地球ドラマチック「人間はどこまで賢くなれるか?」 2015.11.28


頭脳競技開始。
頭を良くする方法が?科学界の大いなる神秘それは…。
人間の「脳」です。
科学ジャーナリストのデビッド・ポーグが脳の秘密に迫ります。
まずは有名な天才の脳。
アインシュタインの脳はかなり特殊です。
すさまじい記憶力の人も。
418592597。
すごすぎるよ!生きたカレンダーのような人物。
2366年のクリスマスは何曜日?日曜。
ちょっとありえないよ!脳の何が違うのでしょうか?形を見ただけで違いが分かるんですか?アインシュタインの脳は明らかに違います。
天才は生まれつきなのか?「スター・ウォーズ」に出てきそうな装置だな。
耳の上で輪切りにした画像です。
「賢い」とはどういう事なのか?もう知能の定義は変えるべきです。
知能を発達させるにはどうすれば?人間はどこまで賢くなれるのかを突き止めます。
なぜある人は他の人よりも頭脳がすぐれているのか?自分の頭脳をもっとすぐれたものにする事はできるのか?デビッド・ポーグがその答えを探りに出かけます。
まずは史上最高の天才の一人物理学者のアインシュタインについて調べます。
アインシュタインは相対性理論によって時間と空間に関する概念を根本から覆しました。
そこから重力の働きについても解明。
質量とエネルギーの関係を「E=mc」という公式で表しました。
アインシュタインはアメリカのプリンストンで晩年を過ごしました。
撮って下さい。
まずは記念碑とともに写真撮影。
この町に残されているものは記念碑だけではありません。
あそこです。
アインシュタインの脳が本当にあそこに保存されているんですね?見られるんですか?何年も前から保存されていますが全く見せてもらえません。
どうも怪しい臭いがします。
神経学者のフレッド・レポアはアインシュタインの脳に深い関心を持っています。
脳を調べればアインシュタインの知能が高かった理由が分かるかもしれないからです。
アインシュタインの脳がなぜあそこに?1955年にアインシュタインが亡くなった時病理学者のトーマス・ハーヴィーがお決まりの病理解剖を行うはずでした。
ところがトーマス・ハーヴィーは解剖における規定を無視しました。
遺族の了承なしにアインシュタインの脳を取り出したのです。
担当医が遺族でもないのに勝手に脳を取り出して自分のものにしたんですか?そうです。
そして研究を?はい。
ハーヴィーは脳の写真を何百枚も撮ったのち後戻りできない作業に取りかかりました。
彼は脳を240のブロックに切り分けたんです。
良かったらお見せしますよ。
あの病院で?写真を持っています。
ガラス瓶が2つ。
この中に脳のブロックがおよそ180入っていると思います。
脳の断片ですね?そうです。
淡い褐色や灰色をした脳の断片がガーゼに包まれて入っています。
脳を調べればアインシュタインが天才だった事が分かるんですか?脳の神経回路がどんなものだったかが分かります。
通常とはかけ離れたものだった可能性もあります。
トーマス・ハーヴィーはこの研究に生涯をささげます。
プリンストン大学病院での職を失った時もアインシュタインの脳を持って立ち去りました。
手荷物検査をされたらどう言い逃れるつもりだったんでしょうね。
ハーヴィーはアインシュタインの脳とともに各地を転々としましたが時折信頼できる研究者に脳の一部を送っています。
1990年代にカナダの神経科学者サンドラ・ウィテルソンも脳の断片と数枚の写真を受け取りました。
ウィテルソンの研究室には世界最大級の脳のコレクションがあります。
私が脳の標本をたくさん持っているのでそれらと比較研究してほしいと思い送ってくれたようです。
ハーヴィーはウィテルソンにアインシュタインの脳の断片を送りましたがそれ以上に役立ったのは写真でした。
「頭頂葉」と呼ばれる部分に明らかな特徴が見られたのです。
ここには脳の標本が125保管されていますがアインシュタインと同じような頭頂葉は一つもありません。
アインシュタインの脳は保管されているどの脳と比べても頭頂葉が15%ほど大きかったのです。
では頭頂葉が大きい事にどのような意味があるのでしょうか?デビッド・ザグザグとジョン・ゴルフィノスの協力を得て脳の構造を調べます。
これは脳の模型ですか?それとも…。
本物ですよ。
