これまでの放送

2015年11月18日(水)

同性カップル “多様な家族”を認めて

阿部
「今月(11月)5日から東京・渋谷区で始まった、同性のカップルに『結婚に相当する関係』と認める証明書の発行を受けて、NHKは同性愛や性同一性障害など、全国2,600人あまりの『LGBT』の人たちにアンケート調査を行いました。」

和久田
「その結果、『同性愛』や『両性愛』などと答えた2,300人余りのうち、『自分が住む自治体に渋谷区のような制度があれば申請したい』と答えた人が、およそ80%に上りました。」

アンケート調査は先月(10月)8日から26日まで行い、LGBTの人たちを支援する東京のNPO「LGBT法連合会」と、連携する全国50の支援団体の協力を得て、10代から70代までの2,611人、地域別ではすべての都道府県から回答が寄せられました。




回答者のうち、「同性カップル」となり得る「同性愛」「両性愛」それに「異性愛」であっても、性同一性障害で戸籍の性別によっては「同性愛」と見なされる人の数は、合わせて2,338人で、このうち自分が住む自治体に渋谷区のような制度があれば「申請したい」と答えた人は79%に上りました。
結果を分析した、LGBT法連合会アドバイザーで、国立社会保障・人口問題研究所の釜野(かまの)さおり室長は…。


国立社会保障 人口問題研究所 釜野さおり室長
「自分の周りにはいないとか、関係ないんだと思う人がいると思うが、それはたまたま知らないだけで、いつでもいるんじゃないかぐらいでいたほうがいいんじゃないかと思います。」


和久田
「今回のアンケート調査で見えてきたのは、証明書の発行という制度も含め、自分たちの存在そのものを社会に認めてほしいという当事者たちの声でした。

今回の調査では、もう1つ注目すべき点があります。
こちらです。
すべての回答者のうち、47.6%が『パートナーがいる』と回答。
そのうち半数近くはパートナーと同居している、いわば『家族』として生活していることがわかりました。
さらに、『子どもがいる』と答えた人も96人に上っていました。」

阿部
「ともに暮らしていながら、法律上の『家族』とは見なされない当事者たちは一体どんな思いで暮らしてきたのか。
今月、渋谷区と同様に同性カップルを認める取り組みを始めた、世田谷区のカップルを取材しました。」

同性カップル 多様な家族の姿

今月5日、世田谷区の庁舎に、同性カップルの宣誓に訪れた女性たちの姿がありました。
区内に住む春さんです。
女性のパートナーと暮らしていますが、家族として認められない、苦難の連続だったといいます。

春さん
「本当にいよいよこんな日が来たんだなという気持ちでいっぱい。
緊張で、きのうはよく眠れなかったので。
うれしいです。」

厳格な家庭に育った春さんは、女性を好きかもしれないという自分の気持ちにふたをして生きてきました。
結婚し子どもを産んだものの、まもなく離婚。
折れそうになった心を支えてくれたのが、同じ境遇だった今のパートナーでした。
春さんは迷いながらも、ともに暮らすことを選びました。

春さん
「世の中が自分たちを受け入れてくれるだろうと本当に思えなかったので、一緒に暮らすつもりはなかったんですけども、働きながら子どもを育てて、子どもが病気がちだったりしたので、それをパートナーがすごく親身に手伝ってくれていたので、本当に助けられたことが大きかった。」

自分たちのような家族がいることを知ってほしいと、取材に応じた春さん。
子どもが差別を受けるかもしれないと、顔は隠すことにしました。
同居して11年、子どもたちも高校生と中学生になりましたが、社会からは「家族」として扱われてきませんでした。

春さんの子どもがぜんそくの発作で病院に運ばれ、パートナーが付き添ったときのことでした。
すぐに入院が必要になりましたが、法律上の家族ではないパートナーでは、同意書にサインする資格がないと言われたのです。
学校や自治会など、地域社会との関わりの中でも、家族のことをうまく説明できないという春さん。
社会が求める姿を演じ続けなければならない毎日でした。

