昨晩家族でラーメンを食べに行った。私はなんでもいいやーって気分だったからとくに主張しなかったが、妻が
「うまいラーメンが食べたい」
と言い出し、しかし金は出したくないと言うので話にならない。ナミミは
「寿司がいい」
と言っていて、私は寿司店は寒いからやだなーと思ったが、我慢すればいいやと思った。最近の回転寿司店ではうどんやラーメンを提供するところもあるので、話をまとめると寿司店に行くことが全員の効用をもっとも高めると判断した私だが、妻が寿司店は嫌がったのでだんだん面倒くさくなって、食べなくてもいい気がした。食物は食べ始めれば際限ないが、食べなければそれはそれで案外持つのである。
しかしやがて私たちは近所の台湾料理店に行った。初めて行くところだった。何年か前にオープンしたが、先に行った私の父と妹が、
「あまり旨くない」
と評したので、あまり行きたいとは思わなかったのである。しかし私の近所は田舎なのでどこに行っても料理は大抵目玉が飛び出るほど不味いので、「あまり旨くない」は褒め言葉なのかもしれない。「目玉が飛び出る」は言い過ぎだったが、大した味ではないので、私はいつもかき込むようにして食べてしまうのである。あと高級なものならそれなりに美味しい。
私たちはそこでラーメンやらチャーハンを食べたが、隣のテーブルが大人数で賑やかだった。隣とは私から見たら裏の席なので、あまり顔などをじろじろ見るわけには行かなかった。ホールがひとりしかおらず、先に大人数のオーダーを取り始めたので、私たちは待たされた。大人数はかなり高度な注文方法を披露していたので、私たちの番がなかなか回ってこず、私たちはイラついた。待っている間にコンビニに行ってパンでも食べたい気分だった。実際昼間私はヤマザキのナイススティックを食べていた。私はパン好きだから、待たされるくらいならパンで良かった。
やがて私たちの注文も終わり料理が運ばれてきたら、大人数も食べ始め、すると後ろから
「ちゃんと三角食べしてね」
と注意する声が聞こえた。女の声だった。子供に向かって言っているようである。また別の女は、
「この前ビデオ見たら、秋ちゃんの声が勇君そっくりでびっくりしちゃった」
と大声でしゃべりだし、どうしてそんなつまらないことを大声で言うのか、理解に苦しんだ。兄弟の声がそっくりな話なんて、赤の他人の私達だけでなく、同席の人たちだって退屈なのではないだろうか。
対して三角食べ女は何度も
「三角食べしなさい、三角食べしなさい」
と言い続け、最後には
「残してもいいから三角食べしなさいよ!」
叱りつけ、私たちは噴き出した。子供たちも
「三角食べってなに?」
と私に質問するようになった。三角食べとは、ご飯、汁物、おかずの配置を三角形に見立て、おかずばかりを集中的に食べるのではなく、常に三角形を描くようにローテーションさせながら食べろという考えのことである。かわりばんこに食べればいいので、無理に三角はどちら回りでも良かった。私が小学低学年の頃はそんなことを言われたこともあったが、それ以降は記憶にない。子供たちも知らなかったから、今は学校でも言わないのだろう。
少し前に妹から聞いたのだが、日本人は口の中にご飯とおかずを同時に入れ、それで自分の好みの味に調節して食べるらしい。つまり日本人は唾液が多いからそういう芸当ができ、欧米人は一心不乱にパンを食べ続ける、ということだが、大して根拠もなくネットにこんなことを書いて、妹の名誉は傷つかないだろうか。もしデタラメだったらごめん。
つまり、三角食べというのはマナーとか教育の賜物ではなくて、単においしく食べようとしたら結果的にそうなったという話なのだ。それを無理にさせようとしたら、無駄に食事の楽しさを奪ってしまうだけである。