最近、イスラム国(ISと略される場合が多いです)についての話題を頻繁に目にします。それで、「一体、イスラム国って、なんなの?」ということについて書きます。
まずイスラム国は、国じゃないです。
もちろんイスラム国のメンバーたちは自分たちは国家建設をしていると主張していますが、それは彼らの主張であって、客観的にみれば国の体を成してないと思います。
それではイスラム国の本質は、何なんだ? ということですが、それを僕なりに定義すれば、軽装の軍隊、もしくはテロリスト集団ということになります。
でも世の中にはテロリスト集団はいろいろ居るわけで、何がイスラム国をユニークな存在にしているか? といえば、それはバイオレンスをエクスタシーにまで高めたような、独特の美意識に特徴があるわけです。
だからイスラム国は、公開斬首など、やることが途方も無く残忍です。また古墳、博物館、美術品の破壊なども、パフォーマンスとして公開するわけです。
その肩で風を切るような、威風堂々さが、世界の(一部の)若者を魅了しているわけです。
これは「シアターとしてのテロリズム」だと言えるかも知れません。
その意味において、これはヒトラーのナチスに相通じるノリです。
ナチスは、ルーツとしては、第一次大戦の賠償金問題、ハイパー・インフレなどの社会混乱の末に登場した、ほとんどストリート・ギャングとかわらない愚連隊のような存在でした。
イスラム国は、もともとヨルダンのストリート・ギャングが牢獄の中でラジカライズ(先鋭化)したものだと言われています。
そのリーダーは、アル・バカール・アル・バグダディです。彼はイラク人のイスラム宣教師でした。2004年に一度、アメリカ軍によって捕えられているのですが「小物だ」ということで釈放された経緯があります。
このエピソードからもわかる通り、イスラム国が本当に恐れられる存在になったのは、比較的最近のことだということです。
イスラム国は、最初、イラクで活動を開始します。
その頃、彼らはイスラム国という名前ではなくて「イラク・アルカイダ」と名乗っていました。
アメリカが9・11同時多発テロへの報復として2003年にイラク戦争を行い、サダム・フセイン政権を転覆した際、イラク・アルカイダは地下へもぐりました。
アメリカはイラク戦争を終結させるにあたって、最後の大攻勢を計画します。それが増派(surge)と呼ばれるオペレーションです。このときアメリカが徹底的に掃討作戦を行ったので、イラク・アルカイダは壊滅状態になり、一時は根絶されたかに見えました。
それとイラク・アルカイダは当時からやり方が残忍だったので、イラク国内のスンニ派も幻滅し、心が離れて行ったのです。
そんなわけで一時は下火になったイラク・アルカイダですが、「アラブの春」とよばれる民主化運動が中東各地を覆い、デモや市民の蜂起が起こるとイラクのお隣のシリアも内戦へ突入します。
その混乱をみて彼らは活動の拠点をシリアに移すわけです。そしてゆすり、たかり、強奪などの方法でだんだん力をつけてゆきます。一例として、発電所を急襲し、乗っ取り、ほんらい自分たちが打倒を目指している筈のシリア政府に、電力を売りつけるということもしているわけです。これなど本当にシリア政府を打倒するのが目的であれば電気を止めればよいわけですが、電気を売って儲けるということは、社会混乱に寄生する、パラサイト的な彼らの存在を象徴していると言えるでしょう。
こうしてイラク・アルカイダはイスラム国という新しいブランドに生まれ変わり、黒装束、黒い「国旗」を掲げて勢力を伸ばし始めるわけです。
その余りに残忍な手法に、アルカイダは「イスラム国とのコラボは、我々のイメージ低下につながる」と判断し、袂を別つことにしました。
さて、アメリカはイラクを平定した後、シーア派のマラキに政権を任せます。マラキはイラク国内のスンニ派を弾圧しました。
このためイラク国内に住むスンニ派の市民の中には「我々には、強い用心棒的な存在が必要だ」と感じはじめます。
この国民のムードの変化をイスラム国は察知し、突然、わずか800人の手勢で、3万人のイラク正規軍が守るイラクへと攻め込んだわけです。
もとよりイラク正規軍の中にもスンニ派の人も居り、普段から政府のやり方には不満をもっていたことから、イラク正規軍は戦わずして潰走します。このときイラク正規軍が武器を捨てて逃げたため、イスラム国はごっそり最新鋭の武器を手に入れたわけです。
