人類と共に5,000年歩んできた生物。
しかし今のカイコはただ糸を吐くだけじゃないんです。
すごい光ってる!え〜。
現代のウイルス工学や遺伝子組換え技術を使えばこれまで作れなかった医薬品もまだ見ぬ新素材もな〜んだって作り出せちゃうんです。
その秘密はカイコの高い…産業化への鍵を握るのは日本古来の養蚕業です。
既に農家での飼育に向けた取り組みも始まっています。
さあ新たな蚕業革命の幕開けです!今日のテーマは「カイコ」。
はい。
そして今日たくさん来てくれてますね実際に。
私思ったよりかわいくてびっくりしてます。
初めて見ました目の前で。
ちょっと1匹脱走しようとしてますけど。
本当だ。
ハハハ。
駄目だよ。
フフフフ。
5,000年も?はい。
日本でも長〜い養蚕業の歴史があります。
へえ〜。
そんなカイコの歴史に新たな1ページを刻む時がやって来たんです!え〜!どういう事ですか?現代の技術の進歩とともにですねカイコは進化してなんと薬を作るようになってきたんですよ。
薬?カイコってもう糸を作るってイメージしかないですけど。
それだけじゃなくて薬を作るんですね。
それを昆虫工場といいます。
昆虫工場ですか?これはですねカイコ自身の体を薬を作る工場として利用しようという取り組みなんですね。
え〜。
愛媛県にある繊維工場です。
厳重に管理された工場内部。
ここでは犬や猫の薬が作られています。
薬の製造に用いられているのはなんとカイコ。
糸を取るのではなく体の中に薬となる物質を作らせているんです。
それがインターフェロンと呼ばれる物質。
ペットの風邪やアトピーなどの治療薬として主に動物病院で使われています。
用いるのはカイコに感染する特殊な人工ウイルスです。
感染したカイコの体内には僅か1週間でインターフェロンが作り出されます。
カイコに感染したこのウイルスはまず全身へと広がります。
成長と同時にカイコの細胞を乗っ取り体中にインターフェロンを作り出させます。
まさにカイコ自身を薬の製造工場へと変えてしまうのです。
カイコ1頭当たりから取り出せるインターフェロンは製品にしておよそ数十本。
現在では国内シェアナンバーワンを誇るビジネスにまで成長しました。
ヨーロッパをはじめとする世界32か国にも輸出されています。
いや〜すごいですね。
カイコって本当に糸のイメージしかなかったんですけどああやって体内で薬を作り出すって本当にまさに昆虫工場ですよね。
そうですよね。
このインターフェロンなんですが国内半数以上の動物病院でもう使われてるんですよ。
あっそうなんですか。
多分うちの猫も風邪ひいた時にこのインターフェロンにごやっかいになってんじゃないかなと思うんですよ。
身近ですよね。
そうですね。
おっ!いい質問ですね〜。
それでは専門家に聞いちゃいましょう。
カイコ研究の第一人者瀬筒秀樹さんです。
薬を作るのにどうしてカイコを使うんですか?その理由はカイコが持つ高いタンパク質生産能力。
そのためです。
カイコはすごい成長能力を持ってます。
そんなにすごいんですか?はい。
じゃあそのですねすごさをお見せしましょう!これは鶏の卵。
普通にこれから鶏がかえると…。
こんな感じですよね。
そうですねこんな感じです。
じゃあ仮にですねこの卵がカイコの卵だとしましょう。
そうしたらどうなるでしょうか?えっ?ほら。
大きい〜!1万倍?はい。
そんなに成長するんですか?これがカイコの成長能力です。
すごい。
そうなんですね。
このスタジオの繭もそのすごい成長能力によって作られるんですね。
これもタンパク質です。
でもどうしてそんなにすごい能力をカイコは持ってるんですか?その答えはですねカイコが人類と共に5,000年歩んできた歴史に隠されてるんですよ。
えっ?実はカイコは自然界には存在しない生物だったんですよ。
えっ?存在しなかった?はい。
実はカイコは5,000年前は小さい繭を作る小さな虫でした。
しかし大きな繭を作る虫を交配していってどんどん大きくしていきました。
ほう〜。
