まず345これは君たちもよく知ってるだろう。
その下のものはあまり知られていないかもしれないが計算すれば分かる。
5の2乗が2512の2乗が144で合計は169。
右側が13の2乗なので確かに正しい。
実はフェルマーの最終定理のきっかけとなったのはこのピタゴラスの定理の式だったんだ。
このような解が存在する事をかなり前に知っていた人物がいた。
ギリシャの数学者ディオファントス2〜3世紀ごろの人物だ。
ディオファントスが書いた「算術」という本をフランスの数学者ピエール・ド・フェルマーが読んでいた時あるアイデアが浮かんだ。
この式で2より大きい時はどうなるだろうか?これはどのように数学が発展していくかを示す良い例だ。
例えばx+y=zという方程式があって誰かがその解を見つける。
この場合はディオファントスだった。
すると次に君はその問題を一般化する。
例えば「3乗の場合はどうだろう?」と。
そうやって数学を発展させるんだ。
フェルマーも同じ事をした。
面白い事に彼はディオファントスの本の余白に今ではフェルマーの最終定理として知られる内容を書き記したんだ。
それはこんな見事な内容だ。
君たちテストで同じ事をしたら駄目だよ。
でもなかなかうまい手だ。
1637年にそう書いたけれどその後フェルマーは何も残していない。
だが彼の名誉のために言うとnが4の場合の証明はした。
でもそれ以上については何もしていない。
最終的にいつ証明されたのだろうか?それは1995年の事だった。
つまりフェルマーが書き記してから350年以上もかかったんだ。
実はその証明はフェルマーの最終定理を直接証明したのではなく「志村・谷山・ヴェイユ予想」と呼ばれる問題を証明したものだった。
これもまた非常に重要なものだ。
注目すべきはそれがフェルマーの最終定理に至る今分かっている唯一の道だという事だ。
志村・谷山・ヴェイユ予想を証明すればフェルマーの最終定理を証明した事になる事がその少し前から分かっていたんだ。
実はその事に最初に気付いたのはここバークレー校の私の同僚数学者のケン・リベットだ。
1986年の事だ。
このアイデアをひらめいたのは君たちもよく知っているカフェ・ストラーダでコーヒーを飲んでいた時らしい。
だからバークレーは特別な場所だ。
いつかカフェ・ストラーダでこの証明の記念メニューが出るかもしれない。
こうして志村・谷山・ヴェイユ予想とフェルマーの最終定理との結び付きが明らかになった。
それまでに志村・谷山・ヴェイユ予想は既に有名な数学の問題だった。
フェルマーの最終定理ほど古い問題ではないが注目を集めていたんだ。
そしてこの両者のつながりが明らかになった事で更に志村・谷山・ヴェイユ予想に多くの関心が集まるようになった。
最終的にそれを証明したのはアンドリュー・ワイルズとリチャード・テイラーという2人の数学者で1995年の事だった。
こうして志村・谷山・ヴェイユ予想が証明された事でフェルマーの最終定理の証明が決着したんだ。
ここで「予想」とはどういう事を意味するのか説明しておこう。
予想とは「どうやら真実だと思われるがはっきりとは分からないまだ証明できていないもの」だ。
だからフェルマーの最終定理は「定理」ではなく本当は「予想」だった。
でもずっと「定理」と呼ばれてきたのはあの本に書き記した言葉に敬意を表しての事なんだ。
一方志村・谷山・ヴェイユの場合は予想と呼ばれていた。
彼らは「これは真実だと思うがまだ証明できていない」と分かっていたからだ。
数学の世界では非常によくある事だ。
ラングランズ・プログラムについても同様だ。
現在ラングランズ・プログラムはいくつもの予想で構成されている。
言いかえればラングランズが「真実に違いない」と考えた予想の集合体だ。
既に証明された予想もあるが多くはまだ証明されていない。
だからラングランズ・プログラムは現時点ではまだ「予想」で構成されている。
真実と考えられるけれどまだ証明されていない。
ではなぜ私が志村・谷山・ヴェイユ予想について話しているのかというとそれがまさしくラングランズ・プログラムの特殊なケースとなっているからだ。
