ダーウィンが来た!「ライチョウを守れ!ボディーガード大作戦」 2015.11.26


雄大な景色ですね!ここは日本の南アルプス。
皆さん夢中で写真を撮っています。
視線の先にいるのは…。
国の特別天然記念物ライチョウです。
登山者のアイドルとして親しまれています。
人を怖がらないためこんなに近くで写真が撮れるんです。
しかし今…。
天敵の増加で窮地に立たされています。
この30年でその数は半減。
絶滅の危機にひんしているんです。
ライチョウを守るため前代未聞の保護プロジェクトが始まりました。
その名も…人が一日中ライチョウに付き添って天敵から守ろうというんです。
舞台となるのは標高3,000メートルの高山地帯。
大自然の猛威が立ちはだかります。
果たして作戦は成功するのでしょうか。
ライチョウ保護作戦!ひと夏の密着ドキュメントです。

(テーマ音楽)真冬の高山地帯。
寒そうですね〜。
雪の中から顔をのぞかせているのは…。
今日の主人公ライチョウです。
全長は30センチほど。
1年を通して標高2,000メートル以上の高い山の上だけで暮らします。
冬は雪に溶け込めるよう真っ白な体をしていますが夏には岩肌に紛れやすい色に変わります。
真ん丸な体は寒冷地仕様。
羽の間に空気をため込んで寒さをしのぎます。
この羽毛のおかげで高山の厳しい冬もへっちゃらなんです。
本来ライチョウの暮らす高い山の上は天敵となる動物が少ない場所でした。
しかし今かつてない異常な事態が起きています。
もともと高山にはいなかったキツネやサルといったライチョウを狙う天敵が増えているんです。
この8月決定的な瞬間が撮影されました。
サルがライチョウのヒナを襲っています。
動きが遅く飛んで逃げられないヒナが格好の標的になっているんです。
なぜ天敵たちが高山に進出してきたのか。
その原因の一つは過疎化です。
人の気配がなくなった里山を住みかにサルやキツネなどの野生動物が数を増やし新たな食べ物を求めてライチョウの暮らす高山にやってきたのではないかと考えられているんです。
警戒心が薄いライチョウは格好の獲物になってしまいました。
生息数はこの30年で半減。
今では1,700羽にまで数を減らしています。
中でも特に減少が著しいのが南アルプスの北岳です。
かつては120羽が生息していましたが現在は20羽ほどしか確認されていません。
ライチョウを危機から救うべく1人の研究者が北岳を訪れました。
信州大学名誉教授中村浩志さん。
アルプスの山々で30年以上にわたってライチョウ研究を続けるライチョウ博士です。
今年中村さんは環境省と共に前代未聞の保護作戦を立ち上げました。
何かを組み立て始めた中村さん。
大きな小屋のようなものが出来上がってきましたよ。
一体何に使うんでしょう?作戦はこうです。
このケージの中でヒナを連れた家族を保護します。
日中は外に出し中村さんたちが家族に寄り添い食事などをさせます。
人が一日中付き添うことで天敵を近づけない作戦です。
そして中村さんたちが付き添えない夜にはケージに戻し中で過ごさせます。
こうしてヒナが飛べるようになるまでの3週間人の手で守るんです。
名付けて「ボディーガード作戦!」です。
作戦を実行すべくまずは保護するライチョウ家族を探しに出かけます。
ライチョウはハイマツの中に隠れるようにして暮らしています。
何か痕跡がないか。
ハイマツの根元まで丹念に探します。
北岳の周辺にわずか20羽ほどしか生息していないライチョウ。
捜索は困難を極めました。
探すこと7時間。
見つけました!ライチョウです。
黄色の足環がついています。
4年前に中村さんがここで見つけたメスです。
私たちは「レモン」と名付けました。
ヒナは全部で6羽。
平均的なライチョウの家族です。
生まれたばかりでもこんなにしっかりと歩けるんですね。
中村さんはこのレモン家族を保護することにしました。
今家族がいる場所がこちら。
標高3,000メートルの地点です。
保護するためには2キロ離れた山小屋の脇にあるケージまで連れて行かなければなりません。
でも一体どうやって連れて行くんでしょうか?ライチョウの後ろをゆっくりと追う中村さん。
なんとこうしてケージまで誘導するんです。
捕まえて人の手で運ぶとライチョウを傷つけてしまう恐れがあります。
時間はかかりますが歩いて誘導するこの方法が最もストレスを与えない移動法なんだそうです。
家族が食事を始めたら根気よく待ちます。
ライチョウのヒナは生まれてすぐ高山植物の芽や花を食べます。
レモンの家族はボディーガードの中村さんたちのことを全く気にはしていないようです。
レモンが何かを警戒しています。
