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2015-11-29

[]デヴィッド・スタックラー&サンジェイ・バス『経済政策で人は死ぬか?』 デヴィッド・スタックラー&サンジェイ・バス『経済政策で人は死ぬか?』を含むブックマーク

 著者二人は経済学の専門家ではなく公衆衛生学の専門家である。経済政策の失敗が公衆衛生を悪化させることで実際に人を病や死に追いやることを実証的に分析した名著とよべるものである。従来でも経済政策の失敗が不況をもたらし失業者や過重労働などを生み出すことは知られていた。他方で失業などが多くの人を自殺自殺未遂、自殺を考えざるをえない環境に追い立てていることも実証分析がすすんでいた。しかし前者と後者を因果関係から結び、不況そのものよりも不況の中での経済政策の失敗が人を殺すものであることを考え、実際に検証した業績はあまりなかった。

 不況そのものについては著者たちは、国民の健康を害する面と反対に健康促進の面があることを指摘している(後者は所得減少でアルコール摂取が制限されることなど)。しかし不況で職を失う事(所得減少よりも大きい)が、その人の生きがいを奪うことで自死に追いやることを統計的に示している。

 処方箋は不況のときの緊縮ではない。不況のときこそ自殺対策、公衆衛生への支出など政府部門の積極的な拡大が必要であり、それは多くの国民の生命を実際に救済するだろう。

 国債の累増を盾にとるかのように不況を出しない段階で、「将来世代のため」と自己満足的な言い訳で財政再建を志向する経済学者や官僚。政治家、マスコミが多い。特に経済学者のどーでもいい論理に逃げる欺瞞性は眼もあてられない。そのような人たちはいまも自分達の「クリアな論理」が人殺しに加担するものだということを反省すべきだろう。

 本書が経済学のプロではないものによって書かれたことは、いまの経済学者の知的・倫理的腐敗を表してもいる。

関連論文

Suicidality, Economic Shocks, and

Egalitarian Gender Norms

Aaron Reeves* and David Stuckler

http://m.esr.oxfordjournals.org/content/early/2015/09/15/esr.jcv084.full.pdf

The rise of neoliberalism: how bad economics imperils health and what to do about it

Ronald Labonté,

David Stuckler

http://m.jech.bmj.com/content/early/2015/09/30/jech-2015-206295

The International Monetary Fund and the Ebola outbreak

, David Stuckler et al

http://www.thelancet.com/journals/langlo/article/PIIS2214-109X%2814%2970377-8/abstract

Greece's health crisis: from austerity to denialism

David Stuckler et al

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2813%2962291-6/abstract

[]1970年代の高インフレを巡る論争メモ 1970年代の高インフレを巡る論争メモを含むブックマーク

 昨日のケインズ学会で午後のセッションで自分で言ったコメントについてざっとまとめ。簡単にいうと「70年代の高インフレ論争における小宮隆太郎氏の高評価は過大であり、他方で新保生二の業績が過小評価されてるのではないか」というもの。若田部さんが指摘したとおり、この70年代の教訓はまだ十分に研究されてないと思う。

 若田部さんの「1970年代の経験を正しく学ぶ」ときに大切な観点は、1)期待の重要性、2)マネーの重要性、3)政策の制度的枠組みの重要性、という指摘は、この時代の日本の政策論争を理解する上でも重要。

 日本の高いインフレ論争の主要メンバーは、私見では以下の四人が代表的。

 新保生二、小宮隆太郎、塩野谷祐一、高須賀義博。その他に当時の政策当局(経済白書など)の考えも重要だけどだいたいコストプッシュ説に基づく。実は中谷巌氏の『マクロ経済学入門』の初版にあるモデルやら下村治氏やエコノミスト、篠原三代平氏ら他にも考えないといけない人が多いけど、とりあえず会場ではなぜかこの四人の名前がすっとでてきたのでそのまま「主要メンバー」化。笑。

 上の若田部さんの三点からこれら四氏の主張の力点をまとめると

新保…1)〜3)すべての視点あり。3)は日銀問題

小宮…1)はなく、2)と3)。3)は日銀問題

塩野谷…3)を重視。交渉力モデル

高須賀…3)生産力格差モデルだが、実際には金本位制的な貨幣価値のアンカーが変動相場制になって不在になった不安定性を問題視していると思うので3)を重視。

という感じ。期待の重視が小宮氏にない。マネーコントロールの失敗としての日銀の在り方の問題。現状の期待をコントロールするリフレ派や現状の日銀とは異なる。むしろ新保の方は現代リフレ派につながるのではないか、というのが僕の問題意識。

報告者からのリジョインダーとして得た情報は、鈴木淑夫氏と小宮氏の共同作業の存在、齋藤誠一郎氏のインタビューに答えた小宮氏には期待要素の理解はあるがツールとして利用していたかは不明。

ここらへん70年代論争を新保、小宮に焦点をあててまとめるつもり。