(上村沙江子)
遠い日への郷愁をかきたてる夕日
その壮大なパノラマに人々が懐かしさや切なさと同時に恐れにも似たものを覚えるのはその直後に魑魅魍魎のうごめく夜の闇が訪れるからに他なりません
(上村沙江子)有ちゃん。
(上村有作)ええっ!?来て!これ…。
また!?今日で3日連続よ。
もう気持ち悪い!何なのよ!?いたずらにしては度が過ぎてるよね。
いたずらならいいんだけど…。
万葉の時代から1300年の歴史を誇る温泉郷和歌山県南紀白浜
白い砂が輝く白良浜を一望する一角に私どもの温泉旅館「むさし」があります
(上村道子)いらっしゃいませ。
(従業員)いらっしゃいませ。
ようこそ「むさし」へお越しくださいました。
お待ち申しあげておりました。
ありがとうございます。
(道子)まあ浜崎さん。
お久しぶりでございます。
(浜崎一郎)どうも…。
変わらないねぇおかみも…。
また「むさし」をご利用いただきましてありがとうございます。
(広沢貢)礼ならここの夕日に言ってください。
我々の人気投票で全国1位に選ばれたんですよ。
まあ白浜の夕日が!?
(広沢)そちらは若おかみ?はい。
若おかみの沙江子でございます。
当地は夕日だけでなく温泉もお料理も格別です。
心よりおもてなしをさせていただきます。
(浜崎)楽しみにしてるよ。
いらっしゃいませ。
いらっしゃいませ。
(川北美子)あなた行きましょう。
いらっしゃいませ。
お疲れ様でございました。
どうしたの!?知ってる方?はい…いいえ。
お世話になります。
いらっしゃいませ。
いらっしゃいませ。
いらっしゃいませ。
(ノブ子)失礼いたします。
わあステキ!大浴場と露天風呂は1階エレベーターを降りて左手奥になっております。
このような「ゆめぐり札」をお求めいただきますと当館の他に3か所温泉旅館のご入浴をお楽しみいただくことが出来ますので是非ご利用くださいませ。
それではごゆっくりどうぞ。
失礼いたします。
(川北晃一)あの…若おかみの名前何て言うの?若おかみですか?うん。
沙江子ですが…。
旧姓…中原?ええ確か…。
川北晃一…
それは20年ぶりに突然訪れた再会でした
(野田)また出た!?
(石川)はい。
昨夜は桃の木峠の近くで「とれとれ市場」の若い衆が…。
はあ…ああああー!アハハ…。
仮装パーティーか何かから抜け出したんじゃないの?仮装パーティー!?誰が仮装パーティーやってるんだ?だからあの…旅回りの役者の一座がどこかの余興のほうに頼まれてやってたんじゃないですかね!?旅回りの一座がこの白浜のどこかで小屋掛けしてんのか?聞いてる?いや聞いてません。
僕も聞いてないですよ。
ええ!?じゃあ変ですね?最初から変だろうが…。
(タキ子)ちょっとちょっと!これはここ…違います。
このお皿じゃないんで…。
あっそうなの…。
若おかみ!ここは私たちにまかせて。
あなたがいると全然…。
いい!?みんな…。
じゃあお願いします。
ああ!きれいですね。
バッチリですね。
はい。
じゃあお願いします。
驚いたよ。
私も…。
へえ〜!医学部の助教授。
すごいわね。
沙江ちゃんだってあんな立派な旅館の若おかみに納まっちゃって大したもんじゃないか…。
私はね一緒になった人がたまたま旅館の若旦那だっただけ。
でも晃ちゃんはたった一人で苦学して自分の力だけでやってきたんだもの。
本当に大したものよ。
うれしいよ。
一度でも誰かにそんなふうに言ってもらいたかった。
私もうれしい。
こんなふうに晃ちゃんと巡り会えるなんて…。
ねえ何年ぶりか知ってた?20年ぶり!もう20年か…。
早いなあ!
(フサ子)痛っ!ああ〜!!ああ〜!こんなところで何見てんの?何も何も…。
どうしたの?僕にも見せてよ!ちょっと…!何も!あっち行って…!いやいや…!何で見せないんだよー!若おかみのことを根ほリ葉ほり…。
若おかみの旧姓のことまで知ってるんですよ。
ノブ子さん。
お客様のことをあれこれ詮索するのはおよしなさい。
ええそれは重々わかっておりますがフサちゃんたちの話ですと今しがたも浜のほうで2人っきりで人目を忍んで会っていたとか…。
フサちゃんが話したんでしょ!?話半分に聞いておくことね。
いやでも…。
さあ早く向こうに行って仕事しなさいよ。
早く!はっはい…。
あっ!何うろうろしてるの?ママ…。
何です?この世も終わりみたいな顔をして!?終わりだよ…。
もう終わりですよ。
グググ…。
有作!?ウエ〜ン…。
(カメラのシャッター音)
ある写真家は夕日を撮るシャッターチャンスは5秒しかないと言います
まさにつかの間の大自然のショーです
(浜崎)私たち夕焼け同好会は当初インターネットを通じてわずかな有志が夕焼けの情報や体験を交換するだけの会でしたが今や会員500人に膨れ上がり一昨年からは年に一度全国大会を開くに至り写真とエッセイのコンクールも新設いたしました。
その賞を受賞された方々も来られています。
ここ南紀白浜の夕日を堪能しつつ親睦を深めていただきたいと心から念じる次第であります。
(拍手)お2人とも飲めないんですか?うん。
うふふ…。
ノブちゃんノブちゃん。
はい。
あちらあちら…。
はいかしこまりました。
ごゆっくり。
ありがとう。
(滝川修次)あなたが美人で評判の若おかみですね!?ああいえそんな…。
フリーライターの滝川と言います。
一度ゆっくりお話を伺いたいんですが…。
お話!?何でしょうか?こちらには結構有名人がお忍びで来られるとか…。
そのへんの内輪話を…。
(広沢)滝川さんそろそろです。
お願いします。
わかりました。
それじゃ失礼いたします。
ええそれぞれ写真とエッセイ部門で受賞された滝川修次さん坂井伸吾さんにもひと言ずつお言葉をちょうだいしたいと思います。
滝川さんお願いします。