5,000年たったらこんなに大きな繭を作れるようになりました。
へえ〜。
そうなんですね。
じゃあもうまさにタンパク質合成のプロフェッショナルみたいな感じなんですね。
先ほどのインターフェロンはその高いタンパク質生産能力を生かして産業化につなげようという試みです。
そっか。
そしたらカイコをわざわざ使う理由がよく分かりました。
ところがですね奈央ちゃん。
さっきのウイルスを使う方法だと薬の成分を体内から取り出すのが大変だしあと大がかりな設備も必要なんですよ。
じゃあ誰でも簡単にできるって訳じゃないんですね。
そこで最近こうした昆虫工場の可能性を更に広げる技術が日本で開発されたんです。
それがこちらです。
おっ…えっ?これカイコが作った繭ですよね。
結構普通の繭にしか見えないですけど。
これは一見普通の繭ですけれども実は昆虫工場やカイコそのものの歴史を変えるような重要な繭なんです。
へえ〜。
実はこれは遺伝子組換えカイコから作られた繭なんですよ〜。
遺伝子組換えカイコ?茨城県つくば市にある農業生物資源研究所です。
ここで飼育されているのは遺伝子組換えカイコです。
年間40万頭200種類以上の開発が進められています。
中でも昆虫工場の歴史を大きく変えたのがこちら!うわ〜光ってる。
きれいですね。
光るクラゲなどの遺伝子を組み込んだ光るカイコです。
すご〜い。
すごい柔らかい光できれいですね。
この光る遺伝子組換えカイコはどうやって作られるのか?その技術を見せてもらいました。
今カイコの卵をガラスの板に並べる作業をしています。
組み換えに使われるのは直径1ミリほどのカイコの卵。
この卵にクラゲなどの光る遺伝子を注入するのです。
卵の殻は硬いためまず金属の針で穴を開けそこからガラス管で遺伝子を注入します。
遺伝子がうまく生殖細胞に入ればそれらのカイコから光る性質を持った子孫が誕生します。
このカイコから作り出されるのが…体だけでなくカイコが吐く糸の中にも光る物質を作らせる事ができたのです。
現在ではほかの色の遺伝子を組み込む事にも成功。
繭の色や性質を自在に操作する事が可能となったのです。
すごい。
何か最後のカラフルだし神秘的だし美しいですね何か。
でも先ほど昆虫工場の歴史を変えるとおっしゃってましたが光らせて何ができるようになったんですか?それは非常にいい質問です。
目安?はい。
そういう技術を我々は作れたという目安になります。
なるほど。
じゃあ光ってる部分に薬を組み込む事ができるって事ですか?そうなんです。
つまりは先ほどの光る繭というのは単にきれいな繭が出来たという事だけじゃなくて…へえ〜すごいですね。
すごいですけどその繭の中に薬が作れるようになったという事は何かいい事があるんですか?ええ。
これは糸の表面に作らせたタンパク質を光る物質を取り出しているところです。
すごい何かあの緑の物質が溶け出してますよね。
じゃあ薬もこうやって取り出す事ができるって事ですか?そのとおりです。
これがカイコで薬を作らせる最大の利点ともなっています。
すごい簡単ですね。
はい。
そうなんですか。
はい。
実際にこの繭を操作する技術を使ってさまざまな取り組みが始まってるんですよ。
街角のとあるお店。
売られているのは…。
新たな化粧品ビジネスに乗り出したのはこちらの会社。
従来の手法では作れなかった人間のコラーゲンをカイコに作らせているのです。
飼育されているのは人のコラーゲンの遺伝子を組み込んだカイコ。
最大の特徴はカイコが作る繭からコラーゲンを取り出せる事です。
繭の中に作られたコラーゲンは液体につけて溶かし出すだけで抽出が可能。
大がかりなウイルス設備も必要なくより安全でそして手軽に取り出す事ができます。
更に繭に物質を作る事にはもう一つのメリットがあります。
それが作り出した物質の長期保存です。
現在では抗体や医薬品などを繭の中に作り出す開発も進めています。
更に繭の遺伝子組換えによって新たな可能性も開かれようとしています。
