四面楚歌。
先日、夕方のテレビのニュースで「ストレートネック」の事を取り上げていた。
ストレートネックとは、元来ゆるく湾曲しているはずの頚椎の角度が、まっすぐに近くなっている人のことを言うらしい。とはいえ、正式な病名ではない。そういう状態を指す言葉だ。
ストレートネックになると様々な症状が現れる。
- 頭痛がする
- 肩がこる
- 頚椎症、椎間板症
- 上が向きにくい
- めまい、ふらつき感がある
- 手のしびれがある
- 寝違いを繰り返す、枕が合わない
- 逆流性食道炎、胸焼け、吐き気がする
- 自律神経失調症、うつ
と、なんだか体調不良のオンパレードである。逆に、ストレートネックであるにも関わらず自覚症状が全く無い人もいるらしい。なんだそれは。
その番組でも言われていたが、最近ストレートネックの人が増えているらしい。だが、その番組ではその根拠となる数字は提示されなかった。ただ、町の人々に「最近首が痛かったり肩がこったりしているか?」と聞いて、多くの人がYESと答える場面を放送していただけだった。
で、出された結論が「スマートフォンが普及したため、ストレートネックになる人が増えた」というものだった。
本当にそうか?
目の敵にされる新しいもの。
2007年にスティーブ・ジョブズが伝説的なプレゼンを行い、華々しくiPhoneがデビューして以降、スマートフォンとは「大画面タッチパネルによるインターフェイスを備え、インターネットに容易に接続でき、アプリによる機能拡張を可能としたポケットコンピュータ機能を持つ携帯電話」となった。
日本でも2010年代に入ってから爆発的に普及し、いまやガラケーを買おうと思ってもエントリーモデル的なものや、らくらくフォン的なものしか無い状況になっている。
往々にして、こういう新しいなにかが大きな普及を見せると、それに対する妙な危機感のようなものが生まれる。そして、それに対する謎の啓蒙活動が始まるのだ。
たしかに、歩きながらスマートフォンをいじるのは危ないし、車の運転時にいじるなんてもってのほかだ。一日中スマートフォンをいじり倒して家族と会話もしないのも問題だし、いつの間にか課金しまくって高額請求が来るのも良くない。
だが、それはスマートフォン自体が悪いのだろうか。使い方の問題でしょ? スマートフォンが普及したことによる社会病みたいな言い方をされるけど、これは節度の問題でしょ?
時代時代で新しいテクノロジーは目の敵にされてきた。たとえば公衆電話だ。いまでは殆ど見かけなくなってしまったが、家に電話がない時代は公衆電話は貴重な通信手段だった。
実は、昔の公衆電話は「1回10円」だった。つまり、10円払えばいつまでも電話できたのだ。で、なにが起きたかというと長電話である。家に電話がないので、公衆電話に行列が出来ることも多かった。「長電話をすると頭が悪くなる」という風説が流布され、それを裏付ける研究結果が示されることもあった。結局、この長電話問題は10円で話せる時間を3分に区切ることで解決した。
テレビもそうだ。街頭テレビの時代から一家に一台レベルで普及を果たすにつれ、テレビ番組の放送時間もどんどん伸びていった。視聴率40〜50%を超える番組も数多く生まれ、やがてテレビに対する反対運動のようなものが生まれる。
社会評論家である大宅壮一の生んだ流行語「一億総白痴化」はその最たるものだ。いわゆる「テレビばっかり見てると馬鹿になるぞ」である。この流行語が生まれた1950年代は、テレビは書物に対するカウンターカルチャーのようなものだった。このテレビ排斥運動じみたものには、あの松本清張も参加している。
80年代のファミコンは、子供が夢中になる「ゲーム」が主役だっただけに、より一層の問題として認識された。「ファミコンばっかりやってないで勉強しなさい」とは自分もよく言われたセリフではある。
Trust no one
一つだけ確実に言えるのは、メディアなどで「〜といわれています」と言っていたからといって、簡単に信じるのは良くないということだ。
冒頭のストレートネックの話に戻るが、そもそもそれが本当にスマートフォンを使っている事によって引き起こされたものなのか、その因果関係をはっきりさせずに、その後の話を進めてしまうのは本来なら無理があるはずなのだ。
ストレートネックを取り上げた番組は、その後話をデジタルデトックスという現象に繋げ、デジタル機器を絶対に使わないツアーがありますよ〜という話に持って行った。全体の放送時間からすれば、そのツアーの内容紹介のほうが長かった。これ、このツアーの宣伝なんじゃないの?
だが、あの番組を見た人は「ああ、スマホの使いすぎで首がおかしくなるのね。そういや自分も肩がこるわ」などと思う。世の中、肩がこらない人はかなりの少数派だ。厚生労働省の調査によれば、男性の自覚症状で肩こりは2位。女性は1位である。
血液型性格診断と同じで、こういう「誰にでもある症状を自分だけのものと思う」現象をバーナム効果という。超能力者や霊媒師、占い師などはこれを利用してくるのだ。例えば「貴方は子供の頃とても大切なものをなくしましたね?」などと言って。
人類の敵は、テレビでもインターネットでも、ましてやスマートフォンでもない。こういう心理を利用して人を騙そうとする浅ましさである。