実はラングランズ・プログラムは志村・谷山・ヴェイユ予想を広く一般化したものだと言える。
その予想はアンドリュー・ワイルズとリチャード・テイラーによって証明されフェルマーの最終定理との関連性が示されたがこの予想自体をもっと大きな定理の特殊なケースとして見る事もできる。
まだ証明されていない巨大な定理の特殊なケースとしてだ。
ではここである数学の概念を紹介しよう。
それはこう呼ばれている。
「時計算術」だ。
この目覚まし時計の電源を入れよう。
君たちを起こすためじゃないよ。
見せたいものがあるんだ。
ちなみに本当はこの講堂にあるようなアナログ時計を使いたかったんだが…。
でも最近はアナログの目覚まし時計を売ってないんだね。
ほんとに驚いたよ。
最近の目覚まし時計はデジタルばかりだ。
でもこれを見れば本当によく分かると思う。
午前10時に仕事を始め5時間働くとすると終わるのは何時だろうか?1時間で11時2時間で12時。
3時間で…。
おっと13時ではなく1時だ。
そしてもう1時間で2時更に1時間で3時。
いつも目にする事だね。
でもどうしてこうなるのだろうか?この2つの時間を単に足すのであれば…。
10時に始めて5時間働くから普通10足す5で15になるね。
実際国によっては15時と呼ぶところもある。
でも時計は大抵1時から12時までしかない。
ではどうしているかというと時計では10足す5は3になる。
3時に終わる。
アメリカでは午後3時というよね。
どうなっているのか?12を超える時は12を引いた数になるんだ。
つまり13は1になる。
12を引いて。
14は2になる。
12を引いて。
15は3になる。
12を引くんだ。
これを時計算術と言うんだ。
時計で使う算術という事だね。
数学では「モジュロ演算」という言い方もする。
「12を法とする」とは簡単に言うと12の倍数を引いて0から11または1から12までの値にするという事だ。
こんなふうに。
だから3になる。
15ではなくて。
15は12より大きいけれど12を引けば1から12の間の数字になるね。
3だ。
これが時計算術だ。
君たちも時計算術で簡単に計算できる。
1から12までの2つの数を足し算する事もできる。
掛け算する事だってできる。
計算した結果から12を引きさえすればいい。
つまり12で割り算して余りを考えればいい。
だから別の言い方をすれば普通の整数の計算で行うように答えは12で割り算した時の余りの数になるんだ。
ところで12である必要はない。
原理さえ分かれば12を別の数に換えても同じ事ができる。
別の正の整数だ。
好きな時間の時計を作る事もできる。
12時間でなくてもいいんだ。
違う時間の時計でも時計算術はできる。
数学で最も面白い時計は時間が素数の時計だ。
さあいよいよ非常に重要な概念が登場したぞ。
素数だ。
そう素数に触れずにどうやって数論を語る事ができるだろう?ようやく素数の出番がやって来た。
まず簡単に素数とは何か思い出してみよう。
ちなみに慣例として1は素数に含めない。
1は全ての数の基準単位のようなものとして考えるんだ。
だから最初の素数は2次が3そして57だ。
ここでいつも私は9と書いて君たちが寝ていないか試すんだがみんな起きてるようだからやめておこう。
次が11。
偶数の素数は2だけだ。
それ以外の偶数例えば4は2で割り切れるから2以外は素数になれない。
2のあとは全て奇数になる。
全ての奇数が素数になるかと思うかもしれないが9は3で割り切れるから素数ではない。
それから1317…。
これらが素数だ。
例えて言うと数の原子のようなものだ。
全ての整数は素数から作る事ができるから原子と同じと言えるだろう。
全ての整数は素数の掛け算として表す事ができるんだ。
例えば60は6掛ける106は2掛ける310は2掛ける5と表せる。
つまり2掛ける2掛ける3掛ける5になるわけだ。
もしくは2の2乗掛ける3掛ける5とも表せる。
同じように全ての整数は素数の掛け算に分解する事ができる。