(拍手)フリーライターの滝川です。
釧路で撮った写真が賞をいただきました。
今後は海外へも足を延ばして壮大な夕日の写真をものにしたいと考えています。
ご期待ください。
(拍手)
(坂井伸吾)和歌山で不動産鑑定士を営む坂井です。
エッセイといいましても旅行と夕焼けが大好きだった家内との思い出をつづっただけのものです。
その妻はこの10年間寝たきりで病室からでしか夕日を見ることができないまま4月に他界しました。
家内がいなくなってから1人で見る夕焼けは悲しい…寂しい…。
ともあれ今回の受賞を天国にいる家内が一番喜んでくれているでしょう。
ありがとうございました。
(拍手)はっはっ。
はっ…。
ねえねえ。
うん!?どう見てもさただの間柄に見えないんだけどさ!?ねえ何があっても驚かないから正直に話してくれるかな。
晃ちゃんのこと?晃ちゃん!?そう!私のねぇ初恋の人なのよ。
はっ初恋の人?そう!私が5歳のときから友達でね。
晃ちゃんにはお母さんがいなくて私にはお父さんがいなかったせいかどこか通じ合ってよく一緒に遊んでた。
ふう〜ん。
そういう通じ合うところのある幼なじみなんだ。
でね晃ちゃんは高校生のときにお父さんも亡くしてね。
でもそこからすっごく頑張って国立大学に入って都会に出て行ったの。
でねそれ以来なの私たち…。
ふう〜ん。
そんなにすっごいんだ!?そんなにすっごい彼が突然目の前に現れてそうしたら焼けぼっくいに火がついちゃって…。
つきません!晃ちゃんはねれっきとした妻帯者なの!でもさあ…。
有ちゃんあなたに初恋の人は?そそりゃあいないことはないけどさ。
あのねぇ晃ちゃんはね私の人生の入り口に立ってた人。
確かに特別な人よ。
でも一緒に人生を歩く運命にはなかった。
私が人生のパートナーに選んだのは有ちゃんあなたよ!痛っ!あなたも私を選んでくれたんでしょ!?私たちはこれからも一緒に歩いていくんでしょ!?うん。
うんもう…。
私が不倫をするとでも思ったの?おっちょこちょいなんだからもう…。
だっだってさあ…。
でもちょっとねぇ何かうれしかったりして久しぶりにやきもちやいてもらったかなぁ。
あっねえねえ。
有ちゃんの初恋の人ってどんな人?ううんあのねぇ。
中学校の卓球部だったんだ。
でね1234ってやるたびにねこうショートカットの髪の毛がパラッパラッてね…。
有ちゃん有ちゃんうれしそうだね。
そっそんなことはない。
すごいうれしそうだね。
そんなことないもん!ねえ初恋の人と再会したらどうなるのかな?ええ!?想像してる?ああっそれだけで何で顔が赤くなるのかな?赤っ!?そんなことないもん!あなたのほうが危ないんじゃないの?僕には沙江しか見えません!
(メールの受信音)ほらメールメール。
何?だってほら…。
ほら!あやしい!本当にもう…。
有ちゃんまたよ。
ああー!ねえ本当に心当たりないの?ううん。
「積年の恨み晴らさん」って一体誰なのよ?もう…。
ああアンコウいいなぁ。
久しぶりにゆっくり食べられるねごはんも…どう?このイシダイいいなぁ。
どれもいいよね。
うん。
このへんがいいなぁ。
おいしそう!もう少し小さくてもいいんじゃない?いやでもタイはこれくらいじゃないと…いいよ。
いいでしょたまには?うん。
へへ…気持ちいいね。
あっ!人が倒れてる!?あの浴衣!?うちのお客さんだ。
そうよ!はあはっ…。
大丈夫ですか?大丈夫ですか?ああー!うわー!はっ!?この方は夕焼け同好会の…。
ええ!?うん。
そう…。
刺し傷は左わき腹と心臓の2か所か。
死亡推定時刻は昨夜の11時前後です。
警部。
全部で25枚です。
これ専門家に当たって年代と骨董価値を調べてくれ。
警部!何だ?あの昨夜また例の奴が出たらしいですよ。
例の奴?ええ。
この人が見たらしいので話を聞いてください。
(店員)昨日の晩11時ごろ遅番で店に出る途中…。
はっ!きゃあー!あんな…あんな怖い顔見たことないですよ。
もののけです。
もののけ!?殺された広沢さんとは?会の創立メンバーだっていうことは聞いてましたがお会いするのは今度が初めてです。
ほおー!どういうきっかけで夕焼け同好会に入会されたんですか?私がインターネットで会のことを知って…。
夕焼けが好きでしたしお互い病院勤めですれ違いばかりでしたから会に入って2人だけの時間を持ちたかったんです。
ふう〜んすれ違いね。
なるほど…。
結婚してどれぐらいですか?3年目になります。
3年3年…ふう〜ん。
ご夫婦は円満ですか?刑事さんそれと事件とどういう関係が?そういうことがね案外事件解決の大きなきっかけになったりするんですよ。
あきれた人ね。
事情聴取にかこつけて晃ちゃんちの夫婦仲を聞き出そうとしたでしょ!?だって夫婦仲が円満なら余計なこと心配しないで済むじゃない。
それで本題のほうは?刀を持った落ち武者。
現場に落ちてた古銭はね江戸時代中期のものらしいよ。
今捜査本部じゃね毎晩出没する落ち武者とセットで調べているよ。
セット?うん。
まったくどこの誰だか知らないけどさおどろおどろしいこと考えてさ。
ねえ有ちゃん。
うちに送られてくるあの変なメールあれもセットじゃない!?あのメール?江戸時代の古銭落ち武者復讐予告のメール…。
この3つをセットにして誰かが何かを伝えたい…。
そうじゃない!?伝えるって何を?
(小早川)江戸中期ねぇ…。
ああ1つ白浜の風土記にこういう逸話が残されているよ。
当時は紀州沖に海賊が出没していてね。
海賊?熊野水軍の末裔という説もあるんだが…。
あるとき嵐で船が難破して海賊の頭領と子分たちが白良浜に漂着した。
それを見つけた地元の漁師たちが彼らをめった打ちにして殺して金品を奪った。
死に際海賊の頭領は必ず亡霊となって舞い戻り仕返しをすると叫んだそうだ。
亡霊となって仕返しを…?
