先日、飛騨高山の家具メーカーキタニへ行って来ました。

学生の時にもショールームの見学に行ったことがあるのですが、今回の目当ては、敷地の片隅に今年1月に竣工したばかりの、高山フィン・ユール邸

その名の通り、フィン・ユールの自邸を忠実に再現した住宅です。


 フィン・ユールとキタニの関係

インテリア・家具関係ではわりと有名な名前だと思いますが、知らない方のために簡単に説明します。

フィン・ユールFinn Juhl 1912 – 1989)

デンマークの建築家、家具デザイナー。彫刻のような優れた造形の家具が有名です。 1942年にデザインした自邸は、名作住宅として丁寧に保存され現在も本国で一般公開されています。

ところでこの写真、僕のTwitterアイコンに似てまs……座ってる向きが同じだけですね、はい。

株式会社キタニ(岐阜県高山市)

日本の家具メーカーですが、本国でも製作されていない北欧家具のライセンス生産をするなど、勉強熱心で高い技術力とセンスのある企業です。

高山の工場とショールームは、気持ちのいい山のなかに建っています。社員の皆さんの対応はいつ行ってもすばらしく、自分のように明らかに同業者でも丁寧に案内してくれます(逆に一般の人には意味がないような、技術的な話を聞かせてくれたり…)。ショールムの雰囲気や家具の見せ方も素敵だし、規模は違えど、キタニには見習いたいところがたくさんあります。

建築やインテリア・家具に関わる方には、ショールーム(無料)と脇に建つ北欧家具ミュージアム邯鄲亭(1500円)、そして今回紹介するフィン・ユール邸(3000円)どれも、一度は見に行くことをおすすめします。入場料が高めですが、その分得られるものも沢山あります。

株式会社キタニ|オリジナル家具・北欧家具ライセンス生産・福祉家具


高品質な家具づくりのため、北欧文化の探究を続けているキタニですが、さらにたくさんの人に北欧文化を学んでもらいたい、“(北欧製品の)ショップではなく、生活様式や文化を学べる場所”を提供したい、との思いから発足したプロジェクトが、高山フィン・ユール邸です。

このプロジェクトは家具製造で築いてきたデンマークの親類やフィン・ユール財団の方とのつながりを活かして、キタニが中心となって進めているようですが、一企業とは切り離し、NPO法人フィン・ユール アート・ミュージアムクラブとして活動しています。ちょっと高い入場料もキタニの売上のためではなく、このNPO法人の運営費として使われています。

いよいよ見学開始

簡単に、と言いつつ結構長くなりましたが、僕も高山まで3時間くらいかけていったので我慢してください(笑)

ちなみにこれ以降、写真が沢山あるので、ちょっとしたコメントと共にズラズラーっと並べていきます。頑張ってついてきてー。


まずは、外観。
外観の写真は比較的出回っていますが、いくつか。

周りの景色は日本っぽいです(笑)

建っている方角は本物と同じなので、太陽の高さが違うとはいえ、日の差し込む方向は同じになっています。

こちらが、よく写真で見る、西側です。

本物は窪んだ土地の真ん中にあって、貝殻の中心にいるイメージで建てたそうです。日本では立地や湿気の影響を考え、完全に再現はしていませんが、写真手前が軽くせり上がったような地形になっています。

北側です。本物はデンマーク最大の森があり何処までも森、だそうです。

壁は写真などで見ると、つるつるの真っ白に見えますが、レンガの上に漆喰を塗るという仕上げがしてあるため、近づくと案外、雰囲気のある質感です。この記事のタイトル画像は、この壁を背景にしました。

玄関は東側。意外と地味です。
右の赤いのは謎。開くのかな?

ドアをくぐると天井の色に驚きます。
これがフィン・ユール邸の特徴の一つで、天井の反射光で部屋の雰囲気をコントロールするという意図があります。玄関はブルーのさわやかな光。

これはよく見る構図。リビングです。
この部屋の天井は、淡いベージュ。

さらに、本棚の上に赤いラインが見えるでしょうか。
フィン・ユールのデザインには鮮やかな原色が登場することがありますが、この住宅にもところどころに使われています。しかし、奇抜に感じること無く、アクセントとして効果的に働いているあたりが凄いところ。

本棚に近づいて撮影。この赤ラインがほどよく出るように、本棚の上部を屋根勾配に合わせるなど、細部までこだわっています。

振り返るとこんな感じ。
ところで、この部屋の光は黄色っぽく見えませんか?(奥の部屋は白い光)これ、先ほどの天井の色も影響していますが、もう一つ仕掛けが。

テラスにかかる黄色いシェード。これを通れば、日光も白熱灯のような温かみのある光に。北欧の人は温かい光が好みのようです。

シェードは畳むこともできるので、シーンによって自然のままの光にもどせます。実際に畳んでもらいましたが、かなりの違いがあり、光の色温度の重要性が体感できました。

さっきから写っているこの椅子は、チーフテンチェアというやつですね。なんとあのニールス・ボッダー作だそうです(たしか)。

※ニールス・ボッダーは、フィン・ユールの考えだす“夢のようなカタチ”を現実のものとした、すんごい木工職人です(フィン・ユールは製作の技術がほとんどなかった)。この人がいなければ世に出なかったかもしれない作品も多数。

