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黄金伝説展開催中 10/16-1/11 【動画】古代地中海世界の秘宝 国立西洋美術館で「黄金伝説展」

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【コラム】

筆洗

 幸福とは、何だろう。『広辞苑』は<心が満ち足りていること>と定義し、寺山修司さんは『ポケットに名言を』で、トイレの落書きで知ったというルナアルの言葉<幸福とは幸福をさがすことである>を紹介している▼幸福とは何か。人類が悩み続けてきた永遠の宿題に脳科学が挑むと、こんな定義が生まれるという。<幸福は、右脳の楔前(けつぜん)部で感情的・認知的な情報が統合され生み出される主観的経験である>▼ちんぷんかんぷんだが、京都大の佐藤弥(わたる)さんらが磁気共鳴画像装置(MRI)などを使って調べたところ、人生の意味を見出しやすく、自分が幸福だと感じている人は、そうでない人に比べ、右脳の楔前部という領域の一部が大きくなっていることが分かったというのだ▼そのうちMRI検査で幸福度が診断されるようになるのかもしれぬが、ここは一つ、詩人にご登場願おう。吉野弘さんが詩集『贈るうた』で、「幸福とは−と思う人に」贈った詩「一枚の写真」だ▼<壇飾りの雛(ひな)人形を背に/晴着姿の幼い姉妹が並んで坐(すわ)っている/姉は姉らしく分別のある顔で/妹は妹らしくいとけない顔で…/この写真のシャッターを押したのは/多分、お父さまだが/お父さまの指に指を重ねて/同時にシャッターを押したものがいる/その名は「幸福」>▼こんな詩を読むと、わが楔前部はわずかにふくらむのだろうか。

 

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