春さん
「ずっと隠さなければいけないもので、誰にも言えないものなんだと。
子どもにいらぬ苦労をかけたのかなという気持ちになって、気持ちがぐらつく瞬間も正直に言えばあります。」

そんな春さんたちの支えとなったのは、子どもたちの理解でした。

長男
「自分たちはそんなに、おかしい、変だと思っているわけじゃないですけど、社会的に見ると普通じゃない、認められていない感じなので、お母さんたちがいろいろ頑張っているので、僕は見守って、頑張ってほしいなと応援しています。」

そして迎えた、同性パートナーの受領証交付の日。
受領証は社会で家族として認めてもらえるよう、今後、さまざまな場面で提示していきたいと考えています。

春さん
「(区が)ちゃんとパートナーっていうふうに認めて扱ってくださるんだと思うと、すごいですね。
すごい大きな一歩だと思います。」

パートナー 麻実さん
「行政が祝福してくれるという後押しがあるから、一歩前に数める人が増えて、(存在の)可視化が進んでいくのではないか。」


同性カップル 多様な家族の姿

阿部
「今回の渋谷区や世田谷区の取り組みですが、あくまでも鍵となるのは、企業や社会が、どう受け止めるかです。」

和久田
「社会の受け止めはどう変わったのか。
企業の現場を取材しました。」

同性カップル 変わる社会の受け止め

同性パートナーシップ証明書の発行が始まった渋谷区にある、不動産仲介会社です。
「うそをついて入居したくない」という当事者の声に対応して、同性カップルであることを管理会社にあらかじめ伝えた上で交渉しています。

「同性カップルの方なんですが、ご紹介は可能でしょうか?」

これまで同性カップルと伝えて、契約が成立したケースは1割に満たない数でしたが、証明書の発行以降、少しずつ家主の対応も変化してきたといいます。

「2人入居可能と、同性カップルでも可能ということですね。」

この日は、11件のうち4件が入居可能、残りは相談に応じるという結果でした。




不動産仲介会社 角南圭社長
「変わってきた実感は現場感としてはあります。
われわれもいっそう、そういう姿勢で目の前のお客さまと一生懸命接していきたい。」



保険業界でも変化が出てきています。
東京に本社がある生命保険会社です。
全国の契約者を対象に、今月から、死亡保険金の受取人に同性パートナーも指定できるようにしました。



不正を防ぐため、同居が確認できる住民票の提出や、パートナー関係を確認する書類へのサインが条件です。
一方で、懸念も浮上してきました。




通常、死亡保険金の受け取りの際には、医療機関からは「死亡診断書」の発行を、自治体からは死亡したことを証明する書類を発行してもらわなければなりません。
しかし、慣習では死亡保険金の受取人は原則、配偶者や親族に限られてきたため、同性パートナーが申請しても断られるケースがあるのではないかというのです。


話し合いを重ねた結果、問題があれば自治体などに同行して保険金の受け取り人であることを説明するなど、サポートをすることにしました。

「保険会社として、必要であって不正な目的で使うわけではないことを、寄り添って、説明して。」

「(LGBTの人にとって)よいサービス、生命保険の商品サービスですけれども、そこをもっと磨き上げていきたいかなと。」

多様な家族の姿 社会の受け止めは

阿部
「取材した伊達記者です。
渋谷区や世田谷区の取り組みは、世の中全体に影響がありそうですね。」

伊達記者
「この取り組みがきっかけとなって、通信業界や旅行業界などでもLGBTの人たちを支援しようという動きが出ていて、全国に広がっています。

一方でこちら、NHKの調査では、『家族にLGBTであることを打ち明けた』と答えた人は半数未満、『学校や職場に打ち明けた』人は4割未満でした。」

和久田
「つまり、まだまだ周囲には打ち明けづらい環境で、周りの人も気が付いていないケースが多いということですね。」

伊達記者
「そうですね。
今後のいちばんの課題は、LGBTの人たちとは無縁だと思っている人たちが、彼らの存在に気付くことだと思います。
その上で、今回紹介したような『多様な家族のあり方』を認める社会になる必要があると思いました。」