太平洋のはるか沖合1,000キロ。
カツオの巨大な群れに沸き立つ一本釣りの漁師たち。
ここ10年で4度の水揚げ日本一を記録する最強のカツオ漁船。
船員を率いるのはクールな男。
ハイテク機材を駆使しその頭脳でカツオの居場所をピンポイントで突き止める。
400年に上るカツオ一本釣りの歴史に革命を起こす若き天才。
家族をふるさとに残し船員と共に300日。
一瞬の判断ミスが命をも左右しかねない壮絶な闘いに今日も挑む!
(主題歌)その漁は型破り。
他の船が思いもしない漁場を開拓し一人勝ちを収める。
その陰にはすご腕の父と比較され苦悩した日々があった。
水揚げ連続日本一が危ぶまれる緊急事態。
一か八かの勝負に出た。
カツオに人生を懸ける男たちの1年にわたる闘いの記録。
カツオ漁師の町。
出航を目前に控えた今年1月。
カツオ漁師明神学武はミカン片手にテレビを見ていた。
間もなく300日に及ぶ航海に出る明神にとってつかの間の休息だ。
唯一の日課はお寺参り。
(鰐口の音)験担ぎとはいえこれほど信心深い漁師もまれだという。
出航の日を迎えた。
明神は船の最高責任者「漁労長」として船員23名の命を預かり漁を指揮する。
去年歴代最高の水揚げ高で日本一に輝いた明神は町の英雄だ。
だがカツオ漁は危険と隣り合わせ。
毎年命を落とす人が出るのも事実だ。
(汽笛)
(汽笛)まだ船員が寝静まる中漁労長としての仕事が始まる。
どの海域でいかにしてカツオを取るか。
2時間かけて最新データを集め戦略を練る。
カツオは幅100キロの黒潮に乗って太平洋を北上する回遊魚だ。
だが毎年のように泳ぐルートを変えるためどこに現れるかは分からない。
明神はカツオの行動を読むその分析力がずばぬけて高いと言われる。
(ベル)午前3時ベルを合図に臨戦態勢に入る。
明神は船の司令塔となる操縦席へと移動。
カツオの群れをピンポイントで探すため総額6,000万のハイテク機材を駆使する。
プランクトンにまで反応する高感度ソナーや25キロ先の海鳥をも捉える高精細レーダー。
海水温を0,1度刻みで映す衛星画像などからカツオの群れがどこに現れるか推理する。
船員は8キロ先まで見渡せる双眼鏡でカツオの群れが作る海面の泡立ちや渦を探す。
カツオ漁に臨む時明神が強く心に留める信念がある。
カツオ漁師はその日どこでカツオが取れたか互いに情報を教え合う習わし。
その中で明神は他と全く違う漁場を開拓し皆のどぎもを抜いてきた。
頼るは己のみ。
しきりに海水温を気にしだした。
海水温の境目はプランクトンが発生しやすく小魚が集まるためそれを食べにカツオもやって来る可能性が高い。
小魚を食べる海鳥の群れを見つけた。
直前までここにカツオがいたとにらんだ。
船を大きく蛇行させ始めた。
潮の境目を丁寧に走りカツオを探す。
潮流計に変化が現れた。
潮の速さが2ノット台から1ノット台に下がっている。
明神はこの僅かな変化からあるポイントを見いだそうとしていた。
それは複雑に潮がぶつかり合う中で僅かに流れが緩む地点。
「カツオはこうした地点に一時的にたまる」と明神は言う。
この発想は明神独特のものだ。
その時ソナーにカツオらしき反応が出た。
餌のイワシをまいて群れを引き寄せる。
特大のカツオの群れが現れた。
まるまると肥えた上物だ。
一斉に竿を入れる。
擬似餌に食いつかせ勢いよく引き上げる。
竿のしなりでカツオを針から外す一本釣りの技。
カツオが警戒し始めるまでが勝負。
船員総出で一気に釣り上げる。
(魚体が船に当たる音)ハハハハハハ。
明神の狙いはずばり的中。
他の船がいない海域で大量18トンを釣り上げる一人勝ちとなった。
夜になっても明神の一日は終わらない。
自室に籠もり一人その日の漁を事細かに振り返る。
「なぜカツオがあの海域に現れたのか」。
データを洗い出し納得するまで分析する。
明神さんの最大の道具といえば何といってもこの船だ。
300日に及ぶ長旅をいかに過ごしているのか船の中を見せてもらった。