(小早川)その日はまるで空に血をぶちまけたような真っ赤な夕焼けだったと風土記に記されているよ。
夕焼け…。
ねえどこ行こうっての?こんなとこさぁ地元の俺でも来たことないよ。
私も聞いて初めて知ったの。
この下よ。
気をつけて。
ああ大丈夫?よいしょ。
ああ…。
有ちゃんこれほら!ああ…何?この祠はね殺された海賊の霊が祀られているんですって。
もう今はね誰もお参りには来ないらしいんだけど…。
何じゃあ誰もお参りに来ないもんだから300年も経った今その海賊の亡霊が復讐しに来たとか!?有ちゃんお願いしますよ!あなたは刑事なんだからもっと深くひねって考えてみて。
もういいわよ。
でもパパがよくこうやってお前も考えろと言って…。
でもこうは考えられない?誰かがその伝説をなぞって犯行を行っているって…!?ちょっと…ねえこれってさごく最近お参りに来たあとじゃないのかな?沙江の言うとおりだったら第2第3の犯行もあるっていうことかな?ええ?もういいよね。
行こう。
ねえ行こう行こう。
すみませんすみません。
ちょっと…。
大変大変です!ちょっと来てください。
どうしたの?こちらへ…お願いします。
バタバタと何よ?ええ!?大変なんです。
お客様のフリーライターの滝川さんって人…。
どうしたの?円月島近くの防波堤の上で殺されたんです。
(沙江子・道子)ええー!お義母様。
大おかみ!会長の浜崎さんも昨日から戻って来てないんです。
何ですって?昨日会員の方たちと三段壁の洞窟見物に出かけられて突然姿が見えなくなっちゃって…。
(沙江子・道子)ええー!三段壁の洞窟で?
(携帯電話)はい野田だ。
うん…何?千畳敷の沖合いで?検視官の話では胸に刺し傷があると…。
あっちょっと待ってください。
ありました。
例の古銭が遺体のポケットに。
わかった。
すぐ行く。
浜崎さんの水死体が上がった。
(会員たち)ええー!あとよろしく!会長の浜崎さんまで殺されたって本当ですか?これで3人ですよ。
一体どうなってるんです?
(従業員)エイッ!エイッ!
(ノブ子)面を討て!
(従業員)面っ!面っ!旅館の仕事は体力が勝負。
日ごろの鍛錬がものをいうんですからね。
何ですかその構えは?タキ!ピアスをはずせ!すみません。
(従業員)エイッ!体力精神力どちらも鍛えておかみへの道を極めます。
ええっ!危ない!気をつけてくださいよもう…。
(従業員)エイッ!大変なことになりましたね。
落ち武者の亡霊があたり構わず人殺しを始めたってもう白浜中大騒ぎになっています。
あたり構わずじゃないでしょ!?狙われたのはね夕焼け同好会の人たちばかりよ。
夕焼け同好会に恨みを持つ人間の犯行?そういうことでしょうか?もしかしたら夕焼けそのものに恨みを持つ人たちの犯行かもね。
私にも忘れることのできない夕焼けの思い出があります
だるまさんが転んだ。
なおちゃんごはんだよ。
じゃあね。
(子供たち)バイバ〜イ。
俺たちも帰ろうか?うん帰ろう帰ろう。
うん帰ろう。
どけって…どけっ!何すんだよ!晃ちゃん大丈夫?
晃ちゃんがなぜ通せんぼしたのか私は知っていました
彼には夕げの支度をして待っているお母さんがいなかったんです
・沙江子さん。
はい。
あなたでも物思いにふけることあるのね?どういうわけでしょう?このところ人が変わったようにおしとやかになられて…。
ええっ!?私おしとやかになりましたか?はは…そうですか?ありがとうございます。
エヘへ…。
えっ?どうなってんですか?・
(ノック)はい。
どうも。
ご主人いらっしゃいますか?ええ…。
もう2〜3伺いたいことがあるんですけども…。
申しわけないんですけど署までご足労願いたいんです。
奥さんも…。
わかってるわね。
こういうときこそ誠心誠意心からお客様に接してサービスしてください。
大変大変!えらいことです!フサちゃん何なの?若おかみのお知り合いのご夫婦が若旦那さんと石川刑事に連れられて警察署へ…。
晃ちゃんと奥様まで!?ねえ何で?いつ?痛っ…。
今です。
昨日会長の浜崎さんがいなくなったときの状況を話してくれませんかね?洞窟の奥の辨才天のあたりまで行ったときに誰かが浜崎さんの姿が見当たらないって言い出したんです。
それでみんなで手分けして洞窟の中を捜したんですが…。
あれっ!?浜崎さんは?浜崎さんいないの?どうしたの?あれっ?捜しましょう捜しましょう。
浜崎さん!浜崎さ〜ん!
