少し早いかもしれないが、これだけ家計調査の結果が悪いと、10-12月期のゼロ成長も覚悟せざるを得ないだろう。原因は、8兆円を超える今年度の緊縮財政である。GDP比で1.6%ものデフレ圧力をかけているのだから、景気失速も当然だ。日本経済は、政策どおりの結果を出している。もっとも、こうした現実を見ても、統計が間違っているとしか言えない立場の人もいるようだが。
………
10月の家計調査は、二人世帯の消費支出の季節調整済指数が93.9で前月比-0.7となり、7-9月期平均より-0.7も低かった。「除く住居等」は、94.4で前月比-0.4、前期比-1.1であり、ここまで落ち込むと、11、12月に1.0ずつ伸びたとしても、前期比がプラスにならない。10月の水準は、消費増税直後の2014年5月の94.1と大差なく、底へ落ちたレベルだ。しかも、10月は物価の低下に助けられており、名目の前月比は-0.5に広がる。
勤労者世帯の消費性向は、やや低く、回復の余地があるものの、実収入の水準が夏前よりかなり落ちていて、多くは期待できまい。エネルギー価格の低下による後押しも一巡している。今年に入ってから、消費は低迷を続けており、月々の振れによって、四半期がプラスになったり、マイナスになったりする。こうした傾向は変わらず、10-12月期の消費は、プラスに振れた前期のレベルを維持するのもやっとの状況にある。
10月の鉱工業指数の発表は週明けだが、9月から投資財の在庫が減り始めており、10-12月期は、前期の在庫増の停止から、在庫減へ変わる公算が高い。そうすると、GDPには、消費のゼロ成長状態に、在庫減が加わり、マイナス方向へ引っ張られる。設備投資は、先行きを示す機械受注が弱含みであり、公需と外需の牽引力は乏しいため、振れ方次第で、3期連続のマイナスになることは十分にあり得る。
(図)
………
こうした消費の低迷の背景には、雇用の鈍化がある。まず、景気ウォッチャーは、3月から低下傾向が続いており、消費動向調査も、4月をピークに同様だ。また、労働力調査の就業者数は、3-5月に下落したために、それまでの増加トレンドが屈曲した。ただし、9,10月は高めの水準になっている。毎月勤労統計の常用雇用の前月比は、4月の伸びを最大に、以降は低下が続く。実質賃金は、昨秋の底とほぼ変わらないレベルにとどまる。
10月に倍率が低下した新規求人については、11/7のコラムで指摘したとおり、消費増税後、対前年同月の増加数が下り坂となっていた。「パート」は、今年に入ってもプラスを保ち、回復局面も見られたものの、「除くパート」は、昨年の終わり頃から、マイナスとプラスを行ったり来たりの状態にある。いずれも、医療・福祉が大きな割合を占め、低賃金で定着しないために嵩む社会保障の求人が全体を支える。
政府・日銀の景気判断は、「緩やかな回復を続けている」だが、「底堅い」とされる消費は、10月の家計調査で、消費増税以来、何度目かの「底落ち」となった。増税直後の反動減が深過ぎ、「底割れ」だけはないことが、「底堅い」の意味するところになっている。これでは、統計批判で目眩らましをするしか、手はあるまい。残る「回復」の根拠は、社会保障の低賃金の求人増、外国客増による宿泊飲食でのパート逼迫、円安に伴う食料品の物価高と企業の収益増といったものになってはいないか。
………
他方、真に「力強く回復している」と言えるのは、税収である。そもそも、2015年度は、国、地方、年金を合わせて8兆円の緊縮財政をする計画であり、それは、中長期の経済財政に関する試算に明記されている。加えて、国税だけで4.4兆円も上ブレしそうで、7割規模の地方税も同様の傾向であろう。これほど大規模にマネーを堰き止めれば、経済の好循環が回るわけもない。
