今、命のとりで救命救急センターに異変が。
次々に搬送されてくるのは女性たちです。
午後6時。
運び込まれてきたのは20代の女性。
灯油をかぶって体に火をつけたといいます。
重度のやけどを負い生死の境をさまよっていました。
16歳の女性も搬送されてきました。
自殺を図り意識がもうろうとしています。
女性たちを追い詰めているのは貧困やDVなど社会的な問題です。
40代のこの女性は仕事を失い首をつって、みずから命を絶とうとしました。
助けてと言えず命の危機に陥る女性たち。
救急医療の現場からの報告です。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
女性の力が社会でますます求められるようになり国も女性たちが活躍できる環境を実現しようとしていますがこれからご覧いただく救急医療の現場からは社会の目には見えにくい女性が直面する現代の劣悪な環境の実態とそうした女性たちを助けるセーフティーネットのぜい弱さが浮かび上がってきます。
こちらは自殺を図って救急搬送された人を性別や年代別で見たグラフです。
東京消防庁が去年行った調査に基づいています。
ご覧のように20代から40代の女性が圧倒的に多く一命を取り留めた女性たちのことばからみずからの命を絶とうとした背景には増え続けるDV・ドメスティックバイオレンスや一人で子育てする女性や単身女性が直面する貧困の問題などがあります。
どれも医療現場では解決しようのないものです。
体の状態が回復して退院、帰宅したあと心身の安全や生活保障をどうやって確保するのか。
社会から孤立しSOSを発することもできず命が危ぶまれる段階になってようやく苦境が明らかになる多くの女性たち。
そうなる前に、どうしたら女性たちが直面する問題に向き合えるのか。
命のとりで、救急医療の現場が問いかけています。
実態を2か月にわたって取材しました。
全国に35か所ある高度救命救急センターの一つ杏林大学病院です。
脳卒中や心肺停止など年間1700人を超す重症患者を受け入れる命のとりでに今、異変が起きています。
この日、搬送されてきたのは自殺を図った30代のシングルマザー。
病院では医療だけでは解決できない社会的な問題を抱える患者が増えているといいます。
特に深刻なのが、女性たちです。
午後9時半。
意識が混濁した22歳の女性が搬送されてきました。
精神科で処方された薬を50錠ほどのんだといいます。
オーバードーズといわれる薬の過剰摂取です。
医師が取りかかったのは胃の中を洗浄する処置です。
流し込んでいるのは活性炭と下剤を混ぜたもの。
薬を吸着させて体の外へと排出させます。
処方薬や市販の鎮痛剤などを決められた量を超えてのむオーバードーズ。
病院に運ばれる重症患者の1割近くを占めそのほとんどが女性です。
2時間ほどの処置を終え女性の容体は安定しました。
なぜ、若い女性たちがオーバードーズに走るのか。
知人からの119番通報によって搬送されてきた橋本美咲さん、21歳です。
30錠ほどの薬をのんで自宅で倒れていました。
橋本さんは四国から上京し飲食店で働きながら1人暮らしをしていたといいます。
橋本さんの状態がまだ不安定なため病院は実家の両親に迎えに来るよう依頼しました。
橋本さんが自宅に戻りたいと強く希望したため病院はやむをえず以前働いていたという飲食店の店長に連絡を取りました。
翌日。
飲食店の店長が迎えに来ました。
知り合って1年にも満たない相手を頼るしかないのが橋本さんの現実です。
寒いんで気をつけて。
自宅に戻った橋本さんが打ち明けてくれたのは幼いころから両親に虐待されていたという過去でした。
高校中退後両親から逃れるように上京した橋本さん。
街で出会った男性の家を転々としながら過ごしてきました。
両親とのつらい記憶が今でもたびたびよみがえり精神的に不安定な状態が続いているといいます。
オーバードーズに走る女性たち。