その後、イスラム国は産油地帯の都市、モスール攻略に成功します。モスールには大きな石油精製所があります。
モスールはイラク政府にとって重要すぎる拠点なので、アメリカやイランの後ろ盾を受け、さらにクルド兵との連携により、イスラム国を押し返すことに成功します。
結局、イスラム国はイラク北部の少なからぬ領土を占拠していますが、最も重要な石油施設は盗れずに居ます。その勢力範囲内から得られる石油をタンクローリーなどで運び、闇市場で売り捌くことによって得られる収入は、年間1億ドル程度です。これは石油市場全体から見れば、大海の一滴程度です。
イスラム国の、その他の収入を述べれば、身代金が年間2,000万ドル程度の収入になっています。さらに市民に対して通行料、銀行手数料、ゆすり、たかり行為による収入など、全部合計すると5億ドル程度の「国家予算」だと言われています。
なおイスラム国は「国家を建設する」と高らかに謳っていますが、実際にやっていることは収奪に次ぐ収奪であり、本腰を入れた投資はやっていません。
またカオスに寄生し、人々の心に恐怖を叩き込むことがゆすり、たかりを効果的に行うために欠かせないことなので、強いイメージを堅持することが何よりも重要です。
最近、ロシア、フランス、アメリカ、トルコなどがイスラム国を空爆(のべ8,000回)しています。「空爆は、効果が無い」という意見もありますが、連日の空爆でイスラム国は威風堂々とした行進などのパフォーマンスが出来なくなり、穴倉に潜み、逃げ回る生活になっています。また石油を闇市場まで持って行くためのタンクローリーも大半が破壊されてしまいました。
だから資金枯渇は近いし、ある意味、風前のともし火のような状態になっているのです。
言い換えれば、空爆だけでも、かなり効果はあるということです。
それではイスラム国は、かつてイラクで根絶寸前まで行ったように、駆逐されてしまうのでしょうか? 僕はそうは思いません。中東にスンニ派の市民が住んでいて、彼らが現在のイラク政府のようにシーア派から弾圧される可能性がある以上、自分たちを守ってくれる用心棒として、イスラム国に期待をつなぐ国民は、かならず居るものです。
さらに言えば、イスラム国は国家機能の破綻(failed state)した場所で咲く、悪の華です。国が乱れているかぎり、彼らは上手く渡ってゆく途を発見すると思います。
まずイスラム国は、国じゃないです。
もちろんイスラム国のメンバーたちは自分たちは国家建設をしていると主張していますが、それは彼らの主張であって、客観的にみれば国の体を成してないと思います。
それではイスラム国の本質は、何なんだ? ということですが、それを僕なりに定義すれば、軽装の軍隊、もしくはテロリスト集団ということになります。
でも世の中にはテロリスト集団はいろいろ居るわけで、何がイスラム国をユニークな存在にしているか? といえば、それはバイオレンスをエクスタシーにまで高めたような、独特の美意識に特徴があるわけです。
だからイスラム国は、公開斬首など、やることが途方も無く残忍です。また古墳、博物館、美術品の破壊なども、パフォーマンスとして公開するわけです。
その肩で風を切るような、威風堂々さが、世界の(一部の)若者を魅了しているわけです。
これは「シアターとしてのテロリズム」だと言えるかも知れません。
その意味において、これはヒトラーのナチスに相通じるノリです。
ナチスは、ルーツとしては、第一次大戦の賠償金問題、ハイパー・インフレなどの社会混乱の末に登場した、ほとんどストリート・ギャングとかわらない愚連隊のような存在でした。
イスラム国は、もともとヨルダンのストリート・ギャングが牢獄の中でラジカライズ(先鋭化)したものだと言われています。
そのリーダーは、アル・バカール・アル・バグダディです。彼はイラク人のイスラム宣教師でした。2004年に一度、アメリカ軍によって捕えられているのですが「小物だ」ということで釈放された経緯があります。
このエピソードからもわかる通り、イスラム国が本当に恐れられる存在になったのは、比較的最近のことだということです。
イスラム国は、最初、イラクで活動を開始します。
その頃、彼らはイスラム国という名前ではなくて「イラク・アルカイダ」と名乗っていました。
アメリカが9・11同時多発テロへの報復として2003年にイラク戦争を行い、サダム・フセイン政権を転覆した際、イラク・アルカイダは地下へもぐりました。