肘掛けの部分、中は木なのかと思っていましたが、金属なんですね。それが理由で、“木工”椅子コンクールの優勝を逃したとか。

リビングの奥は少し引っ込んだスペースで、なが〜いソファが置かれています。お客さんを多く招いた時に便利だったようです。

手前は、No.45というフィン・ユールのなかでも名作の一つですが、これもボッダー先生の作。ちなみに、新しい椅子や、丈夫な椅子は座れますが、さすがに↑はダメです。

上の写真の窓には、雨戸のようなものが付いています。金具はデンマーク製ですが、丸い取手は明らかに日本の襖に影響を受けてます。

なが〜いソファの写真から、振り向いた方向。
椅子はNo.46の初期モデルだそうで、現在出回っているものとは少し違うそうです。たしかに座のフォルムがボテッとしてました。

本棚も完全に建築とセットでデザインされているので、かっこいいんです。

お酒好きのフィン・ユールはここに果実酒とグラスを入れて、楽しんでいたそうです。なるほど、鍵付きだ(笑)

もう一度、テラスの方に戻ります。
このベンチは、 シートを半分に畳んで、片側をテーブルがわりに使えるすぐれもの。ここにお酒を置いて、月でも眺めたんでしょうか。

暖炉の脇には、キタニ製作のソファ。本物の方は、ポエトソファがあって、後ろに絵が飾ってあります。絵がないのはちょっと寂しい。

このソファ近づくと、こんな細工が。作り手にとっては意地悪なデザイン…

足元を見ると、暖炉のレンガ。丁寧に角丸加工がされています。
これもフィン・ユールのこだわり。

ちょっとテラスに出てみましょう。

テラスのレンガも角丸。
しかもよく見ると、角だけでなく縁も丸く面取りしてあります。

テラスにはこんな三原色スペースもあります。
ちなみに色には意味があって、

  • 赤=大地
  • 青=空
  • 黄色=光

なんですと。

次は、この青い窓枠の中のガーデンルーム(だったかな?<メモれ)へ。

ガーデンルームは、リビングの奥にちらっと見えていた部屋です。

窓が大きく採られているので、光がたくさん入ります。
今はこういう住宅もよくありますが、1942年当時は斬新だったようです。

ソファの後ろが、プランターみたいになってる!

このローテーブルは、天板を外してトレーにもなります。
お茶を持ってきてそのまま、はいどうぞ!という感じです。

さらに奥の部屋へ進みます。

こちらはダイニング。
天井はなんとも言えない黄土色。

ガーデンルームの方を向いてみると、各部屋が奥まで繋がっているのがわかります。風や光の通り抜ける設計です。

さて、まだまだ、いくつかの部屋があるのですが、この調子でいくといつまでも終わりそうにないし、画像編集でかなり力尽きた感があるので、気になったディテールを紹介して終わりにします(唐突)。

これはドア枠の敷居部分。
なんか、歪んでいるように見えますが、実際に角度がついてます。これは、部屋を内外から見た時の、広がり感など視覚効果を狙ったものです。収まりが大変そうです。

これはフィン・ユールのデザインではなく、デンマークではとてもポピュラーな電灯スイッチ。ちょっとON/OFFがわかりにくいですが、40mm角くらいで、押しやすいのと、変に主張しないシンプルさが素敵です。

また、壁の色は、なんとかホワイト……といって少し温かみのある白です。これもデンマークのスタンダード。


はい、これで終わりです。

デンマークに行かずとも、かなり忠実に再現された空間を楽しむことが出来るというのは素晴らしいです(でも、余計に本物が見たくなった気も…)。

ここに書いた説明は、自分の感想を除き、ほとんど案内してくれた張り職人さんの受け売りです。フィン・ユールのいかにも難しそうな椅子を、いくつも張り替えたという凄腕の方ですが、フレンドリーに丁寧な解説をしていただきました(それなのに肝心なところを忘れる自分…)。

写真を撮りながら思いましたが、住宅を撮るのもなかなか難しいですね。うまく雰囲気が伝えられたかどうか…

それでも、興味のある方は、他の部屋や細かいところが気になってきたと思います。そんな方はぜひ実際に足を運んでみてください。

ただし、公開日が限られていて、すでに注目も高まっているため、当日では入館できない可能性もあります。必ず公式サイトで確認・予約をしてお出かけくださいねー。