創造性にあふれる人の中では、
いくつかの感情が複雑に同居している

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一般に、ポジティブな感情が創造性に寄与する、という認識があるだろう。しかし最近の研究によれば、創造性と感情の関係ははるかに複雑で興味深い。その感情によって動機は強まるのか、視野は広がるのか、矛盾する感情が交錯するのか……さまざまな要因が創造性に影響するようだ。

 

 歴史上の芸術家や科学者たちは、創造的ひらめきが突然訪れることの至福について語ってきた。アインシュタインは一般相対性理論に気づいた時のことを、人生で最も幸せな瞬間だったと述べた。ヴァージニア・ウルフはもう少し詩的な表現をしている。「創造力とは不思議なものだ。宇宙全体にたちまち秩序がもたらされる」

 では、創造的ひらめきが訪れる“前”についてはどうだろう。つまり、どのような感情が創造性を掻き立てるのだろうか。

 心理学で昔から支持されている説はこうだ。ポジティブな感情を持つと、注意を向ける範囲が広がるため、創造性が高まる。一方、ネガティブな感情は注意の焦点を狭めるため、創造性を害するという。だが多くの理由から、この説はあまりに短絡的だと言える。

 注意焦点が創造的思考に大きく影響する、というのはその通りだ。注意を向ける範囲が広ければ、漠然と浮かんでいる複数のアイデアのぶつかり合いが生じやすい。注意焦点を絞ることは、直線的・段階的に目標を達成していく時に有効となる。

 そして最近の研究は、注意焦点を理解するうえで「ポジティブな感情か、ネガティブな感情か」という対比は最重要ではないことを示唆している。心理学者エディー・ハーモン=ジョーンズらの過去7年にわたる研究によれば、注意焦点の範囲に影響を与える重要な要因は感情の状態(ポジティブかネガティブか)ではなく、「動機の強度(motivational intensity)」であるという(英語論文)。つまり、何かに取り組まざるを得ない、あるいは回避せざるを得ないとどれだけ強く感じるかである。

 たとえば、快適さや心地よさはポジティブな感情だが、動機の強度は弱い。対照的に、欲望はポジティブな感情であり、かつ動機としても強い。

 前述の研究者たちは、被験者に2種類の動画をいくつか見せた。一方は愉快な猫の動画(動機の弱い感情を引き起こすため)、もう一方はおいしそうなデザートの動画(動機を強めるため)だ。前者は愉快、後者は欲望という、ともにポジティブな感情を引き起こした。だが視聴後に図形認識のテストを受けてもらったところ、愉快な猫の動画を見た人は注意の範囲を広げていた(図形をより包括的に判断した)。一方、動機を強める効果があったデザートの動画を見た人は、注意焦点を狭めていた(図形の細部を重視した)。

 また、ネガティブな感情を呼び起こす動画でも、同様の結果が得られた。悲しみ(動機が弱い状態)は注意焦点の範囲を広げたのに対し、嫌悪感(回避への動機が強い状態)は注意の焦点を狭めた。

 注意焦点の範囲に関しては、単に感情がポジティブかネガティブかということよりも、動機の強度のほうがより重要な変数であった、というのがハーモン=ジョーンズらの結論だ。それには次の理由が考えられる。ある目標の達成に際し、動機が弱い状態にあると別の新たな目標を探すようになる。そして動機が強い状態では、その目標の達成に集中するということだ。

 したがって今後あなたが、視野を広く持って何かの全体像を見たいという時には、ただ心地よい気分(あるいは悲しい気分)になることが最善かもしれない。対象にあまりに熱心に取り組んでいると、木を見て森を見なくなるおそれがある。だが、新しいアイデアの実用化に集中的に取り組むような場合は、動機の強い状態こそが最善といえるだろう。

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