最初に目につくのはこの尾根のような部分です。
「脳回」と呼ばれる部分には数十億もの神経細胞が詰まっています。
谷間の部分は「脳溝」と呼ばれます。
脳が大きくなり頭蓋骨の中に収まるためにシワができていったんです。
原始人はシワが少ないんですね?そうです。
基本的にシワが多いほど神経細胞が多く知能が高いのです。
脳のシワは「葉」と呼ばれる領域に分かれています。
アインシュタインの脳で際立った発達が見られた頭頂葉は特に重要な働きをします。
頭頂葉は私たちの周りの空間を理解する能力に関わっています。
なるほど。
宇宙の物理的な法則を解き明かしたアインシュタインの業績と大いに関係がありそうですね。
アインシュタインは頭頂葉が発達していた事で相対性理論を発見できたのかもしれません。
しかし彼の天才的な知能を支えていたものは発達した頭頂葉だけだったのでしょうか?それを確かめるためポーグは人類学者ディーン・フォークのもとに向かいました。
フォークは霊長類の脳の研究者で脳の表面の形が持つ意味を専門的に調べています。
脳の表面の形を見ただけでいろいろな事が分かるんですか?はい。
特にアインシュタインの場合はある程度までならはっきりと分かります。
アインシュタインの脳の写真を見てフォークは前頭葉に大きな特徴がある事を発見しました。
前頭葉の役割は?行動計画理解整合性の維持など多くの事に関わっています。
人間らしさをもたらす領域と言っていいでしょう。
アインシュタインの前頭葉にどんな特徴が見られたのでしょうか?写真を見ているうちに気がついたんです。
この色を濃くしてある部分です。
脳の右半分右脳の前頭葉に目立つ特徴がありました。
この領域が何をつかさどっているか知りたいですか?もちろんです。
この部分は…。
ちょっと手を貸して下さい。
あなたが指を動かす時にこの領域を使っています。
つまりここは左手を動かす運動に関わる領域なんです。
右脳の前頭葉の一部が左手を操っている訳ですね?そうです。
アインシュタインはこの部分が非常に発達してちょうどコブのような形になっていました。
立体的に見てみましょう。
この模型を見ても問題の部分にコブのようなものはありませんよね?ではこのコブにどんな意味があるのか?私は以前読んだ研究論文を思い出しました。
その研究によると子供の頃に弦楽器を習った人の脳に同じような特徴が見られました。
発見した時は驚きましたがアインシュタインは子供の頃バイオリンを習っていたのでつじつまは合います。
物理学の難問にぶつかった時アインシュタインはバイオリンを演奏して心を落ち着けていました。
すると答えが見つかったそうです。
…とアインシュタインは語っています。
バイオリンを趣味にしていた事もアインシュタインのすぐれた才能を形づくる要因の一つになったようです。
アインシュタインは人生の経験によって脳をうまく活用するすべを身につけました。
生まれと育ちどちらも大切な要素です。
ポーグは自分の脳についても調べてもらう事にしました。
彼の脳にも何か際立った特徴が見つかるのでしょうか?アインシュタインの脳に似たところは?まさかないですよね?そうとも言えませんよ。
興味深い特徴が見られます。
バイオリン奏者の右脳の一部が発達するようにピアノ奏者は左脳の同じ部分が発達するという研究結果があります。
ピアノを弾きますよね?はい。
かなり長いことやっているんですか?ええ子供の頃から。
9歳で始めました。
ピアノはポーグの人生にとって大きな比重を占めています。
あなたの脳の形は研究の結果と一致しています。
ポーグの左脳の一部はコブのように膨らんでいました。
他のピアニストにも見られる特徴です。
ピアノが僕の脳の形を変えたと?ありうる仮説ですね。
アインシュタインの脳は死後トーマス・ハーヴィーによって持ち去られましたがハーヴィーは亡くなる前に脳をプリンストン大学病院に返還しました。
部外者には公開されていませんがフレッド・レポアは脳の写真を手に入れる事ができました。
ハーヴィーの遺族が写真を博物館に寄贈したためです。
こうして多くの人が写真を見られるようになりました。
科学界の貴重な財産です。
すごいな!ディーンはアインシュタインの前頭葉に他にも大きな特徴があるのを見つけました。
際立った特徴をお見せしましょう。
これはアインシュタインの脳を正面から写したものです。
