「河内山宗俊」(こうちやまそうしゅん)は1936年公開の山中貞雄監督による時代劇映画。
”幻の天才監督” 山中貞雄の現存する三本の作品の一つで、先日亡くなった女優原節子のデビュー当時の映像が見られる貴重な映画である。
「無頼の輩が『この美しい瞳のためなら死んでもいい』と思うような清純で可憐な娘」、天才監督・山中貞雄が探しあてたのは、これが本格的なヒロインデビュー作となる原節子、十五才だった! 清楚な輝きと共に、日本映画のまさに「伝説」的傑作が甦る!生活感にあふれた人情味と滑稽なユーモア、緻密に構成されたプロット。前半のユーモアから、終盤は怒涛の大立ち回りアクション!綿毛のような雪、そして少女・原節子の美しさ!時代劇の面白さが光り輝く、粋で楽しい山中貞雄の極上ムービー。(日活100周年邦画クラシックスより)
あらすじ
浪人金子市之丞は、湯島天神のあたりを仕切っている組の用心棒として雇われていた。
立ち並ぶ見世から所場代を徴収するのが日課である。
中でも甘酒を売る茶屋の娘お浪はお気に入りで、時には徴収を免除することもあった。
お浪の弟の広太郎は近頃悪い遊びを覚え、お客である侍の小柄を盗んだり、河内山宗俊とその女房が営む居酒屋兼賭場に出入りしていた。
ある日、宗俊に気に入られた広太郎は遊郭へ連れて行ってもらった先で偶然、幼なじみの三千歳(おみつ)に再会する。
駆け落ちを図る二人だが、その三千歳は市之丞の雇い主の親分、森田屋清蔵が身請けのために大金を払っていた娘だった。
身請け金の返済か自身の身売りを迫られたお浪の救出のため、市之丞と宗俊が立ち上がる。
予告編の動画がないので、二人の出会いの場面を。
金子市之丞の軽妙さ
本作で一番魅力的なキャラはヒロインのお浪役の原節子ではなく、浪人金子市之丞である。
飄々としてセリフも軽い。コメディ部分の担当はこの人。
冒頭の見世の所場代徴収時のセリフの反復。
元同僚の松江藩家老、北村大膳へのセリフ「ただなんとなく生きていますから、ご安心ください」。
欲もなく、意地もなさそうなこの男も、やはり武士だ。
いざとなったらこの上もなく頼りになる。
そしておいしいところを持っていく。
「人のために喜んで死ねるようなら、人間一人前じゃないかな」
「人間、潮時に取り残されると、恥が多いというからな」
熱い、男の生き様を見せてくれる。
拝領の小柄
作中で重要になってくるアイテムが小柄(こづか)。
序盤で北村大膳と金子市之丞が話している隙に、広太郎が盗みだした品だ。
時代劇をあまり見ない人だとイメージしにくいかもしれないが、刀の鍔(つば)から鞘の部分に仕込む小刀のことだ。
暴れん坊将軍なんかは、よく手裏剣代わりに投げてた気がする。
実際には装飾物としての役割が強い。
"Kozuka" by Samuraiantiqueworld - Licensed under CC 表示-継承 3.0 via ウィキメディア・コモンズ.
この小柄、将軍家より拝領の貴重なもので、失くすのはまずい。
どのくらいまずいかというと、公になれば北村大膳どころか藩主の首が飛ぶ。
その話を聞いた市之丞は「大変ですね。で、いつ腹を切りますか。」と当然のように軽口を叩くわけだが。
無頼の輩
本作の主人公、河内山宗俊*1は堅気の人間ではない。
もともとは江戸城に務める表坊主*2であったが、役を退いてからは賭場も営むやくざ者の親分格。
賭場の客のセリフに「あれが河内山宗俊だ」というのがあるが、界隈では名のしれた人物。
江戸っ子の気風のいい宗俊と、飄々とした市之丞はいいコンビだった。
共に世間のはぐれ者で、やくざ者にはやくざ者なりのやり方がある。
この二人の一世一代の大勝負も見ものだ。
山中作品について
山中貞雄監督は戦前に活躍した若い監督で、同世代には黒澤明監督がいる。
僕は小津監督が一番好きなのだが、その小津監督が生涯で唯一ライバルと認めていたのがこの山中監督と言われている。
遺作の「人情紙風船」の封切りの日に招集を受け、戦地で帰らぬ人となった。
享年28歳、監督生活わずか5年。
全26作品の内、戦火をくぐり抜けて現存するのは3作品。
そのどれもが傑作だ。
「丹下左膳余話 百萬両の壺」は喜劇。
「人情紙風船」は悲劇。
この「河内山宗俊」は中間くらい。
パブリックドメインなのでネットでも探せるが、音声が聞き取りにくい点はある。
日活のサイトでDVDを買うか、
動画配信はGYAO!がある。
TSUTAYAも大きい店舗ならあるかもしれない。
どの方法でもいいので観てみてほしい。
監督:山中貞雄
原作:二代目松林伯圓「天保六花撰」
黙阿弥「天衣紛上野初花*3(くもにまごう うえののはつはな)」
出演:河原崎長十郎(河内山宗俊)
中村翫右衛門(金子市之丞)
原節子(お浪)
市川扇升(広太郎・直次郎)
清川荘司(北村大膳)
坂東調右衛門(森田屋清蔵)
加東大介(健太)
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