ハートネットTV「“こころの元気”届けます〜メンタルヘルスマガジン100号」 2015.11.24


今年の夏。
都内でちょっと変わった写真展が開かれました。
ズラリと並んだ100枚の笑顔。
皆統合失調症やうつ病などの当事者たちです。
この写真が表紙を飾るのは月刊誌「こころの元気+」。
日本で唯一精神疾患の当事者に向けた雑誌です。
創刊は8年前。
口コミで支持を広げ現在1万部を発行しています。
6月には100号を迎えました。
本日のゲストをご紹介したいと思います。
「こころの元気+」…。
編集長の丹羽大輔さんです。
こんにちは。
一人でも多くの当事者に読んでほしい。
創刊当時から試行錯誤を繰り返してきました。
当事者による当事者のための雑誌。
共に歩む編集者と読者の思いを見つめました。
精神障害者の社会参加を促すNPOの事務所。
「こころの元気+」編集部はその一角にあります。
こっちに何だっけ睡眠障害とか何とかっていうのが…。
丹羽さんのもとには全国から毎日のように当事者の声が届きます。
実はこの雑誌7割以上の記事を当事者が書いています。
実名や顔写真を公開している人も少なくありません。
これまで掲載した当事者の記事はおよそ3,500本。
書き手の病名や世代はさまざまです。
8年もやっているのでこちらもいろんな引き出しが増えるというかねこの原稿だったらああいう方に書いてもらおうとかあるいは読者の層も広がってたりとかいろんな疾患の方が読んでる雑誌なので一つの…何て言うんでしょうね疾患にできれば偏らないようにしたいなっていうのはありますね。
おはようございます。
雑誌との出会いが大きな転機になった読者がいます。
奈良県に住む…何度も記事が載る常連の一人です。
榎田さんは統合失調症と診断され通院治療を受けています。
20代で発症し精神科病院に2年間入院した榎田さん。
退院後も社会の中で自分の役割を見つけられずにいました。
そんな時通っていた福祉施設で偶然「こころの元気+」を目にします。
その内容は榎田さんの考え方を根本から覆しました。
表紙が当事者で当事者なしでは作りえないような雑誌に初めて出会えたという事がものすごい自分の中でいい意味でショッキングでしたね。
「えっ僕が書いた文章がひょっとしたら載るの?」というすごいうれしい驚きですね。
そっから僕ももともと幼い頃から国語とか書く事は好きだったので自分ができる事だったらやってみようかな何か自分が書く事によって誰かの役に立つんだったら書いてみようかなという思いから始めたという感じですね。
2009年。
初めて掲載された榎田さんの記事です。
人間関係の作り方について自分の体験をつづりました。
「『気に入らないな』とか『自分勝手で腹が立つな』とか思ってイライラすることがしばしばありました。
父親に相談したところ『人はみな生きたいように生きてるんだよ』と言われました。
思えば確かに人それぞれその人の望むように言動をしているわけであってこちらからその人の生き方をじゃますることはできないのです。
ですから少々気になったとしてもさらっと受け流すようにしています」。
うれしかったですね。
ものすごいうれしかったですね。
こんな文章でも載せてくれるんですかっていう本当うれしかったですね。
「こころの元気+」には文章以外でもさまざまな形で読者が参加しています。
長野県に住む…2年前から病気と生きる日常を漫画にし人気を得ています。
幼い頃から思いのままに一人イラストを描く事が好きでした。
(神戸)ちょっとした絵なんですけど現在未来。
おじいちゃんになっちゃうっていう。
私本当にしゃべるの…嫌いという訳じゃないですけど苦手なので見てもらった方がいいなっていう感じですね。
高校生の時自分を追い詰めるような幻聴が聞こえ始めた神戸さん。
それでも一人で耐え続けました。
しかし就職してすぐに限界を感じ仕事を辞めざるをえませんでした。
精神科で統合失調症と診断されました。
病気である自分を受け入れられなかった神戸さん。
人に会うのを避け部屋に引きこもるようになります。
そんな時母親が当事者の家族の会から持ち帰ったのが「こころの元気+」。
しかしすぐに読む気にはなれなかったといいます。
どうしても精神疾患が自分にあるっていうのを認めたくないっていうのもあって私はこういった雑誌は読まないって思ってたんです。
ただやっぱりちょっと自分でも病気の事を調べ始めて受け入れなきゃなって思った時に初めて母からこういう本があるよっていうのを思い出して読み始めました。
そこには同じように病気で悩む人の声があふれていました。
「自分も抱えてきた思いを赤裸々にさらけ出したい」。
2013年8月。
勇気を出して漫画を投稿するといきなり採用されました。
引きこもっている時は何でも否定的に捉えてしまう。
ネガティブな思いをそのままに描きました。
その後何度も漫画が掲載されるようになった神戸さん。
ファンレターも届きました。