緊縮財政で需要の拡大を抑制すると、企業は設備投資ができなくなる。当然、正社員も増やせない。投資増による生産性向上が望めなければ、円安によるコストアップは価格転嫁の道が選ばれる。かくして、マネーは、企業に滞留する。企業からすれば、緊縮財政の下で、設備投資せよと、政治から言われても、困ってしまう。先日の官民対話の10兆円増も、名目成長率が実現できていれば、おのずとなされる程度でしかない。
緊縮財政の下では、需要リスクが怖くて設備投資ができないので、経済界は、投資減税より、法人減税を求めるようになる。これがまた、設備投資の意欲を弱める。法人減税の財源になる投資減税は、アベノミクスの当初に大盤振る舞いしているから、財源なしに法人減税するのと変わらない。国内投資への減税の代わりに法人減税をすると、外国人株主に利益が流出するから、経済も財政も弱めることになろう。
エコノミストの中には、消費増税から1年半も経ったので、何が今の景気後退の原因なのかと訝しむ向きもあるが、財政をフォローしていれば、疑問の余地はない。外国の経済学者は、当局が積極的に説明しない財政の実態に疎く、デフレの重力圏から脱するのに、アグレッシブな財政出動をせよと宣ったりしているが、現実になされているのは、語るに落ちる財政の逆噴射である。
………
さて、金曜に補正予算編成の指示が首相から出されたが、規模は明かではない。もし、前年並みの3兆円程度であれば、3期連続で成長を失いそうな今の景気を維持するにとどまるから、来夏の参院選は捨てたも同然であろう。3期連続のマイナス成長は、リーマン対策を一気に切った後に震災に遭遇した管政権、消費増税法にかかずらわって景気対策を逸した野田政権に続く例となるが、いずれも政権を失っている。財政を掌中にできない政権の末路は、似たようなものだ。
(今日の日経)
脱・持合株に企業動く。かみ合わない官民対話・実哲也。読書・加賀屋 笑顔で気働き (母子寮で働きやすく)。
※家計調査が推計に用いられるGDPの消費も、供給側の統計も、ほぼ同様の動きにあることは、ニッセイ研・斎藤太郎11/16p.3を参照。
………
10月の家計調査は、二人世帯の消費支出の季節調整済指数が93.9で前月比-0.7となり、7-9月期平均より-0.7も低かった。「除く住居等」は、94.4で前月比-0.4、前期比-1.1であり、ここまで落ち込むと、11、12月に1.0ずつ伸びたとしても、前期比がプラスにならない。10月の水準は、消費増税直後の2014年5月の94.1と大差なく、底へ落ちたレベルだ。しかも、10月は物価の低下に助けられており、名目の前月比は-0.5に広がる。
勤労者世帯の消費性向は、やや低く、回復の余地があるものの、実収入の水準が夏前よりかなり落ちていて、多くは期待できまい。エネルギー価格の低下による後押しも一巡している。今年に入ってから、消費は低迷を続けており、月々の振れによって、四半期がプラスになったり、マイナスになったりする。こうした傾向は変わらず、10-12月期の消費は、プラスに振れた前期のレベルを維持するのもやっとの状況にある。
10月の鉱工業指数の発表は週明けだが、9月から投資財の在庫が減り始めており、10-12月期は、前期の在庫増の停止から、在庫減へ変わる公算が高い。そうすると、GDPには、消費のゼロ成長状態に、在庫減が加わり、マイナス方向へ引っ張られる。設備投資は、先行きを示す機械受注が弱含みであり、公需と外需の牽引力は乏しいため、振れ方次第で、3期連続のマイナスになることは十分にあり得る。
(図)
………
