初代RVRなどの設計に従事した後、2005年より商品開発プロジェクトのマネージャーとして欧州生産コルトの開発を取りまとめる。2009年より商品開発プロジェクトでアウトランダーPHEV・アウトランダーの技術構想立案・開発の取りまとめを行う。
柴山:発売当時から、電気自動車をベースにしたPHEVとして、走りの良さ、スムーズさ、静かさなどをアピールしてきたつもりでしたが、それが多くの方に高く評価いただいたと感じています。我々は電気自動車の先駆者として、その延長線上にPHEVというものを考えました。そして三菱らしく、独創的な技術を用いてPHEVとSUVとを組み合わせました。電気自動車の特長である「なめらかで力強い、走りの良さ」を前面に押し出した商品として開発を行ってきて、それで高い評価を得ることができました。
柴山:まず、初代のアウトランダーというクルマは、スポーティかつユーティリティに優れた軽快なSUVとして生まれました。それが2代目となり、環境意識の高まりに合わせて、環境にも優しい上質なSUVという初代より成熟したコンセプトとしました。
今回のモデルチェンジでは、原点に振り返り、より「三菱らしさ」を出したいと考えました。エクステリアは三菱らしさを感じさせる、力強い方向とし、更にアウトランダーPHEVでは上質さも融合したデザインとしています。
そして、もともと持っていた上質さをさらに追求すべく、インテリアの質感向上を図っています。また、走りの良さをさらに追求しようと、走りについては大幅に強化しました。
しかし、アウトランダーのコンセプトそのものについては変わりがなく、開発陣としては最新のものが最良のもの、というつもりで商品強化を行いました。アウトランダーPHEVのメカニズムは非常に新しく、我々独自のものですので、今回のモデルチェンジではそれを徹底的に研ぎ澄まし、その特長をお客様により感じていただこうと考えました。その結果、PHEVの特長である「なめらかで力強い、走りの良さ」の進化を感じていただけるクルマになったと自負しております。
柴山:本来、三菱らしさというのはお客様ご自身がイメージされるものだと思います。過去から三菱らしいと言われているのは、パジェロやデリカ、ランサーエボリューションといったクルマです。つまり、力強さが前面に出ていないと、三菱らしさを感じられないのだと思います。
また、三菱自動車はSUVや4WDが得意なメーカーですから、どんな路面・運転環境においても安心・安定感をご提供していくことが重要で、それが三菱らしさであると考えています。今回のアウトランダーでは、この「力強さ」と「安心・安定」といった要素を付加していこうと考えたわけです。
柴山:走りの進化には、加速性能の向上=ダイナミックさと、なめらかさの向上=上質さ、という2つのポイントがあると思います。特に難しかったのは上質さの向上で、例えば振動を抑制するためのデバイスを投入したりして、なめらかさを追求しました。
この効果がとても大きく、走りの質感アップに大きく寄与しています。また、サスペンション取付部の剛性アップによって、ステアリングの手応えを良くしたり、ロードノイズを低減したりといった地道な改良の積み重ねを図りました。今回のアウトランダーPHEVは、乗り始めから「これまでより走る」「このクルマは速い」と、誰が乗られても感じていただけると思います。
柴山:ひとつは、エンジン部品のフリクション低減によって、エンジン自体の効率を上げました。また、踏み始めのモーター効率を上げ電気消費を低減しています。そして、ハイブリッド走行時には、エンジンが発電機として駆動しています。そのエンジンが効率的に運転するポイントを見直し、最も効率良く発電ができるようになりました。これが燃費改善の大きなウェイトを占めています。
このエンジンの運転ポイントの変更は難しい課題で、効率を追求するとエンジンは高回転・高負荷で運転することが必要になります。そうすると、どうしてもエンジンからの騒音が大きくなってしまう。車体やエンジンそのものの静粛性の向上などの地道な改良を組み合わせ、静かさと燃費を同時に向上させることにつながったと思います。
柴山:デザインは開発メンバーも声を揃えて「かっこいい」と言います。そういう時はメンバーのベクトルが合致して開発がスムーズに進むんです。このモデルをみんなでできる限り良くしようというモチベーションが生まれるので。
しかし、今の時代は歩行者保護などといったパッシブセーフティに対する要求が厳しく、デザインを崩さずにいかにその要求を満たすか、といった部分の苦労はありました。
柴山:このクルマの一番の特長は、PHEVのEV、つまり電気自動車のモーター走行ならではの「なめらかで力強い走り」の良さです。それはまったくブレがありません。それを際立たせるために、今回はデザインの変更やその他の性能向上を図りました。走りの良さこそが、我々の強みであり特長だと考えています。
繰り返しになりますが、みなさまに「このクルマは走る」と感じていただけると思います。ぜひ、お店で試乗して、一度走りの良さを体感していただきたいですね。
三菱自動車の欧州デザイン拠点において主にカラーリングを担当。その後、北米デザイン拠点でマネジメント業務に従事する。帰国後はグローバルWEBサイトの監修に携わり、現在はデザイン本部のデザイン戦略・企画部で、新型車のデザインマネジメントを担当。