丸見えだ。
この脳の隆起した部分「脳回」と呼びますが右脳にはそれがまず1つあり…。
2つ3つ4つ。
分かります?1234。
特大の脳回が4つ。
そう。
でも通常脳回は3つしかないんです。
ほとんどの人には3つしかない脳回がアインシュタインには4つ?そうです。
それは何を意味するんですか?表面積が広くなる分賢いとか。
正確な事は分かりません。
ただここは高度な精神活動をつかさどっている領域です。
例えば?何かを記憶してその記憶を使えるように整理したり将来の計画を立てたりする機能があります。
すぐれた思考能力を持つアインシュタインらしい特徴です。
4つの脳回がアインシュタインの並外れた能力の基盤になった可能性は高いと思います。
特徴はこれだけではありません。
他にも何か目立つ点が?脳全体が特殊です。
誰の脳にも違いはありますがアインシュタインの脳は並外れた特徴だらけです。
本物の天才でしたからね。
ええ。
残された写真から多くの貴重な情報が得られました。
トーマス・ハーヴィーが生きていたら喜んだ事でしょう。
アインシュタインの際立った知性はどうして生みだされたのか?その謎をアインシュタインの脳を研究する事で明らかにするのが彼の望みでした。
それが今可能になったんですから。
賢くなるには記憶力も重要です。
記憶力について知るためポーグは「全米記憶力選手権」に参加する事にしました。
制限時間は5分。
用意スタート。
1回戦ではずらりと並んだ500個の数字を順番どおりに覚えます。
1回戦を制したのは前年のチャンピオンネルソン・デリス。
5分で303個の数字を覚えました。
ちょっと待って。
これ記憶力の悪い人には手も足も出ないよ。
2回戦ではトランプを1組丸ごと順番どおりに覚えます。
ポーグは最初から諦めている様子。
この回もネルソンの圧勝。
全ての順番を僅か87秒で言い終えました。
(拍手)ありえない。
驚きだ。
チェスター・サントスは2008年のチャンピオン。
ポーグは彼から記憶術を学ぶ事にしました。
1242597。
全部合ってますよ。
どうなってるんですか?次はポーグの番です。
よしリストを見せて下さい。
リストには無作為に選ばれた40個の単語が並んでいます。
サル。
アイロン。
ロープ。
たこ。
家。
紙…。
これを順番どおりに覚えます。
自転車。
ゾウ。
コンピューター。
剣。
ネックレス。
ピザ。
これは数時間かかるな。
10分以内に完璧に覚えられるようになりますよ。
聞きました?できなかったら彼のせいです。
記憶術の訓練ステップ1。
自宅のリビングで日常目にしているものを把握していきます。
グランドピアノ。
イス。
ギター。
という具合です。
掃除しておいて良かった。
リビングにあるものと40個の単語を覚えるのにどんな関係があるのでしょうか?地球儀に柱。
続いてステップ2。
まずピアノの上でサルが踊りまくっているところを想像して下さい。
踊っている姿だけでなくサルがあげる鳴き声や飛び跳ねる音などもイメージします。
これが最初の単語です。
はっきりとイメージして下さい。
はい。
このサルが巨大なアイロンを持ちます。
何とも奇妙な記憶術ですが科学的に説明できます。
人間には視覚や聴覚などさまざまな感覚があります。
1つの情報を異なる感覚を通して記憶した方が覚えやすいんです。
イメージが鮮明なほど効果的だという事です。
椅子にはロープが載っていて端っこにはたこがつながっています。
たこがフワフワと浮かんでいるのを思い浮かべて。
ギターが家をぶち壊します。
家は紙でできています。
どんどん進みます。
ティッシュは何とゾウが乗った自転車にひかれました。
(ゾウの鳴き声)見えた?はい。
おかしくなりそう。
でもこうすれば忘れないでしょう?ですね。
ついに本番です。
自信ないな。
大丈夫できますよ。
まずはサルでしょう。
ピアノの上にはサルとアイロン。
それからイスの上にはロープとたこ。
ギターが家を壊して紙。
リビングにあるものを手がかりに答えていきます。
川。
岩。
木。
チーズ。
ティッシュで何かあったぞ。
何かをぶち壊すような暴力的な何か。
何だっけ…。
ティッシュは何かにひかれました。
そうか自転車に乗ったゾウだ。
危機を脱したポーグ。
結果は?ネックレスにピザ!すばらしいお見事。