まずは体に染みついた塩と汗を流すお風呂。
お湯を沸かす燃料を節約するため数人でまとめて入る。
順番は年齢順と決まっている。
船で唯一1人きりになれるのがそれぞれに割り当てられたベッド。
広さは畳1畳ほど。
皆思い思いに工夫している。
明神さんはといえばお守りがびっしり。
(取材者)お神酒?娯楽のない船内で最大の楽しみは専属のコックが作る3度の食事。
この日の夕食は取れたてのカツオ。
一番人気はやっぱりタタキだという。
明神さんのお薦めはカツオにんにくマヨネーズ。
高知を出て5か月。
船は宮城・気仙沼に入港した。
2か月に一度の休日船員たちは街に繰り出す。
(取材者)いってらっしゃい。
でも明神さんは一人船に残った。
こうして次の戦略を練っていれば十分楽しいという。
その読みで日本一の水揚げを記録する明神さん。
だが独特の理論が生み出された陰には苦しみ抜いたどん底の日々がある。
明神さんの家は一族そろってカツオ漁師。
父は水揚げ日本一6回。
豪快な人柄で知られた名漁労長だった。
けれど明神さんは人一倍おとなしい性格。
勉強が得意で高校は地元の進学校に進んだ。
それでも卒業の時父親の強い説得もあり結局漁師の道を選んだ。
間もなく下積み生活が始まったが明神さんには一つの宿命があった。
明神家では漁労長を親子で継ぐ習わし。
日本一の父の船をいつか継がねばならない。
その時は結婚して間もなく30歳で訪れた。
父から正式に「漁労長を譲る」と告げられた。
腕利きの漁師がそろった日本一の船。
やれる自信はあった。
しかし…。
「次はどこで漁をするか」。
補佐役の父と議論する度判断の甘さを指摘された。
「その程度の読みでみんなを食わせられるか」。
「努力も覚悟も足りない」としかられ続けた。
3年目に独り立ち。
だがこの年リーダーとして致命的な欠点を露呈した。
カツオ漁は他の船との争奪戦。
しかしおっとりした明神さんは他の船にカツオをさらわれ続けた。
最高の漁師をそろえながら水揚げは低迷。
ある日船員に言われた。
豪快に船員を引っ張った父とはまるで違う自分が情けなかった。
愚痴をこぼせるのは妻のめぐみさんしかいなかった。
だが漁の結果は前年から1億円以上ダウン。
船員の給料は100万円以上減らさざるをえなかった。
すると父の代からのベテラン船員たちが次々と他の船に移っていった。
日本一だった船から漁師が抜けたといううわさは妻のめぐみさんの耳にも入った。
家では何も言わない夫に繰り返しある言葉をかけた。
翌年の漁。
明神さんは自分だけのやり方を突き詰めようと決めた。
睡眠時間を削り潮の流れや海水温など誰にも負けないだけの情報を集め徹底的に分析した。
そして苦手とする争奪戦を避け誰も目を向けない海域を開拓し続けた。
読みが外れる度一人負け。
一日50万円の燃料代が消えた。
のしかかる重圧の中でなぜダメだったのかを考えまた別の場所を探した。
そんなある日。
カツオの大群を発見した。
見事にその群れを独占。
すさまじい大漁を記録した。
その時古株の船員がつぶやいた言葉が今も忘れられない。
この年水揚げは全国2位。
安堵と共に強烈なうれしさがこみ上げてきた。
周囲に流されず自分の信じた道を行く。
その信念はこの時揺るぎないものになった。
今年カツオ漁は春先から異変が続いていた。
カツオの群れはなぜか小さなものばかり。
しかも食いが悪い。
近年まれに見る不漁だと報じられていた。
明神たちの水揚げも去年の同じ時期より4,500万円少ない。
だが今待ちに待ったチャンスが訪れていた。
ここからお盆までの3週間カツオ漁の最盛期が続く。
不漁の今年は値段が跳ね上がる可能性もあり一番の稼ぎ時になる。
目標は一挙に4,000万円を手にし水揚げトップに立つ事。
不漁の中明神の真価が問われようとしていた。
だがいきなりアクシデントに見舞われた。
猛暑の影響で餌のイワシが大量に死んだ。
残りの餌で短期決戦に挑む。
漁場を変えたが既に他の船がいた。
