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『ジハイドロジェンモノオキサイド(Dihydrogen Monoxide: DHMO)』という物質を知っていますか? インターネットで調べると、次のようなことが書かれています。

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しかも「DHMOを吸引すると死亡する!」とまで書かれていました。

この危険な物質は、日本全国の工場で冷却・洗浄・溶剤などとして何の規制もなく使用・排出され、結果として湖や川、果ては母乳や南極の氷にまで高濃度のDHMOが検出されていることが指摘されています。

さらに最近、私が独自におこなった調査で、この『DHMO』が日本の水道管にとてつもなく大量に含まれていることも明らかになりました。

 

ここで、質問です。皆さんは、この『DHMO』の使用を、日本で禁止あるいは規制すべきだと思いますか?

自然破壊を起こし、命にかかわるけがや病気にも関連している危険な物質ですから、禁止や規制に賛成という人が多いのではないでしょうか。

どうでしょう。

 

ここで、種明かしをします。

すでに知っている人もいたかもしれませんが、『ジハイドロジェンモノオキサイド(DHMO)』は、日本語では「一酸化二水素」のことで、化学式では「H2O」で表される『水』のことです。

1990年代、実際に米国ではやったジョークで、ウェブサイトも作られています。

 

■DHMO.org(http://dhmo.org/別ウインドウで開きます

 

今回のコラムのタイトルも、DHMOのジョークを用いた調査「How Gullible Are We?」から拝借しました。この調査では、「DHMOを規制すべき」と回答した人が、50人中43人もいたそうです。

先日、このコラムで「極論」について解説をしました。

 

■《154》『極論』に潜む罠(http://www.asahi.com/articles/SDI201511192645.html

 

今回紹介した『DHMO』は、水であることを伏せたまま、事実ではあるものの極端な説明をしたうえで、相手に恐ろしい物質のように思わせることができてしまっています。

現代西洋医学を否定するような書籍についても、この『DHMO』と同じようなテクニックが使われています。

例えば、薬の効果については伏せたまま、事実ではあるものの副作用を極端に強調した上で、薬を否定する。特に、薬は効くものだと信じている人が、その事実を覆すようなセンセーショナルな情報を目にすると、つい引き寄せられてしまいます。

そこで、先日のコラムの繰り返しになりますが、重要なのは情報をうのみにするのではなく、また拒絶するのでもなく、客観的・批判的に読み解いていく「健全な懐疑主義」になります。そして、健全な懐疑主義に基づいて情報を吟味することで、バランスのとれた理解ができるようになります。

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さいごに、もうひとつ質問です。

「大腸がんの原因を突き止めるため、大腸がん患者1000人に綿密な聞き取り調査をしたところ、なんとただ一つ、過去に全員が体内に摂取していた物質が明らかとなった。それは、オリザサティバ(Oryza sativa:OS)と呼ばれる粒形の物質を熱水処理した結果、大量に作り出されることも確認された。」

さて、『OS』は大腸がんの原因なのでしょうか?

この文章だけで「OSは危険だ!」「OSを食べてはいけない!」と短絡的に判断してはいけません。まずは、健全な懐疑主義に従って「オリザサティバ(OS)」をインターネットや辞書で調べてみてください。

おそらく、このコラムを読んでくださっている全員が、大腸がんの有無にかかわらず「オリザサティバ(OS)」を食べたことがあると思います。

なお、『OS』は大腸がんの原因ではないということは、過去の調査で明らかになっていますので、ご心配なく。

 

■国立研究開発法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター

「多目的コホート研究(JPHC Study)」(http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3439.html別ウインドウで開きます

 

<アピタル:これって効きますか?>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku/

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 大阪大学大学院准教授

大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座 准教授/早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 客員准教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大医学部)卒。主な研究テーマは腫瘍免疫学、がん免疫療法。補完代替医療や健康食品にも詳しく、厚労省『「統合医療」情報発信サイト』の作成に取り組む。