政策展開の柱の一つとして「分配」をしっかりと位置づけたことは歓迎する。しかし、税・財政政策を通じて政府が目指すべき分配は、けっしてバラマキではない。

 安倍政権が打ち出した「1億総活躍社会」の緊急対策と、それに盛り込まれそうな低年金者への給付金のことだ。

 緊急対策の副題は「成長と分配の好循環の形成に向けて」。法人減税や規制緩和による経済成長を重視してきた政権が、視野を広げて「分配」を掲げた点が目を引く。

 その具体策ということなのか、公的年金受給者の4人に1人、約1千万人を対象に、一人あたり3万円を配るようだ。

 年金が少ない人は、確かに助かるだろう。ただ、そうした人が皆、貧しいとは限らない。不動産や金融資産を持つなど、所得や資産を巡る状況は一人ひとり異なるからだ。

 そうした事情にできるだけきめ細かく対応し、社会保障を中心とする予算や税制を工夫して、生活が苦しい人を支える。そんな仕組み作りこそが、政府が考えるべき分配政策である。

 深刻な財政難のなかで、総額3千億円は貴重な財源だ。今年度の税収が見込みより増えそうな分を充て、国債の追加発行は避けつつ補正予算に計上できるとの算段のようだが、なぜ一時金の配布なのか。現役組にも無業や非正規の人など支援が必要な人は少なくないのに、なぜ年金の受給者なのか。

 足元の景気は2四半期続けてマイナス成長とさえない。来年夏には参院選がある。お年寄りは投票率が高い……。そう勘ぐられても仕方あるまい。

 緊急対策の副題は、安倍首相の思いを踏まえたという。

 確かに、分配のゆがみは成長の足かせとなる。国内総生産の6割をしめる個人消費にしても、一部の高所得層だけで引っ張るのは難しく、中堅・低所得層の財布のひもがゆるんで初めて盛り上がる。

 政権も「分配」にかかわる政策が手つかずだったわけではない。本来は労使で決めるべき賃金交渉に口を出し、賃上げを後押ししてきたのも、労働者への分配促進とは言えるだろう。

 ただ、デフレ脱却と経済成長に向けた政策総動員をうたう中で、場当たり的な対応が目についたのも否定できまい。

 「分配がうまくいっていない社会は成長も難しい」「成長の成果を配分し、次の成長につなげる」。緊急対策の副題に込めたというそんな考えにふさわしい、本格的な対策を求める。