(晃一)結局浜崎さんは見つからずみんなは急用でも出来て先に宿に帰ったんだろうって納得しあって…。
まさかこんなことになってるとは…。
(野田)三段壁を出てからあなた方は別行動をとられたそうですね。
どこへ行かれたんですか?円月島です。
(晃一)南紀白浜で最も有名な夕日を見ようと…。
どこで夕日を眺めるか意見がわかれました。
家内は時季に関係なく円月島の海食洞越しに夕日を見るスポットがあるはずと言い張って…。
それで…?あなたはどこでその夕日をご覧になったんです?人気のない浜の一角です。
何て場所かは知りません。
(美子)主人の説が正しかったんです。
道で会った地元の方に円月島の洞穴越しに夕日が見られるのは春と秋のお彼岸のころだけだと伺って来た道を引き返しました。
でもご主人は見つからなかった。
ええ…。
主人を捜しながら歩いていると陽が落ちてきて…。
そのあとご主人と会ったのは?タクシーを降りた場所です。
その間の所要時間ですが…。
15分から20分ぐらいだと…。
(野田)お話から推測してあなたが夕日を見たのはたぶんこのあたりでしょう。
…かもしれません。
同時刻フリーライターの滝川修次さんが何者かに刺し殺されたのがこの防波堤です。
川北さんあなたは会長の浜崎さんが忽然と姿を消した三段壁の洞窟に居合わせしかもフリーライターの滝川さんが刺殺された同時刻現場の防波堤からほんの50〜60メートルしか離れていない場所におられた。
これは単なる偶然ですかね?警部さんまさか僕が浜崎さんや滝川さんを殺したとでも?よしてください。
確かに伺えば疑われる余地があるかもしれない。
だけど僕が彼らを殺す理由がどこにあるんですか?ごもっとも。
おっしゃるとおりです。
でその点についてゆっくり話を聞かせていただけませんかね?お帰りなさい。
私をずっと?冷えたでしょ!?どうぞ。
いただきます。
介護福祉士って大変なお仕事よね。
時間も不規則なんでしょ?ええ。
主人とは同じ病院で働きながらほとんどすれ違いの生活で…。
うちも同じ。
おとなしく旅館の若旦那に納まってればいいのに何を錯覚したのか刑事を天職だと思い込んでるのよ。
刑事さん?うん。
今日会ったでしょ!?あの真ん丸い顔の上村刑事。
あの方が!?うちの宿六!ハクション!およそ刑事っていうタイプじゃないのよ。
スーツにネクタイより旅館の印半纏のほうが似合っちゃってんだからウフフ…。
あなたのことを主人から聞きました。
あなたは自分にとって特別な存在だと…。
ウフフ…特別だなんて小さいころから知ってるっていうだけよ。
晃ちゃん…あっごめんなさい。
晃一さん十代で両親を亡くしてるから私のことを親戚のように思っているのよ。
でも主人の言っている意味がわかるような気がします。
あなたはきっと誰よりも主人のことを理解してくださっているんだと思います。
そんな…。
私はときどき主人のことがわからなくなるんです。
そばに居てもあの人の心はいつも遠くを歩いている。
どこか私の知らないところを…。
そんな気がしてたまらなくなることが…。
愛しているのね。
ええ誰よりも…。
でも…でも突然こんなことになって本当にどうしていいのか…。
心配ないわよ。
晃一さんは何があっても犯罪を犯すような人じゃない。
美子さんが一番わかっているんでしょ!?本当にありがとうございます。
あなたが居てくださったお陰でどれだけ心強いか…。
1杯のコーヒーがこんなにも心を温めてくれるなんて…。
はいどうぞ。
ごゆっくり。
おはようございます。
おはようございます。
おはようございます。
おはようございます。
はいどうぞ。
川北晃一が釈放されたのは次の日の午後でした
あなた!大丈夫だった?うん。
・
(会員たち)ちょっとどうなってるんだよ。
(ざわめき)ちょっ…どうかお待ちください。
捜査はまだ進展していませんし犯人の意図が全然わからないんですよ。
ですから大変危険ですからねもうしばらく当館にお留まりください。
どうかねお願いします。
ちょっと…。
申しわけございません。
どうぞご理解くださいませ。
(ざわめき)はい。
あっあ〜ん。
まああはは…これじゃあ量が足りないでしょう?はいどうぞ。
すみません。
警護で「むさし」に詰めるんですって?石川さんって独身?ええまあ…。
そう…。
いい体してる。
あっお代わりしましょうね。
あらら私がやる。
はい…。
あっちょっと…。
やめてー!こんちくしょう!よおっ!あははお騒がせしました。
ああごもったいない…。
はい…はいどうぞ。
小学校の文集?そう。
彼が5年生のときに書いた作文が載っていてね。
題が「夕焼け」って言うんだよ。
野田警部はその内容に注目してんだ。
(野田)「ぼくは夕焼けが大きらいだ」「もしミサイルをもっていたら夕日を撃ち落としてやりたい」「僕は夕焼けが大きらいだ」中身を要約するとね。
夕暮れどきになるといそいそとお家に帰って行く子供たちが彼は憎かったんだな。
あの子たちには家に帰るとやさしいお母さんの笑顔があって温かい晩ごはんが待ってるんだよ。
ところが彼にとってはお母さんいないし温かいだんらんもないんだよ。
・なおちゃんごはんだよ。
どけって。
何すんだよ!ああバカバカしい!痛っ!夕焼けが嫌い。
そんな他愛ない動機で大の大人が3人もの人を殺したって言うの。
だけどね警部はねむしろ最近はそういう取るに足らない他愛ない動機のほうが多いって言うんだよ。
例えばさ隣りの家の犬が自分の家の垣根に小便を引っ掛けたとか…。
パチンコで負けてむしゃくしゃしたとかさ。
有ちゃん冷静に考えてみて。
この一連の事件はねそんな衝動的な殺人じゃないわよ。
いい…白良浜で広沢さんを襲った犯人は落ち武者の格好をして300年前の伝説をなぞってんのよ。
だとしたらこれは用意周到に練られた計画的な殺人よね。