糸そのものの性質を操作する事でこれまでにない新素材の開発が可能となったのです。
昨年誕生したこちらのカイコ。
これまでよりはるかに切れにくいシルクを作り出します。
組み込まれているのはオニグモの遺伝子。
その糸は地上最強の繊維とも呼ばれ鋼鉄の約20倍の切れにくさを誇ります。
そのクモ糸の成分を遺伝子組換え技術によってカイコが吐く糸の中に作り出させたのです。
左はクモ糸の成分を0.6%含んだシルク。
右が通常のシルクです。
通常のシルクがすぐに切れてしまうのに対しクモ糸シルクの切れにくさは約5割もアップしました。
シルクの肌触りにクモ糸の強じん性。
この新素材は切れにくい手術用の糸や防災ロープとしての利用が期待されています。
ほかの生物が持つ有用な機能をシルクの中に取り入れる。
こうした技術を応用すればまだ見ぬ新素材の大量生産も夢ではありません。
いや〜あの強じんな新素材とか最初のコラーゲンのたっぷりの化粧品も気になりますけど遺伝子組換えの技術ができたからこそできた技術なんですよね?そうなんですよ。
ちょっとこちらをご覧下さい。
実はこれぜ〜んぶ遺伝子組換えカイコから作ったものなんです。
全部ですか?すごいいろいろありますけど。
人工血管って何ですか?この人工血管は体になじみやすい物質を入れる事によって自分の血管に置き換わっていくと。
そういうふうな再生医療の材料として使うように作ったものです。
本当にいろいろできそうですね。
はい。
今では顧客の要望に合わせてオーダーメードでどんなタンパク質でも作るというビジネスも実は始まっています。
すごいですね。
でもどうしてこんなにも何でも組み換える事ができるんでしょうかね?まあ気になりますよね。
その理由がこちら!おお〜。
何か文字の列がすごい出てきましたけど。
これはカイコの設計図ですね。
設計図?ゲノムといって全遺伝情報の事なんです。
「ZERO」でも時々出てきますけど遺伝情報ってこういう記号の配列で書き表す事ができるんですよね。
生物の中でもここまできっちりと設計図が読まれているものは少ないです。
へえ〜。
じゃあこの設計図のおかげで遺伝子組換えが可能になったって事ですか?はい。
今では設計図が分かっているのでどの部分を遺伝子組換えすればいいかその設計が簡単になってきてこのパソコン1台あれば設計ができてしまうと。
そういう時代になっています。
すごいですね。
最近ではこの情報を基に繭自体を大きくしたりもっとすごいカイコを作る。
そういう事が可能になりつつあります。
だけど遺伝子組換えカイコを作るのってなかなか大変そうですよね。
そうですね。
最初の遺伝子組換えカイコを作るのは比較的難しいですけども…これが非常に重要な点です。
へえ〜。
まさにそれが我々が今やろうとしている事です。
ただ1つ課題があります。
それは遺伝子組換えカイコの場合…これを守らなければならず…実はそれに向けた取り組みがもう始まっています。
日本最大の養蚕都市群馬県です。
今年7月。
厳重に隔離された屋外施設である取り組みが始まりました。
国や県の機関が協力し遺伝子組換えカイコの飼育試験を行っているのです。
飼育されているのは光る遺伝子組換えカイコ。
養蚕農家での飼育環境を再現しおよそ10万頭を飼育しています。
遺伝子組換えカイコが周囲の野生生物に影響を与える事はないか。
施設の周囲には野生の蛾を捕獲するためのトラップが仕掛けられています。
捕獲しているのはクワコと呼ばれる蛾です。
カイコの遠い祖先であり唯一カイコとの交配が可能な生物だからです。
捕獲したクワコに組換えカイコの光る遺伝子が入っていないか確認します。
これまでに調べたクワコは90頭以上。
いまだ交配した形跡は見つかっていません。
既に養蚕農家への普及に向けた動きも始まっています。
この日開かれたのは遺伝子組換えカイコの説明会。
組換えカイコならこれまでの飼育方法や自宅の設備もそのまま生かせます。
県内で40年以上にわたり養蚕業を営んできた…その将来性に引かれ飼育試験に参加する事を決めました。
