美の壺・選「箸置き」 2015.11.22


(テーマ音楽)う〜ん…うん。
お…これなんか落ち着かないね。
お…。
なんだこの箸生きてるみたいじゃないか。
ふぅ…もう食欲なくなっちゃったな。
おっ!痛っ!あ〜痛っ!ふぅ…。
なんか安全じゃないんだよな。
あそうだ!箸置きがないんだよ。
そう箸置きです。
小さくても箸をしっかり受け止めてくれる頼もしい存在。
この小ぶりなサイズに思わず惹かれる人も多いんです。
俳優の古田新太さんも箸置きの愛好家。
この20年晩酌のお供に欠かせないそうです。
どの辺がお気に入りなのでしょうか。
やっぱ箸置きないと箸を置くとこに困りません?こうはしないでしょ?膨大なコレクションの持ち主も。
滋賀県に住む…およそ1,200種類にも上る箸置きを集めています。
どれも二つとない個性的なものばかり。
一つ一つが美術品のようです。
花の箸置きだけでも花をかたどったものから描いたものまで実にバリエーション豊か。
おめでたいひょうたん型も。
そして箸置きであることを忘れてしまうほど愛らしいものまで。
まあいろいろとりどりありますので見ていて楽しい。
現在私たちが使っている箸置きのルーツはこの神社で見ることができます。
毎朝神に献上される食事神饌の中で箸置きは大切な役割を果たしています。
お供えが終わった神饌を見せて頂きました。
米や野菜の傍らに箸。
その下に箸置き。
この神社では1,000年以上前から箸は土器の箸置きにのせているといいます。
箸を真ん中でしっかりと支える形。
耳に似ていることから耳土器とも呼ばれます。
これがいにしえの姿。
かつては朝廷の人々もこうした箸置きを使っていたとも言われています。
今のような箸の先をのせるタイプが普及したのは明治のころのようです。
箸を扱う所作まで美しく見せてくれる箸置き。
小さいけれど日本の伝統や独特の美しさが詰まったその魅力を今日はひもといていきましょう。
うっかりしてました。
実は私ね随分前からね箸置き集めてるんですよ。
ほ〜らきれいでしょ!これなんてね気に入ってるんですよ。
松竹梅の松。
縁起がいいんですよ。
かわいいでしょ?俳優の古田新太さん。
古田さんは50種類以上のマイ箸置きを持つ愛好家。
時間ができると箸置きを売る店をふらりと訪れます。
これいいっすね。
あられ。
このピアノもかわいいですね。
いいですねふざけてて。
どうやら古田さんの箸置きの選び方面白そうです。
これシャケの切り身です。
シャケの切り身。
ドラマ「あまちゃん」の太巻さん役をはじめコミカルな演技が人気の古田さん。
集めている箸置きにもユーモアあふれるセンスが光っています。
今日最初の壺。
古田さんが箸置きを使うようになったのは20代半ば。
アパートにテーブルがなく食事は畳の上でした。
雑誌のコラムにこんなことを書いています。
必要に迫られてテーブルとかちゃぶ台を買わずにこれを買ったわけです。
そうするとよく雑貨屋とか行くといろんなのがコースターも箸置きも売っててあこれかわいいなとかっていうようなことで集めだしましたね。
箸置きを愛用することおよそ20年。
古田さんにとっておきの楽しみ方を教えてもらいました。
まずは枝豆の箸置き。
これを使うのは?そう枝豆が出てくる時。
お皿の中と外にある枝豆の共演です。
枝豆の箸置きがあると楽しいじゃないですか。
別にこれつまんで食べるとかボケはしないんですけどね。
続いてレンコンの箸置き。
使うのは?もうお分かりですよね。
レンコンを使った料理の時。
古田さんレンコンが大好きなんですって。
レンコンのきんぴらとか食う時に「ヒッヒッヒッヒッ」とか言いながらこれを持ってきて。
そしてなんと割り箸型の箸置き。
これは?うどんとか食う時に立ち食いうどんの雰囲気を自分に醸し出すために。
お箸を置いてみると…なるほど。
料理に合わせて選び食卓をユーモラスに演出する古田流の楽しみ方です。
自分のうちを。
そのための小道具だったりする。
だからコースター敷いて酒作って料理持ってきて箸置き選んでこれぐらいの…選び方一つで食事が一層楽しくなる。
箸置きは小さくても大きな力を発揮してくれる道具です。
では食卓で会話が進む箸置きとは?それを追い求めたのが美食家にして陶芸家の北大路魯山人です。
銀座にある美術店の黒田佳雄さん。
祖父が魯山人とつきあいがありました。
魯山人にとって箸置きとは?魯山人さんは料亭というものをエンターテインメントといいますか芸術空間と見ていたというふうに私は思ってるんですけどもその中の器特に器は魯山人にとってとても大切な物でしたから主役ではないんですけれども箸置きにも非常にこだわりを持って作られましたし使われたと思ってます。
