クローズアップ現代「シリーズ 瀬戸際の温暖化対策(1)世界は一つになれるか」 2015.11.26


相次ぐ異常気象。
地球温暖化の脅威が止まりません。
産業革命以降0.85度上昇した地球の平均気温。
最悪のシミュレーションでは今世紀末には、最大5.4度上昇。
飢餓やマラリアがまん延し海面上昇の被害が東京にも押し寄せる壮絶な世界です。
これまで各国は温室効果ガスの排出削減に向けた合意を目指してきましたが先進国と途上国の利害が対立。

人類の危機、地球温暖化を食い止めることはできるのか。
来週開幕する国際会議COP21の行方を二夜連続で展望します。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
二酸化炭素などのいわゆる温室効果ガスの排出は今も増え続けています。
このままでは地球の気象や気候に取り返しのつかない影響が生じる可能性が高まる。
温暖化への強い危機感から世界は産業革命前からの温度上昇を2度未満に抑えるという共通の目標を目指し、来週パリで温暖化対策を話し合う国連の会議COP21に臨みます。
きょうとあすはシリーズでどうすれば温度上昇を2度未満に抑える道筋を作れるのか考えていきます。
最近、異常気象を実感することが多くなってきましたがこれまで地球の平均気温は0.85度上昇しています。
こちらは現在の二酸化炭素排出量です。
排出量が最も多いのが中国。
続いてアメリカ3位、インドです。
温暖化対策の枠組みとしては1997年に採択された京都議定書がありますが議定書に基づいて削減義務が課されていたのは当時、排出量が多かった青色の先進国のみ。
全体の2割程度にとどまりました。
今回のパリでの会議で温暖化対策の新たな枠組みを先進国だけでなく、途上国も加わって合意できるのかが注目されています。
会議に先立ち、これまでその途上国も含めた170か国以上が温室効果ガスの削減目標を提出しています。
多くの国が削減目標を出したという点では大きな前進です。
ところが、仮にすべての国が目標を達成したとしても地球の平均気温は今世紀末までに最大で3.5度上昇する可能性があるという試算が国連環境計画から出されるなど決して十分ではありません。
シリーズ1回目の今夜は中国とインドの動きです。
どちらもこれまでは温暖化の最大の責任は先進国にあるとし温暖化対策よりも自国の経済成長を優先させてきました。
まず最初は姿勢を大きく変えた中国です。

ことし9月に行われた米中首脳会談。
習近平国家主席は排出量が世界2位のアメリカと温暖化対策で協力していくことを高らかに宣言しました。

中国は、6月COP21に向けて二酸化炭素の削減目標を国連に提出しました。
その目標は2030年ごろまでを国全体の排出量のピークとしその後、減少に転じさせるというものです。
経済成長に伴って排出量が増え続けてきた中国が減少の具体的な時期を示したのです。

これまで削減に後ろ向きだった中国がなぜ大きくかじを切ったのか?そこには、中国が抱える国内事情があります。
中国東北部の瀋陽で、集合住宅の暖房を管理している男性です。
朝早くから、大量の石炭をボイラーにくべています。

石炭は、すすや二酸化炭素を多く出す燃料ですが価格が安いため広く利用されています。
しかし、深刻な大気汚染に人々は悲鳴を上げています。

大気汚染対策を求める国民の声に応えていかざるをえなくなった中国政府。
この大気汚染対策が温暖化対策にも直結することから排出削減に取り組む姿勢を強く打ち出すようになったのです。

北京市環境保護局には査察チームが結成されました。

この日は年間でおよそ9万トンの石炭を消費する工場を抜き打ち検査しました。
排出基準を満たしているか徹底的にチェックします。

エネルギー効率の悪い老朽化した工場は次々と廃止。
爆破の様子を大々的にテレビで伝え二酸化炭素の排出削減に取り組む姿勢を積極的にアピールしています。
中国が政策を転換した理由は国内事情だけではありません。
これまでのCOPでは中国の姿勢は後ろ向きだとたびたび批判されてきました。
大国として存在感を示したい中国は、国際社会から求められる役割を無視できなくなったのです。

温暖化対策に取り組む姿勢を内外に示そうと南部の国際都市・深をエコモデル都市に指定しました。
バスやタクシーを電気自動車やハイブリッド車に切り替えています。
全国に先駆けて排出量取引所も開設しました。
二酸化炭素の排出量を決められた目標以下に抑えた企業は余った分を目標が達成できない企業に売却できます。
排出量を削減すればその分、利益を生む仕組みです。
排出量の取り引きはまだ、それほど多くありませんが省エネや太陽光パネルの設置といった企業の努力も始まっています。