よくやりました。
来年の記憶力チャンピオンは僕だな。
脳のどの部分が記憶を可能にしているのでしょうか?実物の脳を使って見てみましょう。
左右それぞれの脳に「海馬」と呼ばれる部分があります。
海馬は頭の真ん中辺り両耳から内側に数センチのところにあります。
短期記憶をとどめておく部分です。
パソコンのメモリーのようなもの?そうですね。
記憶力選手権の出場者は全てを視覚的なイメージに変換していましたが。
彼らは情報を付け足す事で脳の他の部分も使います。
言語や視覚的な情報を処理する他の領域も合わせて働かせる事で記憶をより確かなものにしているんです。
しかし本当に賢くなるには記憶力以上の事が求められます。
下の5つのうちどれが入りますか?問題を解く能力です。
4番。
人類は1世紀以上にわたり知能検査によって問題を解く能力を測定してきましたが他に良い方法はないのでしょうか?ポーグは知能を測定する新しい方法を探してニューメキシコ州にある研究室へやってきました。
リチャード・ハイヤーとレックス・ユングは問題を解く時に脳のどの部分が使われているかを解明しようとしています。
「スター・ウォーズ」に出てきそうな装置だな。
「MEG」と呼ばれる装置です。
知能検査で出題されるような問題がスクリーンに映し出されます。
ポーグが問題を解いている間脳の中で起きている事が検知されます。
脳を形づくる膨大な数の神経細胞は情報を伝達するたびに電気信号を発します。
MEGはその電気信号が生み出す磁場を捉えるのです。
その結果このような動画によって1,000分の1秒ごとに脳のどの領域が使われているかを示す事ができます。
0.4秒の辺りで海馬が活性化しています。
海馬は単語を覚えた時に使った領域です。
ポーグが頭頂葉を使った事も示されました。
アインシュタインの脳で特徴的だった部分です。
更に計画と意思決定を担う前頭葉も活用していました。
前頭葉も頭頂葉も抽象的な思考能力に関係している領域です。
しかし私たちは領域間の情報伝達こそが重要だと考えています。
情報はどのように伝達されているのでしょうか?脳を見ると白っぽい部分があるでしょう。
情報伝達を行う神経線維の束で「白質」と呼ばれています。
濃い部分は?「灰白質」です。
脳の表面近くにある色の濃い部分灰白質には多くの神経細胞が詰まっています。
一方その下の白質は縦横に張り巡らされた長い神経線維でできていて異なる領域同士をつなぎます。
灰白質の量だけでなく白質の伝達ネットワークも重要な役割を果たしていると考えられています。
ネットワークの解明は大いなる挑戦です。
ものを考えている時に使っている領域だけでなく複数の領域がどのように情報を伝達しあっているのかを解明したいと思っています。
伝達のしかたは人によって異なりその違いが知能に関わっているのではないかと考えています。
賢い人の脳がどのように働くのかはまだ解明され始めたばかりです。
しかしハイヤーは脳を発達させる方法があると言います。
その方法は思いがけないものでした。
これで脳が発達する事が実証されたんですか?僕はもっと高価な器具を使うのかと思ったら…。
お手玉ですか?お手玉を長い間続けると脳の一部の灰白質が増える事が研究によって実証されました。
お手玉をする時に使う領域です。
その後灰白質だけでなく白質も増える事が分かりました。
是非試したいですね。
もっと賢くなりたいですから。
試して下さい。
やった事ないけど。
2個は楽勝。
2個でも効果ある?ポーグの脳が発達する瞬間をご覧下さ〜い。
20分もしたらエイリアンみたいに頭が巨大化するかも。
脳の働きを良くする一番の方法は使う事です。
お手玉など新しい事を覚えて脳を使って下さい。
新しい事を覚えれば知能を高める事ができるのです。
脳は誰でもそれぞれに違うものですがジョージ・ワイドナーほど特別な脳の持ち主はめったにいません。
あの24は?ダメだな。
気に入った数字を見つけるとワイドナーはあるゲームを始めます。
(ワイドナー)515。
527。
5527年の5月1日として…。
彼は数字をカレンダーの日付として捉えます。
それずいぶん未来の日付じゃない。
はいだいぶ先ですね。
何のために日付にするかと言うと…。
この日はね…日曜だ。
本当に?インターネットのカレンダーで調べると正解でした。
