40年近く果たせなかったオリンピック出場の夢。
ハンドボール女子日本代表。
立ちはだかったのは強豪韓国。
大型選手をそろえた厚い壁を前に負け続けてきました。
先月行われたアジア予選。
(掛け声)日本は常識を覆す戦術で挑みました。
平均身長は強豪国の中でも格段に低い167センチ。
その低さを武器にしようというのです。
大型選手を置き去りにするスピード。
意表をつく素早いパス回し。
小さな体を生かしたいわばスモール・ハンドボールです。
小さくてもできるぞっていうところを見せつけてやりたいです。
しかしこの戦術の習得にはいくつもの壁がありました。
激しいブロックで連携が寸断。
ポイントゲッターを襲う選手生命の危機。
痛い!それでも選手たちはオリンピックに出るという強い思いで戦い続けてきました。
そして迎えた宿敵韓国との決戦。
小さな体に全てを懸けたおりひめジャパン。
未曽有の戦略に挑み続けた3か月に密着しました。
取材を始めたのは8月。
今日は全面使ってやっていきます。
ハンドボール女子日本代表おりひめジャパン。
オリンピックのアジア予選を10月に控え半年に及ぶ異例の長期合宿を行っていました。
練習の前に必ず行う事があります。
(「君が代」)国歌斉唱。
40年ぶりのオリンピック出場を目指し団結心を強めます。
世界選手権出場国の中で最も小柄なチームです。
(「君が代」)メンバーの22人は小柄でもスピードとスタミナのある選手をそろえました。
チームの核となるのが横嶋かおる選手29歳。
ひときわ小柄な162センチ。
素早い動きと正確なシュート力が持ち味です。
ムードメーカーとしてもチームを引っ張ります。
本当にオリンピックに行きたいっていう気持ちが一番強いです。
もっともっと力をつけてオリンピックっていう夢をつかみたいなっていうのは思います。
彼女たちが戦うハンドボールの世界は選手の大型化が進んでいます。
その典型が韓国。
平均身長は日本より6センチも高くオリンピックで金メダルを2回獲得した強豪です。
高さとパワーで押しまくりディフェンスの上から次々とシュートを決めていきます。
守っても高いブロックでシュートをはね返します。
日本はこの韓国の高い壁を打ち破る事ができずアジア予選で40年近く負け続けてきました。
そこで3年前に就任した栗山雅倫監督は世界の常識を覆すチーム作りを敢行しました。
いわばスモール・ハンドボール。
韓国と同じ事をしても勝てない。
ならば日本人の強みを生かそうと考えたのです。
我々は低さで勝負だっていうふうに言ってるんです。
敏しょう性を特徴としてるプレーヤーを集めて相手が本当にうるさい連中が来たなって思うようなそんな事やってったらどうなのって。
2年前の世界選手権。
この戦略が当たり世界をあっと驚かせました。
相手はこの大会銀メダルの強豪セルビア。
平均身長176センチ。
世界有数の高さを誇ります。
スモール・ハンドボールで挑んだ日本。
機動力と素早いパス回し。
小さな選手たちが縦横無尽に走り回ります。
走り込んできた選手が擦れ違う味方へパス。
相手を引き付けてディフェンスの壁にスペースを作り出します。
そこへ入り込んだ横嶋選手へラストパス。
ディフェンスを高さで超えるのではなく横の連携でスペースをこじ開けるのがスモール・ハンドボールです。
日本は強豪セルビアに対し2点差。
勝利まであと一歩と追い詰めました。
小さくてもスピードにあふれた日本のプレーは新幹線ハンドボールと絶賛されました。
このスモール・ハンドボールで重要な役割を担うのがポストの横嶋選手です。
ポストとは選手の中でもゴールに最も近い位置でパスを待ち受けシュートするポイントゲッターです。
世界の強豪国のポストはディフェンスとの競り合いに勝てるよう180センチを超える選手が少なくありません。
そこへ162センチの横嶋選手をあえて起用したのです。
その理由はディフェンスの足元をすり抜ける高い突破能力です。
大きなディフェンスに挟まれる横嶋選手。
相手を腰で押して足元にスペースを作り出します。
そこへ低いパス。
キャッチして振り向きざまシュート。
大きな選手は反応できません。
まさに背の低さを生かしたゴールです。
横嶋選手のもう一つの武器はどんな体勢からでもゴールを決められる事です。
シュートの決定率は8割を超え日本リーグトップのタイトルを4回も獲得しました。
その秘密は瞬時にシュートコースを見極める力です。
パスを受けて振り向きざまゴール右側が空いているのを察知。
しかしキーパーがそこを塞ごうと足を開きます。
とっさに股下に狙いを変更。
見事に通しました。
キーパーの反応を上回る判断の早さ。
これでゴールを奪います。
…っていうふうに言っても実は過言じゃないなって思ってるんですよね。
オリンピックアジア予選まであと2か月。
おりひめジャパンはハンガリーを訪れました。
打倒韓国に向けた強化試合です。
世界ランキング3位の強豪ハンガリー。
平均身長177センチ。
韓国に見立てました。
しかしこの試合大きな課題を突きつけられました。
大型選手の厳しいブロック。
機動力でかき回すはずが力負けして動きが止められ連携がつながらないのです。
