2015年11月29日01時20分
九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の事故を想定した佐賀、福岡、長崎3県の合同防災訓練が28日あった。自治体や警察、消防、住民ら約6千人が参加し、30キロ圏から圏外への避難や除染などを経験した。船舶避難が高波で中止される予定外の展開もあり、九電が再稼働を目指す中、改めて課題が浮かび上がった。
合同訓練は東京電力福島第一原発事故を受けて始まり、今回で3回目。玄海原発4号機で全電源が失われ、原子炉を冷やせなくなって放射性物質が漏れた想定で実施された。
福岡市の福岡工業高校には午前11時半ごろ、玄海原発の30キロ圏に南部がかかる長崎県の壱岐島から、航空自衛隊のヘリとバスを乗り継いできた島民10人が到着した。海自の船で来る予定だった10人の姿はなかった。海上の波が高く、小型艦艇でもあり、移動に危険が伴うとして中止された。
到着した島民らは海路避難の不安を漏らした。家族8人で暮らす公務員の柳原隆次さん(38)は「ヘリは人数が限られる。悪天候で船が出ない時、家族が一緒に避難できるだろうか」。塗装業の久家覚(くがさとる)さん(47)は、海が荒れる冬に小さな漁船などで避難する難しさを実感した。「大型で定員が多いフェリーで避難できるよう、フェリー会社と連携してほしい」と話した。
だが、3県の想定では、全島民約2万8千人がフェリーなどで福岡市の博多港に避難すれば順調でも5日半かかる。壱岐市には全島民の避難計画もない。
長崎県の中村法道知事は訓練後、「事故の進展によっては全島避難が求められる」としたうえで、「どんな船なら活用できるか今後検討する必要がある。今回のような(船が使えない)状況を見極めながら、一時的な屋内退避施設の整備も検討したい」と述べた。
県境をまたぐ避難の課題もある。ヘリの訓練に参加した建設業の末永和博さん(50)は「福岡での避難所が決まっておらず、不安」。施設に入所する母親(74)の避難先も心配だ。
福岡県は2013年5月、事故時に壱岐などの避難者を必要に応じて受け入れると表明した。長崎県はその後、壱岐市民を旧4町ごとに避難させたいと福岡県に要望しているが、福岡県は受け入れ先をまだ決めていない。
■船までの足、職員が「代行」
佐賀県唐津市の離島・高島。午前10時半、訓練に参加する住民が公民館に集まり始めた。手押し車で来た野崎ハルミさん(82)は足が不自由だ。「体が動かんけん、それが大変」
人口約260人、高齢化率は約75%。市の計画では海上保安部の大型船で唐津市に逃げるが、訓練で住民が参加したのは公民館まで。港に移動して船に乗るまでは、市や海保の職員らが「代行」した。野崎さんが歩けば20分の距離を職員らは数分で歩き、簡単に浮桟橋から船に乗り移った。
市の担当者は「今回は関係者の連携に重点を置いた」と説明する。だが、年1回の訓練は住民が大型船で避難を体験し、課題を実感する機会だ。地元で区長を務める野崎海治(かいじ)さん(66)は「全島民への参加要請があれば、区長として応じる気持ちだった。それがベスト」と話す。
13年に住民が漁船で福岡県糸島市に逃げる訓練をした離島の松島。当時の訓練に参加した松島区長の坂口正年さん(66)は「実際には船の係留場所を確保できないのでは」と感じた。「今回はせめてゴールの避難予定場所ぐらい住民に見せたかった」と残念がる。
佐賀県は今回、障害者施設1施設を除き、陸路で県境をまたぐ住民の広域避難を計画しなかった。その理由について、佐賀県の担当者は「(広域避難は)前回、前々回と実施したため」と説明している。
■「受け入れ先」福岡市の備えは
訓練は福岡市が福岡県糸島市や長崎県壱岐市の住民を受け入れる想定で進んだが、福岡市の市域は玄海原発から37~60キロ。風向き次第では福岡市民約150万人の一部の避難が必要になる可能性もある。東京電力福島第一原発事故では、原発から28~47キロの福島県飯舘村が全村避難した。
福岡市は30キロ圏外のため義務のない原子力災害避難計画の暫定版を2014年に策定。対策本部の運営方法やスクリーニングの実施場所、避難所などを定めている。50キロ圏内の住民約57万人分の安定ヨウ素剤を備蓄する計画で、約39万人分を確保した。13年から今年9月までに、玄海原発に近い西区の全小学校区で避難訓練も実施した。
ただ、藤田三貴・市防災危機管理部長は、安定ヨウ素剤の配布や避難の交通手段確保、県外からの長期避難者の受け入れなどを挙げ、「具体的な部分で詰め切れていないところも多い」と話す。
東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害・リスク心理学)は「市が刻々の情報を適切に流せなければパニックが起こる。早急に具体的な事故対応の取り決めをつくり、事故時に情報発信できるようにすべきだ」と指摘する。
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