2014年7月12日、ペマ・ギャルポ氏が立ち上げたチベット文化研究所でダライラマ法王長寿祈願会と佐藤剛裕氏による『ヒマラヤ・フィールドワークレポート』があった。
講師の佐藤剛裕氏とは文化人類学者。1973年生まれ。ネパール国立トリブバン大学ネパール・アジア学センター客員研究員。現在ネパールにて仏教寺院組織に属さない民間宗教文化の調査を行っている。
中沢新一氏のお弟子で、在家密教行者だ。
なんかすごい・・・・。
講演にいらっしゃった佐藤氏は年齢(41歳)にしては若く見えた。Tシャツとハーフパンツといういでたちで真っ黒で豊かな髪にはゆるくウェーブがかかっていた。
17世紀にチベットが国として統一された。その時チベット中央政権側のゲルク派がニンマ派を弾圧。弾圧された人々が逃げた先がブータンや現ネパール領のムスタンである。佐藤氏は7年間ムスタンで行者として修行した。
氏の現地のレポートを1時間ほど聞いた後、雑談風に、
「今日はペマ・ギャルポ先生がいらっしゃらなくて残念だ。実は僕、ペマ先生とは首相官邸近くでニアミスしたんですよ。先日ブータン首相が首相官邸で安倍晋三という人と会っているとき、ペマ先生は通訳としてブータン首相に同行していました。僕は首相官邸の外で集団的自衛権の憲法解釈のことで、安倍首相は辞任せよ!と声を上げていました。その抗議には4万人集まりましたよ。首相同士で会談しているとき、会談の相手が壁一枚隔てた向こうで民衆に辞任要求されているって、どうでしょうね?(笑い)」
さらに
「最近新大久保では在日朝鮮人を攻撃するデモが多く行われていて、僕はしばき隊として在特会の連中に抗議しています。あの人たちはデモが終わった後に韓国人が経営しているお店の看板を壊したり、ひどいんですよ。チャイナタウンがある池袋でフリーチベットの街宣をしている人たちもいて、それも排外主義だ」
チベット支援者にしばき隊がいるとはうわさとして聞いていたが、まさか目の前の「先生」がそのご本人とは!
私自身は池袋でのチベット支援はなんら問題もないと思っている。むしろ良い事だ。中国の人たちに自分たちが世界からどう見られているか知ってもらえる。そして中国人の内側から民主化運動が始まったら、チベット人を始め、中国人も幸せになれるではないか。
とはいえ、私が池袋で活動したのはほんの数回。
その日一緒にチベット文化研究所を訪れた初老の男性は定期的に池袋で街宣を行っている。私は彼とは一緒に池袋街宣をしたことはないけれど、彼が行っている支援はチベットの焼身抗議についてのビラまきがメインである。
もちろん中国人に対する差別用語など聞いたこともない。
講義が終わり、そのあとに続く法要のために会場整備になった。机などを撤去しているとき、もう少し佐藤氏と話がしたくなり、三人でおずおずを氏に近づいた。前述した池袋で街宣している60代の男性、街宣はあまりしない60代の女性、そして私。
60代の男性が佐藤氏に話しかけた。
「実は私は池袋で定期的にチベットのビラまきをしているんですが」
佐藤氏は困惑した顔をして、
「それはよくないんじゃないですか。池袋には中国人がたくさんいるし」
「うふふ、あえて中国人に見せようとしてやってるの」
と男性。佐藤氏は険しい顔をして、大きな声を出した。
「そうやって池袋でチベット支援をするのは中国人に脅威を与えるんじゃないでしょうかね!」
私も大きな声で
「あの人たち勝手に池袋に住んでいるだけじゃないですか!」
と応じる。佐藤氏はそれには答えなかった。(聞き取れなかったのかも)
街宣している男性は佐藤氏の前に座り、自分の思いを話していた。私は2メートルぐらい離れて黙っていた。もう一人の女性もそのぐらいの距離に座っていた。
男性が佐藤氏に話した内容は大声ではなかったので聞き取れなかったけれど、笑顔だったし、難詰しているようには見えなかった。
佐藤氏は退屈そうに携帯をいじり始めたり(←佐藤氏は41歳)、法要の準備をしているお坊さんに話しかけたりして、あまり男性の相手をしていなかった。
それでも男性は話を続けていた。
もしかしてだけど、もしかしてだけど(どぶろっく風に)
佐藤さんは池袋の中国人の取材していないんじゃないの~
もしかしてだけど、もしかしてだけど
中国人が脅威を感じているなんて妄想なんじゃないの~
やがて佐藤剛裕氏は携帯(スマートフォン)をしゃべっている男性の顔の30センチ前に掲げて撮影。
・・・・それでも男性は苦笑しつつも話をやめなかった。タフだ。話をやめたら佐藤さんの思うつぼだもんね。
その場で私は抗議をしたかったけれど、被害にあった男性がご自身の肖像権をなげうってまで佐藤氏と話すことを選んだ以上、私が話の腰を折ることは出来なかった。
しかし、この佐藤剛裕氏の態度、どうだろう。
①有料のイベントで
②授業中ご自分から池袋でのチベット支援の話を出し
③生徒が少人数で(しかも二人は高齢者)静かに反対意見を話に行ったら
④先生が大声を出したりふてくされたりして話し合いを拒否し
⑤しまいには至近距離で勝手に生徒の顔写真を撮影
先生としての不祥事以外の何者でもない。
目の前にしばき隊の敵の「排外主義者」が現れたのだから、やっつければいいじゃん。論破すればいいじゃん、折伏すりゃいいじゃん!