世界の二酸化炭素の4分の1を排出する中国。
削減の目標は、まだまだ不十分との批判もありますがその姿勢の変化はCOPの議論に影響を与えそうです。

今夜は温暖化に関する国際交渉にお詳しい、地球環境戦略研究機関の田村堅太郎さんです。
中国はどう出てくるのか、とりわけ注目されるわけですけれども、これまで出した、その目標というのは、2030年までに、温室効果ガスの排出を最大にして、そこから下げていくということと、もう一つは、2030年までに、2005年比で、GDP当たり、60%から65%減らすというこれです、目標、非常に分かりにくい目標で、これはどれほど野心的なもの、本気度というのをどう捉えたらいいんでしょうか?
まず、ピークアウトに関しましては、2030年までという具体的な時期を区切って発表したことは、対外的に非常に大きいことだと思っております。
ただ温暖化、気温上昇を2度に抑える、食い止めるためには、なるべく早い時期、しかも、なるべく低い排出レベルで、ピークアウトしてもらわないといけないということがあります。
実際、中国国内でもピークアウトする時期を、いかに前倒しできるかという議論が進んでいます。
ですので。

合意をとにかくもう少し早く持ってきたほうがいいんではないかという声もあるわけですね。
はい。
そして、一方で、この60%から65%、GDP当たり減らすという、こちらの目標は、どうなんでしょうか?
これも、今、取ろうとしている、取っている対策を取れば、ほぼ達成は可能というふうに多くの専門家が見ています。
ただ、国際的には、そういったある意味、余裕を持った数値目標を掲げる一方で、国内では対策をかなり本腰でやっているということができると思います。
中国では国の排出目標ですとか、省エネ目標を地方政府に割り当てて、その目標の達成を、幹部の昇進、人事評価と結びつけるなど、かなり本腰を入れております。
再生可能エネルギーにつきましても、昨年、新規投資額で世界第1位になったということになっております。
ただ、こういった政策が、すべてうまくいってると、完璧なわけではなくて、先ほど言った省エネ政策を厳しくするがゆえに、地方政府からの石炭消費量の報告が過少になってしまったりと、そういった問題も抱えながら、取り組んでいるというような状況だと思います。
正確な消費量が報告されてないというケースも出てきているということなんですね。
今のリポートを見ますと、中国が温暖化対策に積極的になった背景として、大気汚染対策をせざるをえない状況があるんではないかということと、非常に国際社会から、後ろ向きだという批判もあるということだったんですけど、中国の、その取り組みの背景というのはどう見ていらっしゃいますか?
ご指摘のとおり、まずは大気汚染対策という側面は大きいと思います。
VTRにもありましたように、かなり深刻な汚染問題となっておりまして、一部の都市では、社会不安にもつながるといったところで、中国の指導部は、それに対する懸念を高めているということがあります。
さらに国際的な動きで見ますと、これまで先進国からの突き上げというのがあったんですが、それに加えて、途上国の中からも、もうそろそろ中国といった新興国は、それ相応の能力に応じた対策を取るべきじゃないかという声も上がっておりまして、そうした中、国際交渉の場でも、進んだ立場を取るようになってきてるというふうに思っております。
その進んだ立場って、具体的な動きもあるんですか?
最近ですと、米中共同声明の中で、新しい資金を、ほかの途上国を支援するための資金を作るといったことも発表しておりまして、そういったほかの途上国への配慮といったものも見せているということがいえると思います。
自力で対策を取るだけでなく、ほかの途上国の対策を支援するというところまで踏み出そうとしているということですね。
さて、今回は多くの途上国も削減目標を提出し、枠組みに加わる意向を見せているんですけども、同時にこれまでの温暖化の責任は、先進国にあって、それなりの負担をすべきだという声も多く聞かれます。
とりわけ、声高にこの点を主張しているのが、次にご覧いただくインドです。

12億の人口を抱えるインド。
2020年過ぎには中国の人口を抜き世界一になると見られています。
爆発的な人口増加と経済成長に電力供給が追いつかず工場ではこんな事態も。

2030年には電力需要が現在の3倍になると見込まれています。
経済発展を最優先に掲げるモディ首相は、電力不足の解消を国の最重要課題と位置づけています。

インドは今回のCOPに向けて排出量の削減目標を掲げました。
それと同時に、強く求めたのが先進国の支援です。
太陽光などの再生可能エネルギーを大々的に導入する計画ですが目標達成には、2030年までに少なくとも100兆円もの費用がかかると見込んでいます。
インド政府は、温暖化をもたらした最大の責任はこれまで大量に二酸化炭素を排出して発展してきた先進国にあるとして、資金援助を強く要求しているのです。

インドでは、温暖化による被害も大きな問題です。
そうした被害にも先進国の責任があるとして支援を求めています。
インド西部のマハラシュトラ州。
270万人が住むビード地区です。