これが届けられた時に何かもしかしたらクレームなのかなとか…。
「こんなの描いてんじゃねえ」って言われるかと思ってちょっと内心ドキドキの手紙だったんですけどまさかのいい話でちょっと正直泣きそうになりました。
うれしかったです。
少なからず共感して下さった方がいるんだなっていう…頂いた時思ってそれが…うれしかったですしこれはもう宝ですね。
宝物です。
否定的な感情を分かち合える人たちがいる。
神戸さんの思いは共感の輪を広げています。
読者の体験談で作る雑誌。
この仕組みを考え出したのは編集長の丹羽さんでした。
そこには自身の体験が大きく関わっています。
かつて別の雑誌の編集者として働いていた丹羽さん。
13年前ストレスからうつ病になりました。
体重は14キロも減り気分の落ち込みや不眠に苦しみました。
このままだと自分が崩壊してしまうようなものすごい不安と焦燥感みたいなものが入り交じったような何か渦巻きの中に落っこっていくようなそんなすごい恐怖感みたいなものにとらわれてなんとか歯を食いしばるようにして仕事はしていたんですけれどもそういう病気を抱えながら仕事をしている人たちというのは一体どういうふうに生活してるんだろうどんなふうにいろんな事をやりくりしてるんだろうっていう事がすごく知りたかった訳ですね。
丹羽さんは当事者の書いた本を探し回りました。
しかし当時は専門家による本ばかり。
求めていたものには出会えませんでした。
誰かと自分の苦しみを分かち合いたい。
そう思いながらも一人うつ病と闘うしかありませんでした。
その後症状が改善した丹羽さんは新しく創刊される雑誌の編集長を任される事になりました。
思い出したのは上司から言われたある言葉でした。
うつ病にならなければ分からない事がいろいろあっただろうと。
極端な考え方とかあるいはどんなような気持ちでいるのかそういった事っていうのは病気にならなければ体験しなければ分からない事っていうのはいろいろあったんじゃないだろうかと。
それがこれからの編集の仕事に生きるんじゃないのって…。
かつて自分が必要としていた当事者の声による雑誌ができないか。
そこから「こころの元気+」のスタイルが生まれたのです。
この日丹羽さんはある人を待っていました。
表紙のモデルに読者を起用しているのです。
どんな方が来るのかなというのはやっぱりドキドキワクワクしますよね。
河村さんですか?はい。
丹羽です。
どうも初めまして。
次の号のモデル河村朋子さん。
三重県からやって来ました。
新幹線が10分遅れたので…大雨の影響で。
(丹羽)そうでしたか。
河村さんは公務員だった25歳の時人間関係のストレスから体調を崩し退職を余儀なくされました。
およそ10年にわたって入退院を繰り返し統合失調症と診断されました。
今年50歳を迎える河村さん。
節目の年に自分の姿を残しておきたいと思いきってモデルに応募しました。
撮影は本格的なスタジオを借り切って行われます。
どんな感じに変身したいとかってあります?ちょっときれい系とかちょっとフェミニンな感じ…。
分かりました。
撮影やメイクを担当するのはプロのスタッフです。
どうですか?ありがとうございます。
よかったです。
は〜い朋子さん。
(シャッター音)
(カメラマン)もう一回外見て。
は〜い朋子さん。
(シャッター音)
(カメラマン)お口開けてて大丈夫ですよ。
硬い。
フフフフ。
でも何かすごくいい笑顔がいっぱい入ってますよ。
(カメラマン)は〜い朋子さん。
その人の健康な部分を写真で映し出したい。
病気はその人の一部にすぎないと丹羽さんは考えています。
小さい…トリミングできなそうなやつも一応…。
ああそうなの。
でも小さいのと顔を合わせたりしてどうにかする。
いつもニッと笑うだけやもんやで歯を見せるとこういう顔になるのかなと…。
(丹羽)じゃあこれでいきますか?決まりです!お疲れさまでした!何か新しいいい事がこれから待ってるような感じがしてきました。
これまで悪い事ばかりだったので本当につらい事たくさんあったのでこれを転機にいい方向に向かえたらと思っております。
この日は編集会議。
読者アンケートをもとにどんな誌面にするか話し合います。
テーマとしては誰かに対して申し訳ないというような…。
この号のテーマは「申し訳ないという気持ち」について。
(丹羽)そういうふうに思った事がある人っていうのは6割ですね。
障害年金は国の税金だからそれで生活していて申し訳ないとかっていう人がいるんだけどもそれは一方で障害年金の仕組みっていうのは…。
議論になったのは申し訳ない気持ちを克服したという肯定的な体験談を入れるかどうかでした。
この言葉重いでしょ。
「空気を使って申し訳ない」っていうそういう人たちってどういうふうに本当のところ思ってるのかとかいうそういうのたくさん載せる方が…たくさんっていうかボリュームを持たせた方が…。
