早く逃げなきゃ・・・
外に・・・
月明かりが差し込む暗い屋敷中
姉がまだ幼い弟の手を引き
息を切らせながら走る
”お姉ちやん痛い”
”ハアハア”
”がんばって”
出口の見えない長い廊下
幼い弟には
果てしなく続いている闇
恐怖を感じているのは姉も同じ
どうしてこんなことに
興味と好奇心で忍び込んだ
誰も住んでいないはずのお屋敷なのに
コッコッ
逃げる姉と弟を追うように
聞こえてくる足音
”逃がさないよ”
いくら走っても追ってくる
影との距離が広がらない
”出口は?”
呟いた言葉
”さぁどこかしら?”
言葉に振り返る
いつの間にか追っ手はすぐ後ろ
”いや〜〜〜”
足が縺れ
よろめきながら床に倒れこむ
もう膝に力が入らない
弟は立てない程に消耗している
”あらあら、大丈夫?”
ゆっくり迫る黒い影から
弟を庇うように背中に
マントを揺らしながら近づいてくる
長い黒い髪
月明かりに反射したマントの紅い裏地が
透き通るような白い肌を
より美しく際立たせている
キレイ・・・
正面から対峙した姉
一瞬心を奪われてしまう
”クス”
”可愛い”
顎を撫でられ
”やめて”
触れているてを払い退け
”あらあら”
”嫌われたわね”
うっすら開いた
口元から白い牙が見え隠れする
”私達をどうするつもり”
問いかけ
”吸血鬼がする事って”
”決まっているでしょ”
軽い笑みと
ペロっと舌で牙を舐める仕草に
顔が青ざめていく
もうこの吸血鬼から逃げられない
”弟は・・・弟は助けて”
自分の勝手で巻き込んでしまった責任
せめて弟だけでも・・・
”ふふふ、観念したの?”
”わかった弟さんの血は吸わない”
”約束するわ”
その言葉
本当か解らない
もうどうしようもない絶望的な状況
信じるしかない
”痛いのは最初だけ”
”すぐに気持ちよくなるから”
体が小刻みに震えている
柔らかい手が顎から首筋に
紅い瞳が近づいてくる
チュ
首筋に触れる唇
ビクッ
そして
痛みが体中に
”んっ”
やがて痛みは消え
”あっう”
”気持ちいい”
目の前で姉が吸血鬼に
血を吸われている
自分は怖くて体が震えて
無いも出来ない
”お姉ちゃん”
血を吸われる快感に支配され
”もっともっと”
”吸ってください”
力が抜け吸血鬼にその身をゆだねる姿に
さっきまでの気丈さか感じられない
”美味しい”
床に倒れこむ姉
”お姉ちゃん”
近づいて体を揺すっても
意識はなく返事は無い
”安心しなさい”
”あなたの血は吸わない”
”お姉さんとの約束だから”
吸血鬼の声が聞こえた
・・・・・・・・・・
ここは?
目が覚めた時見たことの無い天井
知らない部屋
いつの間にか服も着替えさせられ
大きいベットの上に寝ていた
”ボクはどうしたんだろう”
窓からは一日の終わり
夕日が差し込んできている
”お姉ちゃん”
夜の出来事
覚えているのは姉が倒れている姿
そして吸血鬼の声
そこからの記憶が無い
部屋のドアは開かない
小さな体では窓を開ける事も出来ない
ドアを叩いても返事はこない
やがて日が沈み明かりの無い部屋は
暗くなっていく
闇は怖い
”お姉ちゃん・・・”
”助けて”
コンコンコン
ドアをノックする音
”起きてる?”
そして聞き覚えのある声
一気に今までの不安な気持ちが払われていく
”お姉ちゃん”
”ちょっ待ってね”
”すぐに開けてあげるから”
カチ
鍵が外れる音と共にゆっくりと開いて
ドアの隙間から見えた物
”おね・・・”
言葉が出ない
吸血鬼が羽織っていたマント
扉の向こうに居るはずの姉が
羽織っている
扉が開く
真っ黒なドレスに黒いマント姿
瞳は紅く染まって
”あっああ”
姉は吸血鬼になっていた
”どうしたの?”
”そんなに怖い顔して”
手を差し伸べながら
近づいてくる
”大丈夫”
”怖がらないで”
いつもどうりの笑顔の
口元から牙が見える
”あっ”
後のベッドに
引っ掛かり倒れこんでしまう
パサ
腕を押さえ付けられ
もがく事も出来ない
”くす”
”お姉ちゃん初めてだから”
”上手く出来ないかもしれないけど”
”ちょっとだから我慢してね”
息が荒く
初めての吸血に興奮しているのが解る
生えたばかりの牙を舌で舐め
首筋に顔を近づけてくる
”ぐ・・・”
首筋に噛み付き血を吸っている
”初めての血の味はどうかしら?”
”クスクス”
おしまい