この遺伝子組換えカイコこそが養蚕業の衰退を救う鍵になればと期待を寄せています。
へえ〜。
養蚕農家さんでの飼育まで本当にあと一歩っていう感じですよね。
でも気になるのが本当に屋外で飼育しても周りの野生生物に影響がないのかって事なんですけど。
はい。
これまでの飼育試験では全く問題は見られていません。
そもそも…どういう事ですか?これはカイコの成虫です。
頑張って飛ぼうとしてもこれぐらいです。
あっ飛べないんですね。
はい。
人間が5,000年間で飼いならしてる間にこのように飛ぶ能力を失ってます。
そうなんですか。
へえ〜。
こちらはおなじみのカイコの幼虫です。
隣に桑の葉っぱがあって10センチぐらいあるんですけどもこのように…。
あれっ全然食べに行かない…。
もう人が目の前に餌をやらないと食べに行けない。
え〜!10分たってもこのままです。
このまま餓死するぐらいの生き物です。
そうなんですか!つまり飛べないので外に逃げ出す心配がない。
仮に逃げ出して卵を産んだとしても幼虫が自分で餌を探せないのでこれまた心配がないって事なんですね。
なるほど。
仮に今行われているこの屋外での飼育実験が成功すると数年以内の実用化が期待されてるんです。
既にある養蚕農家の施設やほかの施設を利用すればすぐにでも医薬品の生産新しいシルクの生産をする事が可能になります。
じゃあもうそういう昆虫工場の可能性もかなり広がりますよね。
でもね奈央ちゃん。
そんなにうかうかもしてらんないんです。
えっ?こちらを見て下さい。
これはここ最近の養蚕農家の戸数のグラフなんですが15年前までは6,000戸以上あったんですね。
それが今では400戸以下になってしまってそのほとんどは高齢農家なんですよ。
えっこれはかなり激減ですよね。
我々の取り組みは衰退してる養蚕業を救うために非常に重要な取り組みとなっています。
でも現在400戸以下になってきてここからまた復活ってあるんですかね?我々は意外とできるんじゃないかと思ってます。
実際にこの遺伝子組換えカイコの可能性に着目してこれから新しくカイコを飼いたいという人も結構出てきています。
へえ〜。
そういう流れもあって…多分新しい産業がど〜んと来る前触れっていう感じがしますね。
確かにそうですね。
はい。
何か人類と5,000年一緒に歩んできた歴史あるのにまたここで新しい形で人間と歩んでいく事になると思うとちょっと楽しみですね。
そうですね。
瀬筒さん今日はどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに。
2015/11/28(土) 12:30〜13:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「“蚕”業革命! カイコがつむぐ新物質」[字][再]
五千年の歴史をもつ「カイコ」が今、薬などをつくる“生物工場”として注目を集めている。カギを握るのは、遺伝子組み換え技術。新たな“蚕業革命”の幕開けに迫る!
詳細情報
番組内容
五千年の歴史をもつ生物「カイコ」。そのカイコが今、最先端のウイルス工学や遺伝子組換え技術によって、薬などをつくる“生物工場”として注目を集めている。これまで作ることの難しかった医薬品から、特殊な新素材シルクまで。カイコの高いタンパク質生産能力を利用して、それらの大量生産も見えてきた。産業化への鍵を握るのは、日本古来の養蚕業。既存の施設や飼育技術を活用した、新たな“蚕業革命”の幕開けに迫る。
出演者
【ゲスト】農業生物資源研究所…瀬筒秀樹,【司会】竹内薫,南沢奈央,【語り】筒井亮太郎
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
情報/ワイドショー – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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