フィリピンシブヤン海。
一人の男性が70年ぶりに訪れていました。
叫んだのはこの海で亡くなった親友の名前です。
・「海行かば」太平洋戦争末期。
男性は戦艦武蔵の乗組員でした。
自分だけが生き残ってしまった。
これまでずっと後ろめたさを感じてきました。
世界最大の戦艦だった…その存在は極秘とされ沈没した詳しい位置も分かっていませんでした。
それが戦後70年を迎えた今年3月。
アメリカの資産家が行った調査によってついに発見されたのです。
海底に沈む武蔵の姿は乗組員たちの心を揺さぶりました。
親友を亡くした乗組員。
これまで秘めてきた記憶を初めて語りました。
戦闘の最前線にいた乗組員。
明かしたのは命が使い捨てにされた戦場の光景でした。
武蔵が沈んだ10月24日。
慰霊祭が行われました。
よみがえるあの日の記憶。
封印されてきた戦艦武蔵の悲劇に迫ります。
戦艦武蔵を建造した三菱重工長崎造船所。
資料館に武蔵の模型が展示されています。
全長263メートル。
40キロ先まで届く世界最大の主砲を搭載。
旧日本海軍の最高機密でした。
東南アジアブルネイの沖合で撮影された武蔵の写真です。
船全体を写したものはこれ以外ほとんど残っていません。
どう戦いどう沈んだのか。
全貌は明らかにされてきませんでした。
戦後乗組員たちの多くも武蔵について口を閉ざしてきました。
あの日の戦闘で自分は生き残りすぐ隣にいた親友は命を落としました。
16歳で武蔵の乗組員になった早川さん。
そこで出会ったのが同い年の桜井通司さんでした。
早川さんは桜井さんが亡くなった時の事を誰にも語ってきませんでした。
(早川)言葉では表現できないね。
その心を強く揺さぶったのが海底で発見された武蔵の映像でした。
「幼いながら今軍籍に身を投じて近き将来米英撃滅の決戦場にはせ参じるのだ」。
サイパンが陥落した昭和19年。
戦況が悪化する中少年兵が次々と戦場に送り込まれていました。
16歳になった早川さんは気象を観測する任務で武蔵に配属されました。
桜井さんと2人世界最大の戦艦に乗れた事に心躍らせていました。
昭和19年10月。
フィリピンに上陸したアメリカ軍を撃退するため武蔵に出撃命令が下りました。
そして10月24日。
アメリカの航空機部隊と遭遇。
戦闘が始まりました。
設計図や証言を基に再現したCGです。
早川さんと桜井さんは武蔵の中央部にあった気象室にいました。
爆風で部屋の扉が開かないよう交代で押さえていました。
落ちたのはここの…通路のここ。
桜井さんが扉を押さえていた時部屋のすぐ外で爆弾がさく裂しました。
まだ16歳だった桜井さん。
命は一瞬で奪われました。
武蔵を襲っていたのは162機の航空機。
アメリカは総力をつぎ込んでいました。
攻撃に参加したパイロットが見つかり初めて取材できる事になりました。
アメリカが武蔵をどう攻撃したのか詳しく語りました。
まず上空から目にした武蔵に衝撃を受けたといいます。
セントジョンさんたちは対空砲火をくぐり抜けるため急降下で武蔵に接近魚雷を投下しました。
世界最長の射程距離を誇った武蔵の主砲。
しかし接近する航空機にはほとんど役に立ちませんでした。
武蔵の甲板で応戦していたのは機銃でした。
そこで何が起きていたのか。
91歳の伊藤信夫さん。
機銃員でした。
これまで伊藤さんも武蔵での戦闘についてほとんど語ってきませんでした。
目にした光景があまりに無残だったからだといいます。
急降下してきた3機の爆撃機。
伊藤さんたちにまっすぐ向かってきました。
次々と倒れる仲間たち。
別の機銃員がすぐに補充されまた死にました。
70年間封印してきた武蔵の現実です。
伊藤さんは脳梗塞の後遺症で左半身が思うように動きません。
それが武蔵が見つかった今年。
10年以上参加していなかった慰霊祭に行きたいと娘に伝えました。
伊藤さんは歩く練習を始めました。
最近武蔵で直面したある光景を夢に見るようになっていました。
隣で重傷を負ったもののまだ息があった仲間。
伊藤さんは戦闘の邪魔になると機銃の下に投げ下ろしました。
10月24日。
戦艦武蔵が沈んだ日に行われた慰霊祭です。
(ラッパ)伊藤さんは静かに手を合わせ続けていました。
同い年の親友を亡くした…武蔵が沈んだフィリピンの海を戦後初めて訪ねました。
武蔵の発見をきっかけに桜井さんへの思いが強くなっていました。
早川さんにはずっと心残りがありました。
40年前桜井さんの遺族に宛てて書いた一通の手紙です。
遺族に会って桜井さんの最期を伝えたいと思っていましたが宛先不明で届きませんでした。
早川さんは私たちに遺族を探してほしいと伝えてきました。
こんにちは。
今月初め私たちは早川さんのもとを再び訪ねました。
桜井さんのご遺族が栃木にいらっしゃったんですね。
はい見つかりまして…。
本当?生存する乗組員たちの情報を手がかりに桜井さんの遺族が見つかったのです。
じゃもう90?
(取材者)そうですね。
へえ〜。
(取材者)ただお兄さんがお体がやっぱり悪くて…。
桜井さんの兄は認知症で会う事は難しいと家族から伝えられました。
遺族と話す事はかなわなかった早川さん。
桜井さんの墓の場所を教えてもらいました。
戦後70年。
友への思いを一人抱えようやくたどりつきました。
早川さんは墓参りのあと遺族に渡そうと思っていた手紙の封を開けました。
「朝起きて夜寝るまで2人一緒で船の中を駆け巡りました」。
「顔まで似ていたので会う人々から声をかけられかわいがられました。
今にして思えば戦場に来ているのだという気持ちなど2人にはまるっきりありませんでした」。
つづられていたのは待ち受ける運命を知らない2人の姿でした。
語られてこなかった戦艦武蔵の悲劇。
乗組員たちはよみがえった記憶と向き合い祈り続けています。
2015/11/23(月) 15:50〜16:20
NHK総合1・神戸
NEXT 未来のために「よみがえる記憶〜戦艦武蔵 知られざる悲劇〜」[字][再]
フィリピンで発見された戦艦武蔵。戦後、武蔵で繰り広げられた戦闘について多くを語ってこなかった元乗組員が封印した記憶と向き合い始めている。知られざる武蔵の悲劇とは
詳細情報
番組内容
今年、フィリピンの海底で戦艦武蔵が発見された。昭和19年10月24日、米軍の猛攻を受け1000人以上の犠牲者を出して沈んだ武蔵。これまで多くの元乗組員は戦闘の詳細について多くを語らず、悲惨な記憶をずっと心の中に封印してきた。戦後70年の節目に武蔵が発見されたことを受け、よみがえったあの日の記憶。心を揺さぶられ、語り始めた彼らの証言から浮かび上がる、知られざる武蔵の悲劇を伝える。
出演者
【語り】兼清麻美
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
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