こうした消費の低迷の背景には、雇用の鈍化がある。まず、景気ウォッチャーは、3月から低下傾向が続いており、消費動向調査も、4月をピークに同様だ。また、労働力調査の就業者数は、3-5月に下落したために、それまでの増加トレンドが屈曲した。ただし、9,10月は高めの水準になっている。毎月勤労統計の常用雇用の前月比は、4月の伸びを最大に、以降は低下が続く。実質賃金は、昨秋の底とほぼ変わらないレベルにとどまる。
10月に倍率が低下した新規求人については、11/7のコラムで指摘したとおり、消費増税後、対前年同月の増加数が下り坂となっていた。「パート」は、今年に入ってもプラスを保ち、回復局面も見られたものの、「除くパート」は、昨年の終わり頃から、マイナスとプラスを行ったり来たりの状態にある。いずれも、医療・福祉が大きな割合を占め、低賃金で定着しないために嵩む社会保障の求人が全体を支える。
政府・日銀の景気判断は、「緩やかな回復を続けている」だが、「底堅い」とされる消費は、10月の家計調査で、消費増税以来、何度目かの「底落ち」となった。増税直後の反動減が深過ぎ、「底割れ」だけはないことが、「底堅い」の意味するところになっている。これでは、統計批判で目眩らましをするしか、手はあるまい。残る「回復」の根拠は、社会保障の低賃金の求人増、外国客増による宿泊飲食でのパート逼迫、円安に伴う食料品の物価高と企業の収益増といったものになってはいないか。
………
他方、真に「力強く回復している」と言えるのは、税収である。そもそも、2015年度は、国、地方、年金を合わせて8兆円の緊縮財政をする計画であり、それは、中長期の経済財政に関する試算に明記されている。加えて、国税だけで4.4兆円も上ブレしそうで、7割規模の地方税も同様の傾向であろう。これほど大規模にマネーを堰き止めれば、経済の好循環が回るわけもない。
緊縮財政で需要の拡大を抑制すると、企業は設備投資ができなくなる。当然、正社員も増やせない。投資増による生産性向上が望めなければ、円安によるコストアップは価格転嫁の道が選ばれる。かくして、マネーは、企業に滞留する。企業からすれば、緊縮財政の下で、設備投資せよと、政治から言われても、困ってしまう。先日の官民対話の10兆円増も、名目成長率が実現できていれば、おのずとなされる程度でしかない。
緊縮財政の下では、需要リスクが怖くて設備投資ができないので、経済界は、投資減税より、法人減税を求めるようになる。これがまた、設備投資の意欲を弱める。法人減税の財源になる投資減税は、アベノミクスの当初に大盤振る舞いしているから、財源なしに法人減税するのと変わらない。国内投資への減税の代わりに法人減税をすると、外国人株主に利益が流出するから、経済も財政も弱めることになろう。
エコノミストの中には、消費増税から1年半も経ったので、何が今の景気後退の原因なのかと訝しむ向きもあるが、財政をフォローしていれば、疑問の余地はない。外国の経済学者は、当局が積極的に説明しない財政の実態に疎く、デフレの重力圏から脱するのに、アグレッシブな財政出動をせよと宣ったりしているが、現実になされているのは、語るに落ちる財政の逆噴射である。
………
さて、金曜に補正予算編成の指示が首相から出されたが、規模は明かではない。もし、前年並みの3兆円程度であれば、3期連続で成長を失いそうな今の景気を維持するにとどまるから、来夏の参院選は捨てたも同然であろう。3期連続のマイナス成長は、リーマン対策を一気に切った後に震災に遭遇した管政権、消費増税法にかかずらわって景気対策を逸した野田政権に続く例となるが、いずれも政権を失っている。財政を掌中にできない政権の末路は、似たようなものだ。
(今日の日経)
脱・持合株に企業動く。かみ合わない官民対話・実哲也。読書・加賀屋 笑顔で気働き (母子寮で働きやすく)。
※家計調査が推計に用いられるGDPの消費も、供給側の統計も、ほぼ同様の動きにあることは、ニッセイ研・斎藤太郎11/16p.3を参照。