私が立っているこの場所実はダムなんです。
以前は、こちらまで水があふれていたんですがご覧のように今は水が全くない状態となっています。

かつては、あふれるほど水がたまっていましたがここ数年は干ばつが続いています。
主な収入源である綿花の収穫量はことし、平年と比べ9割近くも減ってしまいました。
生活の苦しさなどから農家の自殺が相次ぎ5年前の3倍に増えています。
10年余り農業を営んできたマニーシャさんです。
夫は、2年前干ばつに見舞われた畑でみずから命を絶ちました。

今後、より深刻化すると見られる干ばつの被害を食い止めようと、州政府は対策の強化を検討しています。
遠い水源地からの水路の整備や貯水施設の建設が必要ですがその費用はこの地区だけで少なくとも280億円かかるとしています。
温暖化が要因とされる被害への対策はインド各地で求められています。
東部の沿岸では毎年8ミリずつ海面が上昇。
住宅や田畑に深刻な被害が及んでいます。

このままでは130万人が移住を余儀なくされると懸念されています。
しかし、浸食を防ぐ護岸工事は追いついていません。
こうした被害に加え熱波による健康被害や洪水など温暖化の影響への対策のためインド政府は、さらに25兆円が必要だとしています。

今のインドですけれども、貧しい人々が多く、経済成長を急ぎたい。
しかし今回の枠組みに入ろうと、目標を出して、一方で、巨額の資金の援助、支援を先進国に求めている。
この姿勢は、ほかの途上国からは、どんなふうに見られているんでしょうか。
ある意味、インドの立場というのは、途上国の中でも強硬派の立場を代弁しているというふうに思います。
こういった国々は、VTRにもありましたように、先進国と途上国の二元論を主張して、それに固執しているという立場を取っております。
ただし、今ではその途上国も一枚岩ではなくなってきていまして、コスタリカ、ペルーなどのラテンアメリカの一部の国々は当然、先進国がリーダーシップを取るということが前提なんですけど、それに加えて、ほかの途上国もそれぞれが能力に応じた責任を取るべきだというような立場を主張し始めております。
具体的に、国連の下で緑の気候基金という、途上国支援を行う基金があるんですが、そこには、こういった途上国、拠出義務のない途上国も拠出を始めているというような、明るい兆しもあります。
一体、会議はまとまっていくのかどうか、気になるところですけれども、被害が一番大きいのは、今のリポートにもあった、貧しい途上国の人々。
会議がまとまって、温暖化対策が進んでいくことは、途上国にとっても本当に好ましいというか、その方向に向かわなくてはいけない方向だと思うんですけれども、先進国と途上国の対立というのは、うまく解消されていくんでしょうか?
非常に難しい問題ではあります。
ただし、今のVTRにもあったように、明らかに先進国と途上国の間の差と、経済的な差ですとか、そういったものは、まだまだ残っています。
ですので、そういった意味では先進国はこれまでの排出などの歴史をある程度、踏まえながら、リーダーシップを取っていくことが求められると、それによって初めて、先ほど言ったような中間層に位置する途上国からの。

コスタリカやペルーなどの中南米の国々。
中南米の国々と連携をすることによって、合意への機運を高めていくことができるというふうに思っております。
一つの鍵となる国々は、もしかしたら中南米の国々になるかもしれないということですか?
そうですね。
実際、今回の2020年以降の、枠組みを始める交渉の開始においても、こういったラテンアメリカの国々と、ヨーロッパの国々が、かなり一緒になって、中国、インドを説得して、この交渉自体が始まったという経緯もあります。
ですので、COP21においても、こういった中南米の国々から目は離せないと思っております。
2度未満まで気温の上昇を抑えるその目標を達成していくうえで、今回の会議というのは、どのような位置づけになりますか?
ある意味、2度目標達成にはラストチャンスということがいえるかと思います。
2つ意味がありまして、1つは政治的に見て、今回、これだけ勢いが盛り上がってきまして、ここで決裂してしまうと、次がなくなってしまうというものと、あと、2度目標達成には、排出できる限界とありまして、それを達成するためには、今から対策を取っていかなければいけないということだと思います。
2015/11/26(木) 01:03〜01:30
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「シリーズ 瀬戸際の温暖化対策(1)世界は一つになれるか」[字][再]

今月末、パリで開かれるCOP21。地球温暖化を防ぐため、先進国と途上国の利害を超えた歴史的な合意は実現できるのか、中国、インドなど大排出国の最新ルポを交え伝える

詳細情報
番組内容
【ゲスト】地球環境戦略研究機関 上席研究員…田村堅太郎,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】地球環境戦略研究機関 上席研究員…田村堅太郎,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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