安倍首相が最低賃金を年3%程度ずつ引き上げて、時給1千円を目指す方針を掲げた。26日に発表された「1億総活躍社会」のための緊急対策で柱の一つになっている。

 自身の掲げた「名目GDP600兆円」の目標に合わせて、賃金も底上げし、個人消費を増やすことで経済成長を後押しするとの考えだ。

 だが、最低賃金の底上げは成長目標がどうあれ取り組まなければならない課題だ。「最低賃金1千円」はかつて民主党政権も掲げた政策でもある。どうすれば実現できるのか、働く人と職場の現実を踏まえて有効な手立てを講じてほしい。

 最低賃金引き上げの目標を掲げた以上、それが実現するよう努めることは政府の役割である。

 日本の最低賃金は現在、全国平均で時給798円。1日8時間、週5日働いても年収150万円程度にとどまる。

 国際的に見ても、日本円に換算して約1200円を超えるイギリスやフランスなどと比べて見劣りする水準だ。

 最低賃金が低水準にとどまったことで、地域によっては、フルタイムで働いても月収が生活保護費を下回ることが問題となった経緯もある。法改正がされて「逆転現象」が解消されたのは、最近のことだ。

 非正社員は働く人の4割を占める。その人たちも、普通に働けば安定した生活ができるようにする。「時給1千円」をそのために最低限必要な水準と位置づけて、着実に底上げに取り組んでほしい。

 引き上げを実現するには、経営環境の厳しい中小・零細企業が、引き上げられるようにすることが欠かせない。

 緊急対策でも、事業者の生産性を高めて経営を安定させるための支援や、大企業と下請けの関係など取引条件の改善を図ることがうたわれている。

 いずれもこれまで必要とされながら、十分に成果が上がってこなかった課題だ。どうすれば克服できるのか、政府は知恵を絞ってほしい。

 日本の最低賃金は、厚生労働省の審議会が示した目安をもとに都道府県ごとに決める仕組みだ。協議は労働者側、使用者側の代表らによって行われるが、国の審議会は非公開だ。

 今のやり方では、引き上げる数字の根拠が分からないままになっている。この機会に、開かれた議論のあり方を考えてみてはどうだろうか。この問題を広く共有する一助にはなるはずである。