これが素数だ。
時計の話に戻ろう。
我々がやろうとしている時計算術だがそれは12時間ではなく素数の時間の場合のものだ。
例えばこれは7時間のアナログ時計だ。
7時間だ。
11時間や13時間でもいい。
まずこれを覚えておいてほしい。
これが分かったら方程式について考える事ができる。
さてフェルマーの最終定理について話をしてきた。
それは方程式に関連していた。
だが考えなければならない事がある。
解を見つけると言ってもどの範囲の数で見つけるのかという事だ。
フェルマーの最終定理での条件は正の整数という範囲で解を見つける事だった。
そして正の整数では解は存在しなかった。
だが違う範囲であれば例えばこんな方程式の解が見つかるかもしれない。
この方程式では正の整数全体の中から解を探そうとしているのではない。
この方程式を満たす素数pを法とする解を探そうとしているんだ。
という事は式の左側の値は必ずしも右側と等しくなくてもいい。
pの整数倍だけ違っていてもかまわない。
つまり我々が解くべき問題はさまざまな3次方程式が素数pを法とする解を持つのか?もし持つならそのような解の個数はいくつか?という事だ。
それが志村・谷山・ヴェイユ予想に登場する問題だ。
解の個数を数えるんだ。
素数を法とするのだから全ての素数について調べ上げなければならない。
このpが2の時3の時57…など。
だから7時間の時計だけでは足りない。
あらゆる素数の時間の時計が必要になる。
このようなある方程式に対してpが2357などの場合にそれぞれいくつの解があるのかを知りたいんだ。
素数は無限に存在するので一つの方程式に対して無限回の計算をする必要がある。
素数一つ一つについて解がいくつあるのかを求めるんだ。
志村・谷山・ヴェイユ予想ではそういう問題を考えるんだ。
例えばpが5の時。
この式の解を求める。
y+y=xーxどうなるだろうか?まずxとyだ。
xはどんな値をとれるだろうか?5を法とするならば考えるべき数は0123と4だ。
5は0と同じ事だから必要ない。
6も1と同じ事だから必要ない。
5を法としているからね。
yも同じだ。
ではxとyにこの数を入れてみよう。
式の左側と右側の値が等しくなるかどうか確認するんだ。
ぴったり同じ値でなくてもいい。
5の倍数分違っていてもかまわない。
5を法とする解が欲しいだけだ。
分かるかな?さてxとyの組み合わせは25通りある。
暗算でも筆算でも電卓を使ってもいい。
pが大きな数になると大体コンピューターを使う。
全ての組み合わせを当てはめていって素数を法とした場合にどの組み合わせだったら左側と右側が等しくなるか見てみよう。
この場合4つの解がある事が分かっている。
まず1つ目。
すぐに分かるのはxが0yが0だ。
左側が0右側も0になるから。
5を法としなくても普通の計算でもそうなる。
次はxが0でyが4だ。
なぜ解になるのか?yに4を入れると4+4。
一方右側は0になる。
だがこっちは16足す4で20になる。
普通の計算では20イコール0とはならないが5を法とすると20イコール0になる。
なぜか?20は5で割り切れるからだ。
だから5を法とする計算のしかたでは5で割り切れる数字は0になる。
これは5を法とする時の解で普通の計算の解ではない。
普通の計算ルールでは20イコール0にならないからだ。
でも今は5を法としている。
他に2つ解がある。
書いてみよう。
あと2つの解はxが1でyが0とxが1でyが4だ。
確認してみてほしい。
という事で解は全部で4つある。
今やろうとしているのは一つ一つの素数ごとに解がいくつあるかを数える事だった。
素数5については今書いたが他の全ての素数についても同じ事をしていく。
それを表にまとめたのがこれだ。
1列目は素数だ。
2357など。
2列目は解の個数だ。
例えば素数5の場合の解の個数は4個だ。
それから3列目少し計算する。
意味はすぐ分かる。
1列目の数から2列目の数を引くんだ。
pからそのpの場合の解の個数を引く。