もっと深い動機が隠されてるはずよ。
彼もねそういう同じような理由で反論するんだよ。
そしておしまいにはね…。
僕は大学付属病院の脳神経外科に籍をおく助教授です。
現在は系列病院に出向して大勢の医療スタッフを束ねてる。
高校のときに父親を亡くした僕が死ぬ思いで勝ち取ったポストです。
それを僕自身が夕焼けのためにふいにしてしまうと本当にお考えですか?晃ちゃんの言うとおり!釈放されて当然よ。
でもねだからと言って彼の容疑が全部晴れたわけじゃないんだよ。
だってさ2つの事件現場に一番近いところに彼がいたのは事実なんだからさ。
だから警部だって僕に「彼から目を離すな」って…。
へえーよかったわね。
危険人物の監視が出来てねぇ上村刑事!?どうして彼のこととなるとそうやってムキになるんだよ?なってない。
(ノック)ああああ〜!大おかみがおかんむりです!どうしてすぐ状況報告に来れないのかと…。
ねえお義母様…。
お義母様じゃない大おかみです!はいっ早く!それじゃまだ動機も犯人像もわからない。
振り出しに戻ったってこと?そういうことになるね。
沙江子さん。
犯人はまた夕焼け同好会の会員を狙ってくるかもしれないわ。
大切なお客様をお預かりしている以上私たちは責任は重大よ。
おっしゃるとおりです。
あの…警察も手が回らないでしょうから自警団をつくったらいかがでしょうか?自警団?自警団ね…。
皆さん夜間2時間交代で館内の見回り防犯などのチェックをしてもらいます。
もし万が一何かがあった場合は命に代えてでもお客様をお守りすること。
それは私たちの使命です。
そのことを胆に銘じてよろしくお願いします。
(一同)はい。
ええ…。
ええそれではメンバーの割り振り交代のシフトの確…ん?ん?ふうん?話があるんだ。
ああ…。
私もね訊きたいことがあったの。
夕焼けのことだろ?そう。
夕焼け同好会に入会を申し込んだのは奥さんの美子さんのほうだってご本人から聞いた。
でもね私ちょっとわかんないのよね。
晃ちゃんどうして同意したのかなって?だって小学校の文集にも書いてたでしょ?夕焼けを見るのはつらいって…。
夕焼けのことはずっと忘れてた。
2年ぐらい前にね美子と北海道を旅したときに壮大な夕日を見たんだけど子供のころのあの感情まったく湧いてこなかったんだよ。
純粋に美しいと思った。
郷愁すら覚えたよ。
そう…そうだったの。
何だか楽しそうですね。
そそりゃさ客にはいつも笑顔っていうのがおかみとしての鉄則なんだよ。
あははそうですか。
そういうもんですよね。
で晃ちゃんの話は何?僕は高校のときに親父が死んでただがむしゃらに突っ走ってきた。
境遇に押しつぶされまいとそればっかり考えてまわりなんか何にも見ちゃいなかったんだ。
それはまわりを見る余裕すらなかったのよ。
沙江ちゃんに20年ぶりに会って初めて昔を振り返った。
初めて気がついたんだ。
子供のころいつも君が僕を見守っていてくれたことに…。
本当に今になって気がついたんだ。
あのころの君が心のどこかでずうーっと僕を支えてくれてたんだ。
晃ちゃんあなたは夕焼けと同じように昔のことを懐かしいって感じ始めただけよ。
沙江ちゃん違うねぇ。
わっ!あちゃーっ!?あれもおかみ業ですか?うるさいー!うう…。
ちょっと先輩?晃ちゃん…。
ねえだったら同じ気持ちであなたのまわりを眺めて。
僕のまわり?美子さんの気持ちに気づいて。
美子さんね本当に晃ちゃんのことを思ってる。
そんな美子さんの支えがあるからこそ晃ちゃんの努力も報われて医者として立派に頑張れてるんでしょ!?うん。
美子さんと幸せにね。
ああいけない!大おかみに怒られちゃうの。
私ね若おかみとしてまだまだなのよ。
じゃあね。
エエン…。
ママ!どうして僕をもっとハンサムに産んでくれなかったの?何言ってんのよ?あんたハンサムじゃないの!男はね顔じゃなくて心。
ハートよ!30歳過ぎたら自分の顔になるんですからね。
しっかりしなさい!でもママ…。
今ねぇうちのお客様大変なことになってるのよ。
あなたがしっかりしなくてどうするの!ウググ…。
ゴクリ。
沙江子さん。
はい。
ちょっと。
はい。
あの…。
いえねぇ有作があんまり落ち込んでるんでね。
あんたを詮索するわけじゃないんだけど…。
お義母様。
うん?お義母様初恋の人は?どうしてそんなこと訊くの?そりゃありますよ。
16歳のときだったかしらね。
もう40年も前のことだから…。
もしその方とバッタリ出会うようなことがあったら?そりゃドキッとするでしょうね。
胸がキュンとするかもしれないわ。
私もそうでした。
でもそれは遠い昔のいい思い出。
過去のことです。
私が現在と未来を一緒に歩く大切な人は有作さん一人っきりです。
あの…それでは答えになりませんか?それを聞いて安心したわ。
ありがとう。
ああ…。
(フサ子・タキ子)ああ大変…大変です!また1人消えたんです。
ええ?ねえ誰が?夕焼け同好会の坂井伸吾っていうお客様です。
ほら!エッセイで賞をとられた。
ああー!大変…!痛っ!ああ〜いた?いないいないの!無断で出かけるなってあんなに口すっぱくして言ったのにさ!バカ!アホウマヌケトンマ!何のためにお前たちを護衛につけたんだ!当人にもしものことがあったら始末書ぐらいじゃ済まされんのだ!
白浜中大々的な捜索が行われましたが坂井さんは見つかりませんでした
いや〜冷えますね。
えっええ…。
ああ…石川君ひと風呂浴びてこいよ。
でも時間も時間ですし…。
何言ってんだよ。
俺はここの若旦那だぞ。
俺が言うんだからいいんだから行ってこいよ。
じゃあ行ってきます。
はい。
うん。
おいっ!風呂はあっち!あっち!?いってきます。
いってらっしゃい。
女人?
(タキ子)もういい…もういいから行こう。
有ちゃん今すぐ来て!わかった。
わあー!