魯山人は器だけでなく箸置きまで作りました。
昭和初期各界の名士が集う高級料亭を開いたころだといいます。
料理はもちろん魯山人が作った器やしつらいも大評判。
もてなしの一つとして自作の箸置きにも趣向を凝らしました。
よく作ったのが魚の形をしたもの。
魯山人は訪れた客一人一人に同じ題材でも色や形が違う箸置きを用意したと言われています。
会話のきっかけにしてもらうためです。
代表的なのがこの鯛の箸置き。
ギョロッとした大きな目丸みのある体。
愛嬌たっぷりです。
この鯛食卓に置くと更に生き生きします。
その視線をたどっていくと…。
料理を狙っているように見えませんか?美食家たちもほほ笑みながら会話を弾ませたに違いありません。
更に魯山人らしいのがこちら。
同じ魚型の箸置きでも箸をのせる場所が分かりにくいですよね。
なぜ作ったのでしょうか。
お行儀良くということを考えると真ん中へ普通は置かれると思います。
それはこの箸置きは裏切るわけですね。
こういったその面白み。
高貴な方がそういうふうにしてしまった。
まあちょっとクスッと笑ってというような場面も魯山人は想定していたかもしれません。
そうでなければこれは作らなかったと思います。
箸をどこにのせればいいのか考えているうちに会話が生まれ箸が転がってしまい笑いが生まれる。
もてなしを極めた魯山人のおちゃめな遊び心です。
食事の最中はもちろん次の料理を待って箸を休めておく間も客を飽きさせない。
箸置きは食事の席を盛り上げる大切なアイテムだったんですね。
あこんなのもオススメなんですよ。
ほらこれね穴が開いててね箸を通せるようになってるんです。
ほら。
箸がバラバラにならないように持ち運びにも便利です。
それとね…あ〜!いりこそっくりの箸置き。
これお皿にのってたら食べちゃいますよね。
今度妻にねいたずらしようと思いますこれで。
京焼作家の澤村陶哉さん。
祖父の代からおよそ100年名だたる料亭に向けて箸置きを作っています。
澤村さんの作る陶器の箸置き。
縦5.5センチ横2センチの中に小さな小さな季節の花や葉がびっしり。
ミクロな技が光ります。
端午の節句に使う…たった4センチ四方。
そして春の到来を告げる…裏返すと…。
足まで描かれています。
小さいからはしょるということはよくないと。
本当の物を見て小さく縮小してもそのように作ることで瞬間…澤村さんは更に使う人から愛される姿にするためある工夫を凝らしています。
今日二つ目の壺。
澤村さんは箸置き作りに実に手間ひまをかけています。
まずはデザイン画からスタート。
本物のタケノコをモデルに細部を漏らさず写しこれを基に型を作ります。
ご覧下さい。
根元にある凸凹や皮に入った線まで。
細やかです。
そこに土を隙間なくムラなく詰め型の凹凸をきれいに写し取ります。
8時間かけて素焼きをすると本物そっくりの小さなタケノコの形が出来上がります。
いよいよ仕上げ。
純金です。
タケノコの皮の味わいを出すため茶色で下絵を施した上に金を丁寧に塗っていきます。
出っ張りも一つ一つ色付けです。
長さ6センチ。
春を感じさせる美しいタケノコが生まれました。
ところがこの箸置き実物のタケノコと大きく異なる部分があるのをお分かりでしょうか。
それは先っぽの緑色。
京都の料亭で使うのは土の下から掘り起こしたまだ若いタケノコ。
先っぽは茶色です。
緑になるのはもっと成長したものです。
しかし澤村さんはそれを承知で先っぽを緑にしました。
プロの料理人からすると「この先の青いタケノコは使いません」と言われたことがあったんですが「それは分かります」と。
ただ土の中から出たての茶色いままのタケノコですとねどうも愛想がないというかねかわいらしさに欠けるというふうなことで…確かに箸置きを食卓の上に置くと小さな緑が鮮やかに映えます。
澤村さんの小さなこだわりが光っています。
こちらは亀。
4本の足で立つ様子や顔をぬっと突き出した感じは実にリアルです。
澤村さんがアクセントをつけたのは甲羅。
緑に紫を組み合わせ華やかで気品のある姿に仕上げました。
箸置きを知り尽くした人だけが作り出せる輝きです。
箸置きがない時は箸袋でも作れますよ。
今日は特別に一つ教えましょう。
箸袋をまず真ん中から一つ折りますね。
更に折りますよ。
山折り谷折り半分に折ってほら出来ました!クジャクです。
もちろん箸ものりますよ。
ほら。
これね外国の友人の前でやるとすごく喜ぶんですよ。
この間なんてフランス人の女性の前でやったらもうウケてウケて大変でした。
・宅配便で〜す。