例えば2引く4で−23引く4で−15引く4で17引く9で−2。
最初のうちは筆算や電卓コンピューターで計算できるが素数の値が大きくなるにつれて計算はどんどん難解で複雑になっていく。
さてこれらの数字を眺めてみた時何か規則性があるように見えるだろうか?例えば3列目はただ不規則な数字の羅列に見える。
数字には何の規則性もない。
一見するとそう思える。
それは志村や谷山やヴェイユたちの研究成果を知らない時の見え方だ。
ところが奇跡が起こる。
それは今だ。
最も重要な決定的瞬間だ。
奇跡とは何だろうか?これらの数字は全くランダムに見える。
素数が無限にあるので3列目の数字も無限にある。
素数が大きくなるにつれこの数字も大きくなっていくが解の個数を知りたい。
実はそれを調和解析に登場する僅か1行の式で全て知る事ができるんだ。
もう一度言おう。
この全ての数字に関する情報を調和解析に登場するたった1行の式から知る事ができるんだ。
だから私はこれを奇跡と呼びたい。
まるで魔法のようだ。
私がこの事を知ってから随分たつ。
講義をしたり本に書いたりもしてきた。
でもこのような複雑な数論の問題をたった一つの調和解析の数式で解く事ができるという事実には今でも新鮮な驚きを感じずにはいられない。
この式はどのように作られているのだろうか?この式はいくつかの単純な数式を組み合わせたものだ。
何から説明するかというとまずqだ。
qはただの変数だ。
これまで出てきたものとは何も関係ない。
新しい変数でqと呼ぶ。
そしてこうやるんだ。
まずqを書いてそれに
(1ーq)。
常に2乗だ。
ただしqの累乗を1つずつ大きくした式の2乗だ。
qqqなど。
更に11の倍数の式を掛けていく。
さてこの式の括弧を外して展開するとどうなるか?最初のいくつかの係数を書いた。
bは明らかに1になる。
括弧を外すとqは1つしかないからだ。
他のqは2乗以上だからね。
いいかな?計算はとても簡単だ。
でも君たちはこう思うかもしれない。
「さっき無限に計算しないといけないと言ったのにこの式も無限に計算しなければいけないじゃないか」と。
だがこの2つには雲泥の差がある。
さっきはある方程式について無数に存在する素数を法とする解を求めようとした。
当然それは途方もなく複雑な計算だ。
一方でこの式は括弧を外して係数を計算するだけ。
とても簡単だ。
複雑な方程式を解くんじゃない。
括弧を外すだけだ。
そしてこれらの係数こそが実は我々の探し求めている数なんだ。
これらのbnはbに添え字でnと書くがこう書いた方が分かりやすいだろう。

(n)と。
つまりこれはb
(1)これはb
(2)b
(3)という具合だ。
するとこれら全ての係数ここにある最初のいくつかの係数つまりqの累乗の前にある係数。
それはなんと3列目の数字と同じになっている。
この係数は解の個数についての情報を含んでいるんだ。
解の個数をそのまま表してはいない。
pと解の個数の差だ。
これを知っていればその数字と素数から解の個数が分かる。
だからここで言える事は全ての素数を法とする方程式の解の個数は全てこの1つの数式この1行で表されている。
これが志村・谷山・ヴェイユ予想が我々に教えてくれる事の一例だ。
ラングランズはこれを「混沌の中に秩序を見いだす」と表現した。
確かに解の個数を求めるという問題は非常に複雑に思えた。
そこにこの問題のいわばソースコードのようなものを発見したんだ。
問題を一気に解決する1つの式1つの数式を見つけたんだ。
それがこの結果の驚くべき点だ。
この解の個数を求める問題のDNAを見つけたようなものだ。
さて私は一連の講義の冒頭で数学の異なる分野で対称性が大きな役割を果たすと言った。
その分野は数論調和解析幾何学だ。
これまでの講義で幾何学における対称性については話した。
ボトルや球の回転の話だ。
数論ではガロア理論について話した。
では今日は調和解析における対称性についても考えてみよう。
それが重要なんだ。
さっきの数式は関数として考える事もできるんだ。