(タキ子・フサ子)わあー!何だよもう…。
ねえどっどうした…?これね見て…!復讐はまだ終わっていない。
残るは女性だって言ってるのよ。
女性って?えっ!?私?もう私そんなの身に覚えないわよ。
だって「積年の恨み晴らさん」積年よ?だけどさこのパソコンは沙江のだろ?…ってことはこのパソコンを使って誰かに伝えたいのかな?ねえお義母様ってパソコンする?全然!アナログ人間だもん。
はあー!ええ!あの…じゃあこの女人ってママ!?犯人の最後のターゲットは「むさし」の大おかみ!?愚痴るだけ愚痴ってスウーッとしたわ!まだそんなこと言ってるの?もう御神酒が入ってるんだから気をつけて帰ってね。
嫁より先には死ねません。
またそんなこと言って…。
じゃあまたね。
どうも。
失礼します。
あなたが犯人ね?なぜ私なの?殺す前にそれだけ教えて!・ママ!お義母様!大丈夫ですか?大丈夫?大丈夫。
スキをつかれたのよ。
でもね。
あの人殺す気なかったみたい。
えっ!?大おかみ復讐を考える人間はですね。
必ずその意図を相手に伝えようとするもんなんです。
昨夜犯人が大おかみに脅しをかけたのも…。
わかってますよ。
言われなくったって。
あっそう…。
昨夜からずうーっと心当たりを考えてるんだけど…。
お義母様と殺された3人の共通点…。
お義母様3人の顔もう一度じっくり思い浮かべてみましょう。
白良浜で最初に襲われたのが…。
公認会計士の広沢さん。
それから会長の…。
浜崎さん。
それにもう1人は…。
写真の賞をとったフリーライターの滝川さん。
でもその3人と私が一体どういう…。
3人の共通点はね。
3人とも夕焼け同好会の創立メンバーだってことなんだよ。
創立メンバー!?うん。
そうそうそういえば3人は一度この「むさし」へ来たことがあるの。
(3人)ええっ!?そのとき初めて夕焼け愛好家の会があることを知ったの。
それはいつごろの話ですか?10年ほど前かしら…。
ねえお母さん。
そのときにその3人と何があったか覚えてる?思い出したわ!ええっ!そのとき私3人を白浜の夕焼けの名所へ案内したの。
1日目は円月島。
2日目は平草原だった。
すみません。
下においてある車はあなた方のですか?ああそうだけど…。
私の妻がハイキングの途中急に具合が悪くなって申しわけないがどなたか病院まで妻を運んでくれませんか?悪いけど今手が離せないんだ。
あと10分か15分待ってくれたら…。
いやしかし私の妻は…。
あの夕日を撮るためにわざわざやって来たんです。
チャンスは逃がしたくないんですよ。
いやですけど…。
(滝川)この先に民家があるそこまで連れてったらどう?私車の運転が出来るといいですけど私がその民家まで行って車の手配をいたしましょう。
すみません。
お願いします。
大丈夫ですか?じゃあ私行ってきますからね。
ここにいてあげてください。
お願いします。
痛っ!すみません。
すみません。
ごめんください。
(ノック)どなっどなたかいらっしゃいませんか?
(カメラのシャッター音)あの…坂井さんが?病室からでしか夕日を見ることが出来ないままに…。
4月に他界しました。
その日の午後三段壁の崖の上で…
あっおまわりさん。
お願いします。
大丈夫ですか?どうしたんですか?この人崖から飛び降りようとしたんです。
手配中の坂井伸吾の身柄を確保しました。
了解。
あなたの車ですね?開けて。
家内はクモ膜下出血で搬送された病院で緊急手術を受けました。
一命は取り留めましたが重度の後遺症が残って執刀した医師からあと10分でも早く処置していたら歩いたり話したりすることが出来たかもしれないそう言われました。
それから10年寝たきりになった妻を看病しました。
本町通りの銀杏が色づいてた。
もうすっかり秋だよ。
病気が治ったら来年こそ嵐山の紅葉を見に行こうな。
京子わかるのか?僕の言ってることがわかったのか!?
(坂井)私は妻が応えてくれたように思いました。
うれしかった。
本当に妻がよくなり2人で嵐山の紅葉を見に行けたらと淡い希望を抱きました。
でもその後は…。
何も応えてくれない妻の世話をするたびに夕焼けを目にするたびにあのときのあの男たちへの恨みが募りました。
そして家内が死んだ日…。
(嗚咽)あらためて激しい殺意がわき上がり心を決めました。
彼らを道連れにして私も死のうと…。
そのためにはまず彼らの懐に入り込むことが先決です。
それが夕焼け同好会だな?インターネットで入会して早速会が主催する夕日の撮影会に参加したんですが彼らは私のことをまったく覚えていませんでした。
10年前のことなど記憶の片隅にもないんです。
300年前の伝説になぞって犯行を計画したのはこれは一体どういうわけなんだ?人を殺すなんて私のような小心者には途方もない重圧です。
どうしても助けが欲しかったんです。
助け?人を平然と殺す戦国時代の武将や海賊に身を変えたら思い切ったことが出来るんじゃないかと考えたんです。
確かに古道具屋で集めた甲冑に身を固めると自分が本当に復讐の鬼になったような気がしました。
そして大会初日の夜に最初のチャンスが巡ってきました。
今夜はおそらく上弦の月です。
湯から上がったら浜に出てみませんか?
(滝川)いや部屋にマッサージを呼んでますので私は…。
(坂井)私は先に湯から上がると近くの駐車場に停めた車のところへ急ぎ…。
(古銭をばらまく音)やっぱり私には無理でした。
全身の力が抜け震えが止まらず夢枕に現われた妻から「もう人殺しはやめて」と懇願されて私はもう…。
会長の浜崎一郎。
フリーライターの滝川修次の殺害状況は?だからあの2人は私じゃないんです。
私が殺ったのは広沢さんだけで…。
何をバカなこと言ってるんだ。