あなんだここからがいいとこだったのに。
もう!は〜い!最後は意外な物を箸置きにしますよ。
夏海辺で見つけた小さな物。
そう美しい貝殻。
水ナスを使った夏らしい料理にぴったり。
食卓を涼しげに演出してくれます。
秋は本物の菊の花を箸置きに。
自然の物だけが醸し出す優しい風情が食卓を包み込んでくれます。
自然にある物を季節に合わせそのまま箸置きとして使う。
そんなもてなしをする日本料理店があります。
四季の物を料理として出すのは当たり前なんですけどもいろいろしつらいからあとこういうお花もそうですし箸置きでも四季を出そうという試みで。
正月には松やくわいを箸置きに。
より季節を感じさせる究極のおもてなしです。
今日最後の壺。
骨董の世界にもちょっと変わった物を箸置きに見立てるという粋な楽しみ方があります。
古美術を味わう達人中の達人勝見充男さん。
どんな物を箸置きに使うのか聞いてみました。
なんと平安時代の物とされる…器を重ねて焼く時に器同士の間に置き焼き損じを防ぐために使われました。
勝見さんにとっては立派な箸置きになります。
本来は何かに使ってた物なんだけどもそれを箸置きに見立てて使うと。
これを箸置きに使えばいいなというふうに考えたらちょっとワクワクしたりとかありますよね。
一見食卓と全く関係ないいにしえの道具も箸をのせてみると不思議と味わい深く見えます。
取り合わせる器によって更に世界が広がります。
こちらは同じ平安時代の杯。
徳利や箸を竹の物にするとまるではるか昔の宴席にいるかのよう。
こちらはおよそ400年以上前の李朝の徳利と杯に古伊万里の皿。
箸置きに選んだのは赤い柄の入った香合です。
香合とは中にお香を入れる茶道具。
勝見さんはそこに塩昆布や香辛料を入れて酒のつまみに。
小粋な演出に酒の席が一層楽しくなりそうです。
そしてもう一つとっておきの見立てがあります。
陶磁器のかけら陶片を箸置きに使うのです。
焼き損じなどで窯場に残されていたかけら。
室町時代など古いものばかりです。
箸置きに合う大きさや形で模様や色に見どころのあるものを探します。
そしてそのままの姿で使うのが勝見さん流の楽しみ方です。
風炉と呼ばれる湯を沸かす道具で欠けてしまった物。
秋茶の湯ではそうした物を茶会の席に上げ趣あるわびた姿を味わう伝統があります。
よく見るとかけらにも独特の味わいがあります。
それを箸置きとして食卓に用いて色や柄からさまざまな想像を巡らせる。
これが陶片の箸置きの楽しみです。
古い舟板の上に桃山時代の唐津の陶片。
古伊万里のそば猪口と合わせます。
意外な箸置き一つで食卓の表情は無限の広がりを見せてくれるのです。
古い友人からの贈り物です。
あれ?これ箸置きだ。
私が箸置きコレクターだって知っててこんなどうってこともない箸置き送ってきてどういうつもりだ?あいつ。
うん?おやおや?手紙も入ってますね。
「旅先ですてきな箸置きを見つけたので送ります。
箸置きを同封したケースの中に入れてみて下さい」。
うん?う〜ん?あ?こう入れて最後こうすると…あ花になった!「お互い子供も大きくなり一緒に家で食事をすることも少なくなりましたが家族がそろった時にみんなでこの箸置きを使って下さい。
きっと話にも花が咲くことでしょう」。
う〜ん…。
さすが我が友。
一本取られました。
あ〜かわいいなこれ。
人類と共に5,000年歩んできた生物。
2015/11/22(日) 23:00〜23:30
NHKEテレ1大阪
美の壺・選「箸置き」[字]

身近なテーマを中心に、美術鑑賞を3つのツボでわかりやすく指南する新感覚美術番組。今回は「箸置き」。案内役:草刈正雄

詳細情報
番組内容
日本の食卓。決して主役にはならないが、遊び心や、もてなしの思いまで込められた小さなもの…。それが「箸置き」。今回は、俳優の古田新太さんが愛好家として登場!思わず笑みがこぼれる、古田流・箸置きの楽しみ方とは? 名だたる料亭にむけて箸置きを作る京焼き作家が、使う人の目をひきつけるために凝らす工夫とは?アイデア一つで意外なものも箸置きに!?小さい中にも魅力がぎっしり詰まった、その美の秘密を解き明かす。
出演者
【ゲスト】古田新太,【出演】草刈正雄,【語り】礒野佑子

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
情報/ワイドショー – 暮らし・住まい
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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