三菱重工業は24日、日本初となる商業衛星の打ち上げに成功した。カナダの衛星運用大手テレサットの通信放送衛星を目標の軌道に乗せた。これまで宇宙航空研究開発機構(JAXA)など官公需向け一辺倒だったビジネスが、今後は欧米勢と同じ土俵に立ち受注を競い合う。コストなど欧米勢に対する弱点を克服し、次期基幹ロケット「H3」の開発に勢いをつける。
安倍晋三首相は24日夜「これまでの実績によって築いた信頼と打ち上げ能力向上のたまもの。新たな受注がもたらされることを期待している」とのコメントを発表した。同日、打ち上げ成功後に記者会見した三菱重工の阿部直彦宇宙事業部長は「グローバルなビジネスに対応できることを世界に示した」と強調した。
静止衛星は主に通信放送や気象観測に用いる。今回打ち上げたH2Aロケットは従来型より性能を大きく向上させた。最大のポイントは衛星を運ぶ距離だ。赤道上の高度3万6千キロメートルの静止軌道で運用される衛星は、ロケットから分離された後に自力で軌道に到達する。自力移動する距離が短いほど衛星の燃料消費が少なくなり衛星の運用寿命は長くなる。
世界最大手の欧州アリアンスペースは赤道付近から発射するため軌道近くまで一気に衛星を運べる強みを持つ。三菱重工は北半球から打ち上げるため静止軌道までの距離が長くなる。2014年に打ち上げた静止衛星搭載のH2A25号機の場合、エンジン制御などの壁がありわずか高度263キロメートルで分離していた。
今回、エンジンに改良を加え高度3万6千キロメートルにある静止軌道の近くで衛星を分離することを狙った。第2段目のエンジンを2回噴射させたあと慣性飛行させ距離を稼ぎ、3回目の噴射で軌道に近づける。ロケット燃料の液体水素が太陽光で早く蒸発しないよう、機体に白色の塗料を塗布し太陽光を反射させるなどの工夫も施した。
この結果、高度約3万3900キロメートルで衛星を分離することに成功した。25号機だと衛星分離までの時間は約30分だったが今回の29号機は4時間26分となった。衛星の燃料消費を大きく減らすことができ「衛星の寿命を4~6年延ばせる」(JAXA)という。
三菱重工ではこれまでは少ない燃料で長距離を自力移動できる中大型の衛星が打ち上げの主な対象だった。今回の技術革新で小型も含め幅広い衛星の打ち上げ需要を取り込めるようになった。
米衛星産業協会によると14年の世界の衛星関連市場は2030億ドル(約25兆円)と5年前に比べ26%増えた。15~17年の商業静止衛星の需要見通しは年平均25基。「18年以降も安定した需要が見込める」(三菱重工)。新興国でも通信放送や気象観測用の打ち上げが増える見通しだ。
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