文・安田浩一(ジャーナリスト)
記者に突っかかる中学2年生
「あのねえ、マスコミなんて全然信用していないんですよ、僕は」
突然私に突っかかってきたのは、ヨットパーカにカーゴパンツ姿の若い男だ。顔のニキビ痕からすると、まだ10代だろう。
「公正中立だなんて嘘じゃないですか。日本のマスコミは左翼偏向ですよ」
いい根性をしている。大人やマスコミに対して、変に迎合する者よりも、よほどマシだ。ただし「左翼偏向」などという、手垢のついた言葉を使わなければ、もっとよかったのにとも思う。
年齢を知って驚いた。なんと14歳。まだ中学2年生である。
在特会宮城支部の街宣を取材するため仙台を訪ねたのは2010年10月のことだった。街宣前の集合場所で参加者に挨拶しているとき、ただ一人、私を挑発してきたのが彼であった。
「悪いですけど」と前置き、彼は少しも悪びれた様子もなく私に詰め寄った。
「講談社の取材なんですよね? 僕は講談社に対して少しも良い印象を持っていないんですよ。『日刊ゲンダイ』とか読むと、小沢一郎の言い分を垂れ流しているだけじゃないですか」
小沢一郎(民主党元幹事長)の献金問題が騒がれている時期でもあった。なるほど、たしかに「日刊ゲンダイ」は"小沢擁護"に近い論陣を張っていたかもしれない。だが、そもそも同紙は講談社とは別会社であり、私自身もフリーランスなのだから講談社の「社論」(なんてものがあるのか知らないけど)とはまったく関係ないのだと説明した。
そもそもマスコミの「左翼偏向」を糾弾するのに、なぜ小沢一郎なのかという疑問は口にしなかった。彼にしてみれば、おそらく中国とのパイプを持つ政治家というだけで、小沢は十分に左翼なのだ。こうした乱暴な左右の区分けが、昨今のネット言論の特徴でもある。
だが、物怖じせず大人に食い下がる彼を、私は面白い男だと思った。彼もネットを閲覧していくなかで「在日や左翼の悪行を理解」し、次いで在特会の存在を知って入会したという。
「学校ではいまだに『在日は可哀想な人たち』みたいな教え方をしているんですよ。まったくもっておかしいですよね。そもそも在日は、日本がイヤであるならば祖国に帰ればいいのに、それをしない。矛盾もいいとこですよ。まあ、学校ではこんな話はしませんけどね。学校ってのは政治の場じゃないでしょう? そんなことくらい僕だってわかりますよ」
仲の良い友人とも政治の話はしないそうだ。
「みんな無関心なんですよ、政治のことには。在日特権とか話をしても、『興味ない』『高校受験には関係ない』って程度の反応しかありませんからね」
学校は「政治の場じゃない」と言ったかと思えば、政治の話についていくことができない同級生を暗に批判したりもする。周囲からやや浮き上がったような彼の立ち位置が、なんとなく想像できた。背伸びしたくてたまらないのだろう。大人に交じり、政治を語り、日本の危機を訴える中学2年生は、生意気な口調で私に詰め寄りながらも、どこか楽しげな様子ではあった。
そんな彼と私のやりとりを見ていた参加者の一人は、後で私にこっそりと耳打ちした。
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