スズキの印事業拡大、現地子会社株主が賛否投票－30年来の提携に変化
2015/11/26 06:00 JST
（ブルームバーグ）：独フォルクスワーゲン（ＶＷ）との提携解消問題に決着を付けたばかりのスズキが、インドで30年以上にわたる提携先と新たな関係を築こうとしている。その第一歩は現地子会社の株主に納得してもらうことだ。
スズキは昨年、これまでインドで生産・販売をしてきた子会社マルチ・スズキ・インディアとは別に全額出資の新会社を設立。今年１月、この会社が出資する新工場をグジャラート州に建設すると発表した。スズキにとってマルチを介さない形で初の工場となる。この計画に対してマルチの少数株主からは反対の声が出ている。
インドでは2013年の会社法改正で、会社が株主価値を損ないかねない事業を立ち上げる場合は少数株主の75％の同意が必要となった。今年の修正でその比率は51％に下がったが、別会社設立時点では少なくとも16％の株主が反対していた。少数株主らは現在、スズキの計画に対する賛否投票をしており、12月17日に結果が判明する。
スズキは14年２月に都内のアナリスト説明会で、スズキが生産と開発を担いマルチがサービス網構築や販売に集中することで、グループ全体で資金活用の最適化が図れ、「両社とも１株当たりの利益や純資産が増えていくこと」が目標としていた。スズキはマルチ株の56％を保有しており、全体としての利益向上はスズキにも貢献する。インドでは韓国の現代自動車などが競合相手として台頭してきている。
インテリジェンス・オートモーティブ・アジアのマネジングディレクター、アシュビン・チョータイ氏は、スズキはマルチを通さずとも増産などの判断ができる体制をつくりたいのではないかとコメントした。スズキは新会社設立のプレスリリースで、「インド四輪市場の伸張とインドからの輸出拡大に備え、生産能力を確保するため」と述べている。
新会社の利益はゼログジャラート州の新工場は投資額約600億円で、生産能力は年25万台。17年半ばの生産開始を目指している。新工場の生産車両はマルチのみに供給し、新会社からマルチへの車両納入価格はロイヤリティを含む製造原価と設備費用を割り振った上で収支が均衡する形をとるため、利益はゼロになるとしている。
マルチのＲ・Ｃ・バルガバ会長は、電話取材に「マルチはスズキから無償で工場を提供されているようなものだ」と述べ、「他の工場と同じようにマルチの生産設備として稼働するため、投資が誰かという問題だけで何も変わらない」という見方を示した。スズキ広報担当の望月英氏は「現時点でのコメントは控え、投票を見守りたい」と電話取材に語った。
今のところ、マルチの投資家たちの不安はぬぐわれていない。ＨＤＦＣアセット・マネジメント、フランクリン・テンプルトン・インベストメント・マネジメントなどマルチ株を保有する投資家らは、スズキの計画が実現するとマルチはいずれ「形ばかりの会社」になってしまうと書簡で懸念を表明した。
インドの議決権行使助言機関、インスティテューショナル・インベスター・アドバイザリー・サービシーズ（ＩｉＡＳ）は、マルチの投資家に向けた書簡で「スズキはマルチに依存しているが、新工場計画を許せば両社のパワーバランスが変わりスズキが有利になる」と述べている。さらに、「マルチは事業計画を決める権利を失い、マルチの株主はスズキの株主に従属する立場となってしまうだろう」と警鐘を鳴らしている。
スズキにとって、インドは重要な成長市場だ。ＩＨＳオートモーティブによるとインドの自動車市場は20年までに中国に次ぐ世界第２位に拡大する見通し。スズキは19年度のインドを含むアジア販売で220万台を目指している。14年度のインド販売は117万台、インドを含むアジア販売は172万台だった。
競争力強化へスズキ株を保有するさわかみ投信の草刈貴弘チーフ・インベストメント・オフィサーは「日本企業のインドでのビジネス運営が難しい中、スズキは自分たちで拡大を推し進めなければと踏み切ったのではないか」という見方を示した。競合他社の参入が相次ぐ市場で、シェアだけでは競争力につながりにくく、現時点ではポジティブな決断とみている。
マルチ株を保有する証券会社、Ｋ・Ｒ・チョクシーのマネージング・ディレクター、デヴェン・チョクシー氏は「マルチの投資家は近視眼的になっている」として、スズキの計画に賛成の票を投じる予定だ。「新事業によりマルチは販売網を拡充でき、インド市場での競争で有利になる」と述べた。
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更新日時: 2015/11/26 06:00 JST