2015.11.29 03:45
クリエイター、研究者、僧侶らで語る「人工知能の現在と未来」。第8回目SENSORS SALON参加者は真鍋大度氏(Rhizomatiks Research)、松尾豊氏(東京大学 特任准教授・GCI寄付講座共同代表)、市原えつこ氏(アーティスト)、松本紹圭氏(光明寺僧侶)、そしてモデレーターに西村真里子(HEART CATCH)。舞台となったのは神谷町 光明寺。エンターテイメントから宗教まで、人工知能が変えようとしている世界の様々な事象を語り尽くした。レポート第一弾は「人工知能とクリエイティビティ」にフォーカスする。
産業、ライフスタイル、エンターテイメント...様々な領域で「人工知能」がパラダイムシフトを起こそうとしている。とりわけ、人工知能が人間の知能を超えた時点"シンギュラリティ"が近づいていると囁かれる中、「雇用が奪われるのでは?」「社会を支配されるのでは?」さらには「人類を襲うのでは?」といった悲観的な見方も広がっている。
東京大学准教授で、日本における人工知能研究の第一人者である松尾豊氏は以前のインタビューで、そうしたディストピア的なシナリオになる可能性は低く、ポジティブな実用可能性を構想したほうが建設的であるとの見方を呈示。
今回SENSORSはインターネット寺院「彼岸寺」を運営するなど先進的な試みを行う松本紹圭僧侶に神谷町 光明寺を議論の場としてご提供いただき、松尾氏に加え、クリエイターである真鍋大度氏、市原えつこ氏というバラエティー豊かな面々で「人工知能の現在と未来」をポジティブな目線から語り合った。
「人工知能」研究は来年で60年。1956年〜60年代の第1次ブーム、1980年代の第2次ブーム、現在は第3次ブームと言われており、機械学習の新しい手法「ディープラーニング(深層学習)」がその核心にある。(参考:松尾氏インタビュー「ディープラーニングを理解するための人工知能Sと人工知能D」)
人工知能を理解する上で、重要な概念となる「特徴量」。例えば2012年に、Googleがディープラーニングを用いることで、コンピューターが猫の画像を認識できることが話題になった。「猫の画像を認識することが、それほど難しいことなのか?」と疑問に思われる方もいるかもしれないが、人工知能研究においては高い壁であり続けてきた。現象の中から「大きさ」「角度」「色」など様々な要素を発見し、定義するのは人間にしかできなかったのである。変数さえ設定していれば、人間よりも優秀な能力を発揮することができた。
さて、ディープラーニング(深層学習)が人工知能研究のブレークスルーとされるのは、まさにそうした特徴量を自ら発見し、定義することを可能にしたことだ。今年の2月にはMicrosoftリサーチがImageNetという画像認識技術のテストでコンピューターの画像認識精度が人間を上回ったとし、さらに5月には中国のバイドゥ(百度)がGoogleを上回る誤認識率4.58%を達成。ビッグデータを扱う企業間の間で生き馬の目を抜く争いが繰り広げられている。
「特徴量の発見こそがクリエイティビティ」であるという松尾氏。となれば、労働集約型の産業のみならず、アートやデザインを生業とする人々も含む、知識産業にも人工知能は闖入していくのだろうか。
愛の歌を自動生成して再生する「Love Song Generator」や人工知能を用いたDJイベント「2045」など人工知能を使った実験的作品に取り組んできたメディアアーティストの真鍋大度氏。ライゾマティクスリサーチではGoogleが公開していたプログラムコード「Deep Dream」やドイツの研究者らが開発したDeep Dreamをさらに進化させた「A Neural Algorithm of Artistic Style」と呼ばれる葛飾北斎やゴッホらの画風に変換できる人工知能を用いた画像処理アルゴリズムをVJプレイに取り入れ、今までではありえなかった映像効果を作り出している。
ドイツの研究者らがDeep Dreamをさらに進化させた「A Neural Algorithm of Artistic Style」では、葛飾北斎やゴッホらの画風に変換できるアルゴリズムになっている。
ビッグデータがマーケティングにおけるリコメンデーションに使われることが多いのに対し、過去5年の間、積極的にデータ収集をしながら作品へのアウトプットに努めてきたという真鍋氏。現在はディープラーニングを用い、ダンスパフォーマンスの振り付ける取り組みをしているという。
松尾氏がディープラーニングの先遠くにまだまだあるというのが、関連性のないドメイン同士の関係を解釈し、構築するクリエイティビティだ。
試行錯誤を通じて環境に適応することのできる「強化学習」という枠組みがディープラーニングと組み合わせることにより、大幅にその可能性を向上させている。これまでは、「どういった状況で何をすればいいのか」という学習において、状況を表す際に人間が定義した特徴量を使わなければならなかったが、それをディープラーニングによる画像の特徴量を用いるのだ。例えて言えば、猫や犬が訓練の結果フリスビーをキャッチできるようになる過程だが、どちらかといえば"運動神経"のイメージに近いのだと松尾氏はいう。
対して、行動の計画や推論、プランニングを要する行動は、今の技術ではまだまだ困難が伴う。これをデザインに当てはめると、AとBの間にあるものをもモーフィングで無限に自動生成することはできても、全く異なるものを掛け合わせ新たなデザインを創造することはまだ難しいということだ。
「Adobe MAX 2015」で発表された、人工知能を用いて静止画からデザインに使われているフォント情報を解析する技術「Deep Font / Font Capture」。このニュースを聞いて市原氏は、人間のデザイナーにしかできないことは何か?ということを考えたという。
「ディープラーニング」によりたしかに人工知能はクリエイティビティを獲得し始めている。ただし、まだまだその効力の範囲は限定的であり、有象無象の中から思いもよらぬアイデアを創造できるのは人間の領分と言えそうだ。当面は人工知能がクリエイターを凌駕するというよりも、クリエイターの側が数あるツールを自由に活用しながら人工知能ならではのアドバンテージを引き出し、新たな表現を生み出すことが期待される。
「人工知能は悟れるのか?」光明寺 松本僧侶×東大 松尾豊 研究者対談(明日公開予定)