「ザ・ファイター」(原題: The Fighter)は、2010年公開のアメリカのスポーツ&ドラマ映画です。80〜90年代に活躍したプロボクサー、ミッキー・ウォードとその異父兄、ディッキー・エクルンドの実話をベースに、デヴィッド・O・ラッセル監督、マーク・ウォールバーグ製作・主演で、一度はボクサーとしての大成を諦めるも、兄の支えで世界の頂点を目指すプロボクサーを描いています。第83回アカデミー賞で助演男優賞(クリスチャン・ベール)、助演女優賞(メリッサ・レオ)を受賞した作品です。
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監督:デヴィッド・O・ラッセル
脚本:スコット・シルヴァー/ポール・タマシー/エリック・ジョンソン
原案:キース・ドリングトン/ポール・タマシー/エリック・ジョンソン
出演:マーク・ウォールバーグ(ミッキー・ウォード)
クリスチャン・ベール(ディッキー・エクランド)
エイミー・アダムス(シャーリーン・フレミング)
メリッサ・レオ(アリス・ウォード)
ミッキー・オキーフ(本人役)
シュガー・レイ・レナード(本人役)
ほか
【あらすじ】
マサチューセッツ州の労働者の街ローウェルに、性格もファイト・スタイルも全く違うプロボクサーの兄弟がいました。兄のディッキー・エクランド(クリスチャン・ベール)は、かつては実力派ボクサーとして活躍、今は弟のトレーナーをしています。ユーモアとカリスマ性に溢れた男ですが、実は傲慢で欲望に弱く、数年前から麻薬に溺れていました。ボクシングの全てを兄から教わった父親違いの弟ミッキー・ウォード(マーク・ウォールバーグ)は、マネージャー役でミッキーに過度の期待を寄せる過保護の母アリス(メリッサ・レオ)と兄と言いなりで、試合に勝てない日々が続いていました。
ある日、ミッキーはバーで働くシャーリーン(エイミー・アダムス)と出会います。声をかけたのはミッキーでしたが、気の強いシャーリーンに押される形で二人の関係が始まります。そんな中、ディッキーが窃盗で逮捕され、監獄に送られます。ミッキーの父は息子の将来を案じ、別のトレーナーに話をつけ、ミッキーは兄や母に決別、シャーリーンと共に新しい人生に始める覚悟をします。
スポーツ経験のある彼女のサポート、新トレーナーの訓練メニュー、ミッキーを育てる対戦カードが功を奏し、頭角を現したミッキーの連勝が始まりますが、兄は刑務所の中にいても弟の専属トレーナーのつもりでした。やがてミッキーの世界タイトル挑戦が決まり、時を同じくしてディッキーが出所します。当然のようにミッキーのトレーニングに参加しようとする兄でしたが、弟は兄とはもう組まないと宣言、シャーリーンも家族と激しく争います。しかし、ディッキーの家族やボクシングへの想いに触れるうちに、ミッキーは兄に戻ってほしいと伝え、二人は再び世界の頂点を目指します・・・。
実話に基づくボクシングのサクセス・ストーリーですが、デヴィッド・O・ラッセル監督と、マーク・ウォールバーグ、クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、メリッサ・レオといった実力派の俳優達が、この映画を見応えのあるものしています。特に、クリスチャン・ベールは麻薬中毒のディッキーを演じる為に、15キロ近く減量しています。また、ディッキー・エクランドをどう再現するか正しく学習する為に、彼は本人に会い、何時間も一緒に過ごしました。それは、単なるモノマネを超えるものでした。これに関して、デヴィッド・O・ラッセル監督は、
ディッキーにはリズムがある。クリスチャンは、彼の心がどう動くのが学ばねばならなかった。
と語っています。結果、クリスチャン・ベールは、目つきや話し方も別人のようになり、ちょっと危ない感じがするディッキーをリアリティたっぷりに演じており、また、映画の中で変化していく様も見事です。「ダラス・バイヤーズ・クラブ」でエイズの主人公を演じたマシュー・マコノヒーと甲乙つけ難いくらいの名演ではないかと思います。