横嶋選手も大きな選手2人に徹底的にマークされます。
当たり負け。
次も。
思うようにシュートが打てません。
前半はスモール・ハンドボールが機能しませんでした。
しかし後半も力負けした日本。
大差で敗れました。
スモール・ハンドボールを機能させるには選手一人一人の力強さが足りない。
大きな課題が浮き彫りになりました。
ハンガリーから帰国したおりひめジャパン。
大きな相手に当たり負けしない体を作るためフィジカルトレーニングに力を入れていました。
腹筋や背筋などを鍛える10種類のメニュー。
毎朝1時間繰り返しました。
落ちる!やばい。
頑張って!午後からは男子チームとの練習試合です。
今年全国大会で優勝した高校や大学の強豪校との試合が毎週のように組まれました。
常にディフェンスと競り合うポストの横嶋選手。
当たり負けしない力が最も求められます。
上からプレッシャーを受け自由を奪われます。
しかし小さなチャンスを確実に得点につなげなければ韓国には勝てません。
相手をはねのけるトレーニングを繰り返す横嶋選手。
メンバー一人一人が与えられた役割を果たすため厳しいトレーニングを続けていました。
この夜選手たちはそろって食事に繰り出しました。
韓国倒すぞ!
(一同)オ〜!焼肉を食べて韓国を食ってしまおうというパーティー。
(一同)せ〜の最初はグー!じゃんけんぽい。
選手たちは年齢も所属チームもバラバラです。
私これ。
半年に及ぶ合宿生活で一体感が高まってきました。
選手たちはおしゃべりに興じながら6人で30人前の肉を平らげました。
(店員)皆様こちらタレの上カルビです。
やがていつものように韓国戦の話題になりました。
29歳の横嶋選手。
今回が初めてのオリンピック予選です。
これが最初で最後の戦いだと決めていました。
横嶋選手は両親と6人きょうだい。
全員がハンドボール経験者という環境で育ちました。
生活の中心はハンドボールでした。
予選2か月前のオフ。
横嶋選手はふるさとの富山市へ里帰りしました。
この日きょうだい6人で公園へ。
(一同)ぐっとっぱ。
ぐっとっぱ。
じゃんけんぽん。
始めたのは3対3のミニゲームです。
4歳年下の彩さんも日本代表。
将来を担う逸材と期待されています。
きょうだいの夢はオリンピック出場。
競い合って技術を磨いてきました。
しかし背が低いというハンディが常につきまといました。
高校卒業後社会人チームに入団しましたがレギュラーを取る事はなかなかできませんでした。
頑張れ!
(一同)頑張れ〜!必死に練習した横嶋選手。
持ち前のシュート力と素早い動きに磨きをかけレギュラーの座をつかみました。
2度のリーグ優勝に貢献し4年前ロンドンオリンピック代表の候補に選ばれました。
ところが…。
結局日本代表から落選。
背が低い事が理由でした。
すごい悔しくて。
今までのハンドボール人生の中で一番悔しくて。
本当に何も考えれなくて自分の武器も何なんだろうなっていう。
気力っていうのがなくなってました。
更に追い打ちをかける出来事が起きました。
右足のアキレス腱断裂。
無理をすれば再断裂のおそれもあり一時は引退も考えました。
そんな時声をかけてくれたのが新たに日本代表の監督に就任した栗山さんでした。
「日本がオリンピックに出るにはお前の力が必要だ」。
そのひと言で再び目標を取り戻した横嶋選手。
足に不安を抱えながらも選手生命を懸けて戦う事を決意したのです。
今まで私も「小さい小さい」言われてきましたけど…アジア予選が目前に迫った10月。
フィジカルの強化が実りスモール・ハンドボールの連携に進化が見られるようになってきました。
この日も男子との練習試合に臨みました。
今度は高校総体準優勝のチームです。
激しいブロックにも当たり負けせず動き続けます。
するとそれを止めようとして相手が飛び出しディフェンスの壁にスペースが空くようになりました。
このスペースを全員で生かします。
20番の石立選手が走り込んでシュート。
これで横嶋選手へのマークが甘くなります。
このプレー。
石立選手がおとりになって相手を引き付け横嶋選手のマークを外しました。
更に。
2人を介して横嶋選手へラストパス。
石立選手が走ると相手が引き付けられました。
更にもう一人がおとりになります。
すると横嶋選手の前にぽっかりとスペースが出来ました。
ここへパス。
確実に決めました。
より進化した連携。
スモール・ハンドボールが更に威力を増してきました。
夢のオリンピックへ。
ところがこの日横嶋選手を異変が襲いました。
ちょっとすみません。
連日のトレーニングで疲労がたまり太ももは肉離れ寸前の状態でした。
更に左足のかかとや腰にも強い痛みが出ていました。
4年前にアキレス腱を手術した右足をかばい余計な負担がかかっていたためでした。
痛い!痛い。
お手柔らかに。
はい。
イタタタ!満身創痍。
それでも痛み止めの注射をうって練習を続けました。
痛い!選手生命の全てを懸けて。
悲願のオリンピックへ。
決戦の舞台は名古屋です。
戦うのは5か国。
総当たり戦で勝ち点トップの1か国だけがリオデジャネイロ・オリンピックの出場権を獲得できます。
気ぃ引き締めていきましょう!