今になって言い逃れをするつもりなのか?いいえ本当なんです。
私が刺したのは本当に広沢さんだけなんです。
あんたじゃなかったら誰なんだ!?誰が浜崎や滝川を殺したと言うんだ!?わかりません。
私も不思議なんです。
ひょっとすると人知を超えたものが?人知を超えたもの!?おそらく300年前の海賊の霊が本当に蘇り私の恨みに乗り移って浜崎さんや滝川さんをそうとしか考えられません。
あんたは奥さんを看病しながらこの日記に犯行計画をしたためた。
何年も前から3人の殺害計画を練りに練ってきたんだ。
中途で断念するはずがない。
10年積もり積もった怨念を消せるはずがない。
あんたがやったんだ!信じてください!信じてもらうしか…。
(嗚咽)坂井さんあの…広沢さんのどこを刺しました?腹です。
向かって右の腹…。
何回?1回…。
有作。
お前何を考えてるんだ?何って?捜査の足並みを乱してどうするんだ!足並み!?警部!我々は事件の真実を追求しているんじゃないんですか?真実?当たり前だよ。
物証なら腐るほどあるんだ。
誰が考えたって坂井がホンボシだ!だったら広沢貢のこの検視報告どうやって説明するんですか?彼は腹と心臓と2か所刺されて死亡しています。
しかも致命傷は心臓のほうですよ。
坂井の供述と大違いじゃないですか!?奴は死刑を免れようと嘘をついているんだ。
長年デカをやっててそのくらいのことがわからんのか!?わかりませんね!三段壁から海に飛び込みかけた人間が死刑を免れようとするはずがないでしょう?有作お前!?私はこのクビをかけて坂井さんの供述を信じます。
警部も自説にご自分のクビをかけますか?驚いた!有ちゃんがあの鬼警部に刃向かうなんてね。
どこにそんな牙を隠してたのかな?ウフフ…ここここ。
エヘへ…。
だけどさ坂井さんの奥さんは脳に重度の後遺症を残してんだよ。
その奥さんをね10年間も一生懸命看病した一途な人なんだよ。
だから復讐だって考えちゃったんだよ。
そんなね取調室で平気な顔して嘘を並べたてるようなそんな人間じゃないよ。
そう思ったらさ俺が守んなきゃって思っちゃったんだよ。
そう…。
そういうやさしさから真実が見えてくることもあるかもね。
そうだよ!それをさあのクソ警部ったらさ頭っから俺のこと相手にしてないんだから…。
ああじゃあねそんなわからずやの上司の下でね我慢して働くことないわよ。
有ちゃんはねいつだってこの「むさし」の若旦那に戻れるんだもんねぇ。
そうはいかないよ。
だってさどう考えたって刑事は俺の天職だよ!辞めるわけにはいかないね。
だったら坂井さんの言い分を証明しなきゃねぇ。
でも難しそうよ。
一体誰が何のために広沢さんに致命傷を与えて浜崎さん滝川さんを殺害して大おかみを襲ったのか?さらにどこでどうやって坂井さんの計画を知りそれに便乗しようと考えたのか?そうなんだよな…警部に向かってさあんなふうに威勢よくたんか切っちゃったけどじつのところは全然見通しがついてないんだよな。
ねえ川北さんと奥さんは?今日皆様と一緒にお帰りになりました。
心配のタネがなくなってホッとした!?まあね…。
だってさすごいハンサムだしそれにバリバリの脳外科医ときてるじゃないか…。
それが沙江ちゃんの初恋の人だなんて聞いたときにはもう一時は頭真っ白けになっちゃったよ。
あっ!カクテルおかわりは?どうしたの沙江ちゃん?うん…。
カラだよ!えっ!?どうしたの?何だか眠れなくて…。
何かさ引っかかってるんだろ?ねえだから眠れないんだろ?教えてくれないかな。
あのね坂井さんの奥さんが入院してた病院どこだかわかる?うんうん…。
ちゃんと調べたの。
あのね…。
和歌山中央病院。
本当にどうしたの?うん…。
有ちゃん防波堤で殺された滝川さんのこと調べてくれる?うん滝川…。
こちらには結構有名人がお忍びで来られるとか…。
そのへんの内輪話を。
フリーライターとしてどんな仕事をしていたのか。
最近何を取材していたのか。
うんいいけどさ…。
何が気になってるんだか教えてくれない?うん…。
あることを確かめたら話す。
それまで何も訊かないで。
お願い!
和歌山市郊外にある病院にすべての謎を解く鍵が秘められていました
あの…。
この4月に亡くなった坂井京子さんの担当の先生は今日いらっしゃいますか?ご挨拶したいんですけど…。
少々お待ちください。
たしか川北先生でしたよね?そうですね。
滝川はみかけによらず社会問題を扱うライターらしいよ。
社会問題!?最近は病院にご執心でね医療事故とか医療ミスを積極的に取材してたらしいんだ。
評判もかなり悪いよ。
数年前にね恐喝で訴えられたこともあるって話だ。
要するに医療トラブルの内側に入り込んでメシの種にしてたって言ったほうが早いよ。
有ちゃん。
沙江ちゃん。
ねえ沙江ちゃんの推理聞かせてくれよ。
ごめん有ちゃん。
まだ訊かないで。
私その人自首させたいの。
だからもうしばらく…ごめん。
ねえ頼むからさ1人でムチャしないでよ。
君の亭主は刑事なんだよ。
沙江ちゃんにもしものことあったら俺…。
(電話)はい川北ですが。
晃ちゃん大事な話があるの。
会える?うんいいよ。
明日の午後だったら…。
わかった。
じゃあ4時に。
じゃあ…。
大おかみ!若おかみがあんなところで…。
沙江子さん!えっ?あっ…。
何してるの?そんなところで。
お客様よ。
早くいらっしゃい!あっはい。
すぐ!ようこそお越しくださいました。
(ノブ子)いらっしゃいませ。
(一同)いらっしゃいませ。
いらっしゃいませ。
いらっしゃいませ。
お疲れ様でございました。
いらっしゃいませ。
ナイスボール!ナイスボール!
そのとき私は重大な間違いに気づきました
だったら一体誰?ああもうわかんなくなった…!