関数として捉えると驚くべき性質を持っている事が分かる。
特別な対称変換をしても変化しないんだ。
さあここでも対称性が現れた。
解の個数を数え上げるという数論の問題に答えを与えてくれた数式つまり先ほどの調和解析の数式は実は「モジュラー形式」と呼ばれているものの一つだ。
まるで魔法のような事が起こるんだ。
ここで言える事は数論の解を数える問題を単位円上で特別な対称性を持つ関数によって解く事ができるという事。
つまり数論とはかけ離れた調和解析という別の数学の分野の関数を使って解く事ができるという事だ。
ではなぜモジュラー形式は調和解析の一部と言えるのだろうか?最初の講義で調和解析の話をした時三角関数で表される音の波について話をした。
重要だったのは実は三角関数がある変換のもとで変化しないという事だった。
それは直線上で2π360度の整数倍ずつ位置をずらしても変化しないという事だ。
我々は学校でコサインは2πずらしても変わらないと教わる。
4π6πでも同じだと。
サインでも同じようにずらしても変わらない。
関数がある変換のもとで変わらないと私が言っているのはこういう事だ。
オーケストラではさまざまな楽器の音波を私たちになじみ深い三角関数で表す事ができる。
三角関数のようにずらしても変化しないという対称性を持つ関数はなにも直線上だけで考えなければならないわけではない。
実は単位円上でも考えられるんだ。
それがモジュラー形式なんだ。
ここでまとめてみると数論の問題がある。
そこには私がここに書いたような方程式がありこの方程式に対して全ての素数を法とする解を求めようとする。
これが一方にある。
もう一方には調和解析の関数がある。
その関数は直線上ではなく単位円上で定義されている。
そしてその関数は特殊な性質を持っている。
それはこれらの三角形をあるやり方でずらしてももとの関数は変化しないという性質だ。
今日はそれについて詳しく説明する時間はない。
でも私の本やさまざまな情報源から詳しく知る事ができる。
ネットで志村・谷山・ヴェイユ予想で検索してもいろいろ分かる。
とにかくこれらの三角形をあるやり方でずらすような変換をしてももとの関数は変わらない。
そのような対称変換のもとでは変化しない。
不変なんだ。
以上が志村・谷山・ヴェイユ予想の概要であり私が数学の異なる分野を結び付けると言っている意味を非常に具体的に表している。
もう抽象的な話ではない。
ここに解を数えるという非常に具体的な数論の問題がある。
そしてそれに対し調和解析の具体的な関数がある。
この変数qを使ってこのように書く事ができる単位円上のモジュラー形式だ。
そしてこれらはお互いにつながっている事が分かった。
qの累乗の前にある係数から3次方程式の解の個数が分かるというつながりだ。
この志村・谷山・ヴェイユ予想が意味している事実は非常に普遍的なものだ。
あらゆる3次方程式でこの事が当てはまる事が分かっている。
他の3次方程式の解の個数を数える問題でも同じような方法で解けるんだ。
つまりこのような方程式の解を数える問題のソースコードをこれまで見てきたようにそのソースコードをモジュラー形式の関数で表現する事ができるんだ。
その関数には累乗が無限に含まれている。
なぜ私がこの事を世界の不思議と表現するかが分かるだろう。
それらがつながっているなんて全く思いもつかないものだからだ。
なぜつながっているのか?それは正直なところ今も理由は分かっていない。
アンドリュー・ワイルズとリチャード・テイラーが志村・谷山・ヴェイユ予想を証明し証明は全ての3次方程式にまで拡大された。
この世界には何か秘密があるのだろう。
隠された秘密があって我々はまだそれをかい間見ているにすぎない。
数学のある分野の問題が全く異なる分野の数学とつながっている。
そこから解が得られるなどどうして予想できるだろうか。
だがそれは真実である。
我々は証明も手にしている。
だがなぜか?なぜそうなるのか?それは世界の七不思議のようなものだ。
つまりピラミッドやバビロンの空中庭園のようなものだ。
