2015年11月25日

◆ ロシア機撃墜の根源

 トルコ軍がロシア機を撃墜した。この問題の根源は、どこにあるか? ロシアの軍事基地の権益だ。

 ──

 トルコ軍がロシア機を撃墜した。
  → トルコ軍がロシア軍機撃墜 シリア国境、乗員2人死亡か
  → トルコ軍、ロシア軍用機を撃墜 「領空侵犯、警告を無視」
  → トルコ軍がロシア機撃墜 プーチン大統領「裏切り」
  → トルコがロシア軍機撃墜、プーチン氏「決して許さない」

 馬鹿なことをやっているなあ……と思う人が多いはずだ。テロ事件のあとで、IS 攻撃で結束するべきときに、内輪もめをしているべきではないぞ、と。
 しかしそれは勘違いだ。これは内輪もめなんかではない。むしろ、同床異夢というべきだ。

 そもそも、ロシアは IS 攻撃の意図など、初めからない。ロシアの旅客機を撃墜されたので、その仕返しに IS を攻撃することは少しはあるようだが、国家の本来の目的は IS 攻撃ではない。つまり、シリアの東部で IS を攻撃することは、もともと目的となっていない。
 では何が目的かというと、シリアの西部で反アサド派(反政府勢力)を攻撃することが目的だ。今回も、その作戦行動中の出来事だった。
  → シリア領内にトルコ側から食い込む小さな地峡のような土地の上を通過した

 ではなぜ反アサド派(反政府勢力)を攻撃することが目的なのか? もちろん、アサド政権を支持するためだ。ではなぜ、アサド政権を支持するのか? ここを、たいていの人は見失っている。ただし、一部の人(事情通)は理解している。こうだ。
 「海への出口を持たないロシアは、シリア西部(タルトゥース)に海軍基地を借りている。アサド政権は、ロシアに海軍基地を提供している。だから、この基地の権益を守るために、ロシアは反アサド派(反政府勢力)を攻撃する」






 要するに、ロシアはタルトゥースの海軍基地を絶対に失うことができない。これは軍事的に譲歩の余地のない立場だ。それゆえ、アサドがいかに人非人の独裁者であるとしても、ロシアは自国の軍事的権益を守るために、その権益を与えるアサドを支持するしかないのだ。逆に言えば、その権益を脅かす反アサド派(反政府勢力)を攻撃するしかないのだ。
 このことを、西側の国々は理解できていない。だから、「ロシアははアサドを政権を支持するな」という自分勝手な要求ばかりをしている。相手の気持ちがわからない馬鹿の見本か。

 西側がこのような失敗をするのは、シリアに限らない。ウクライナでもそうだった。
 ウクライナは、ロシアにとって、工業的な心臓部だ。旧ソ連時代には、ウクライナは、ソ連圏内で先端工業を受け持っていた。最先端の電子工業や軍事技術などは、モスクワやサンクトペテルブルクでなく、ウクライナが担っていた。特に、ウクライナ東部が。
 とすれば、ロシアがウクライナを失うということは、自国の最先端の電子工業や軍事技術などを失うということだ。だからこそ、ウクライナが西側に飲み込まれることを、絶対的に拒否する必要があった。
( ※ 比喩的に言えば、日本の三菱重工が韓国や中国に奪われるようなものだ。あるいは、F35 をつくるロッキードがロシアか中国に買収されるようなものだ。そんなことは、軍事的に絶対に許容できまい。)
 というわけで、ウクライナが西側勢力の非合法クーデターで政権転覆させられ、工業地帯を奪われそうになったとき、ロシアとしては軍事的にウクライナを奪還するしかなかった。こうして、ウクライナで内戦が起こった。……これは結局、「ロシアが絶対に失えないもの」を、西側が強引に奪おうとしたことによる内戦だ。無知がもたらした内戦だ、とも言える。

 シリアのアサド政権も同様だ。ロシアはシリアにある軍事基地を絶対に失えない。だから、その権益を脅かす反アサド派(反政府勢力)を攻撃するしかない。
 そして、ここまで理解すれば、西側がなすべきこともわかる。それは、ロシアを非難することではなくて、ロシアの権益について「現状維持」を打ち出すことだ。つまり、こうだ。
 「アサド政権が倒れたあとでも、ロシアには現在の軍事基地を利用する権益を保証する。その権益を、反アサド派(反政府勢力)および米国などが、そろって保証する」


 こうすれば、ロシアはもはやアサド政権を支持する理由がなくなる。かくて、アサド政権を打倒することができる。そのあとは、新生シリア政府(現在の反アサド派が主導する政府)が、新生シリア軍を構築して、IS を攻撃することができるようになる。現在のシリア政府軍と、反政府軍が、一致結束して、IS を攻撃できるようになる。かくて、IS を打倒して、テロ組織を壊滅し、「IS 打倒」と「シリア難民発生」という二つを、同時に達成できるようになる。
 これが、西側諸国がなすべきことだ。
 
 物事の根源を理解すれば、最高の結果を最小のコストでなすことができる。
 ひるがえって、IS 攻撃で内輪もめをするとか、シリア難民を欧州に引き受けるとかは、コストばかりがやたらとかかる割には、効果はとても小さい。
 現状は、物事の根源を理解しないがゆえに、とんでもなく間違った道を進んでいる、と言える。
 
posted by 管理人 at 20:29 | Comment(4) | 一般(雑学)3 このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
新生シリア軍がイラクのように武器を放り出して逃げ出さないように何か考える必要はありそうですね。
Posted by クルマ好き at 2015年11月25日 23:15
 イラク人は戦闘経験のない素人ばかりでしたが、シリア人は徴兵制があって、みんな戦闘訓練の経験済みなので、結構戦力になりそうです。
 あと、少なくとも、現在の反政府勢力は強力です。
Posted by 管理人 at 2015年11月25日 23:27
こういうの
これこれ。
こういう内容を、待ちわびてるんですよ。

やればできるじゃないの。

さすが、自称、東大出身。

Posted by 素人 at 2015年11月25日 23:55
自称じゃないですよ。同級生はみんな知っているし。
Posted by 管理人 at 2015年11月26日 00:20
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: