政府が26日まとめた「一億総活躍社会」に向けた緊急対策に対し、企業からは仕事と育児や介護の両立を支援する政策を期待する声が上がっている。ただ「介護離職ゼロ」や「出生率1.8」といった目標はいずれもハードルが高く、政策をすべて実行できても到達するかどうかは見えない。国民の負担増や介護・保育の職員不足への不安も大きい。
出生率1.8に向けては、保育施設を5年間で50万人分拡大するほか、男性不妊治療への補助、3世代同居の促進などを盛り込んだ。1.8は子どもが欲しいと考える若年層の希望がすべてかなった場合の出生率だ。14年の1.42からどの施策でどれほど出生率が上がるかを積み上げた数字ではなく、実現への道のりはまだ見えない。
仮に1.8を達成すると、新生児は年間100万人から30万人ほど増え、0~5歳は180万人増える。政府はうち6割の子どもが保育園を使うようにしたい考えで、利用者は108万人増えることになる。保育施設は50万人分の拡大では追いつかず「その後も施設を増やし続ける必要がある」(厚生労働省)。
家族の介護で仕事をやめる介護離職者は年間10万人で、ゼロに向けた道のりは遠い。政府は介護施設の増設を打ち出したが、10万人のうち施設に入れずに離職した人は1.5万人。残りの8.5万人は介護保険の仕組みを知らなかったり、職場の理解がなくて介護と仕事を両立できなかったケースなどだ。
鳥取県などで介護施設を運営する社会福祉法人こうほうえんの広江研理事長は「介護保険制度について国民に広く知らせることも必要だ」と指摘する。
政府はこの日、特養ホームへの入所を待つ「待機高齢者を解消する」と掲げたが、実態が伴わない。待機高齢者は15万人。ただ待機高齢者向けにつくる15万人分の施設は訪問介護などを併せた数字だ。厚労省も「特養に入れず自宅で暮らし続ける高齢者が残る可能性がある」と認める。
現場からは「施設の増設に伴って保育士の確保がより必要になる」(角田亨・NPO全国認定こども園協会副代表理事)との声が強い。保育士の求人倍率は9月に1.85倍、介護職も2.72倍で、すでに人手不足だ。これが一段と深刻になれば、施設整備にもブレーキがかかる。施設の増設で介護保険料の負担が増える国民の理解を得ることも欠かせない。
第一生命保険は介護休業の分割取得について、「介護の実態に合わせた柔軟な制度整備が進むことは大変重要だ」と評価した。
企業の間ではすでに国の制度より先行しているところもある。武田薬品工業は法定の93日を上回る最長1年間の介護休業の取得を認めている。
契約社員を含めると女性が従業員の約7割を占める高島屋は育児支援について「経営に不可欠な問題で、これまでも環境づくりに取り組んできた。今後一層の整備を進める」と話す。日立製作所も「女性や高齢者を含めた多様な人材が働きやすい環境の整備は重要」として、今後対応を検討していく方針だ。
出生率の向上に向けては、東レ経営研究所の渥美由喜主任研究員は「施設整備よりも企業風土を変えるほうが重要だ」と指摘する。具体的には企業ごとに社員の出生率を調べて、高い会社を公表すれば、そのほかの企業でも子育て支援が進むと訴えている。
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