現れたのはハヤブサの仲間チョウゲンボウ。
ヒナを襲うこともある天敵です。
ヒナたちは急いでレモンのおなかの下へと避難。
でもまだ1羽入れていません。
チョウゲンボウが近づいてきたその時です。
中村さんが手をたたきました。
音に驚いたのかチョウゲンボウは去っていきます。
こうして天敵が近づかないようにするんですね〜。
ボディーガードのおかげで危機から脱することができたレモン親子。
周囲の安全を確認し再び歩き始めます。
歩き始めて5時間。
ゴールまで半分の地点まで来ました。
時間は午後6時。
今日の移動はここまでです。
中村さんは小さなケージを用意していました。
今夜はここで休ませるんです。
メンバー総出でゆっくりと追い込みます。
うまく入ってくれるんでしょうか。
あっ入りました。
急いで扉を閉める中村さん。
当然の出来事にレモンはびっくりしているようです。
中村さんは急いでビニールシートをかぶせます。
こうして目隠しをすることで落ち着かせるんです。
10分後そっとのぞいてみるとレモンは落ち着きを取り戻していました。
その夜。
ケージのそばに設置したカメラが驚くべき瞬間を捉えていました。
家族が休んでいるケージです。
午後8時30分のことでした。
現れたのはイタチの仲間テンです。
最近高山地帯で目撃されるようになってきたライチョウの天敵です。
においを嗅ぎつけてやってきたようです。
ケージの様子をうかがっています。
あっシートの中へ入っていきます。
ものすごい勢いで暴れ回るテン。
20分後テンは何事もなかったかのように去っていきました。
レモンとヒナは無事なんでしょうか?翌朝中村さんが急いで中を確認すると…レモンが出てきました!その後ろからはヒナたちの姿も。
123456羽。
みんな無事です!ケージが守ってくれたんですね。
その日の午後ようやく山小屋のすぐ近くまでたどりつきました。
目的のケージまであと少しです。
ついに到着!ヒナたちは自らケージへと近づいていきます。
レモンもそのあとに続きます。
移動開始から27時間。
家族全員無事に中へ入ってくれました。
これから3週間総勢6人のボディーガードが親子を守っていきます。
ちょっと待った!あっヒゲじいどうしました?いや絶滅の心配があるのはわかりますけど何も高い山の上でこんな苦労しなくても動物園なんかで育てればいいんじゃないですか?前に「ダーウィンが来た!」でも人の手で育てたトキやコウノトリについて紹介しましたよね。
さすがヒゲじい。
よく覚えていますね!もちろん動物園で育てる試みも行われています。
あっそうなの?これは今年の6月北アルプスの乗鞍岳で環境省や動物園の関係者がライチョウの卵を採取した時の様子です。
ふ〜ん。
持ち帰った卵10個を富山と東京の動物園でそれぞれふ化させました。
あそうなんだ。
でも生後2か月にさしかかったところで富山のヒナは2羽が亡くなり東京で生まれた5羽は全滅。
なかなかうまくいかないんです。
え〜っそうなの?はい。
ライチョウが暮らす高山地帯は平地に比べて細菌やウイルスなどが少ない環境です。
平地では山にいない細菌やウイルスが原因で病気になってしまうことが多いそうなんです。
そういうことだったのか。
今の段階では現地で保護するこのボディーガード作戦がライチョウの減少を食い止める唯一の方法なんですよ。
なるほど。
無事に大きくなってくれるといいですな。
中村さんたちがいればきっとライチョウブ!なんてね。
第2章ではボディーガード作戦が本格始動。
そこに台風の猛威が。
ボディーガードたちも一苦労。
レモン家族を無事に守りきれるんでしょうか。
アルプスの山々を彩るかれんなお花畑。
きれいですね〜。
実はこのお花畑とライチョウには切っても切れない関係があるんです。
ライチョウは日本で唯一一年中高い山の上で暮らしている鳥。
主食は高山植物。
フンとして出された種は山のあちこちに広がっていきます。
植物にとってライチョウは種を運んでくれるなくてはならない存在なんです。
このままライチョウが減り続けていくと高山植物に深刻な打撃を与えると考えられています。
ライチョウのヒナを守ることはこの美しいお花畑を守ることにもつながるんですね。
ライチョウを守るため始まった前代未聞のボディーガード作戦。
朝7時。
レモンの家族を外に出します。
みんな元気よく出てきました。
ヒナは生後3日。
小さくてもたくましいんです。
見て下さいこの立派な足。
高山で生きてくいくためには険しい崖ものぼりおりできなければいけません。
こうして親について歩き回ることで自然と脚力が鍛えられていきます。
お昼過ぎ。
雲が出てきました。
あれ?ヒナたちがレモンのおなかの下へ潜り込んでいきます。