ワイドナーに特定の日付を告げるとそれが何曜日かすぐに教えてくれます。
1871年3月9日。
ああそれは木曜だな。
どうして分かるんだろう?じゃ2366年のクリスマスは?2366年の12月25日だね。
日曜だ。
ありえない!合ってるよ!ワイドナーは計算はしていません。
カレンダーの形式で並んだ数字が見えるため日付を探して曜日を確認しているだけなのです。
現在ワイドナーは数字やカレンダーの日付を散りばめた絵画を制作し芸術家として成功しています。
しかし少年時代の彼は学校生活にうまく適応できず苦しんでいました。
学習障害のレッテルを貼られていたんです。
ワイドナーは自分の殻に閉じこもりカレンダーの日付に慰めを見いだすようになりました。
彼が「サヴァン症候群」であると診断されたのはそれから数年後の事でした。
私の場合カレンダーに特別な才能を発揮しました。
精神科医のダロルド・トレッファートはワイドナーのようなサヴァン症候群の症例を300件記録にまとめました。
そのうちのおよそ30件は生まれつきではなくある日突然発症したものでした。
ケガや病気をきっかけにして突然特殊な能力を開花させた人たちがいるんです。
トレッファートはこうした人々を「後天性サヴァン症候群」と呼びました。
その一人がピアノの才能を開花させたデレク・アマートです。
飛び込みをしてプールの底で頭を打ち1週間意識不明になったんですね?アマートは意識が戻ったあとも頭痛と記憶障害に悩まされましたが同時に予想外の事が…。
突然ピアノを弾きたいという衝動に駆られあるメロディーを何時間も弾き続けたのです。
(ピアノの音)こんな感じ。
以前にピアノは?全く。
じゃどんなふうに音楽を捉えているんだろう?僕が曲を覚える時はまず楽譜を見る。
そこに描かれた音符がそれぞれ1つの鍵盤に対応しているからそれを…。
こんなふうに練習する。
(ピアノの音)楽譜に従って弾く訳だ。
僕はとても覚えられないな。
楽譜は読まないの?ええ。
頭の中に白と黒のブロックが次々と浮かんでくるんです。
そのブロックに従って指を動かすとメロディーが弾けると言うのです。
頭を打って君の脳に一種の奇跡が起きた訳だ。
はい。
ケガで突然サヴァン症候群のような能力を獲得する人や生まれつき特別な能力を持つ人がいるのはなぜなのでしょうか?その謎を解明する手ががりがジョージ・ワイドナーの脳に隠されているかもしれません。
ジョイ・ハーシュは数年にわたってワイドナーの脳を研究しています。
これが彼の脳の構造を示した映像です。
素人目には普通に見えます。
私のような研究者の目にもごく普通の脳に見えます。
この日は一歩踏み込んだ実験を行います。
脳の血流が増加した領域つまり使っている領域を明らかにする検査です。
これが曜日を探っている時の脳。
脳が活動している部分は黄色で示されています。
興味深いのは曜日を探っている時ほとんどの活動が左脳に偏っている事です。
通常はもっと左右対称になります。
ほとんどの人の脳は左右ともに活動します。
なぜワイドナーの脳は活動が偏っているのでしょうか?右脳の活動パターンにかなりの空白があります。
ほとんど活動停止に近い状態にあると言っていいでしょう。
極めて特殊な状態だと言えます。
特定の領域だけを使い他は使っていないんですから。
曜日を探っている時には脳の機能を限定していると言ってもいいでしょう。
サヴァン症候群の人が脳の片側だけを使っているとすれば反対側の脳を遮断し片側の脳に備わった処理能力を全て一つの作業に使っているんだと思います。
通常脳は数百数千の作業を同時に行っていますがそれをたった一つの作業に集中させるんです。
では生まれつきではない後天性サヴァン症候群の人たちはどうなのでしょうか?アン・アダムズもその一人で科学者から画家に転身しました。
彼女は脳の病気で徐々に話す能力を失っていきました。
しかしそれと同時に絵を描きたいという強い衝動に駆られ何百枚もの絵画を制作しました。
数年間にわたって撮られた脳のスキャン画像が貴重な手がかりになります。
話す能力に関わる領域では神経細胞が死滅していきます。
青で示された部分です。
しかしオレンジで示された領域では全く違う事が起きていました。
右脳の後ろの部分芸術制作に関わっていると思われる部分の機能が再構築され始めています。