鷲沢:「ダイナミックシールド」とは、これからの三菱自動車のフロントフェイスデザインのベースとなる考え方のことです。よく言われるデザインアイデンティティとは少し違っていて、金太郎飴のような統一した顔を作っていく訳ではなく、この考え方に基づいて、それぞれの車種に適した顔を作って行きます。
昔から三菱自動車は、機能に則った形、というのを大事にしてきました。ただ形をデザインするのではなく、何かしらの機能に基づいた、意味のある形ということです。
歴代のパジェロでは、バンパーコーナーにプロテクター形状があって、乗員とクルマを守る機能が表現されています。また、ランサーエボリューションを筆頭としたスポーティモデルでは、大型グリルのブラックフェイスで大量の吸気を必要とするハイパフォーマンスを表現してきました。「ダイナミックシールド」では、これらの表現を継承して進化させ、人とクルマを守るというイメージをダイナミックに表現します。
鷲沢:大きくブラックアウトされたフロントマスクでスポーティな走りを表現しています。特にアウトランダーPHEVでは、ダークメッキのグリルがバンパーのブラック部と一体となって、より高いパフォーマンスを感じさせます。そしてそのブラックフェイスを、バンパー側面と下方の3方から包み込んで守る「盾」をデザインしています。
鷲沢:2012年の登場時、PHEVという画期的なクルマに相応しいように、環境と先進的なハイテクをイメージした、上質で威圧的でないデザインが採用されました。あえてアグレッシブさを抑えて、これがこれからのクルマである、ということを表現していたんです。でもそれは、従来から三菱のクルマを好きと言って下さっている方には物足りないものであったのかもしれません。
そこで今回の新型では、三菱らしさをより前面に出したダイナミックなデザインに方向を切り替えたのです。三菱自動車の存在感を高めていくためにデザインが変わっていく、その転換点になるクルマだと思っています。
鷲沢:フロント周りではライトとグリルで幅広感を出しています。それに合わせて、リヤ周りも同じようにワイドな安定感を表現しています。以前のモデルでは、側面で完結したデザインを採用していましたが、新型では顔が側面まで回り込んでいるデザインとなっており、幅広感を演出しているんです。
鷲沢:アウトランダーのコンセプトは、よりSUVらしく。なので、フロント下部のプロテクションはよりSUVらしいシルバーの大型スキッドプレート状のデザインとしました。フロントフェイスだけでなく、力強さを強調したデザインとするために、下回りをブラックで統一し、ボディサイドにガーニッシュを取り付けています。
一方、アウトランダーPHEVは、なめらかに力強いという走りの特長が、コンセプトのキーになっています。上質なオンロードSUVを表現するため、フロント下部をボディ色のスポイラー形状とし、低く構えたフロントフェイスとしました。下周りも全てボディ色とし、オンロードパフォーマンスとプレミアム感を両立したデザインとしています。
鷲沢:見た目で大きいのは、ステアリングやフロアコンソールの変更です。どちらも高級車らしい堂々としたデザインに変更しています。ステアリングのグリップには、手触りにこだわった、スムースで柔らかい革を採用しています。また、車格感を出すために、天井・サンバイザー・ピラーをすべて同じ素材のニット巻きにしました。運転席に座って見上げたときに目につく場所が、すべて同じ素材でできているというのはこだわりのポイントです。
また、シートの本革も、今までと手触りの異なる柔らかい革を使用しています。内部のクッションも見直して、見た目にもボリューム感があって着座時のサポートも良い、上質なシートになりました。標準シートもセンター部のスエード調生地に横方向のステッチを入れることで、トラディショナルなスポーツカーのイメージを出しています。この生地には、体が滑りにくいというメリットもあるんです。
鷲沢:アウトランダーPHEVの新色のルビーブラックパールは、パッと見では黒に見えますが、直射で光が当たる部分には変化が出ます。高級車らしい特別感のある色、として採用されました。
アウトランダーPHEVには従来からのブラックマイカもあり、普通は工場での作りやすさとか売り場での見易さなども考慮してどちらか一方になるケースなのですが、今回はまさか両方が採用されてびっくりしたんです(笑)。やはり、会社一丸で良いクルマを作ろう、という意志の表れだと思っています。
また、同じくアウトランダー(ガソリン)にも追加された新色のクォーツブラウンメタリックは、落ち着きもあって、さらにフロントフェイスのグリル部のブラックとメッキがよく強調されるので、クルマがとてもきれいに見えます。
鷲沢:今回のモデルチェンジは、改良の範囲が広く、ここまでやってよいのかと思うほどでした。特に、デザインから量産へとステージを移す際に、煮詰めなければならない作り込みが非常に多かったですね。
苦労したというより、様々なことにトライしたので、それについていくのが大変でした。ぜひ、実際にクルマをご覧いただいて、隅々までチェックしてほしいですね。