技術の普及は、人の想像力に依存する

日々新しいサービスや製品が登場する現代、それは技術の進歩だけが推進しているのではない。技術が普及する裏にはその用途を「ゼロ」から想像する力が必要である。

 

新しい使い方は、使ってみるまで想像しづらい

 十年一昔とはよく言ったもので、フェイスブックが登場してからまだ7年、LINEは今年で4年目です。いまや、これらが生活の一部となっている人は多いでしょう。あって当たり前になると、なかった時代が考えられない。しかし、なくて当たり前の時代は、そんなサービスが日常的になるのが想像しづらいものです。

 この変化のスピードは技術開発のスピードとして説明されることが多いですが、それだけではなさそうです。先日、「IoTの競争優位」をテーマにハーバード・ビジネス・レビューの別冊を刊行しました。本誌で今年3月にもIoT特集をやり、このテーマをさらに追ってみたいと思い企画しました。

 今回取材で多くの経営者、経営学者、そして科学者にお会いして実感したのは、新しい技術は、その用途の開発が伴って普及するという法則です。エンジンという技術開発だけでは世界は変わらず、その動力を車輪に伝え、人が入る空間とともに移動するという用途を開発したことで、いまの社会が誕生しました。電話もそうです。離れた場所にいる人と会話する世界など、電話のない時代に想像できた人はどれだけいたでしょうか。

 新しい技術の使い方をどこまで想像できるか。これが社会を変える力となるのです。

 製品や人がインターネットで繋がる技術はほぼ完成しています。それを使って、どういう価値ある用途が生まれるか。これがIoTを巡る真の競争優位になると思います。

 ハーバード・ビジネス・レビューの別冊「IoTの競争優位」の中で面白かったのが、東京大学大学院教授の暦本純一さんのお話しです。暦本先生は拡張現実(AR)の専門家ですが、いまや拡張人間(AH:Augmented Human)という概念を提唱されています。高精度のメガネをかけた医師には、体内が透けて見えるので、より高度な手術が可能になります。また、広角カメラを装着しメガネをして作業にあたる未熟練の作業員と、熟練の作業員がつながることで、未熟練の作業員でも、熟練作業員の経験や技術を使って高度な作業をこなすことができます。これを暦本先生は、人の能力(アビリティ)が繋がることから、「IoA」(Internet of Abilities)という概念で紹介されています。

 モノと人がつながるのみならず、人の能力が相互につながるとどのようなことが可能になるのか。英語が話せない人も、話せる人とつながることで、英会話ができるようになるのか。錦織選手の戦術を身につけてテニスをしたらどうなるのか。妄想はつきませんが、想像する力こそ、新しいビジネスを生み出す力であると信じます。(編集長・岩佐文夫)

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