もう1人いたんです
この事件と深く関わりのある人物が…
晃ちゃん。
沙江ちゃん大事な話って何?うん…。
晃ちゃん。
坂井さんが逮捕されたことは知ってるわよね?うん。
坂井さんね広沢さんを刺したことは認めてるけど浜崎さんや滝川さんの殺害は否定してるの。
晃ちゃんはいつから坂井さんの奥様の主治医になったの?5年ぐらい前かな。
彼女の手術を執刀をしたのが僕の師匠筋に当たる人でね。
あとのケア頼まれたんだ。
美子さんは坂井さんの奥様の介護をしてた。
それであなたと出会って結婚したのよね?うん。
つまりあなたと美子さんは坂井さんの奥様の病室に日常的に出入りをしてご主人が奥様の看病の傍らに毎日書きつづってた日記を読むことが出来たってことよね?日記って?その日記には10年前のことも書かれてるわ。
坂井さんの奥様が倒れたときそこに居合わせた夕焼け同好会の3人が手を貸してくれなくてそのせいで奥様に重い後遺症が残ったことも…。
そしてそのつらさや3人への恨みが日に日に増してついには殺意を抱くようになるまで…。
それと僕らとどういう関係が?晃ちゃんがその日記を読んだとしたらその3人の中にフリーライターの滝川の名前を見つけて驚いたはずよ。
滝川は人の弱みに付け込んでお金をゆすってた。
晃ちゃんあなたも滝川に…?沙江ちゃんどこでそんなことを?有ちゃんっ!?あなたが関わった医療事故に関する告発文書と資料が滝川の貸し金庫の中から発見されました。
これらのコピーがあなたの元にも送られてるはずですが?沙江ちゃん僕が滝川を殺すために坂井さんの復讐劇に便乗したってそう言いたいの?ううん!最初はそうかと思って私も驚いたの。
でもあなたが犯人じゃない決定的なことがわかったの。
ねえ有ちゃん!うん?今回の事件の犯人の利き腕は?右利き!うん…。
晃ちゃんあなた左利きよね?うん。
じゃあ犯人は…?あなたを守るためならどんなこともいとわない人よ。
美子…。
美子…!あなた許して…。
滝川の口を封じるにはああするしかなかったの…。
美子さん。
あなた滝川にお金を要求されてたんでしょ?お金だけじゃ…ありませんでした。
まだそんな格好してんのかよ。
来いよ!約束よ。
これ以上川北には付きまとわないで。
あああと500万できれいさっぱり手を引いてやるよ。
来いよ!!おらっ!うっ!約束が違うわ!いいだろ?ハッハッハッ!殺すしかないと思いました。
病室で坂井さんの日記を読んで彼の殺害計画に便乗しようと決めたんですね。
ええ…。
人のいい坂井さんが本当にあれほどの復讐を実行するかどうか疑問でしたけど奥様が亡くなられてすぐ夕焼け同好会に入会されて本気だとわかりました。
それで坂井さんには気づかれないように共犯者となって白良浜では…。
(広沢のうめき声)広沢さんにとどめを…。
三段壁の洞窟でも坂井さんに代わって浜崎さんを。
うあっ…。
そして最後に本命の滝川修次を…。
私の母を襲ったのは10年前の出来事を思い起こさせるため。
殺す意思はなかった。
ええ…。
坂井さんや奥さんのためにも10年前の出来事を風化させたくなかった。
ささいなエゴが人を不幸のどん底に突き落とすこともあるってことを皆さんに知ってほしかったんです!でも奥さん!あなたどうして滝川だけじゃなくて広沢さんや浜崎さんまで…?わかっていただけるでしょうか?私5年坂井さんの奥様を介護しました。
その間坂井さんが書いた日記を密かに読み続けました。
(坂井)「目に見えて妻の体力が衰えている」「あと何日もってくれるか…」「最近よく夢を見る。
妻とケンカしたこと」「2人で大自然の中トレッキングし沢の水をおいしそうに飲んでいた京子のことを」「夕日に染まった妻の横顔を…」「今日医師から宣告された。
妻の命もってもあと数日」「私は祈った。
このままでもいい。
死なないでくれ!」「こうして妻の手を握っているだけでいい」「何も言ってくれなくてもいいから生きていてくれと!」「私の心にふと夕日を撮っていたあの3人の男がよぎった」「強い憎しみがわいてきた」「あいつらに美しい夕日を撮る資格があるのか?」「夕日に魅せられる心があるならなぜ!?なぜあの時!!」「妻が受けた10年間の苦しみを必ず思い知らせてやる!」
(美子)坂井さんの悲しみ恨みがいつの間にか心の奥まで染み付いて…。
彼がやれないのなら私がやる。
私からすれば坂井さんと私は一心同体でした。
僕のために人殺しを…?私亡くなったあなたのお母様のことを考えたの。
お母様が生きてらして苦しんでるあなたを見たらどうするかって…。
馬鹿な女だと思うでしょうね。
でも…私そんなふうにしかあなたを愛せないんです…。
本当にごめんなさい。
でも夕日を嫌いにならないで。
きれいな夕日を見たら2人で見た北海道の夕焼けを思い出してください。
そして…私のことも…。
美子ー!!ごめんよ…ごめん…。
(美子)ありがとうあなた…。
ハアッハアッ…。
くっ!くうー!ハア…ハア…。
はい〜!よし…。
ハアッハアッ…。
若おかみちょっと!えっ何?もう少しで終わるからちょっと待って…。
いいから早く!!はいっ!はいっ。
何っ?何っ?ハハハハ!さささ!ちょっと何なのよ〜!若旦那さんから若おかみにメッセージがあります!メッセージって…ねえねえ!怒りの?怒ってるのまだ?そうよね〜だってね私が悪かったのよ。
やっぱり刑事なんだから彼は。
何でもしゃべんなきゃいけなかったの私ねでしゃばっちゃったのよ〜!いやいや…若おかみったら!ちょっとちょっと!ちょちょ…。
さあさあさあ…!ちょっと!もう勘弁して!ごちゃごちゃ言わんと!はい!フフ…。
砂に書いたラブレターなんて若旦那さんも粋なことしはりますね〜。
有ちゃ〜ん!沙江ちゃん!愛してる〜!アハッありがとう!えいっ!きゃあ〜!私もだ〜いすき!大好きだよ〜!ハハハッ!はあっ…。
何やってるのいい歳して…。
フフッ。
わあ〜有ちゃん!疲れた!疲れた〜!へへへ。
もう!わあっハハハ!えいっもうコラ!ハハハ。
へヘヘッふう〜。
ふう〜。
・真っ直ぐにきちっとね!きちっとして…!ああーっ!?ぎゃー!ちょっと気をつけてください。
すいません!はいはい。
じゃないでしょ!何でなのよ!だからきちっと入れてくださいって若おかみ言ってるじゃないですか!もう本当に…何で言ったことが出来ないかな。
本日は白浜温泉「むさし」をご利用いただきまして誠にありがとうございます。
私大おかみの上村道子でございます。
若おかみの沙江子でございます。
日頃の皆様のお疲れを癒していただきたく私ども従業員一同心をこめてサービスをさせていただきます。
どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ。
何をしてるの!気をつけてください!危ない危ない!おお〜!あっあっああ〜!浜辺に月が銀貨をまき散らしたようだ…見えますか?2015/11/24(火) 14:00〜15:51
ABCテレビ1
温泉若おかみの殺人推理14[再][字]
南紀白浜夕焼け小焼け〜復讐の連続殺人!若おかみの初恋の人が真犯人!?
詳細情報
◇番組内容
大好評!東ちづる主演「温泉若おかみシリーズ」第14弾!和歌山県・南紀白浜に大ロケーション敢行!若おかみの夫・有作が砂の上に書いたラブレターとは…
◇出演者
東ちづる、中村梅雀、岡田茉莉子、若林豪、大路恵美、橋爪淳、西沢利明、千うらら、久保田摩希 他
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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