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Soggy Cheerios 2nd Album『EELS AND PEANUTS』Special Interview

Soggy Cheerios

2nd Album『EELS AND PEANUTS』Special Interview

ワールドスタンダードの鈴木惣一朗とカーネーションの直枝政広。同い年、同じくらいのキャリア、でも性格は正反対の二人が結成したユニット、ソギー・チェリオスのセカンド・アルバム『イールズ・アンド・ピーナッツ』がリリースされた。ほとんど二人だけで作り上げた本作は、〈歌〉への強い想いに満ちている。前作以上に熱く二人を突き動かしたものは何だったのか。そして、立ちはだかる〈鬼門〉を打ち破ることはできたのか。音楽という強い絆で結ばれた二人に話を訊いた。

-- 無事セカンド・アルバム『EELS AND PEANUTS』が完成しましたね。前作『1959』を作っている時から、次も出したいという気持ちはあったんですか?

鈴木 ファーストが完成した時、すぐに2作目を作ろうって直枝君に話したんだよ。同世代で同じくらいキャリアがあって、しかも音楽の趣味があう相手になんてなかなか出会えないから、これは続けたほうがいいんじゃないかって。

-- 今回はあまりサポートを入れないで、ほとんど二人だけで演奏していますね。これは最初から考えていたことだったんですか?

直枝 それは惣一朗君がこだわったことですね。僕はバンドの人間だから、何回かライヴで一緒にやってるメンバーとやりたかったんだけど、惣一朗君は「ライヴでやったことを忘れて二人だけで始めたい」って。なんか意地みたいなのがあったみたいで。

鈴木 バンドのパワーっていうのはあるんだけど、もう一回、じっくり曲のコアなところと直枝君と二人で向き合いたかったんだよね。そうやって熟考する時間が欲しかった。

直枝 熟考というより、いったん寝かせて考えるというか。〈この曲をどういう風にしようか〉って。それでアルバムがスタートした時に改めて考えて、あとは一気に仕上げました。

-- 今回はアナログ・レコーディングだったんですね。それもこだわりのひとつ?

直枝 惣一朗君のほうから「アナログに挑戦したい」って言ってきたんです。前作はわりと惣一朗くんのスタッフで固めて作ったところがあるけど。今回は僕の側のやり方に飛び込んでくれて。「じゃあ、やってみる? 大変だよ」って。

鈴木 すごい勉強になった。ライヴ・レコーディングもするからアウトボードがいっぱいあるわけですよ。そうすると機材の熱すごい。しかも夏で、それなのにエアコンが壊れてて、横には直枝くんみたいな熱い人がいるでしょ。それで熱が出ちゃって、冷ピタ貼りながらやってた(笑)。

-- 二人だけでレコーディングしたせいか、前作以上に二人の息がぴったり合っているような気がしました。

直枝 今回はクリックとかなしで「せーの」で録ったものがけっこう多い。それも、「このブレスひとつで始まるよ」みたいなやり方だから、息の合い方は前作とは違うんじゃないかなと思いますね。

鈴木 直枝君のブレスがきっかけで曲のテンポとか変わる。だから、ずっと耳を澄ませて直枝君のブレスを聴いてるんだよ。そんな風に自分達の身体をクリックにするなんてことは、今の若いミュージシャンはやったことないだろうね。

-- 寝かしただけあって、曲はよりバラエティ豊かになって、アレンジやサウンドもじっくり練られている気がします。「伽藍堂」みたいな曲は前作にはありませんでしたね。

鈴木 最初は音響っぽくしようと思って、直枝君に「エレキ入れてよ」って言ったらすごい嫌がったの。「あ、これはダメだ」と思って、10ccじゃないけどコーラスワークを入れてルーピングしたんだよね。フィジカルに。

直枝 惣一朗君だったら音響はほかでもできる。僕とやるなら、もっと違う発想のことをやったほうが面白いと思って。まあ、僕がベースを弾いた段階でリズムが変わって曲が変な展開になるんですけどね。それを聴いて惣一朗君はビックリする。「どうしたらいいだろう」って。だからこっちは「いやいや、ここから気分変えていこうよ」って。彼は心配性なんです。自分の世界を崩せないというか。

鈴木 だって自信がないから。

直枝 彼はプロデュースする人だから、されると思うと怖くなるんですよ(笑)。でも、このユニットは、お互いがお互いの曲を有機的に変化させていかないとやってる意味ない。それは大変な作業だし、精神的にいろいろ怖かったりするわけです。

-- 確かに、この年になって自分のスタイルを変えるというのは冒険ですね。完成するまで二人で手こずった曲をひとつあげるとしたら?

鈴木 「趣味週間」かな。最初は8ビートで行こうと思ってたんだけど、直枝君が持ってきたリズムアレンジが全然違ってて。

直枝 曲から聞こえてきたのが、ブリジット・フォンテーヌ&アレスキーとかセルジュ・ゲンスブールの「メロディ・ネルソンの物語」とかで。そういう感じのベースを弾いたら、彼はそれが意外でびっくりする(笑)。

鈴木 だけど狙い所は見える。でも、悩ましいのはそこで聴いちゃいけないわけ、ブリジット・フォンテーヌとアレスキーを。聴き直すと、そのままの音をやっちゃうから。だから聴かずに、彼らだったらどうするか、想像しながらピアノを入れたりして曲を作っていく。その結果、最初にイメージしていたものと全然違うところに辿り着いたから、すごい好きな曲になった。

直枝 聴き直さないほうが良いんだよ。明るさとか、空間とか、湿度とか、曲を聴いた時に感じた感覚を甦らせるだけでいい。そういう感覚を曲に持ち込んだほうが面白いよ。

-- 自分が思春期の時の感覚ってそうですよね。コード進行なんてわからないし、なんか真夜中っぽい雰囲気だとか、ヨーロッパの街角っぽいとか。

鈴木 そう。それだけでオリジナルまがいのものを作ってきたし、もしかしたらそこがスタートだったもかもしれない。その状態に戻ったというか。

直枝 中学生時代にね。

鈴木 そんなに音楽を知らなかった時代にね。今はもう、こんなに知ってしまったわけじゃない。そんなミュージシャンが30年のキャリアのスキルを持ちながら、何も知らなかった状態に戻るっていうのが面白いところで。

-- そのリセット感は前作以上だったんですか?