(一同)はい!日本はスモール・ハンドボールがきっちり機能。
ウズベキスタン中国と2連勝。
勢いに乗りました。
ところが3試合目。
苦戦を強いられました。
184センチのカザフスタンのエース。
高さのあるシュートを次々に決められ一進一退。
同点で残り1分。
10番の藤井選手。
(実況)横嶋入ってきた〜!決めた〜!藤井選手がマークを引き付けてパス。
片手でキャッチ。
倒されながらも決めました。
24対23。
スモール・ハンドボールの連携で逆転勝利です。
日本の快進撃に期待が高まりました。
次の韓国戦に勝てば40年ぶりのオリンピック出場が決まります。
韓国戦の朝。
試合開始の7時間前から大勢のファンが詰めかけました。
(取材者)日本の応援ですか?もちろん。
いいでしょう?頑張ってほしいです。
しかし選手たちは連日の激戦に疲れをためていました。
横嶋選手はケガの痛みに耐えていました。
いよいよ決戦。
韓国はここまで大差で3連勝。
絶好調です。
(「君が代」)小さくてもできる。
心を一つに。
アタックするとこはしっかりアタックしてボールに集中!リバウンドをしっかり…。
あとは魂込めろ!いくぞ!
(掛け声)しかし試合開始直後。
韓国の猛攻。
高さとパワーで6点を奪われました。
日本の戦略は研究されていました。
横嶋選手へのパス。
奪われました。
横嶋選手は韓国ディフェンスがわざとスペースを空けパスをカットしに来たと感じました。
日本のパス回しも研究されていました。
パスを受けた直後を狙ってブロック。
リズムに乗れない日本は次第に当たり負けするようになり連携が続かなくなってきました。
前半は6点をリードされて折り返しました。
それをやりに来たんじゃない。
今まで一生懸命やってきた。
(一同)はい!後半開始。
選手たちにぶつかっていく激しさが戻ってきました。
ボールを奪って速攻で横嶋選手へ。
(歓声)冷静にキーパーの股下を通しました。
しかし横嶋選手へのマークは依然厳しいまま。
追加点がなかなか奪えません。
横嶋選手は鍛えてきたフィジカルで相手ディフェンスを抑えにかかります。
すると…。
(実況)東濱!ディフェンスの脇を抜くようなシュート!東濱選手にチャージに行こうとした選手をブロック。
シュートを打ち込むスペースを作りました。
横嶋選手身をていして仲間を生かしました。
その2分後でした。
ゴールした東濱選手を警戒して前に出るディフェンス。
横嶋選手がフリーになりました。
チームワークで韓国の壁をこじあけました。
スモール・ハンドボールの真骨頂です。
しかし韓国の高さとパワーは止まりませんでした。
残り6分で点差は13点。
それでも諦めません。
そして…。
跳ね返ったボールを狙っていました。
チームの意地が一つになったゴールでした。
しかし…。
(終了の合図)
(実況)試合終了。
小さな体を武器に最後まで死力を尽くしたおりひめジャパン。
オリンピックへの切符は来年3月の世界最終予選に持ち越されました。
敗れはしたもののスモール・ハンドボールの手応えをつかんだ選手たち。
既に次の戦いを見つめていました。
ハンドボール女子日本代表おりひめジャパン。
小さな体と強い絆で再び挑みます。
(掛け声)2015/11/26(木) 01:30〜02:17
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「小さな体を武器に ハンドボール女子日本代表」[字]
先月末のアジア予選で40年ぶりの五輪出場まであと一歩と迫ったハンドボール女子日本代表。今回、あえて小さな選手をそろえる戦略に出た。知られざる新戦略の裏側に密着。
詳細情報
番組内容
あえて小さな選手をそろえ、大柄なDFの懐にもぐり込み、突き上げ、こじ開けてゴールを奪う日本の新戦略。カギとなるのは、身長162cmのポストプレイヤー、横嶋かおる選手。その横嶋選手の低さを生かすのがチームの司令塔、石立真悠子選手。絶妙な判断力で長身DFの間に低いパスを出す。最大のライバルは宿敵・韓国。高身長の選手がずらりと並ぶ。五輪出場まであと一歩と迫った壮絶な戦いの裏側に何があったのか徹底検証する
出演者
【語り】萩原聖人
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – その他の球技
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