一度に150トンも揚げる巻き網漁船が漁を終えたあとでは大漁は期待できない。
最初の1週間を終え目標の4,000万円には遠く及ばない。
2週目。
ソナーに巨大なカツオの群れを捉えた。
だが餌に食いつかない。
異例の持久戦に切り替えた。
この群れをこのまま追跡しカツオが腹をへらすのを待つ。
昼食も弁当で済ませレーダーから片ときも目を離さない。
群れを追い始めてから14時間。
ようやく群れが食いつき始めた。
2時間かけて16トン。
大漁となった。
問題はどれだけの値が付くか。
カツオに脂が乗り過ぎているという。
キロ500円を期待していたが半値まで買いたたかれた。
目標金額を大きく割り込んだまま残り1週間となった。
漁の全ての責任を背負う漁労長という仕事。
そこには避け難く付きまとう厳然たるルールがある。
船員たちは他にもっと稼げる船があるなら移るのも自由。
来年も同じ仲間でいられるかそれは今年の稼ぎ次第。
シビアな世界だ。
23人の船員とその家族の生活を懸けて。
明神は最後の大勝負に臨もうとしていた。
だがまたもや不運が襲った。
大型の台風11号が接近。
それを避けるため多くの船が青森・八戸沖に集まり始めた。
言うたやろ。
船の多くは今日カツオが釣れた地点にあすも群れが現れると読んでいる。
だが明神は潮と水温のデータをにらみ続ける。
導き出したのは意外な漁場。
今日釣れた位置から250キロも南東の海域だ。
今日カツオがいるのは2つの潮の境目。
だがあすはこの潮目自体が南東へ動きそれに合わせてカツオも南下すると読んだ。
読みが当たれば一人勝ち。
だが外せば一人負けにもなりかねない。
明神は一つの事を言い聞かせていた。
勝負の一日が始まった。
狙った海域に到着した。
本当にカツオの群れは現れるのか。
折あしく雨脚が強くなってきた。
レーダーやソナーの反応は鈍い。
6時間後。
明神の読みどおりカツオの大群が現れた。
ここが勝負。
明神も竿を握る。
50分で9トンを釣り上げた。
明神は更に他の群れも南下してくると読んだ。
またもや読みが的中。
誰もいない海域で更に15トンを釣り上げた。
その時他の船から巨大な群れを発見したという情報が入った。
目の前の群れを捨てて現場に急行する。
隣の船との距離100メートル。
目標達成のためあえて争奪戦に挑む。
漁を終えたのは夕方6時半。
合計31トン。
年に一度あるかないかの大漁となった。
だが漏れてきたのは意外な言葉。
大自然を相手の知恵比べ。
明神は次の航海へと思いを巡らせていた。
(主題歌)2日後。
最後の航海で目標金額をほぼ達成。
明神たちの船はこの時点で水揚げ日本一に立った。
1週間のお盆休み。
第83佐賀明神丸は一時解散となった。
バイバイ。
カツオとの闘いは11月末まで。
命懸けの日々が続く。
2015/11/28(土) 02:06〜02:54
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「カツオ漁師・明神学武」[解][字][再]
日本一といわれるカツオ一本釣り漁師・明神学武、再び。笑顔の裏に秘められた、カツオの行動を読む驚異の分析力。記録的不漁のさなか、逆転をかけた勝負の漁に密着!
詳細情報
番組内容
この10年で4度の日本一に輝くカツオ一本釣り漁船・第83佐賀明神丸のリーダー、明神学武。圧倒的な分析力でカツオの群れをピンポイントで探し当てる「読み」で、型破りな漁法を編み出してきた。海水温の異常や台風に見舞われ、記録的な不漁に。だが漁の成否には23人の男たちの生活がかかる。予測不能な荒海で、逆転をかけて臨む勝負の漁!やさしい笑顔の裏の覚悟、若き天才カツオ漁師の闘いの記録、アンコール!
出演者
【出演】カツオ漁師…明神学武,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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