幼少期に虐待や性被害を受けたケースが少なくないと専門家は指摘します。
病院側にとってもオーバードーズの患者は大きな負担となっています。
医療費が払えないケースや繰り返し搬送されるケースが少なくないからです。
病院では、こうした社会的な問題を抱えた患者への対応に乗り出しています。
全国でも数少ない救命救急センター専属の医療ソーシャルワーカーを配置しました。
加藤雅江さん。
オーバードーズで運ばれてきた女性たちに地域の病院やクリニックを探します。
さらに、女性たちを保健所や福祉事務所などとつなぎ継続的なサポートが受けられるようにしています。
病院が直面している問題はオーバードーズにとどまりません。
その一つがパートナーからの暴力・DVです。
今、DVは全国的にも増加の一途をたどっています。
去年、ついに5万9000件を超えました。
彼氏から殴られ首を絞められた。
パートナーから頭突きされ鼻の骨を骨折。
しかし、DV被害を女性たちみずから訴えるケースは少なく表面化しにくいと加藤さんはいいます。
救命救急センターに搬送されて初めてDVが発覚するケースも少なくありません。
そのときは、すでに手遅れで命を落としてしまう女性もいるのです。
女性たちの中には経済的な苦境に追い込まれている人も少なくありません。
自殺を図り、搬送されてきた鈴木直美さん、47歳です。
自宅で首をつっているところを隣人に発見され一命を取り留めました。
都内のアパートで1人暮らしをしている鈴木さん。
病院に駆けつけたのは5年ぶりに会う姉です。
鈴木さんが命を絶つまでに追い詰められていたことを全く知りませんでした。
なぜ鈴木さんは自殺を図ろうとしたのか。
日本料理の店でパートとして働いてきた鈴木さん。
職場の人間関係に悩み体調を崩したといいます。
仕事を辞めざるをえなくなり蓄えも底をつきました。
自殺未遂の背後にあった鈴木さんの経済的な問題。
どう解決するのか。
病院は精神的なケアを受けながら行政の支援を利用するよう勧めました。
病院に運ばれてくる女性たちは行政の支援からこぼれ落ちていることが少なくありません。
病院では行政にも情報提供を行うなど積極的な働きかけを行っています。
きょうも救命センターには一人苦しむ女性が運ばれてきます。
200錠もの薬をのんで搬送されてきた20代の女性。
命の危機に陥って、ようやく社会とつながる女性たち。
助けてという声を誰が、どう受け止めればいいのか。
救急医療の現場だけでは越えられない壁です。
今夜のゲストは、精神科医で、東京女子医大で、女性生涯健康センターで多くの女性たちの相談に当たっていらっしゃいます加茂登志子さんです。
20代、30代、40代の女性たちが自殺を図って、救急搬送される割合が圧倒的に多いという。
女性たちの置かれている状況に何が起きてるんですか?
大量服薬というのは、確かにちょっと前から、女性で多かった話ではあるんですけれども、やはり、実感として近年増えているということはあると思いますね。
その背景には、貧困問題もあるでしょうし、それから、VTRの中にも出てきましたけれども、虐待の問題、家族のサポートがないところが、虐待がそこにあるといったような現状があると思います。
居場所がなくなった女性というのは、私は東京都の女性相談センターにも、嘱託医として行ってるんですけれども、そこには、本当に行き場所がなくなった女性が多数来られていて、直接な要因はDVを受けたとかではなくて、子どものころに親から虐待を受けて、そして両親は別れたけれども、次に母親に付いていって、次に母親が一緒になった、今度は男性から性虐待を受けて、そこが嫌で、中学を卒業するとすぐ逃げてきて、でも学歴がないから働く所がなくて、風俗に行って、そこでまた、眠れなくなってというような、そういう悪循環に陥る女性というのは、大変増えているんではないかなと思います。
家族の機能というものが弱く?