アメリカはイラク戦争を終結させるにあたって、最後の大攻勢を計画します。それが増派(surge)と呼ばれるオペレーションです。このときアメリカが徹底的に掃討作戦を行ったので、イラク・アルカイダは壊滅状態になり、一時は根絶されたかに見えました。
それとイラク・アルカイダは当時からやり方が残忍だったので、イラク国内のスンニ派も幻滅し、心が離れて行ったのです。
そんなわけで一時は下火になったイラク・アルカイダですが、「アラブの春」とよばれる民主化運動が中東各地を覆い、デモや市民の蜂起が起こるとイラクのお隣のシリアも内戦へ突入します。
その混乱をみて彼らは活動の拠点をシリアに移すわけです。そしてゆすり、たかり、強奪などの方法でだんだん力をつけてゆきます。一例として、発電所を急襲し、乗っ取り、ほんらい自分たちが打倒を目指している筈のシリア政府に、電力を売りつけるということもしているわけです。これなど本当にシリア政府を打倒するのが目的であれば電気を止めればよいわけですが、電気を売って儲けるということは、社会混乱に寄生する、パラサイト的な彼らの存在を象徴していると言えるでしょう。
こうしてイラク・アルカイダはイスラム国という新しいブランドに生まれ変わり、黒装束、黒い「国旗」を掲げて勢力を伸ばし始めるわけです。
その余りに残忍な手法に、アルカイダは「イスラム国とのコラボは、我々のイメージ低下につながる」と判断し、袂を別つことにしました。
さて、アメリカはイラクを平定した後、シーア派のマラキに政権を任せます。マラキはイラク国内のスンニ派を弾圧しました。
このためイラク国内に住むスンニ派の市民の中には「我々には、強い用心棒的な存在が必要だ」と感じはじめます。
この国民のムードの変化をイスラム国は察知し、突然、わずか800人の手勢で、3万人のイラク正規軍が守るイラクへと攻め込んだわけです。
もとよりイラク正規軍の中にもスンニ派の人も居り、普段から政府のやり方には不満をもっていたことから、イラク正規軍は戦わずして潰走します。このときイラク正規軍が武器を捨てて逃げたため、イスラム国はごっそり最新鋭の武器を手に入れたわけです。
その後、イスラム国は産油地帯の都市、モスール攻略に成功します。モスールには大きな石油精製所があります。
モスールはイラク政府にとって重要すぎる拠点なので、アメリカやイランの後ろ盾を受け、さらにクルド兵との連携により、イスラム国を押し返すことに成功します。
結局、イスラム国はイラク北部の少なからぬ領土を占拠していますが、最も重要な石油施設は盗れずに居ます。その勢力範囲内から得られる石油をタンクローリーなどで運び、闇市場で売り捌くことによって得られる収入は、年間1億ドル程度です。これは石油市場全体から見れば、大海の一滴程度です。
イスラム国の、その他の収入を述べれば、身代金が年間2,000万ドル程度の収入になっています。さらに市民に対して通行料、銀行手数料、ゆすり、たかり行為による収入など、全部合計すると5億ドル程度の「国家予算」だと言われています。
なおイスラム国は「国家を建設する」と高らかに謳っていますが、実際にやっていることは収奪に次ぐ収奪であり、本腰を入れた投資はやっていません。
またカオスに寄生し、人々の心に恐怖を叩き込むことがゆすり、たかりを効果的に行うために欠かせないことなので、強いイメージを堅持することが何よりも重要です。
最近、ロシア、フランス、アメリカ、トルコなどがイスラム国を空爆(のべ8,000回)しています。「空爆は、効果が無い」という意見もありますが、連日の空爆でイスラム国は威風堂々とした行進などのパフォーマンスが出来なくなり、穴倉に潜み、逃げ回る生活になっています。また石油を闇市場まで持って行くためのタンクローリーも大半が破壊されてしまいました。
だから資金枯渇は近いし、ある意味、風前のともし火のような状態になっているのです。
言い換えれば、空爆だけでも、かなり効果はあるということです。
それではイスラム国は、かつてイラクで根絶寸前まで行ったように、駆逐されてしまうのでしょうか? 僕はそうは思いません。中東にスンニ派の市民が住んでいて、彼らが現在のイラク政府のようにシーア派から弾圧される可能性がある以上、自分たちを守ってくれる用心棒として、イスラム国に期待をつなぐ国民は、かならず居るものです。
さらに言えば、イスラム国は国家機能の破綻(failed state)した場所で咲く、悪の華です。国が乱れているかぎり、彼らは上手く渡ってゆく途を発見すると思います。