結局申し訳ない気持ちを克服したという声は載せずネガティブな気持ちに徹底的に寄り添う事になりました。
無理に前向きな誌面は作らない。
この編集方針は読者とやり取りを重ねる中で生まれました。
創刊間もない頃丹羽さんたちは夢や希望を取り戻そうというメッセージを全面に打ち出していました。
しかし読者から内容が前向きすぎてついていけないという声が届き始めたのです。
「まあそうだよな」って思って「こころの元気+」と来てますから人生っていうのは本当にいろんな浮き沈みがあって時には上に行ったり気持ちが落ち込んだりとかね人生上のいろんな出来事が起こったりそういう中で気持ちも揺れ動くし体調も揺れ動くしそれが当たり前のごく普通の人生な訳でそういった事を肯定するというかそれが普通なんだというようなスタンスでいれば常に前向きにはならないんじゃないかなっていうふうには思いますね。
あの〜NPO法人コンボの丹羽ですけれども。
どうもこんにちは。
お世話になってます。
編集方針が決まり丹羽さん早速原稿の募集に取りかかります。
メールで一斉に投稿を呼びかける一方そのテーマを書けそうな読者には個別に執筆を依頼します。
(丹羽)あ〜それは今でもそういう気持ちと闘っているという事なんですね。
漫画を投稿している神戸いつほさん。
「申し訳ない」というテーマを聞きすぐにある題材が頭に浮かびました。
それは障害年金や障害者手帳を使っている事について。
働いている周囲の人たちに申し訳なさを感じてしまうという気持ちでした。
私だけじゃなくてこうやって思ってる方が多分たくさんいらっしゃると思うんですけどこれ読んで頂いた時に「分かる分かる」っていうふうに思って下さればいいかなと思います。
具体的に書いていくとあっ自分こういう事で申し訳ないって思ってるんだっていうのが…。
そういう自分もいるんだっていう発見がありました。
3週間後。
丹羽さんの手元に原稿が続々と集まっていました。
常連の榎田伸也さんからも記事が届きました。
自分の申し訳ないという気持ちが子どもの頃の親との関係から来ているのではないかという内容でした。
その人その人のやっぱり個人のライフヒストリーがある訳ですね。
だから申し訳ないっていう気持ちっていうのはこういうところから来てるのかっていうある意味自分で考えていく中でその理由みたいなものが自分で解き明かしていくプロセスでもあると思うのでそれはそれできっと本人にとっても変な意味で非常に面白かったり興味深いそういうプロセスだったんじゃないかなというふうには思いますけどね。
創刊から8年。
丹羽さんは今どんな事を感じているのでしょうか。
僕やコンボライターの皆さんっていうのは変な意味ですけどある意味未来から来た人なんですよ。
未来から来た人っていうのは何かを体験してきた人たちなんですね。
まだ何にも体験してない人にしてみれば何かを体験した人っていうのは未来から来た人な訳ですよ。
これからこうなっていくっていうね。
だから今例えば病気になったばっかりの人とか何て言うのかな先が見えなくって暗闇の中にいる人たちっていうのはいる訳ですね。
こういう体験をしてきた人っていうのはまだ真っ暗闇の中にいる人たちに「僕たちはこうだったよ。
きっとこうなるんだよ」っていう事を語る事ができるんですよね。
そんなような意味合いがあるのかなって思いながらずっと仕事してるのかなって思いますね。
もしもし。
NPO法人コンボの丹羽ですけれども「こころの元気+」のですね特集にちょっとお願いをしたい事があって電話をしたんですけれども…。
当事者による当事者のための雑誌「こころの元気+」。
丹羽さんと読者の二人三脚が今日も続きます。
2015/11/24(火) 13:05〜13:35
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV「“こころの元気”届けます〜メンタルヘルスマガジン100号」[字][再]

日本で唯一の精神疾患当事者向け月刊誌「こころの元気+(プラス)」。誌面の7割以上を、うつや統合失調症の当事者が書くというユニークな雑誌づくりの現場を見つめる。

詳細情報
番組内容
表紙を飾るのは統合失調症やうつ病など精神疾患のある当事者。日本で唯一の精神疾患の当事者に向けた月刊誌「メンタルヘルスマガジンこころの元気+(プラス)」だ。定期購読制で支持を広げ、現在およそ1万部を発行している。最大の特徴は、誌面の7割以上を占める当事者が書いた記事。病気や治療に関することから、日常生活の悩みまで多岐にわたる。雑誌づくりを通して、ともに歩む編集者と読者の日々を見つめる。
出演者
【語り】河野多紀

ジャンル :
福祉 – 障害者
福祉 – 高齢者
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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