言語の処理に関わる機能が失われた代わりに視覚の処理に関わる部分が発達したんです。
脳が損失を補っているのだと考えられます。
1つの処理経路が失われると別の処理経路が活性化する。
状況に対応できるよう新たな技能を発達させるんです。
最新の技術を利用した脳のスキャン画像は先天的なものであれ後天的なものであれサヴァン症候群の謎を解く大きな手がかりとなっています。
(ピアノの音)すばらしい演奏だよ。
これから試験を受ける生徒たち。
皆強いプレッシャーを感じています。
世界で最悪の気分。
学校生活に試験はつきものとは言え…。
パニック状態になっちゃった。
どんな優秀な生徒であれ実力が発揮できない場合があります。
胃がけいれんして悲しくなってきたよ。
気が動転しちゃうの。
教室の中だけではありません。
誰もが直面します。
テレビのオーディション番組。
(歌声)
(止まる歌声)つづりのコンテスト。
insi…。
強すぎるプレッシャーのもとで全力を出し切ろうとするあまり失敗するんです。
大統領候補の討論会でも同様です。
3つ目は…あっ何だったけな?スポーツの世界でも同じです。
比較的簡単なゴールのはずが…。
外してしまう。
スポーツ選手であれ入学試験を受ける生徒であれ精神的なプレッシャーは巨大な敵です。
どんなにすぐれた知識や技術を持っていてもその実力を本番で発揮できなければ意味がありません。
シアン・バイロックの研究目標はプレッシャーに負けない方法を見つける事です。
緊張状態にあっても脳に最高の働きをさせる科学的な方法を探しています。
研究のきっかけは彼女の少女時代にありました。
サッカーが私の全てでした。
シアン・バイロック。
ゴールキーパーです。
バイロックはオリンピック選手育成プログラムの花形ゴールキーパーでした。
ある日代表チームの監督が彼女のプレーを見にきます。
監督が来ている以上ミスはできないと思いました。
敵の選手が右から攻めてきてポストすれすれのシュートを放ちました。
取れるはずのボールでした。
でもボールは腕をすり抜けてゴールに入り全てが崩れ始めました。
最も肝心な時にチャンスを逃し私は代表チームの選抜から外されました。
その後バイロックはサッカーをやめました。
なぜ自分はあんなミスを犯したのか?大学に入ると彼女はその謎を突き止める研究を始めました。
認知科学を専攻したのはあの時私の脳内で何が起きていたのかを理解するのに役立つと思ったからです。
よく人から「自分探しをしてるんだね」と言われますがある意味そうかもしれません。
バイロックは強いプレッシャーを受けた人の脳がどのように反応するのかを確認する実験を考案しました。
2人1組でテストを受けさせます。
出題されるのは数学の変わった問題ばかり。
2回目はよりストレスを高めるようにします。
自分の点数しだいでパートナーの報酬も上げられると伝え責任感を募らせます。
点数が悪いと君もパートナーも報酬はもらえない。
更に大きなストレスを与えるためビデオカメラを学生のすぐ近くに設置します。
撮るよ。
2回目のテスト開始です。
(バイロック)明白な違いが現れます。
強いストレスを与える事で多くの学生がプレッシャーに負けて失敗をするんです。
(ラミレス)1回目のテストより11〜12%点数が下がります。
その時脳内で何が起きているのでしょうか?脳内の活動をMRIで見られる状態にして問題を解いてもらいます。
この状態でストレスをかけてみます。
問題を解くところをビデオ撮影します。
バイロックは情報を一時的に保ち処理する「作業記憶」がストレスによって邪魔されるのではないかと考えています。
「前頭前野」と呼ばれる部分が作業記憶に関わっています。
(バイロック)前頭前野はゴルフボールをカップインするなど人間だけができる特別な行為を可能にしている領域です。
作業記憶に関わる前頭前野と感情をつかさどる扁桃体との間の情報伝達に問題が起きると成績が低下するのだとバイロックは推測しました。
扁桃体が活発になると明せきな思考が妨げられるのです。
(バイロック)ストレスがかかると不安な感情が伝達されてその対応に前頭前野の処理能力が使われてしまうんです。
予備実験のデータでは強い感情が作業記憶を邪魔する事が示されています。
ではプレッシャーを感じてもそれにうまく対応できる人たちの脳内はどうなっているのでしょうか?