志村・谷山・ヴェイユ予想は私には世界の七不思議の一つに思える。
違うのはどこにも出かけていく必要がないという事だ。
時間や場所を移動しなくても見つけられる。
ほとんどの人には見えないけれどここにある。
我々は知識を共有しているんだ。
ではこの志村・谷山・ヴェイユ予想に関わった人々について話そう。
数学にとって非常に重要な人物たちだからね。
まずは日本の数学者の谷山豊だ。
1927年生まれで1958年に亡くなった。
谷山がこの予想のアイデアを最初に発表したのは1955年戦後初めて日本で開かれた数学の国際会議での事だった。
東京と日光で開かれた数論についての国際シンポジウムだ。
その会議で谷山はこの予想を一つの疑問として提起した。
その疑問は後に彼の同僚である志村五郎とアンドレ・ヴェイユによって更に研究される事となった。
どうしたらこんな思い切った洞察で革命的な発見ができたのか私はずっと不思議に思っていた。
当時これはただの予想にすぎなかった。
だが彼には洞察力と深い理解があった。
証明は分からないが真実だと気付いていたんだ。
これについてもう少し話したい。
私がとても面白いと思うのは数学の洞察とは何かという事だ。
というのも今ではコンピューターが人間に追いついたという話をよく耳にする。
もはや人間にしかできないと言われた洞察やひらめき直感もコンピューターで計算できるようになってしまったと。
だが私は異議を唱えたい。
数学の研究こそ直感やひらめきが不可欠なものだと考えているからだ。
それはまさにこのような瞬間だ。
このような発見をする時普通の思考とは違う何か別の力が働くんだ。
谷山の話を続けよう。
実はこの話には悲しい続きがある。
谷山豊はこの予想を発表してから間もなく自ら命を絶った。
遺書にはこう書かれていた。
彼の死から程なくして婚約者も書き置きを残して自ら命を絶った。
「私たちは決して離れないと約束しました。
だから私も一緒に逝かなければなりません」と。
この話には悲劇的な側面があった事が分かる。
だがとても人間的な話でもある。
この事は数学者も人間であり他の人と同じようにあらゆる経験をしさまざまな感情を持っているという事を気付かせてくれる。
そして谷山の友人で同僚でもあった志村五郎。
彼も予想に名を連ねる事になるが感動的な言葉で谷山の事をたたえている。
これは数学の物語であり人生の話でもあった。
そろそろ終わりの時間のようだ。
次回は量子物理学について話そう。
物理学における対称性についてそしてそこにラングランズ・プログラムがどのように現れてくるか見ていこう。
ありがとう。
(拍手)2015/11/27(金) 23:00〜23:55
NHKEテレ1大阪
数学ミステリー白熱教室 第3回▽フェルマーの最終定理への道〜調和解析の対称性[二][字]

カリフォルニア大学バークレー校の数学者、エドワード・フレンケル教授が、数学界最大のミステリーの一つ「ラングランズ・プログラム」の不思議な世界にご招待する!

詳細情報
番組内容
350年以上にわたり誰も解けなかった世紀の難問「フェルマーの最終定理」は、もともと「数論」の分野の未解決問題だった。だがその問題を「調和解析」という分野とつなげ、「調和解析」の言語に翻訳した瞬間、その難問は解決されたのだった。実は「数論」と「調和解析」という二つの分野をつなぐことに最も力を尽くしたのは日本人数学者だった。フェルマーの最終定理解決の道のりを、数学者たちの数奇なる人生とともにたどる。
出演者
【出演】カリフォルニア大学バークレー校教授…エドワード・フレンケル

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
趣味/教育 – その他

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
英語
サンプリングレート : 48kHz

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