葬儀会社会長の遺産をめぐる3人姉妹の争いを題材とした遺産争族というドラマ(テレビ朝日で放映)が好評です。平均視聴率10%を超えています。相続による争いというと、愛人、隠し子など資産家にありがちな問題と思っている人が多いのではないでしょうか? 実際は、遺産が少ない家庭のほうがトラブルの発生することが多いのです。
相続トラブルの7割以上が相続税のかからない家族
平成25年度の司法統計によれば、家庭裁判所に争いが持ち込まれたケースの中で、相続財産の総額が5千万以下の家族が7割を超えています。5千万以下であれば、相続税の課税対象となる可能性は低いです。一方、相続財産5億円以上の家族のトラブルは、1%以下となっております。もちろん、総額が5億の世帯というのは全世帯中、少数ですので、その分件数が少ないのは当然の結果です。しかし資産家でない家族にも等しく争いが起きているのは事実です。
お金がないと心の余裕がなくなるので、争いが起きやすくなるという意見もありますが、これはどうかと思います。お金があればあるほど余計に欲しくなるというのは人間の性です。主な要因は以下にあると思われます。
資産家は税理士など専門家のアドバイスを受けている
日本における資産家というとオーナー社長と開業医が代表格です。これらの人々には、顧問税理士(場合によっては弁護士も)がついています。専門家から相続に関する基本知識を得ることができますので、贈与や生命保険などを使った対策を計画的に行えます。遺言もしっかり残していたりします。
税理士や弁護士であれば誰でも相続に精通しているとは言えませんが、身近に相談できる専門家がいるのは有利です。
これに対して普通のサラリーマンなどは、税理士や弁護士と接する機会も少なく、相続に関する知識を持っている人は多くありません。遺言を残す人も少ないです。相続対策どころか、遺族が両親の相続財産について正確に把握していないこともあります。こうしたことが、引き金になって争いが発生します。
相続財産の大半を不動産が占めることが最大の要因
相続財産の額が少ない人ほど、遺産の中に占める不動産の割合が高くなります。このことが最大の要因だと考えられます。不動産を均等に分割するのは難しいからです。売却して現金に換えることはできますが、長年住んできた家を手放すことに抵抗を感じる人は多いのでなかなか決断できません。また共有名義にした場合も、扱いを巡って意見の相違が発生しがちです。
資産家であれば、不動産以外にも預貯金や株、ゴルフ会員権などの分配可能な資産を多数持っています。子供が2人いて1人が土地と家を引き継いだ場合、もう一人には不動産価格に匹敵する財産を現金などで与えることが可能です。現金が不足する場合は、生命保険を使って補っていたりします。
不動産で財産を残すのは諸刃の剣
扱いが厄介な不動産ですが、相続税対策という観点では利点があります。土地の相続税評価額で用いられる路線価は、実際の不動産取引時価の8割程度が目安とされているからです。したがって土地を現金化するよりそのまま所有していたほうが相続税を節税できます。
また不動産については、いくつか優遇制度も設けられています。そのうちの一つは“小規模宅地等の特例“という制度です。居住用の土地の面積が330m2以下の場合、相続する人がその土地に住んでいれば、路線価の80%減額できます(他にマイホームを持っていない等の条件あり)。1億円の評価がついた土地でも2千万円まで減額できるのです。
この制度にも争いを引き起こす種があります。両親が亡くなった後の二次相続で子供が複数いる場合、土地と家を引き継いだ子とそれ以外の子では、著しい不公平感が生じるからです。引き継げなかった人に不動産価格に該当する現金を用意してあげればよいのですが、その現金をなかなか用意できません。
遺言を書けば対策は万全か?
相変わらず相続関連のセミナーなどは、盛んに開催されています。そこで必ず勧められるのは、遺言やエンディングノートの作成です。遺言がないよりは、あったほうが相続による争いを減らすことはできます。しかしそれだけでは十分ではありません。
土地を守りたいのか、残された家族が争うことがないよう公平に財産を分配したいのか、あるいは相続税を軽減したいのかといった目的を明確にする必要があります。特に相続財産の大半が不動産という家族では、土地や家をどうしたいのか決めてから、遺言を作成したほうがよいです。
【参考記事】
■積み立て型の生命保険、終身保険は不用? (佐藤敦規 FP・社会保険労務士)
http://sharescafe.net/46343820-20150924.html
■「身近な人が亡くなった後の手続きのすべて」が売れている理由 (佐藤敦規 FP・社会保険労務士)
http://sharescafe.net/46549638-20151015.html
■場外ホームランを打つよりこつこつ送りバントが本流!? 年末までにやりたい節税対策(藤尾智之 税理士)
http://sharescafe.net/47003543-20151125.html
■高齢者はお金持ち?詐欺集団だけでない、その資産に目をつけているのは、、(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/43017490-20150122.html
■生命保険金が置き去りにされるトラブルが続出中! その理由とは? (加藤梨里 ファイナンシャルプランナー)
http://sharescafe.net/40387650-20140817.html
佐藤敦規(FP・社会保険労務士)