クリスチャン・ベールは筋金入りのメソッド俳優で、同じくアカデミー賞の助演女優賞を受賞したメリッサ・レオと彼の二人は、撮影現場ではカメラが回っていない時も役に入りっぱなしだったそうです。二人とも超個性的な役を演じているだけに、そんな撮影現場を見てみたい気がします。映画の最初と最後の兄弟のインタビュー・シーンは、マーク・ウォールバーグとクリスチャン・ベールが即興で演じています。撮影は、深夜に二人とデヴィッド・O・ラッセル監督の三人で行われましたが、実際に感極まってしまったクリスチャン・ベールが席を立っています。
映画化は困難を極めました。マーク・ウォールバーグは2005年からプロデューサーも務めましたが、最初に脚本を送ったマーティン・スコセッシは監督を辞退、次のダーレン・アロノフスキー監督は途中降板しました。クリスチャン・ベールがデヴィッド・O・ラッセルを提案しましたが、先にコラボした「ハッカビーズ」の興行成績が振るわなかったことから、マーク・ウォールバーグは消極的でした。しかしながら、次にアプローチしたピーター・バーグ監督の興味をひく事ができず、最終的にデヴィッド・O・ラッセルが監督となりました。脚本は何度も書き直されましたが、なかなか出資者がつかず、映画化するまでに5年もかかりました。制作費も2500万ドルと小規模で、マーク・ウォールバーグは自分の出演料を権利放棄、クリスチャン・ベールの出演料はわずか25万ドルでした。ちなみにマーク・ウォールバーグはこの5年間、トレーニングを続け、役作りの為にトレーナーを自腹で雇っており、彼のボクシング・シーンはなかなかのものです。
廻り回って監督を引き受けたデヴィッド・O・ラッセルですが、この作品は吉と出ました。切れやすく、撮影中に激高してジョージ・クルーニーに頭突きをくらわせるなど、ハリウッドの問題児とも言われた彼ですが、この作品を皮切りに立て続けにアカデミー賞に好かれています。
「ファイター」(2010年)
作品賞:ノミネート
監督賞:ノミネート
助演男優賞:受賞(クリスチャン・ベール)
助演女優賞:ノミネート(エイミー・アダムス)、受賞(メリッサ・レオ)
脚本賞:ノミネート
編集賞:ノミネート
「世界にひとつのプレイブック」(2012年)
作品賞:ノミネート
監督賞:ノミネート
主演男優賞 :ノミネート(ブラッドレイ・クーパー)
主演女優賞:受賞(ジェニファー・ローレンス)
助演男優賞 :ノミネート(ロバート・デ・ニーロ)
助演女優賞 :ノミネート(ジャッキー・ウィーヴァー)
脚色賞:ノミネート
編集賞:ノミネート
「アメリカン・ハッスル」(2013年)
作品賞:ノミネート
監督賞:ノミネート
主演男優賞:ノミネート(クリスチャン・ベール)
主演女優賞:ノミネート(エイミー・アダムス)
助演男優賞:ノミネート(ブラッドリー・クーパー)
助演女優賞:ノミネート(ジェニファー・ローレンス)
脚本賞:ノミネート
編集賞:ノミネート
美術賞:ノミネート
衣装デザイン賞:ノミネート
「アメリカン・ハッスル」では最多10部門にノミネートされながら、ひとつも受賞できなかったのが残念ですが、デヴィッド・O・ラッセル監督の最新作「Joy」が12月25日からアメリカで公開されます。この作品には、「世界にひとつのプレイブック」と「アメリカン・ハッスル」でアカデミー俳優4賞にノミネートされたジェニファー・ローレンスとブラッドリー・クーパー、「世界にひとつのプレイブック」で助演男優賞にノミネートされたロバート・デ・ニーロが出演しており、再度のアカデミー賞ノミネートが期待されています。ミラマックスの広報とジェニファー・ローレンスは直ちに否定しましたが、デヴィッド・O・ラッセル監督とジェニファー・ローレンスが撮影中に大げんかしたという噂が流れるなど、作品の出来が気になります。
マーク・ウォールバーグ(ミッキー、右)とクリスチャン・ベール(ディッキー、中央)
エイミー・アダムス(シャーリーン)
メリッサ・レオ(アリス)
撮影に使用された Ramalho West End Gym(兄弟が実際に通ったジム)
デヴィッド・O・ラッセル監督+マーク・ウォールバーグ出演作品
デヴィッド・O・ラッセル監督+クリスチャン・ベール、エイミーアダムス出演作品
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「世界にひとつのプレイブック」(2012)
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