鈴木 今はそういう感覚が身についたというか。前作はまだコスプレ状態だったのかもしれない。なにか礎が欲しかったしね。でも、今回は身についているから「どんなふうにする?」とか話さなかったし。

直枝 何にも話してないよね。デモテープっていうのはないに等しい。ギターの弾き語りでiPhoneのメモに録ったものしかない。それ以上やるとスタジオで考えることがなくなるからダメだって、惣一朗君が。カーネーションの場合は僕がある程度グルーヴを指定するんですけど、このユニットに関してはいきなりスタジオに入る。いきなりセッティングして「じゃあ、いこうか」って始めるんです。「じゃあ次、ベースいくわ」って。それでだんだん見えてくる世界なんで、二人にしかわからないというか、説明がつかない状況なんですけどね。

-- 今回のアルバムで印象的だったのは歌うことに対する強い想いです。コーラスも増えたし、歌詞においても「次の季節のための歌」「サウンド・オブ・サイレンス」みたいに〈歌〉がテーマになっていて。

直枝 「サウンド・オブ・サイレンス」については惣一朗君がいろいろ思っていることがあるんじゃないかな。

鈴木 アート・ガーファンクルのコンサートを去年の秋渋谷公会堂に観に行って。アートが声帯を損傷してて、全然、声が出てないの。こんな状態で呼んでいいのか?っていうぐらい。そのステージでアートが言ってたんだよ。なぜ、それでも歌うのか。このステージに出て来たのかを。「僕の魔法は解けてしまった」とか「衰えた手品師」とかそういう言い方をしたけど、その話を聞いて僕はもうずっと泣いてたの‥。その時なんで泣いたんだろうっていうことを、あとで直枝くんにメールしたの。曲になるかどうかわからないけどって。

直枝 そのことを、詩じゃなくて日記みたいにして送ってよって言ったんだよね。それをもとにして「サウンド・オブ・サイレンス」を作ったんです。だから、彼の想いみたいなのがここに全部入ってると思う。

-- この曲だけじゃなく、アルバム全体に力強さがありますね。前作はゼラチンに包まれているみたいな、どんよりしたムードがあったんですけど、今回はもっとエモーショナルというか。

鈴木 『1959』の時は、歌うことを自分の身体を使った実験みたいな感じで捉えていたけど今回は違う。歌うことにもうちょっと前向きになった。伝えたいって思ったね。震災以降、メッセージみたいなものをどうやってポップスとして昇華させるかっていうのが仕事だと思ってたし。それは具体的なメッセージじゃなくて、希望みたいなものをどんな風に音楽を通じて感じてもらえるとかということなんだよね。

直枝 僕も今回は前向きな気持みたいなのを伝える曲がほしいと思っていて。やっぱ、そういう時期でもあるし、この国もいろんなことがあったし、僕達にもいろんなことがあって。前作はそういったななかで非常にヘヴィな部分を持ってたけど、そこに漂ってるだけじゃなくて、ちゃんと明るさとか前向きな気持みたいなのを歌にしていこうと思った。

鈴木 「次の季節のための歌」とかね。

直枝 もそうだし、「ふやけたシリアル」なんかもそうで、ちょっとアップビートな、それでいて次を見るような視点とか。そこは欲しかったかな。

-- 前作からさらに一歩踏み出したというか、深まった作品ですね。

鈴木 僕がよく言う〈名作奇数説〉っていうのがあって、1枚目、3枚目、5枚目は傑作、2枚目、4枚目、6枚目は鬼門なんだよ。だから「セカンドがファーストを超えられるかどうか?」っていうのが今回のテーマのひとつにあって、超えてみたかった。で、レコーディングの最後にコーラスを入れたり直枝君のギターソロを入れたりしてたんだけど、それをやってる途中で実感したんだよ、超えたって。体感したって言った方がいいかな。体で感じた。リリースしてみんながどう思おうが構わない。8割がた直枝くんと二人だけで作って、頑張って2作目の鬼門を超えたと思った。

直枝 まあ、ザ・バンドのセカンドは名盤だけどね(笑)。

-- じゃあ、ザ・バンドに並んだ?

直枝 いやいや、そんなこと言っちゃいけない(笑)。

鈴木 言えないよ! そんなこと。

直枝 ただ、70年代にマルチ・プレイヤーのアルバムを好きで聴いていた人間が、ほんとに自分達の聴きたいものを作ったっていう感覚が僕にもあるから、最後にコーラスを重ねて、ギター・ソロで筆を置いて、そこで何かを感じたっていう惣一朗君の気持が僕にもすごくわかるんですよ。「ああ、やったぞ」っていう手応えは、自分達ですべての責任を負ったからこそ感じることだから。

鈴木 ひとつのマイクで直枝くんとコーラスをやってて、すごい幸せだった。「ああ、音楽やってて良かった。ポップス、ロック、好きで良かったな」って。そういう積年の想いをこのアルバムで感じたんだよね。