久保智祥
2015年11月29日15時42分
平安京跡で、古今和歌集の有名な「難波津(なにわづ)」の歌の全文を記したとみられる平安時代前期(9世紀後半)の木簡が見つかった。京都市埋蔵文化財研究所が26日発表した。音を漢字で表記した万葉仮名(まんようがな)が、ひらがなに移り変わる途中段階の仮名が使われており、ひらがなの成立や普及を考える上で貴重だ。
難波津の歌の木簡などは、古くは飛鳥時代(7世紀後半~8世紀)のものが徳島・観音寺(かんのんじ)遺跡や滋賀・宮町(みやまち)遺跡(紫香楽宮〈しがらきのみや〉跡)など37例出土しているが、ほとんどは文字が万葉仮名で歌の一部のみ。仮名で全文を記したとみられる資料は初めてという。
見つかったのは、平安京の中央を南北に貫く朱雀大路沿いの邸宅とみられる遺跡(京都市中京区)の井戸跡。主人は不明だが、平安時代後期は白河院の近臣の藤原為隆(ふじわらのためたか、1070~1130)らの邸宅だった。
木簡はヒノキで長さ34・5センチ、幅3・5センチ、厚さ4ミリ。2行にわたって墨書され、右側にはひらがなに近い仮名で、「□□は□にさくやこのはなふゆこもりいまはゝるへと□く□□のはな」と解釈できる文字を計31字以上確認(□は不明)。紀貫之(きのつらゆき)が古今和歌集(905年)の仮名序で、初心者の手習いの手本として引用した「難波津に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花」の全文が記されていた。「ふ」「や」「も」などはひらがなに極めて近かった。
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