また天敵でしょうか?いえこれは寒さ対策。
ヒナは気温が下がると母親のおなかの下へ潜って寒さをしのぎます。
まだ小さく自分で体温調整ができないからです。
この時の気温は2度。
その間ボディーガードのメンバーたちもじ〜っと待つしかありません。
十分温まったところで食事にでかけます。
夕方4時。
初日のボディーガード作戦は無事に終わりました。
作戦開始から5日目の夜。
大型の強い台風が近づいてきたんです。
翌日台風の影響で前線が発達。
猛烈な風雨に襲われました。
この嵐を前にケージは持ちこたえられそうにありません。
このままでは家族もろとも吹き飛ばされてしまいます。
急いでケージの補強作業に取りかかります。
日が暮れるまで作業は続きました。
翌日中村さんは急いでケージの中を確認します。
元気そうなレモンとヒナたち。
よかった!みんな無事でした。
ボディーガード作戦が始まって2週間。
ヒナの体重は3倍以上に増えました。
レモンに呼ばれて集まったヒナたち。
同じ草をついばみ始めました。
こうして食べられる物を学ぶんです。
レモン次は砂浴びを始めました。
体についた寄生虫や汚れを落とします。
レモンのすぐ下では…ヒナも砂浴び。
まだちょっとぎこちないですね。
他の兄弟も集まってきました。
ヒナたちはお母さんの行動をまねることで高山で生きる知恵を自然と身につけていきます。
この時期のヒナは食べ物の種類も少し変わってきます。
こんな硬い殻を持つ甲虫も食べられるようになるんです。
そしてレモンからも離れて行動するようになります。
行動範囲が広くなるとボディーガードのメンバーたちは大変です。
ヒナが迷子になり天敵に襲われないようあらゆる方向に気を配ります。
突然レモンの動きが止まりました。
(鳴き声)聞き慣れない声で鳴いていますね。
天敵のチョウゲンボウが現れたんです。
(レモンの鳴き声)これは危険を知らせる声。
ヒナが成長し抱えて守れなくなったので声で「動くな」と指示を出しているんです。
ヒナたちはじっとその場で固まります。
少しでも動くと見つかってしまいます。
中村さん今回は手出しをせずただ見守るだけ。
ヒナに自分の身を守るすべを身につけてもらうためです。
チョウゲンボウは去っていきました。
無事に天敵をやり過ごしたヒナたち。
立派になりましたね〜。
あっヒナが飛びました!飛べるようになれば天敵から逃げられるようになり生き残る確率が上がります。
ボディーガード作戦は間もなく終わりです。
ボディーガード作戦の最終日です。
この日もレモンたちは元気いっぱいです。
もう中村さんたちは追いかけません。
レモンの家族は振り返ることなくハイマツの中へと去っていきました。
3週間ほどたった8月中旬。
北岳は花の盛りを迎えていました。
家族は元気に暮らしているんでしょうか?再び中村さんが北岳を訪れました。
レモンの家族を探します。
探し回ること2時間。
斜面の草地でライチョウの家族を見つけました。
黄色い足環。
レモンです。
近くには一回り大きくなったヒナたちの姿もありました。
羽の色もお母さんそっくりになっています。
しかし確認できたヒナは4羽だけ。
2羽いなくなっていました。
ここまで大きくなれば天敵に襲われる可能性も低くなります。
きっと無事に生き延びてくれることでしょう。
ライチョウの家族に人が寄り添い守り続けるという前代未聞の保護プロジェクト。
来年は守る家族を増やし他の山でも始まる予定です。
2015/11/26(木) 16:20〜16:49
NHK総合1・神戸
ダーウィンが来た!「ライチョウを守れ!ボディーガード大作戦」[字][再]

特別天然記念物のライチョウ。今、天敵の増加で絶滅の危機にひんしている。この夏驚きの保護作戦が始まった。人がライチョウに付き添い天敵から守るのだ。果たして結果は?

詳細情報
番組内容
国の特別天然記念物、ライチョウ。標高2千メートル以上の高山に暮らす鳥だ。今、ライチョウは絶滅の危機にひんしている。その理由は本来高山にいなかったキツネやサルなどの天敵の増加だ。ライチョウを守るため、この夏、驚きの保護作戦が始まった。名付けて「ボディーガード作戦」。研究者がライチョウの家族に一日中付き添い、天敵から守ろうというのだ。果たして無事に守りきれるのか?前代未聞の挑戦に密着する。歌:平原綾香
出演者
【出演】信州大学名誉教授…中村浩志,【語り】近田雄一,龍田直樹,豊嶋真千子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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