(バイロック)前頭前野と感情の中枢が一時的に連絡を断っているような状態です。
2つの領域の間で情報のやり取りが停止していたのです。
2つの領域の情報交換を減らして不安な感情が思考能力に悪影響を与えないようにしています。
これは訓練で身につけられるものです。
バイロックは自らの仮説を裏付けるため高校の生物の試験会場に向かいました。
そして試験開始の直前2つの選択肢のうちどちらかを選ぶよう生徒たちに指示しました。
「心の奥底にある感情や考えを書き出すかさもなくば何もせずに座っていて下さい」。
日記に感情を書き出す事がうつ病の症状改善に役立つ事は分かっています。
学生にも同じような効果があるのでしょうか?感情を書き出す事で良い結果を出せるのではないかと考えました。
心の奥底にある不安を書き出しいよいよ試験開始。
その結果は?何もせず座っていた生徒の平均点はBマイナス。
感情を書き出した生徒の平均点はBプラスでした。
10分間ただ心の中にある思いを書き出させただけで試験の点数を引き上げる事ができました。
生徒は何を書いたのでしょうか?「何百万匹ものチョウが飛んでいる。
深呼吸だ」。
この生徒は最初に不安を書き中盤でしだいにリラックスしてきたと書いています。
なぜ感情を書き出す事が試験の成績を上げる事に結びついたのでしょうか?パソコンでアプリケーションをたくさん開きすぎると動作が不安定になり全体が動かなくなってしまいます。
不安を書き出す事は余計なアプリケーションを終了して全体の負荷を減らすようなものです。
この方法が実力を発揮する手助けになるかもしれません。
スポーツの試合学校の試験就職の面接あるいはもっと日常的な場面でもプレッシャーを受けると多くの人の脳内で同じような作用が起こり本来の実力を出し切れない事があります。
でも失敗は避けられない現象ではないし失敗から何かを学ぶ事もできます。
もし代表チームの監督の前で失敗しなかったらオリンピックに出られたかもしれません。
でもあの失敗からさまざまな教訓を得た事に感謝しているしそれを新たな人生の糧にしていきたいと思っています。
私の研究で誰もが実力を最大限に発揮できるようになればと願っています。
彼女自身このインタビューを受ける前に感情を書き出しました。
「疲れてヘトヘト。
話す内容が支離滅裂にならないといいけど。
明日以降の心配は忘れて楽しもう。
今日の事だけに集中するの」。
その効果は?このインタビューが上出来だったら効果ありね。
これが今日の実験装置。
2015/11/28(土) 19:00〜19:45
NHKEテレ1大阪
地球ドラマチック「人間はどこまで賢くなれるか?」[二][字]

頭が良くなる方法がついに見つかった!?天才アインシュタインの脳から分かる意外な事実。記憶力を格段に伸ばす方法からプレッシャー克服法まで、人間の脳の可能性に迫る。

詳細情報
番組内容
天才の脳は凡人と違うのか?現存するアインシュタインの脳を解析すると、空間をつかさどる部分が大きく、通常は3つしかない部分が4つある。全米記憶力選手権の優勝者からは、記憶力を飛躍的に高める方法が披露され、リポーターは40の単語を10分で覚えることに成功。さらに、プレッシャーを軽減するための秘けつも公開!さまざまな角度から脳の不思議を解き明かし、実生活に活用する手立てを探る。(2012年アメリカ)
出演者
【語り】渡辺徹

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
英語
サンプリングレート : 48kHz

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