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難民問題:「受け入れ限界」独政府迷走、地方が混乱

毎日新聞 2015年11月02日 20時51分

 中東などから欧州に難民らが押し寄せている問題は、ドイツの地方都市にとって重い負担となっている。「受け入れ限界」との世論が高まる中、メルケル首相は1日、難民らの入国を管理するため、国境地帯に簡易入国審査を行うトランジットゾーン設置を目指す方針を固めた。だが政府の迷走は、難民らに衣食住を提供する地方自治体の現場にも混乱をもたらしている。【インメンディンゲン(ドイツ南部)で中西啓介】

 スイス国境近く南部バーデン・ビュルテンベルク州インメンディンゲンには9月末、軍の兵舎だった建物に難民約1000人が収容された。別の施設にも約200人が収容され、人口約6100人の町に動揺が広がった。

 「州は当初、難民の数を500人と言ったが即座に1000人と訂正した。腹立たしい話で、州を完全には信用できない」。マルクス・フッガー町長(44)は難民割り当てを計画的に行えない州当局への不満を口にする。

 同州は昨年2万6000人だった難民を今年は10万5000人受け入れる見込みだ。軍施設跡を緊急難民収容施設として利用することも州が決めた。だが、ここには来年以降、独自動車大手ダイムラーの研究施設が誘致される。200人以上の雇用を生む研究施設は町にとって「ベッドタウンから産業の町へ」という希望の象徴だ。フッガー町長は「州には難民向けの利用は来年3月末までという期限を守ってもらう」と何度も口にした。

 町中心部から約1.5キロの山中にある難民収容施設内には託児施設もあり、シリアやアフガニスタンなどから来た難民の子供たち10人ほどが母親や町民のボランティアらと遊んでいた。施設長で州職員のアヒム・ラーバーさん(51)は「今後400人分のベッドを新たに設置し、最大1400人収容する。仮設トイレも快適なものに交換する」と説明する。期限について尋ねると、「州とダイムラーによる交渉が行われる可能性もあり、明言できない」と答えた。

 町は現在の割り当てに加え、約100人を引き受けるため41万ユーロ(約5400万円)で新たな建物も購入した。「州からの費用補充までには時間がかかる。小さな町には大きな金額だ」とフッガー町長。住民の間では難民政策への批判的な声が増え、負担が限界に達しているという。

 世論の高まりを受け、メルケル首相は他の欧州諸国に比べて高水準だった難民支援策の改革に着手。10月に施行された難民申請迅速化法では、現金支給を現物支給に切り替え、難民不認定者の国外退去促進を定めた。また、今月1日には、オーストリアとの国境地帯にトランジットゾーンを設置して難民らの簡易入国審査実施を目指す方針で姉妹政党キリスト教社会同盟のゼーホーファー党首と合意した。だが、連立与党の社会民主党はこれに反対しており、先行きは不透明だ。

 独政府が「難民にとって魅力のない国」(独メディア)への転換を図ることで、難民らの移動経路になっているギリシャやバルカン半島の国には新たな負担が生じる可能性も出ている。

 一方、独国内でも既に長期的な影響を懸念する声がある。フッガー町長は「地方では教員確保が課題だった。今後、難民やその子供の教育のため都市部で教員採用が増えるのは確実で、地方での人材枯渇は目に見えている」と不安を訴えた。

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