弱くなっているということは感じます。
それにしても、自分を責めている女性たちが多いということなんですけど、なぜ、みずから自分で助けを求められないのか、声を上げられないのか。
養育環境の中で、そういうふうな虐待を受けたり、あるいは適切なときに、適切な助けを受けていない、そういった人というのは、みずからも助けてということができないわけですよね。
そういう経験がない、誰か助けてくれるとか。
…ことばを持たない。
そうすると、そういった状況で例えば、大量服薬なんかを繰り返す状況で、精神科のクリニックに行くと、人格障害という診断をつけられてしまうこともある。
そうすると、もう人格の問題だからということで、自己責任の問題にされてしまう。
そういってまた出口がなくなっていく、状況があると思います。
それにしても、大量にお薬を服用して、それで担ぎ込まれる方々が後を絶たないわけですけれども、その薬の処方っていうのが、適切に行われてるんだろうかとも思ってしまうんですけれども。
その問題は、精神医療の中でもすごく大きな問題になっている一つですよね。
特にこういったトラウマを受けた人たちというものが求めるもの、必要なものというのは、安心と安全と安眠ということだと思いますけれども、現行の精神医療の中だと、安眠の部分はなんとかお薬でなるというところで、そこに重点的に行ってしまうというような現状はあると思いますね。
本来ですと、きちっと退院したあと、生活保障とか、心身のあんぜんと言うことが大事になってくるわけですけれども、例えば今回、見てきました患者さんの中では、救命センターでメディカルソーシャルワーカーの方によりまして、地域のクリニックを紹介されて、保健所を通じ、医療費の補助や、障害年金制度を紹介された21歳の女性の方。
自殺未遂をされた40代の女性の場合は、精神科の入院先を確保して、行政を通じて生活保護の受給というのが行われた。
こういう社会支援への橋渡しが大事なんですか?
そうです。
安全の部分ですよね。
安心と安全の部分なんですけれども、なかなか通常の医療の中では、こういったところまで踏み込んでいくということが難しいわけで、本当にすばらしい活動だなと思いつつ、拝見しました。
救命センターで、医療ソーシャルワーカーがいるっていうことは多いんでしょうか?
非常にまれだと思いますね。
ただこういった方が配置されることで、医療者は医療のほうに専念できますのでね、非常にすばらしいチームになってると思います。
なかなか、現行の医療の中では、インセンティブということではないんですけれども、大変すばらしいと思いました。
ご自身も相談に乗っている中で、精神科医の方々は、十分にこの女性たちが必要としている医療の分野での対応はできていると思われていますか?
現在、精神科医のトラウマの治療が得意かといったら、必ずしもそうではない状態があります。
そういった教育を受けてこなかったということもあるんですけれども、現状の課題として、トラウマ治療を標準化していくということは、非常に重要な課題だと思っています。
それにしても、20代、30代、40代というと、本当に産み育て、そして社会でも活躍できる大事な時期ですよね。
非常に大事だし、通常だと、楽しい世代というイメージだと思うんですね。
それがこういう状態になってしまうという、非常に悲しいことですし、立ち直っていただきたいなと思うところでもあります。
虐待を受けた人々が、また苦しい境遇に陥っていく。
そうなんです。
個人の中でも、そういった連鎖があるし、世代的な連鎖というものも考えなきゃいけないですよね。
女性センターや、児相の機能を高めるという、その個人だけじゃなくて、本当に世代的な問題にも通じていくものだと思います。
虐待を受けてる子どもに早く、早期に対応していく必要性がますます高まっていると?
そうですね。
それはまた、こういった大量服薬を繰り返したりする女性の問題を防ぐということにもつながっていくと思います。
女性たちに苦しんでいる女性に、どんなことばをかけたいですか?
最後のVTRの方もおっしゃってたけど、本当に自分を責めてらした、でもそんなに責めなくていいんだと思うんですよね。
2015/11/24(火) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「助けてと言えなくて〜女性たちに何が〜」[字]
今、救急医療の最前線に異変が起きている。「DV」「貧困」…。社会的に追い詰められた女性たちが次々に運び込まれているのだ。女性たちに何が。現場への密着ルポで伝える
詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京女子医科大学附属女性生涯健康センター所長…加茂登志子,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東京女子医科大学附属女性生涯健康センター所長…加茂登志子,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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