ストーリー311(ひうらさとる他)の書評・感想

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ストーリー311 (ワイドKC キス)

マンガって凄いかもしれないって、30年生きてきて初めて思ったかもしれない。
普段、あんまりマンガを読む方ではない。というか、ほとんど読まない。時々気になるマンガ(大抵シリーズものではない)に手を出すぐらいだ。子供の頃から、マンガをほとんど読まずに育って来てしまった。
普通の人は、どこかでこういう感覚を体感するのかもしれない。あっ、マンガって、ちょっと凄いかも、って。
いや、そうでもないかもしれない。子供の頃からマンガに触れ続けている人には、僕がまさに本書に触れて感じたような、「マンガって凄いのかもしれない」という感覚は起こらないのかもしれない。冷たい水からゆっくりと温められ続けた中にいれば、熱湯になるまでの変化に気づきにくいかもしれないけど、僕みたいに、いきなり熱湯に手を突っ込んだ人間には、その熱さが衝撃を与える。そういうものかもしれない。
「言葉では、伝えられないことがある」
とてもありきたりだけど、本当にそう感じさせられた。
僕は、震災とか原発の本を、これまでも何冊も読んできた。それらは、震災当時の衝撃を僕に伝え、今も被災地で生きる人達の苦しみを僕に伝え、被災地と関わろうとしている人たちの迷いを僕に伝えてくれた。
それでも。
言葉で伝えられることには、限界がある。
とても当たり前のことだ。当たり前のことなんだけど、でも、それを『体感』する機会が、僕には生まれてこの方なかった、と言い切ってしまっていいものか自信はないけど、そう感じた。

僕が本書を読んで一番泣いた場面。その場面で描かれているセリフは、こうだ。

「持ってけ な? いいがら いいがら」

言葉による表現が、「市井の人びとの言葉」だけでは足りないことは、今僕がこのセリフを本書の中から引用した、まさにこの状況で理解してもらえることだろうと思います。言葉による表現で、このセリフが書かれていても、そして、いくらそのセリフを発した情景が言葉で説明されていても、その場面そのものを感じさせることは難しいだろう。でも、マンガなら、それができる。

さて、ここまで、本書についての具体的なことをほとんど書かずにあれこれ文章を書いて来ましたけど、一旦、本書がどんな経緯で出版に到ったのか、どんなマンガ家さんが携わっているのか、などについて触れたいと思います。
発起人は、漫画家のひうらさとる氏。何かしたい気持ちはありつつも、「一番大切なことは、被災者ではない私たちが普段通りの日常生活を送ることではないか」と考え、「私にとっての日常は漫画を描くことなのです」と思っていたひうらさとる氏。しかし、ボランティアに行っていた友人から、被災者の方々の話を漫画に出来ないか、と提案があり検討。知り合いの漫画家に声を掛けたり、ネット上で漫画を掲載するスペースを確保できたり、講談社のkiss編集部の協力を得られたりとプロジェクトは進み、こうして一冊の本になったわけです。
本書に掲載されているマンガ家さんは以下の通り。

ひうらさとる
上田倫子
うめ
おかざき真里
岡本慶子
さちみりほ
新條まゆ
末次由紀
ななじ眺
東村アキコ
樋口橘

『ましてやあなた方は、出版されるものを描かれるのでしょう
「伝える」っていうのは、すごくすごく覚悟のいることなんですよ』

ひうらさとる氏は、末次由紀氏とさちみりほ氏と共に現地入り、様々な取材をするのだけど、その中で一番心に残ったのが、「語り部」という活動をしている人の話。これは、まさに「語り部」の方にお話を伺った際の言葉なんだそうです。

感想

『あの日から、ずっと思っていました。
なにか少しでも、私たちにできることはないんだろうか…
削れてしまった地図をみて、なにかしたいと駆り立てられる気持ちは、おこがましいことなんだろうか。
悩みながら、迷いながら、この日常から、勇気を出してペンをとりたいと思います。』

ひうらさとる氏は、まえがきをこんな文章で結んでいる。
震災や原発事故で人生が変わってしまった「個人」の物語は、朝日新聞で連載中の「プロメテウスの罠」という作品でも描かれている。あの時あの場所で何が起こったのか、という大きな物語も、もちろん伝えていかなくてはいけない。しかし同時に、悩み苦しみ時に笑う「市井の人びと」の物語も、やはり僕は知りたいと思う。
本書の内容については、ほとんど触れないことにします。あなた自身で、是非読んでみてください。マンガにしか出来ない、言葉では伝えきれない「何か」が、この作品には詰まっています。

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