それを町場で絡んできたちんぴらを追い払うみたいに無断で写真をとりやがって。
自分の立場を考えろ!
話が一段落したところで、私は
「しばき隊って怖くありませんか?全身刺青の人がいますよね」
佐藤氏は
「あれは男組。たしかに在特会への抗議は怖い人と怖い人でにらみ合っているように見えますよね」
「それからしばき隊の人が逮捕されたって聞きましたけれど」
「それ、僕の親友。三年前生活保護をもらっていたときに他のところからお金をもらっていて、それを申告し忘れていただけ。後になって修正申告したのに逮捕されたんだよ。しかも二ヶ月も拘留されて昨日釈放された。だから不当逮捕だよ」
携帯をいじっていた時とは打って変わり、いきいきし始める佐藤氏。
不当逮捕ねぇ・・・・。
だったらあなたが池袋街宣派にした写真撮影は不当しばきじゃないのかしら。
彼はもちろん在特会でも差別主義者でもない。
しかも、佐藤剛裕氏の今日の講演を自分のブログでせっせと告知していたのに。
いやーな気持ちを抱えて帰宅した後、ネットで佐藤剛裕氏やしばき隊を検索。
すると血も凍るような映像ばかりが飛び出してきた。
一人の若い女性を数人の男たちが取り囲み、無理やり顔を撮影し、更に彼女の氏名と勤務先とともにその写真をネットでさらしたり、佐藤氏が飲食店で食事中の「レイシスト」に怒鳴り込みに行ったり。
http://bit.ly/1wpXVuJ
こんな恐ろしい人間に私の仲間は写真を撮られたのか!
法要中も佐藤氏はせっせと撮影していたけれど、私の写真も撮られたか!?
写真が流出した時に出所をはっきりさせておきたかったので、ツイッターで佐藤氏に写真撮影を抗議した。
するとこんな返答が。
>佐藤剛裕 @goyou 7月14日
@nyima04 僕のレクチャーが終わった後の歓談の時に、和やかに撮らせていただいただけだと認識しております。 ご活躍されている活動家の方ですから、フリーチベット運動をしているごく近い仲間に見せるだけの記念撮影です。
?????
はぁ!?
どこが和やかじゃ!?どこが記念撮影じゃ!?
写真のことで抗議されたら、謝罪の上でデータ削除を申し出るのが普通の41歳の社会人なんじゃないの?ここに来てまだ仲間に見せる気か!?
なんでこんな嘘をつくの?
まさかとは思うけれど、本当に「和やか」だったと思っているの?そっちのほうが怖いわよ。
実は講演から間も無く、7月16日に大阪でしばき隊が8人逮捕された。
しばき隊界隈は例の「不当逮捕」の大合唱である。
なお佐藤氏本人が気にしていたけれど、
>佐藤剛裕 @goyou · 7月14日
「しばき隊の奴がチベット文化研究所で講演をやった」という事実がフリーチベット界隈に多少のインパクトをもたらしたのならよかったです。
残念だけれど、インパクトはあんまりない。
だってお客さんが10人ぐらいしか入らず、直前になって会場が変更になったぐらいだ。
しかもやっと入ってくれたお客さんの顔写真を30センチの至近距離で撮影し、嫌がらせをするなんて・・・。
チベットの街宣活動について、こんなつぶやきも。
>佐藤剛裕 @goyou · 7月14日
「チベット人の人権を守れ!中国政府はチベットから出ていけ!」という一見すると正しい主張をしていても、心の中に「在日中国人が日本から出ていけばいいのに」という感情がほんの少しでも混ざっているのなら、それはフリーチベット運動ではなく、ヘイトスピーチです。
感情・・・・。心の中は誰にも分からない。しばき隊の大好きな日本国憲法には内心に自由が謳ってあるというのに。
そんな物的証拠のない「心」の問題でしばき隊から差別主義者のレッテルを貼られて、写真をとられたり攻撃されなければならないのか。
心は見えないけれど、言葉や行動ですこしは心が垣間見える。
みんなが言うよ。しばき隊は怖いって。そんな怖い人に自分の肖像権をなげうってまで対話を試みた池袋街宣派の男性と、間近で顔写真を撮って嫌がらせで反対意見を封じ込めようとした佐藤剛裕氏。
私には佐藤氏のほうが排外主義者に見えるし、人権を軽んじているように見えるよ。
今年の流行語は「記念撮影」で決まりだね!